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「黒影紳士」season1-短編集🎩第二章 バビロンの塔

――第二章 バビロンの塔――

 二、バビロンの塔

 「白雪!……白雪!」
 大きな声ではけして無かったが、黒影は魘されて眠っている白雪を心配して、優しく肩を揺らしながら起こした。二、三回これが繰り返されると、やっと白雪も目覚め何時ものように目を擦った。
「悪い夢でも見たのか?」
 白雪が目覚めた視線の先には、心配している所為か何処か落ち着きのない黒影が覗き込み、そう聞いてきた。白雪は黒影のその言葉に、まだ覚めきっていない呆然とした思考で、首を横に数回振って言った。
「ううん。別に怖い夢じゃなかったよ。でも……何か、不思議なの。」
 その言葉に、黒影の表情は少し緩和されたが、まだ黒影は白雪が心配だったようで、
「不思議って……何が?」
 と白雪に聞いた。白雪は、
「それがね。……塔のようなものがずっと見えるの。その塔から何か聞こえてくるんだけれど、私には何か聞き取れなかった。」
 と答える。黒影もそれを聞くと思わず首を傾げた。白雪は今、何の犯罪にも関与していない。だからこそ、殺人現場を夢に見る事は当然ない。したがって、白雪が見たという夢は事件とは何ら関係のないものだとは思ったが、それにしても深い意味がありそうな……奇妙な夢だ。しかし、
「ただの夢だろう。何も心配はいらないよ。」
 黒影は、白雪を安心させようとそう言った。
  自分にも、そう言い聞かせていたのかもしれない。出来るだけ事件とは関わりなく、安心して白雪に眠りについて欲しいという黒影の願いが、微かにその言葉の裏にはあった。
 何も確証の掴めない夢など、心配していても仕方がない。……黒影はそう思ったのだった。
 そんな時だった。
「黒影君!」
 玄関の方からそんな声が聞こえてきた。何時もの聞き慣れた声だった。白雪はその声を聞いて、
「私が出て来るわ。」
 と、黒影に提案したが黒影は、 
「否……今、起きたばかりなんだから私が行くよ。あの声の主の事だ。……どうせまた僕らを何処かへ連れ出すつもりだろう。ここはいいから、早く着替えて外出の支度でもした方が良さそうだ。」
 と白雪に言う。白雪も黒影の言葉に、それもそうだと、
「確かに……その方が利口みたいね。」
 と言って苦笑した。黒影は飲み込みの早い白雪ににっこりと笑うと、さっさと声の主を出迎えに階段をバタバタと下りて行った。
「あの二人……案外、似ているわ。」
 小さく白雪は、黒影が去った後にそう言ったが、その言葉が黒影に届く筈もなかった。それにもしも、黒影が聞いていたらどんなに苦虫を噛んだ様な顔をする事だろうか……。白雪は想像しただけで面白く、クスクスと笑いながらクローゼットを開いて服を選んだ。

 「近所迷惑じゃないですか。一応、こんな家でも呼び鈴ぐらい、付いているんですよ。」
 黒影は玄関を開けるなり、声の主にそう言って不機嫌な顔を向けた。そこにいたのは、警察署に勤務している風柳だった。仕事でこの二人がよく会う事もあったが、プライベートでも会う程に、けして仲が良いとは言えなかったが、この二人は腐れ縁か悪友と言ったところだろうか。黒影は何時も風柳が此処を訪れると嫌な顔をしたが、風柳が全然来なくなると、それはそれで暇なようだった。
「そう、堅苦しい事を言わんでくれよ。これでも今日は、いい話を持って来たんだから。」
 そう、不機嫌な顔の黒影を宥める様に、風柳は調子良さそうにそう言うではないか。黒影も風柳の事だから仕方がないと思ってか、
「どうぞ……。上がれば。」
 と、投げやりに風柳を家の中へ招き入れた。
 丁度白雪は、二人が相変わらずブツブツ言いながらリビングに入って来る様子を階段の上から目撃する。何時もと変わらない……平穏な風景だった。
 白雪はすっかり支度を終え、下の階に着くと何時ものように二人に珈琲を出す。そして、
「今日は何の御用?風柳さん。」
 と聞いた。白雪はまた風柳が妙な事件を持って来たのだと、心なしかわくわくしていた。
 黒影の心配など他所に、白雪にはそれが楽しみでもあった。
「風柳さんは何時も連絡無しに来るんですから……。僕と白雪はご存知の通り、あまり眠れないんですから、ちょっとは考えてもらわないと……。」
