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「黒影紳士 ZERO 03:00」ー八重幕ー 第四章 失われた記憶
第四章 失われた記憶
「だからぁ〜、創世神は創世神じゃないか。何人いるんだ、一体」
黒影が苛々して腕を組み、片足の靴底をカツカツ鳴らして創世神に聞いた。
『僕が、創世神だろう?ややこしいから、創造者で良いではないか!未だ主人公さえ決まっていないのだぞ?此の世界は。読者様が混乱する。よって此の「セナ」とか言う女の役職的には「創造者」で良い!……そもそも正確にとか言うがなぁ〜、此の世界は未だ構築もされていないのだぞ?』
創世神は正しい「セナ」の表記は「創造者」で良いと言う。
「じゃあ、構築後は如何言うんですか?行形「創世神」に変えるんじゃあ、其の方が読者様から見て違和感がある!」
と、何と現創世神と次期創世神に成る予定の黒影の間で、一悶着が始まったではないか。
「先輩……そんな事より!」
サダノブが、黒影の肩を後ろから軽く叩き止めに入った。
「そんな事よりだと!?今、世界表記に関する、重要な話しをしているじゃないか!」
黒影は凄い剣幕でバッと振り向き、サダノブを睨んだ。
「……八つ当たりですって……。取り敢えずは構築迄は、二人もいたらこんがらがるから、「製造者」で良くないですか?馬鹿な俺に合わせると思って……」
サダノブは、自分を卑下してまでそう提案した。
「お前は、本当は賢いんだ。思考読みの所為で普段は抑えているのだから、そんなに卑下する事は無い」
と、黒影は流石に普段馬鹿呼ばわりし過ぎたと、サダノブを傷付けてしまったのではないかと思い、そう言った。
「ところで……そんな事より……何だ?」
そうだ。サダノブは何か言いたい様だったと思い出し、黒影は改めてサダノブに聞く。
「あの……其の「セナ」さん?って人、目が覚めそうです。記憶を失ったと聞いたから、俺で何か出来るかなって……。潜在意識領域や、反復した日常の記憶の思考を読もうとしていたんですよ」
其のサダノブの言葉に、
「やるじゃないか、ポチ」
創世神はサダノブの間にいた黒影の肩から顔を出し、サダノブを見て意外そうに言った。
「……でも、肝心な箇所を観る前に、意識が戻り始めて……」
其処迄サダノブが言ったので、黒影と創世神は横たわるセナに目を向けた。
確かに既に瞼を開き、呆然と上を眺めている。
「……気分は如何がですか?」
黒影が寒いだろうと、セナの床には創世神のケープコートを。上には黒影のロングコートが掛けられていた。
セナはゆっくり、無表情で辺りを目だけで見る。
其の視線が、心配して覗き込んでいる黒影の視線と打つかった時だ……。
「貴方…………誰?」
片眉を上げ、怪訝そうな顔でセナはそう言った。
其の言葉に、先に起きていた三人は目を合わせる。
「……覚えて……いませんか?」
黒影は静かに聞いた。
何故、こんなに記憶がすれ違うのかすら分からない。
旧多重人格……現在の解離障害の症状すら疑われた。
だが、
「……先輩、此の世界には元々は供給システムしか無かったらしんですよ。セナさんは後からもう一つの世界を生成するつもりだった。其処には全自動の生産性の高い自動エネルギー源だけが在り、其の世界と繋がる此の世界は「スピカ」と名付けられる筈だった。二つの星でそう呼ばれるから。もう一人……其の生命力補充の世界を作る筈だった……えっと…其の「創造者?」がいたんです。だけど、此の供給だけの世界を先に創造し、人々を配置してしまったが為に、大量の人が亡くなった。セナさんともう一人の創造者は、慌てて此の世界に生命力エネルギーを吸収するシステムを創ったんです。其れから生産を創るも、行き渡る筈も無かった。……其れに、生産エネルギーを司る世界を創る予定だった人物も、既に生命力が尽き亡くなっています」
サダノブは思考読みで見た、セナの記憶を話した。
「何故、失敗した?生産性は直ぐに追えずとも、此処では無く予定通りに其の亡くなった創造者が、他に生産世界を創れば良かったじゃないか?幾ら慌てていたとは言え、何故此処に変更したんだ?」
