魚のしっぽは不等号

目を見て話しなさいと叱られたときから誰の目も見れなくなって、 昼夜、波の音ばかりが聴こえている。海のちかくで暮らしてみたかった、(ほんとうはどこだって良かった)、魚だったのかもしれないと、小さな小さな蟹にだけ相談したかった、潮風を吸って、吐いて、呼吸する、蟹は波にさらわれていく。どこででも、生きにくいと絶望を抱きしめることは、どこででも、生きていけるほど絶望とうまくやれるってことだ。
すこしだけ眠たくなる、春のはじめ、水はまだ冷たいだろうか、分からない、触れないことに決めているので。
 
 
時折こぼれおちるイヤホンがわずらわしい、とっくにぼくだけのものじゃなくなっていた音楽が嫌いになれないからぼくにはまだ花のにおいがわかって、だけど三日に一度は怒鳴られる夢を見るから、きっと枯らしてしまうから、花を買えない。
水を適切にあげてくれるひとを探しています、と、堂々と言えるひとたちのスニーカーの底の溝が今日も怖くて、ひとり、誰も来ない玄関で、丁寧に靴を揃える。
子どもだったことも大人になれたこともまだなくて、やっぱり魚になって、じょうずに育つたびに、名前を付け替えてほしかった。名前をもらえないときも、勝手に変えられたときも、反抗期を迎えて、喧嘩を売ったくじらと、仲良くなってしまいたかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

生活になるし、だからそのうち詩になります。ありがとうございます。