 と、白雪の言葉の後に黒影は溜息をついて続けたが、風柳の思考の中に反省という言葉があるのか無いのか……
「まぁ、いいじゃないか。そんなに怒るなよ。
 俺だって二人が楽しく生活している所にお邪魔はしたくはないが、今日は本当にいい話なんだよ。」
 と、風柳はにこやかに黒影に言う。一方の黒影は白雪の手前、少し照れたのか大きな咳払いをして見せる。白雪には当然頭の上がらない黒影ではあったが、風柳もなかなかのものだと見える。白雪は思わず、この二人のやり取りが可笑しくて微笑した。
「……で、一体何だと言うんですか。」
 と、黒影は白雪がくすりと笑った姿を見て、話を反らせたかったのか、早々に風柳に用件を聞いた。
「今日なっ、有名な建築物の発表セレモニーがあるんだ。黒影君も、ゴシック建築物が好きだと言っていたし、一度見せてやろうと思ってね。……本当は、このセレモニーに有名な財界の面子も参加するから、俺達が警備に当たる事になったんだが、そう滅多に拝める代物でもないし、二人にどうかと思ってね。」
 と、言うのだ。黒影は、風柳の予測通り断ろうと、
「しかし……。」
 と、言葉を濁らせたが、風柳もそう言うと思って秘策を考えていたようだ。
「素敵な教会らしいよ。白雪ちゃんも、一度は憧れるものだろう?」
 と、風柳はここぞとばかりに白雪にそう言って話を振った。白雪は、風柳の術中に嵌っているとも知らずに、
「えっ……。それは、私も見たいわ。」
 と、目を輝かせるではないか。流石の黒影も、風柳の思惑には気付いていたが、白雪の喜ぶ姿を前に、断る事も出来ない。
「あ~もう、わかりましたよ!私も支度をして来ますから。」
 そう、不機嫌そうに黒影は風柳に言って黒いロングコートを取りに二階へ上がったようだった。
白雪は、黒影が二階へ行ったのを確認するなり風柳に小さい声で、
「ありがとう。」
 と、耳打ちした。風柳は、
「可愛い白雪ちゃんの為だからね。……どうせ、あの堅物の事だから二人でデート もないと思ってね。まぁ……このおじちゃんに任せなさい♪」
 と、悪戯好きのような笑みを浮かべて答えると、胸元を手でぽんと叩いた。どうやら、この二人は共犯のようだ。その声が戻って来た黒影に聞こえてしまったのか、黒影はコートを片手に、
「さぁ、おじちゃん……さっさと出掛けますよ。」
 と、無愛想に言った。そして、白雪に風柳にもわざと聞こえるように、
「あんなおじちゃん、信用しちゃいけないからね。」
 と、耳打ちをした。

 二人が風柳に連れられバスを乗り換える事三回目。どれ程遠いのかと白雪も飽きてきた頃だった。
「あれだ。見てみろよ。」
 風柳は、バスの外を指差し黒影と白雪に言った。
「あれが……。随分大きいのね。」
 白雪が風柳の指差した方向を見てみると、山の間から大きな塔の先にこれまた大きな十字架の吊るされた建物を見つけ、思わずそう言葉にした。黒影も表情にこそなかなか出ないが、真っ直ぐその建物を見つめる姿は随分気に入ったようにも伺える。風柳は二人の反応に気を良くしたのか、こんな説明を始めた。
「あれは大きな暖炉の煙突部分なんだよ。此処から見える程高い煙突もさる事ながら、あの下にはまるでリゾート地のような広大な教会とホテルがある。教会とあの塔自体は古い建築物だが、西洋のゴシック建築を忠実に再現したもので、日本ではなかなか見る事も出来ない。今回はそれに新しく、宿泊施設を増築して広大な薔薇の庭園まで作ったそうだ。」
 と、何処か誇らしげに言うのだ。
 それを聞いた白雪は、やはりそこは少女なのか、
「薔薇の庭園なんて素敵ね…。」
 と、うっとりした顔で溜息を一つ漏らすと、
「でも、煙突なのに何で煙が出ていないの?」
 と、誰にでもなく聞いた。黒影は、
「人が住んでいるんじゃないのか?」
 と、風柳に聞く。風柳は、
「勿論、今日の完成セレモニーの為に、今頃沢山の人があの下でうろうろしている筈さ。
 でも、あの煙突は今回の改築で今はただのオブジェさ。一応、シンボルマークとしては残されているがな。」
 と答えた。黒影は、
「あれだけのものを飾りにするなんて…。」
 と、幾分か惜しい顔をしたが、それを他所に白雪は早まる鼓動を押さえきれずに、塔を食い入るように眺めていた。