其の黒影の答えには、セナが低い声でこう答える。
「あの人は悪くない……。計画は完璧だった。……二人の夢だったのよ。生命力の需要と供給により、永遠の安心を得る事が出来る世界。きっとそんな世界ならば、土地や食べ物を奪い合う醜い戦争も起こらない。……私達の故郷は小さいけれど、自然が豊かで貧しいなりに平和な暮らしが在った。私とあの人は、二つで一つの世界を創る事を思い付き、沢山勉強したの。……二人の夢だったからよ。けれど、陸続きだった私達の故郷は、隣国同士の争いにみるみる巻き込まれ姿を変えたわ。真っ赤な戦火と黒い灰だけが残った。計画を早くに踏み切ったのは、生き残った私達の故郷の人達を早く連れて来なくては行けなかったからよ!あんな急な争いが無ければ、此の世界は成功した筈なのっ!……他の世界にも誇る技術で、どの世界の人も羨む二人の技術で!」
セナは後半はもう……悔しさに震え、一筋の涙を流した。
けれど其の涙とは裏腹に、怒りにも思える……世界其の物さえも恨む、憎しみの目をする。
「だが!……急いだから失敗したんじゃないか!救うどころか君達は大量の折角生き残った同胞を、剰え死に至らしめたのだぞ!?世界を創れるのならば、ただ逃げると言う選択肢だって在った筈だ!先ずは安全を確保してやるべきではなかったのか。此処ぞとばかりに自分達の技術に驕り、実験台にした様な物だ!こんな世界だと知っていたら、誰も来たがりはしないよ。幸せに成ろうだなんて、笑わせるな!踏み入れるだけで死臭を放つ様なこんな地に、誰がいたい等と思うんだ!完全なる、失敗作じゃないか!」
黒影は、争いが起きたのを機に、実験台にしただけだと、此の世界の創生に苛立ちを隠しはしなかった。
世界を統べる者の責任も取れずに、何を言うかと思ったからだ。
「……バビロン(またはバベル)よ……」
セナが黒影を睨み言った。
「バビロン?……あの……斜塔か?」
黒影は急に何かと思ったが、再確認する。
「ええ……そうよ。神に近付きたくて、人間が驕り、怒りに触れ、言葉が其々違う。同じ「人間」と言う生き物でしか無いのに。此の世界では、常に外界から来た者と会話を合わす事が出来る。変換して聞こえ、耳に共鳴し届く様に成っている。……其れもまた、私達の理想だった。……私達は何とか火の海を逃げ切り、安息の地に辿り着けたと思っていたわ。けれど、言葉だけが通じない!「分からない」「教えて」も通じない、まるで異世界よ。其処で意思疎通も出来ない、常識も無い、郷にも従わない、迷惑な輩として私達を追い出そうとした。謝りたくても、何が違うのかさえも分からないのによ!……散々な迫害を受け、幾ら働いても奴隷の様に低い賃金で、折角生き延びたのに……なのに……今度は飢餓で死に、誰も綺麗な墓にすら入れず、花束さえ贈れない!」
セナは恨んだ全てを吐き出す様に話した。
「……セナさん。急いだ事情は確かに分かった。然し、万人の幸せや平和は総て同じ物では無い。中央都市部の君が連れて来た生き残りだった人達にとって、ギリギリでも……未だ生きられる可能性が在ったならば、何れ違う道を其々が選べたかも知れない。生存の可能性はZEROでは無かった。だが、此処に来て……其の未来すら、失われた。残念ですが、可能性と言う希望までセナさん達が奪ってしまった事には変わりは無いのですよ」
黒影はそんな風に言ったが、創世神は違った。
『良い加減認めなさい!世界を創る者で在るならば。此れは明らかなる失敗作である。其れに多くの人々を未完成の状態で配置する等、もっての外!理想と夢が在って創った筈じゃなかったのか!大事な事を、恨みや妬み……不幸で掻き消したところで、君が人殺しで其の逃げる原因となった戦争並みの被害を此の場で創った事は、紛れもない事実だ!亡くなった人を悼む事もせず……君を恨んで追い掛けているのが、未だ分からないのか?同じ世界を統べる者として、僕は此の世界を此の儘放って置く事は、己の信念に反し赦し難い!申し訳ないが、此の世界……改めさせて頂く。僕が此の世界に再びを足を踏み入れたのは、其の為だ』
