鈴木智彦氏の『サカナとヤクザ』書評を読む
▼抜群に面白い書評を読んだ。鈴木智彦氏の最新刊『サカナとヤクザ』。小学館の「本の窓」2019年1月号。「自著を語る」シリーズである。
▼数年前、「Wedge」という雑誌に載っていた鈴木氏のルポを読んで戦慄した記憶がある。ウナギの養殖ビジネスにヤクザが暗躍している様子を生き生きと伝える内容だった。今回の自著紹介は、なかなか香辛料が効いている。
〈とある密漁団のボスは北海道某都市の朝市に海産物の店を出している。密漁品を扱っているだけに格安で、毎日、地元民やたくさんの観光客が押し寄せる。評判を聞きつけた地元テレビ局が、女性レポーターを伴ってその店を取材しに来た時、私はちょうどその街の密漁団を取材していた。
「明日、テレビが〇〇の店に来るらしいぞ」
「……ギャグマンガですね」
翌朝、暴力団と一緒に取材を冷やかしにいった。
「おいしぃ~。こんなに新鮮でこんなに安いなんてすごい」
この壮大な喜劇は電波に乗って全国放映された。暴力団と一緒にホテルのテレビでオンエアーを観ながら大爆笑が止まらなかった。
地元メディアはこの馬鹿げた状況に気づかぬふりを続けてきた。知らなかったとは言わせない。ちょっと考えれば、真冬の北海道で、毎日ダイビング用のボンベに酸素を充填するヤツらが怪しいことくらい容易に想像できるだろ。
(中略)無視していたら漁業が死ぬ。本書を読み、事態がそこまで悪化していることを知ってもらえたら嬉しい。〉
▼キレッキレの自著紹介である。鈴木氏は、ヤクザは人にあらずといった態度で接するのではなく(そんな態度で真実に迫れるわけがない)、まっとうな距離感をもって、人としての信頼を勝ち得なければ取れないネタを取り、迫力のあるルポを書き続けてきた。筆者の知るかぎり、ヤクザの現状を伝える一流のフリーライターだ。
「ヤクザ」は、たとえば「原発」と同じように、「近代」という時代のひずみ、思想のゆがみを映す鏡の一つである。鈴木氏は「公序良俗」によって見えなくなってしまう事実を浮き彫りにする、優れた書き手だと思う。
(2018年12月23日)