 三人が着いたのは、昼前の十一時少し前だっただろうか…。
「貴族の集まりみたいだな…。」
 そう、黒影が言ったのも無理はない。五十人近くの招待客は、教会前の広場で各々がドレスアップして和やかに建物の美しさに話を弾ませている。白雪はその光景を見た後、少し悲しそうな表情で自分を軽く見て、呟くようにこう言った。
「私も…あんな素敵なお洋服を着たかったな。」
 と。その言葉に、思わず黒影と風柳は顔を見合わせた。白雪もそんな事を気にするお歳頃になっていたとは、この男二人には分からなかったらしい。そこに丁度、一人の男が白雪の前に現れた。
「今日はようこそ。私はここの支配人の日比谷 透(ひびや とおる)と言います。良かったらお嬢さん、貸し出し用ですがドレスをご用意してありますので、いかがですか?」
 と、その男は提案した。黒影に似た紳士風情の男だったが、黒影とは違い何処か優雅な立ち振る舞いを伺わせる男だった。風柳は、
「これはご挨拶が遅れて申し訳ありません。私が今回のセレモニーの警備を指揮させていただきます、風柳です。」
 と、慌てて挨拶をした。風柳がそう言うと、日比谷透はその手を取り堅く握手し、
「こちらこそ、宜しく。何、こんな辺鄙な山奥の教会の改築セレモニーですから、そんなに堅くならずに気楽に警備をお願いします。良かったら、風柳さんもお着替えになってごゆっくりして行って下さい。」
 と、気さくそうに爽やかな笑みを浮かべた。どうやら、風柳と白雪はこの支配人がいたく気に入ったらしい。さっさと支配人の後に付いて行くではないか。黒影も仕方なく三人の後を追うが、風柳の腕をぐいっと引くと、
「貴方のその恰好では、場違いって事ですよ。」
 と、耳打ちする。それを偶然、白雪も聞いていたのか、
「黒影もそうでしょ。」
 と、言うと不機嫌な顔をした。黒影は風柳に思わず聞いた。
「白雪は一体、何をあんなに怒っているんだ?」
その言葉に風柳は苦笑しながら、
「だから、そ~いうお歳頃なんだろ。」
と、茶化したように答えただけだった。黒影も白雪に言われた言葉が気になったのか、自分の服装をちらちらと気にしながらも付いて行った。

 黒影と白雪と風柳の三人がドレスアップしたところで、支配人は教会の中へと案内した。
「場所こそは小さいですが、これがこの教会でも一番由緒あるゴシック建築でもあります。今後はエントランスとして活用される予定なんですがね。」
 と、支配人は三人に説明をする。三人の目には荘厳なるステンドグラスと、ゴシック建築物特有の弧を描いた梁や柱が並んでいる。祭壇の裏には、バスの中からも見る事が出来た煙突に繋がるであろう大きな暖炉もあった。
黒影は教会では珍しい位置にある暖炉が気になってか、暖炉を覗き込んで注意深く観察しているようでもあった。
「珍しいでしょう?ここは冬になると山奥だから随分冷えるんです。まだ、夜になると今時期でも冷え込むぐらいです。ですから、この教会を訪れる客人に少しでも温かくしてもらおうと思って、一番人が集まる場所だからと先代がそんな場所に作ったんです。」
 と、暖炉に興味を持った黒影に支配人は説明した。黒影はその話を聞くと、
「ほう…それは素晴らしい。先代の優しさがここにあるわけですか。しかし、もうこの暖炉は使わないと聞いていますが、暖はどうしているんです?」
 と、支配人に質問をした。やはり黒影にはこの景色を満喫しろと言う方が難しいのか、さながら見学に来たようだった。
「今はこの教会の横に連結している右側のA棟と左側のB棟の天井の見えない所に温風を流すパイプを繋いで、そこから温かい空気を排出するような仕組みになっているらしいですよ。私は何分、ここを建てた者ではありませんから、その程度の知識しかありませんが、今日もここを建設した建築監督やデザイナーが来ている筈ですから、詳しい事はその方達から聞くといいですよ。他にも有名な建築関係の方々もいらっしゃるでしょうし、興味があれば色んな話が聞ける筈です。」
 と、支配人は黒影に言った。黒影はその言葉が嬉しかったのか快く、
「では、そうさせていただく事にしましょう。」
 そう言ってにこやかに笑った。その横で一人、仏頂面している人物にも気付かずに……。そんな黒影を見ていた風柳は、慌てて黒影の腕を肘でどついた。
「何か、言ってやれよ!」