と、創生する者として、同情の余地も全く無く、厳しくそう言った。
「さっきから大人しく聞いていれば……失敗作?私と彼が創った此の世界を愚弄するの?……たかが外界からの死に行く者に、一体何が出来るって言うのよ!此の世界を変える?私とあの人の大切な思い出を?…………ない……許さない……そんな事……」
セナは上半身を起き上がらせた。
「なっ、何かいる!?」
サダノブは、セナの背後にいる黒影とは違う人影を見て怯えた。セナより一回り大きな恰幅の男に見える。ゴーストだ。
「サダノブ……此の影が此の世界の先住人だ。既に亡くなっているが、僅かな生命力だけで姿も完成されず、影になってしまったんだ。仮に「ゴースト」と呼ぶ事にした。だから余り失礼な事を言うな。……で?セナさん……其れだけの記憶が戻って、僕の名前を忘れたと言う事は……ちょっと失礼」
黒影はそう言うと、セナに掛けた己のロングコートをバサッと取り上げた。
「やっぱり……お迎えが近い様ですね」
セナの足が、徐々に黒ずんで行くのを見て言う。
「だから何?私は影の姿に成っても、此の世界を変え様とする者を許さない……。他界から来た者等、私達の餌に成って終われば良いのよっ!」
セナは鬼の様な剣幕で、黒影に飛び掛かろうと手を伸ばす。
後ろにいたゴーストは恐らく、セナが記憶を失った時、唯一……襲わずに過去の記憶を教えた者……。
詰まり、もう一つの生命力の生産を担う世界を創る筈だった「創造者」。
創世神は険しい顔で、ポケットから硝子の筆を光に翳した。
其の光はセナの瞳を直撃し、突然の目眩しに動きを止め、目を塞いだ。
後ろの「影の創造者」がセナを庇い、代わりに黒影に襲い掛かろうとした時である。
黒い影の伸ばした腕の手前で、創世神が振り翳した筆が、創世神が何時も操る、中央線が入った剣へと形を変えたのだ。
何時もと違っていたのは、剣の中央線は金色な筈なのに、透き通った虹色の輝きの線が在る。
黒影が思わず、迫り来る黒い腕を前に一歩下がろうとすると…
『敵前で下がるな、黒影!堂々としていれば良い!』
創世神はそう叱ると、一気に剣を其の腕へと、振り下ろした。
創世神の力は、黒影に比べたら軽い物だ。
然し見事に、其の影の腕がばっさりと一刀両断され、ぼとりぼとりと床へ転がったではないか。
「そんな!幾ら創世神だからと言って、先住人を殺すつもりか!」
鳳凰の魂が止めさせるのか、黒影は怒りに満ちた声で、創世神に叫んだ。
『何を勘違いしている。鸞(らん※黒影の一人息子)と同じ。光で影を一時的に切り落としただけだ。また再生する。此奴等が影で在る事には変わりは無いと気付いた時、僕は何よりも弱い硝子の筆を持って来た。軽いが、割れ易い。……其の変わり割れる迄、より滑らかに一線を引き、光を乱反射させる。美しく脆いが……物は使い用って事さ。僕の愛用の筆を此の世界に忘れてしまってなぁ。……此の筆……否、剣ならば、そんなには長くは保たないが、割れる迄は影を切れる!』
と、創世神は黒影に言って笑った。
「尖った硝子程、鋭利な物は無いですからねぇ」
黒影は呑気にそう答えているが、サダノブの顔は青褪めて行く一方だ。
「世界構築するったって、如何するんですか、此れからっ!」
サダノブにはセナの後ろから、まるでセナを今度は守る様にウゾウゾと出て来た「ゴースト」の数に怯え言った。
「もうセナを守ったところで、此の壊れた世界を直してくれるでも無いのに……馬鹿馬鹿しい……」
と、黒影は呑気に言うだけである。
「だから、先輩!」
サダノブは何方に氷の道を作れば良いのか、戸惑っている様だ。
「あの中心部の幹みたいな所だよ!此の世界を直してやりゃあ良いんだろう!全く一文にもならない肉体労働だっ!」
と、黒影は嫌味を言った。
『そう言う事だ。追っ手は僕が引き付ける。早く故障原因を解明してくれ!黒影が機械弄りが趣味で良かったよ……破ッ!』
黒影に向かっている「ゴースト」共を、創世神は話している最中にも、何体か切り倒して行く。
『走れ、黒影!』
止まっていれば、「ゴースト」が溜まり、硝子の筆から出来た剣が耐え切れなくなる。
割れる前に、此の世界を修復しなければっ!
