春の鱗


わたしが人魚だったら、
春、
はがれた鱗を拾ってくれるひとをきっと好きになるのに。



海は誰の味方もしないから喧嘩をしたときには行きたくなくて、そんなときにまで自分がひとときも人魚でなかったのとを思い出して嫌になる。
一面に落ちた桜の花びら、鱗みたいね、さくら色の人魚の、はがれた鱗みたい、
なんにんの人魚が恋にころされたのだろう、それとも、これは、恋にぜんぶを預けて陸へあがった人魚たちが、羽化した抜け殻なのだろうか。


そんなことより、人魚って、なんにんって数えるの、それとも、なんびきって数えるの、
好きにしたらいいんじゃない、おまえが、人魚を、ひとだと思うか、さかなだと思うかがすべてなんじゃない。
だったらこのままでいいね、恋にひれを奪われるのなんて、ひとくらいだものね。
だとしたらわたしはなんなんだろうね、わたしは、自分のなかでいちばん美しいはずの鱗を、捨てたくないのに、歌いたいから、声を捨てるなんてできないのに。



人魚たちもきっと、はがれた鱗を優しく拾ってハンカチにつつむひとのことを好きにならない、
春、
誰の味方でもない海を、
嫌いになりそうな春。









生活になるし、だからそのうち詩になります。ありがとうございます。