風柳は、何事かと振り向いた黒影に、小さな声で言った。黒影が横を見ると、白雪の可愛らしいドレスアップした姿があるが、その表情は怒っているようでもある。
「あっ、白雪…似合うじゃないか。」
 そう、黒影は慌てて言ってみたものの、白雪のご機嫌はとても悪く、
「黒影の鈍感!いいわ、私薔薇園見に行くからっ!」
 そう言うなり、支配人の手を取りさっさとその場を立ち去ったのである。
「ほ~ら、言っただろう。そう言う難しいお歳頃なんだって。」
 と、風柳は複雑な表情で白雪と支配人の二人が去った方角に、力なく手を伸ばしたままの姿の黒影に言った。黒影はその言葉に情けなく行き場をなくしたままの手を下ろすと、ぽつりとこう言った。
「難しい…年頃ねぇ…。」
 風柳の目には、珍しく黒影の背中が小さく見えていた。幾らどんな事件でも解決出来る黒影でさえも、女心は難事件よりも更に難解らしい。不器用な若僧に思わず少し同情していた。

 そんなうちにセレモニーが開催される時間になろうとしていた。風柳は黒影から貸してもらった懐中時計を見ると慌てて、
「しまった。もう、こんな時間だ。早く警備に入らないと。黒影君も手が空いているみたいだし、どうだ…手伝ってはくれないか。何、警備そのものをやってくれと言っているわけじゃない。今日のセレモニーは有名な音楽家も沢山来る。白雪ちゃんでも呼んで、一緒に見てみたらどうかね?」
 と、黒影に言う。何時もの黒影ならば、勿論即答で断っただろうが、今日は他に成す術もなかったのか、それに応じた。風柳は不器用な黒影に、協力したい気持ちになっていたのだ。
「歳をとると、余計な心配ばかり増えていかんな…。」
黒影が、走って白雪のいるであろう薔薇園に向かった姿を目にして、風柳はそう小さく呟いた。
 黒影が白雪を見つけると、支配人と何やら話しながら薔薇園を回っているようだった。
 黒影は白雪を呼ぶと、
「これからセレモニーが始まるらしい。催しものもあるらしいから…行かないか。」
 と、走って来た勢いとは比例してぎこちなく言った。白雪は、
「今ね、支配人さんが色んな薔薇のお話をしてくれたのよ。」
 と、言って笑った。黒影の何時もの不器用さが、白雪にとっては安心出来るものでもあった。白雪が丁度見ていた薔薇を見て黒影は言った。
「この黄色い薔薇。…白雪みたいだ…。」
 と。何も知らない白雪は黒影のその言葉が嬉しかったのかにこやかに笑って、機嫌を直したようだったが、黒影は心で小さく思っていた。
 黄色い薔薇の花言葉は友情だけどもう一つの意味は、白雪には内緒にしておこうと。

 二人が薔薇園からセレモニー会場に出た頃、もうセレモニーは始まっていた。黒影の好きな心地よい音楽が会場を染めている。支配人はその後、挨拶の準備があるとそそくさと何処かに消えた。二人の前にボーイの男が一人、
 グラスが沢山乗ったトレイを持って聞いてきた。
「飲み物は如何です?ワインもありますよ。」
 と。黒影は迷う事なく、自分が好きな赤ワインを頼んだ。未成年の白雪にはオレンジジュースしかない。黒影は、
「白も一つくれないか。…出来るだけ飲みやすいものを。」
 と言う。そして、オレンジジュースを飲んでいた白雪に小声で、
「少し、飲んでみるといい。」
 と、言うなり白ワインを白雪の前に出し、
「風柳さんには内緒だよ。今日は良い日だから、特別。」
 と付け足した。白雪は少しだけ白ワインを恐る恐る飲んでみたが、やはりまだ大人の味には早かったのか小さく咽ると、
「私にはまだ早いみたい。」
 と言って苦笑した。黒影も何故か少しその言葉に安心したのか、笑っていた。白雪は何時までも子供でいるわけではない。それが黒影にとって、何処か心配だったのだ。
 そんな時だった。黒影と白雪が和やかに話していた後ろで、バタンッという物が倒れるような音がした。二人が驚いて振り向くと、後ろのテーブルにだらしなく倒れている女と、それを心配しているような男……二人の姿があった。
「まったく……。こんなに酔うなんて……。すみません。お騒がせしました。」
 そう言うなり、テーブルに横たわる女の隣にいた人物は、黒影と白雪に気付くと謝罪した。風柳もその音を聞きつけて、颯爽とやって来る。
「酔っ払ったのかい?」
 風柳は心配そうに、酔い潰れている女を横目に、その男に尋ねる。