「分かってますよ!サダノブ、行くぞ!」
黒影はサダノブに、さっさと氷の道を創る様に言った。
「二人して人遣いが荒いんだからぁーーー!ペット愛護月間だっつーーーの!」
と、サダノブは文句を言いつつも、道を創る。
黒影は何も後ろを見やしない。
ただ只管に走る。
後ろから、剣が下りる高音が、風を切って聞こえて来る。
信じる者がいるから、僕は前を見て……やっと走れるんだ。
――――――
地表のシステムが、一度此処で束ねる様に集約されている。
人間の血管で言えば、最も詰まり易い、要でもある。
例えば、首の様なね。
大概の大きな建設物と言う物には、必ず弱い部分と強い部分が出来てしまう。
弱い部分に補強を入れるのが普通だ。
此れだけの地上で集めた生命エネルギーを、一度束ねて上の市街地全体の傘迄噴き上げていたと成ると、ポンプの様な役割の何かが、勿論幹の下辺りで必要に成る構造なのだ。
上へ流すと言う行為は、簡単な様で逆流を防いだり、其れだけ大きなエネルギー消費をしてしまう。
だから、セナは先住人のご遺体を上にでは無く、幹の周りに埋めた。
エネルギーを横や下に流すならば、水流と同じで、エネルギー消耗も少ない。
此の辺りに、管理パネルか何かが有るのは間違いない。
『黒影、未だか?!』
創世神は黒影の背に、翼を畳んで着地した。
力は黒影よりは無いが、筆一本で書くだけで、黒影の使える技を総て使える。よって、黒影は何も心配をする必要も無い。
「さっき、貴方の大事な筆、見付けておきましたよ。硝子の筆じゃ、使い勝手が何時もと違うでしょう?渡しますか?」
黒影が幹の周りを悠長に観察し乍ら聞いた。
『敵では無い。黒影が持っていろ』
あくまでも時間稼ぎにしかならない硝子の筆を選ぶ創世神。
「あり余る武器を持ってしまえば、使いたくなる……。貴方らしい」
と、黒影はクスッと笑うと、一見何も他と変わらず湾曲している鉄の様な幹の一部を押した。
『わぁー!ちょっと……先に何か言いなさい、黒影!』
人の出入りで手垢が僅かに残っていたので、黒影は何となく押してみただけだ。
如何やら其処が此の世界の中核のシステムの部屋だったらしく、黒影が入ると同時に、創世神は背中合わせだったので転がって入って来る。
「わぁああー!あの、足!足っ!」
サダノブはそう言うと、耳を赤くして創世神を見なかった事にして背を向けた。
『ん?ああ……。……今回は空中線じゃなくて良かったよ。すっかり忘れていたが、此れ……袴ではなくて、袴風に見せ掛けたロングスカートだったんだよ』
と、創世神は呑気にロングスカートを直して、黒影の横に立つ。
黒影は生足を見てもいないし、システム構造を観るのに夢中なので、何も気にしない。
「サダノブがお子様だからだよ。案外、穂さんと出逢う前にはチャラ男だった癖に、免疫力低いな……」
黒影はそう言った。
『年増でも美脚は健在だからな』
と、創世神が笑うと、
「そりゃあ、ミニスカと間違えて履いて来なかっただけ、マシと言う事にしておきましょうか」
黒影はそう冗談を言う間にも、バサッとロングコートのヒラを広げ、小さなマイナスドライバーをコート裏の無数のポケットから取り出していた。
一々見ずとも、何が何処に入っているのか、コートを新調する度に自ら取り付けている黒影には分かる。
パネルを数箇所開き、生命力を奪われるリスクも省みずに、赤と青の光の蛍光灯の様な、太く光る供給と吸収システムの中枢に手を置き、目を閉じた。
「蒼炎(そうえん)……赤炎(せきえん)……十方位鳳連斬……解陣!」
青い影に特化した鳳凰陣と、赤い何時もの鳳凰の陣を重ねて展開させた。
黒影の翼からはらはらと羽根が落ちる。