「ええ、その様です。私は、ここの建築に携わった宮内修治(みやうち しゅうじ)と言います。それとここに倒れているのが、神田 弘子(かんだ ひろこ)…この教会の改築デザインを手掛けた人です。昔、仕事が同じになる事があって、今回も呼ばれたのですが……。さっきから、あまり飲み過ぎは良くないって言っていたんですよ。だけど……どうも完成したのが嬉しかったらしくて……。」
 と、風柳に宮内と名乗る男は説明した。
「一緒に運びましょうか。」
 そう、風柳が宮内に言ったが宮内は、
「いいえ。私も止めなかったのが悪いんです。彼女、軽そうだし……僕、一人で大丈夫ですよ。」
 と断った。宮内はそう言うなり、黒影や白雪……そして風柳に丁寧にお辞儀をすると、神田という女を負ぶって、建物の中へと消えて行った。
 その姿を見送った風柳と黒影と白雪の三人の前に一人の男が声を掛けてきた。
「何かあったんですか?」
 何故か男は目を輝かせている。風柳は、
「否……ただの酔っ払いらしい。」
 と、その男に答えた。男は肩を落とすと、
「何だ、事件じゃないのか。」
 と、呟いた。黒影は、
「貴方は?」
 と、その見知らぬ男に聞く。男は自分が自己紹介もしていなかった事にはと気付き、
「ああ、悪かった。僕は雑誌記者をしている伊勢秀司(いせ ひでじ)。今日はこのセレモニーを記事にする為に来たのだけれど、普段はもっぱら怪奇現象を追っていてね。つい癖が出てしまった。」
 と、頭を掻きながら話した。
「怪奇現象なんて…こんな平和な所にはありゃしないよ。」
 風柳は笑いながらそう言ったが伊勢は、
「それはどうかなぁ~。皆、知らないみたいだけれど、此処は結構妙な話があるんだ。まっ、お譲ちゃんが怖がるといけないから内緒だけどなっ。」
 と、言って笑った。白雪はその言葉に気を悪くしたのだろう。
「私、そんなもの怖くないわ。」
 と、言って頬を膨らませる。
 其処に丁度挨拶を済ませた支配人が入って来る。
「危なく挨拶に遅れるところでした。慌てて挨拶に戻ったものの、誰も聞いてくれないものだから、よっぽど貴方達が何を話しているのか気掛かりで仕方ありませんでしたよ。」
支配人は笑いながらそう言ったが、流石にこの教会の怪奇現象について話していたとは誰も言うわけもなく、何処と無く気まずい顔をする。支配人はそんな事もつゆ知らず話を進める。
「良かったら皆さんも今日、此処に泊まられますか?黒影さんも随分気に入ってくださったみたいだし、伊勢さんもお泊りになるんですよ。折角新しく出来たA棟とB棟の宿泊施設も、どうぞ見て行って下さい。」
 と、支配人は笑顔で提案したが、怪奇現象の話の後もあってか、更に空気が重くなる。しかし、黒影はそんな事は気にならないのか、
「ええ、是非。お邪魔でなければ。」
 と、快い返事を返した。すると、伊勢も話し出す。
「あんたがあの黒影さんかい?よく話には聞いていたけれど、実物を見たのは初めてだよ。この仕事初めてから、ずっと一度は会ってみたいと思っていたんだ。今日は、黒影さんと同じ屋根の下に泊まれるなんて幸せだよ。」
 と、周りを無視して黒影をまじまじと見つめながら言った。黒影も予期せぬファンの登場で幾分か、苦笑いを浮かべる。
「では、決まりですねっ。」
 と、支配人は伊勢と黒影のやり取りを目の当たりにしながらも、にこやかに言った。

 セレモニーが終ったのは夕方過ぎの、少し日が暮れてきた頃だろうか……。流石にこの時間になると、参加者の大半がほろ酔いだった。
 こんなに素晴らしい建築物の前で優雅な音楽を聴いて酒でもあおれば、誰だって悪い気分にはならないだろう。ほとんどの人はセレモニーが終ると、千鳥足で専用のバスに乗って家路に着いたようだったが、この建物の建築に携わった関係者はさながらこの後、二次会でもする雰囲気だった。
残ったのは、黒影と風柳と白雪……そして雑誌記者の伊勢秀司と、先程は建築に携わっただけと本人は言っていたが、どうも洋風建築では有名らしい宮内修治と、建築デザイナーの神田弘子と支配人。後二人は、以前からこの教会の神父を勤めていた小林和也(こばやし かずや)と建築監督の新谷正次(しんたに しょうじ)だ。今夜この教会に泊まる面々は、ライトアップされた薔薇園を満喫しながら、各々が楽しそうに話している。そんな中に、デザイナーの神田弘子を負ぶっていなくなっていた宮内修治が現れた。黒影は宮内の姿を見つけると、
「やぁ、大変でしたね。神田さんの様子は如何ですか?」
 と聞く。宮内は、
「ええ、今頃エントランスですやすや寝ていますよ。」
 と、笑顔で答える。風柳もその言葉に、
「それは良かった。」
 と、安堵した。自分が警備の指揮をしていたのに何か起こったら厄介だった事もあり、安心して手にしていたワインをぐいっと飲み干した。白雪もそんな風柳を見て、
「これで仕事は終わりね、お疲れ様。」
 と、言って笑う。
 その後、黒影はすっかり伊勢の質問攻めにあっているようだったが、他の人達は建築の話で盛り上がっている。白雪は仕方がなく、黄色い薔薇を一人眺めていた。
「いやぁ、伊勢さんには参ったよ。すっかりこの教会の建築について調べる時間が無くなってしまった。」
 黒影は、逃げるように伊勢の所から離れると、ワイングラスを手に白雪の居た所へそう言いながらやって来た。
「黒影、酔ってるんでしょ?」
 と、黒影から微かに零れるワインの香りを嗅ぎつけた白雪は不機嫌そうに言ったが、黒影はまったくその通りのほろ酔いで、ちゃんと聞いているのかさえも定かではない。
「折角のデートだったのに……。」
 ぽつりと言った白雪のその言葉を風柳が聞いていた。
「まぁ、いいじゃないか。不器用な所も、実に彼らしい。逆に器用な彼ではまったく落ち度がなくてつまらないのかも知れないよ。」
 と、風柳は白雪に言う。白雪もその言葉に、
「そうかも知れないわね。」
 そう言って笑顔を取り戻したようだった。白雪は薄い黄色い一輪の薔薇を摘み取ると、ゆらゆら揺らして何時までも眺めていた。

 教会を中心に挟んで両側にA棟とB棟が連結されている。C棟は、別の建物に位置し、教会で挙式の際は、関係者が宿泊出来るように、挙式がない時は普通のホテルとして利用されているらしい。支配人が大量の鍵を持っているのも仕方のない事だ。支配人すっかり夜も更けてきた頃、バラ園に来ると皆を集めてこう切り出した。ジャラジャラと大量の鍵が輪になっているものを持って、
「さぁ、今日の宴はこの辺にしておきましょうか。これから皆さんの部屋の鍵を配りますから、ゆっくり休んで行って下さい。」
 と、声を掛けてきた。A棟の鍵は洋風建築のアドバイザー宮内修治とデザイナーの神田弘子、支配人の日比谷透と雑誌記者の伊勢秀司に配られる。しかし、その鍵を配る途中、宮内が支配人に、
「あの……。何故神田さんと同じ部屋なのですか?」
 と、聞く。支配人は何の事かと不思議に思いながらも、
「神田さんとお付き合いされているのではないのですか?」
 と言う。宮内は、
「いいえ。昔からの仕事仲間です。僕は構いませんが、それでは神田さんに申し訳ない。」
 と、困ったように答えた。支配人も勘違いに気付き慌てながらも、
「それは困りました。今日は、別館のC棟も明日ここで挙式予定の方々が泊まっていていっぱいですし、人数分のお部屋しかご用意していないんです。」
 と、事情を説明した。宮内はそれを聞くと不快になると思ったが、何一つそんな顔もせずに、
「いいですよ。神田さんはエントランスで眠っているし、多分あの様子じゃ起きそうもないしね。もしも彼女が起きたら、僕がエントランスを代わりに使いますよ。」
 そう、言うではないか。折角なので支配人も、
「では申し訳ありませんが、そうして頂くとしましょう。」
 と、言って安堵したのか小さな笑みを漏らす。
 そして、残りのB棟の鍵も配られた。建築監督の新谷正次。黒影と白雪は同室。そして風柳と神父の小林和也。B棟の方は何も問題なく、B棟の鍵が配られると、各々は各自の部屋に散った。
時刻は深夜の一時過ぎ。何事もなく全員は眠りについた。

 翌朝の事だった。お酒を殆ど飲んでいなかった白雪は、黒影よりも早く目覚める。黒影が寝ていたのでやる事もなく、暇を持て余して建物内の探検に出掛ける。白雪と黒影のいる部屋があるB棟の部屋を出ると、一直線上にあるB棟通路の先のガラスドア越しに、教会にもなるエントランスが見え、その更に先にはA棟の通路も見渡せた。