対して回復もしていないのに、此の二枚の陣を出すと言う事は、鳳凰の奥義を出す事に匹敵する程の、体力を使う。
慌てて閉じた扉を外から探しているのだろう。
「ゴースト」達が体当たりをしているのか、バタバタと強い激突音が絶えない。
有象無象のゴーストが、次第に集まって来ているのが分かる。
「先輩っ!」
サダノブは、扉が外側からボコボコにされて行くのを見て、気付かれたと黒影に伝える。
『しっ!……黒影なら分かっている。今は其れよりも、自分の陰陽の気を其々に此のシステムに流して、破損箇所を調べているんだよ。此の世界の理は相反する二つの流れ。……電流のプラスマイナスに近い構造に成っている。黒影の陰陽に其れは限りなく近い』
創世神は黒影が何をしているのかを、サダノブに教えた。
「けど……まさか、此の世界中に張り巡らされたシステムを追っているんじゃ……」
サダノブは床に流れる様に落ちて行く、鳳凰の羽根を目の前に、不安そうな顔をする。
鳳凰が唯一飲める、回復にも成る霊水は持って来ていない。
鳳凰の力を使い切ってしまえば、黒影には「影」の術しか残らない。
「影」は肉弾戦だ。今の黒影の体力が保つか心配に成ったのは当然の事である。
『……だから、僕が来たんだろう?ただの美脚の年増じゃないんだ。少しは安心しろ』
と、創世神は笑った。
「ああ……そっか。創世神……ですよね、一応」
と、サダノブが思い出したかの様に言う。
「サダノブ、失礼だぞ。……そう、見える「威厳」が、全く無いだけなのだから」
黒影は終わったのか、振り向きそう言った。
『黒影が一番酷い事を言っている気がするが。……で?如何だった?』
創世神が聞くと、
「やはり、屋根の傘迄は届いていない。だから、中央都市部は壊滅した。中央都市部の此の周辺の地面の「ゴースト」には、若干の生命エネルギーは流れている。……だから、此処周辺が埋葬地だった。記憶が在った頃、セナさんは失敗はしたが、出来るだけ此の世界の人を生かしたかった……恐らくは。然し、滅び行く事は止められずに、共に世界を創る筈だった「創造者」まで失ったんだ。後は滅びしかない……自分だけが、永遠に生き残る世界で……記憶等……長い悲しみでしか無かったのかも知れない」
黒影が目を細め言った。
「では……破損はもう直らないんですか?」
サダノブが聞く
。
そうとあれば、此の世界を諦め、さっさと逃亡するしかない。
此の世界の誰もが死んでいる。
其れでも俺等は生きなくてはならない。
其処に同情等しところで、何も変わりやしないんだ。
”……これから……安全な地にするんだ……”
そんな声が聞こえた気がした。
「これから大丈夫になるんだ」と何時も言う、先輩の言葉に似て……
そう、成ったら俺だって良いと思うよ……
そう、心で毒付いた。
___
「誰が直らないなんて言った?だからサダノブは諦めが早過ぎると何時も言っているんだ。セナさんは僕等より若いが、諦めてはいなかったぞ?若さに失敗したら、”はい、さよなら”と……そんな大人に成るのか?僕はもし鸞だったらと思うと、お節介だが放ってはおけないな。……何の利点も無い事を、これからする。だが、僕は其の方が満足だ。此の儘の方が……後味が悪い。人は間違える。……大人に成っても、子供でも。間違いを正せるなんて、大それた事は思っちゃあいないが、其れが僕では無くても、間違いを正せるのも人しかいない。……何処かで此の世界の中に、動脈瘤の様に吸収したエネルギーが詰まっている箇所が在る。セナさんが本当に忘れてしまったのは、きっと其の場所だ。だからこそ中央都市部周辺に隠れ、逃げ込んだのさ。「ゴースト」から近い墓場にいたからこそ、余計に狙われ続けた。外界からの人間が来れば、此の張り巡らせたエネルギーシステムはセナさんの血管の様な物。……自ら産んだ大地に張り巡らせたシステムの異変で外界人の侵入に気付き、助けを求めた。記憶を失ってもなお残ったのは……本当に救われたかったのは……セナさん自身では無い。彼女は此の世界で亡くなったとしても、追われる事もなくなり、孤独も終わるだけなのだから。やはり……今の「ゴースト」と化してしまった先住人を助けたい……其れが、本当の願いで、独り記憶を失っても足掻いていたのだと思う」