 ガラスで出来た扉でA棟からもB棟からも見る事こそ出来たが、隔離された状態と言っても良いだろう。白雪はエントランスを横切り、A棟の方も見てみようと思ったが、どうもエントランスのガラスの扉が開かない。……どうやら鍵が掛かっているようだ。仕方なく、白雪はガラスの扉を背に再び自室へ戻ろうとした。その時だった。
 B棟の通路の建築監督の新谷正次の部屋から、バタバタと妙な音が聞こえた。こんな朝から何をしているのかしら?と、白雪は思うが、昨日の雑誌記者の伊勢秀司が言った此処で怪奇現象があるような話しぶりを思い出して、少しだけ怖くなって早足で自室に戻る。
 丁度その時だった。
「電話、使えばいいじゃないですか。各部屋についていますよ。」
 と、二人の後ろから声がした。二人が振り向くと、そこには今起きたばかりと言わんばかりに、寝癖のついた髪で廊下に立つ黒影の姿があった。
「おはよう、黒影。」
 と、白雪は頬を膨らませて黒影に言った。黒影はそれに答える事もなく、
「これ……見てよ。」
 と、二人の前に二枚の影絵を出した。
「何時描いたんだ。」
 風柳が驚いて聞いたのも無理はない。黒影が影絵を描いた……それは、これから近いうちに影絵と同じ死体が見つかる事を暗示しているのだから。
「今日です。ビジョンを忘れないように急いでこの二枚の影絵を描く羽目になってしまった。だからスケッチ程度で、はっきりとは描けなかったんだが……。」
 そう、黒影は言うと白雪に謝るように白雪の頭を軽く撫でた。黒影の描いた影絵は二枚。其々に一人の死体の影絵が描かれている。一枚目の死体は苦しんだ様子もなく、まるで病気か何かで倒れているような後ろ姿。そして二枚目の死体は……横から見た影絵のようだが、
 背中に何か刺さっているようである。しかし、黒影の言った通り、簡単なスケッチだったのでそれが何かまでは特定出来ない。
「まさか……。新谷さんの無事を早く確認しなくてはいけないな。」
 風柳は、黒影の描いた影絵を見るなり、慌てて自室に戻り支配人に連絡をしているようだった。その間も残された黒影と白雪の二人は新谷正次の部屋の扉を叩きながら彼を呼び続けた。エントランスの二枚のガラス扉越しに、黒影はA棟の廊下を見ると、連絡を受けたばかりであろう支配人が血相を掻いてバスローブ姿のまま、恐らく新谷正次の部屋の鍵を持って慌てて黒影のいるB棟を目掛けて走って来ている。連絡を終えた風柳も黒影と白雪に合流し、その姿の早い到着を待っていた。
 支配人はA棟からエントランスに入るガラス扉を開け、エントランス内に入ったようだった。
 しかし、そこでB棟の廊下で待つ三人は支配人の行動を不思議に思うのだ。何故なら、支配人はエントランスからB棟のガラス扉をなかなか開けようとはせず、それどころかエントランスの中腹にあるであろう暖炉の方角を呆然と見て立ち尽くしているではないか。この慌しい時に、何に気を取られているのだろうか……。やがて、支配人は暖炉の前に走り寄ったようで、B棟にいる三人から見えていたガラス扉越しのエントランスの視界から外れた。それから少し経つと、ようやく支配人が再び慌ててB棟へ続くガラス扉を開けた。
「大変だっ!来てくれ!」
 支配人はエントランスとB棟を仕切っていたガラス扉を開けるなり、いきなりそう待っていた三人に声を掛ける。三人は何事かと、慌ててエントランスの中へと入った。
「死んでいるのか?」
 黒影は、エントランスの中に入って直ぐ、暖炉の前に走り寄り、倒れている神田弘子の姿を見つけ、生死を確認していたであろう支配人に静かに聞いた。支配人は、
「脈を確認出来なかった。心臓の動きもないし、意識も呼吸もしていない。……恐らく……。」
 と、半ば放心状態だったが、小さな声で神田弘子の姿を凝視したまま答えた。風柳が慌てて神田弘子の状態を確認したが、やはりもう人工呼吸をしたところで手遅れの状態だった。
「支配人さん……残念ながら事件が起きてしまったようです。今の時点では病気が  原因の疑いが大きいですが、念の為他の皆さんを呼んで頂けますか?」
 と、神田弘子の死を惜しむように、悲しい瞳で見ながらも、風柳は支配人にそう伝えた。
 風柳は普段穏便な人柄に見えるが、正義感が強い人間でもある事を黒影は知っていた。きっと風柳自身がもっと早く気付けなかった事に気落ちしているのだろうと、黒影は思っていた。そんな風柳に、黒影は貴方の所為ではないのだからと言おうとした時の事だった。黒影は、妙な咳をする白雪の姿を見た。