黒影は、今迄の見解をそう話した。
扉は其の間も少しずつ変形し、外の光が僅かに差し込んでいる。
『其処迄解ったのならば、行くしかあるまいな……』
創世神が静かにそう言うと、ニヒルに笑った。
「その様ですねぇ……」
黒影もまた、帽子の鍔先を摘み下ろしたが、其の下にはギラ付く程の好奇心を浮かべた瞳で、真っ直ぐに扉を見詰め、ニヒルに笑う。
「まさかっ!他に逃げ道とか、無いんですか?」
サダノブは嫌な予感がして黒影に聞いた。
「無い!今、陰陽を流して見たが、此の中核部は元は生命エネルギーのタンクの様になっていたみたいだが、「ゴースト」に分けるだけで供給が追い付かず、ただの伽藍堂さ」
と、黒影は空洞が在るだけだと言う。
「だったら何で彼奴等、あんなに元気なんですか?何かさっきより増えてません?」
サダノブは、扉の先を考え、多数の破壊音に怯えて言った。
「……僕の鳳凰の陰陽の力さえ、今……まさに吸収したからさ。翼も使えない……。此の世界に辿り着いた時から、退く道等無い……ならば!」
『突っ込むぞ!黒影ーー!』
剣を構えた儘、創世神が扉へ向かって走り出す。
「サダノブ!……突破するぞーーーっ!!」
黒影が勇ましく吠えて、扉が壊されるのも待たずに、ロングコートを広げに広げて、大きな回し蹴りをし、其の儘体当たりで外側に扉を薙ぎ倒し、突っ込んで行くではないか。
「ぅおーー!何、やってんですか、二人共!」
とは言ったものの、此処で一緒に出なければサダノブだけ取り残されて餌食になるのは、馬鹿でも分かる。
「行くっきゃない、行くきゃない!乗り掛かったタイタニック……否、海賊船……否……此れ、如何見たって、幽霊船じゃないかーー!!」
暴れ狂う二人の後ろで、黒影が展開した鳳凰陣に冷気を纏った拳を当て、目も開けれずにサダノブは突っ込んで行く。
氷の逆さ氷柱が鳳凰陣で連結され、「ゴースト」を地上から次々に吹き飛ばして行った。
(創世神)『やれば出来るじゃあないか』
(黒影)「分かるのが遅いんだよ、行くぞ!」
と、二人は待っていて振り向くと、サダノブに微笑んだ。
俺達は何に向かって走っているのだろう。
我武者羅に何時も……何時も……。
答えが有るのだとしたら、
「誰かが助けを呼んだから」
「誰かが困っていると言ったから」
もし、そんな事を言われなくても、きっと走っていた。
何を突破したのかと言えば……
単なる扉や「ゴースト」の山では無く
其々の恐怖心や不安よりも
もっと信じたい物を見付けた時
恐怖や不安を捨て去った
捨て去った分厚い壁が
己の足元に崩れ塞がない様に
走り続けるのだ
突破して行くのは……
何時だって……自分自身の弱さだったに違いない
ーーー🔶続き第五章
今回は、時間の兼ね合いもありましたが、SFの世界観を壊さない様、挿絵は御座いません。
読者様が想像したSF世界でお楽しみ頂ければと思っております。
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著者が元気になるので、感想コメントやスキ🖤を押して応援して下さると、嬉しいです♪
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