 黒影も何故かつられたように咳をする。空気が酷く乾燥したような感覚だ。
「一酸化炭素中毒じゃないか?」
 そう、黒影はぼやくように言った。風柳は、
「何の事だ?」
 と聞き返したが、黒影はその時には既にエントランス中の窓や扉を開けようとしているようだった。風柳は、黒影の行動を見ながら、
「そうか!確かにこの部屋は仕切られている。
 昨日、神田弘子が此処に運ばれたのはセレモニーが始まって直ぐ。それから彼女はほぼ、この密室空間で寒さを感じて暖炉を燃やしていたのか。」
 と、やっと状況がわかってきたようだ。風柳も急いで黒影の行動を手伝う。やっと総ての窓と扉が開かれた頃、風柳は疑問に思っていた事を黒影に問う。
「しかし……昼頃はまだ温かかった。そんなに長時間暖炉を点ける必要もなかった筈だが……。それに、この暖炉はもう使われていないって事を建築デザイナーである神田弘子は知らなかったのだろうか?この暖炉にはA棟やB棟と孤立した暖房用のパイプが暖炉の横から屋根裏を通っていると昨日のセレモニーの時に神父から聞いたんだが…。」
と、言うのだ。黒影はこのエントランスの暖房の造りを聞いたのは初めてだったが、それを聞いて妙な疑問を持った。
「その事実を知っている何者かの犯行かも知れませんね。この一酸化炭素中毒の死は、何者かの手によって作られた死だったのでしょう。僕の影絵は病死した人物は描かれない。この神田弘子さんの死に方…僕が描いた一枚目の絵にそっくりだ。」
 と、黒影は話した。黒影が言うように、確かに神田弘子の死んだ姿は、まるで黒影か描いた一枚目の影絵のような体勢である。これは仕組まれた他殺である事を、この事実は証明している。
「ねぇ!二人共……推理はいいけれど、新谷さんは?」
 と、風柳と黒影の話を遮るように白雪は二人に言った。
「しまった、そっちを忘れていた!」
 風柳は白雪の言葉で、新谷の身の安全を確認していなかった事を思い出し、そう言うなり慌てて新谷正次の部屋へと走って行く。黒影と白雪も後を追った。
 丁度三人が到着すると、支配人が新谷正次の部屋を合鍵で開けようとしているところだった。風柳は支配人に、
「やっぱり返事はありませんでしたか。」
 と、聞く。支配人は、
「ええ。ですからこんな事態なので部屋の鍵を此方から開けようと思って。風柳さんは警察の人だから、承認という事で宜しいですか?」
 と、風柳に言う。風柳は了承の意思を深く頷いて伝えた。B棟にいた神父も既に支配人に呼ばれたようで、その様子を後ろから息を呑んで見ている。この様子ではA棟の人をまだ呼んでいないのだと思った白雪は、A棟の方へ向かい、呼びに行ったようだ。黒影がその白雪の後ろ姿を見ている間にも、新谷正次の部屋の扉が開かれた。神父は部屋の中を見るなり、
「これは……何て事だ。」
 そう、口にすると指先で十字をきり、神に祈りを捧げた。黒影もその様子に、神父と風柳の間を分け入って中を確認した。其処には、黒影が描いた二枚目の影絵と同じ姿で死んでいる新谷正次の姿があった。二枚目の影絵が背に刺していたものは、黒影の慌てて描いたスケッチでは確認出来なかったが、死体を見ると包丁だったようだ。
「何時の間に……。」
 黒影は新谷の死体を見ながら頭を抱えた。新谷正次の部屋も、エントランスも…どちらも鍵を持っている支配人以外は入れなかった。
「支配人さん、昨日エントランスのA棟とB棟に繋がる、二つのガラス扉の鍵は何時掛けましたか?」
 と、風柳は支配人に聞く。当然の事ながら、総ての鍵を所持していた支配人は容疑者と言ってもいいだろう。
「私は貴方と白雪さんと黒影さんの三人を建物内に案内した後、しっかり鍵を閉めました。
 貴方方を案内する前も勿論、セレモニーに参加された客人が間違って入らないように鍵は何時ものように閉めていました。それは一緒に案内した風柳さんも知っての通りです。昨晩はB棟の皆さんが部屋に入られるのを確認した後、B棟側のガラス扉の鍵を掛け、A棟の方々がエントランスを通過した後に、A棟側のガラス扉も鍵を掛けました。それは、A棟の方々に聞いてもらえばわかると思います。」
 と支配人は答える。黒影は、支配人の言葉に不審な点を見つけると、
「では、宮内さんはセレモニー中にどうやって神田弘子さんをエントランスに連れて行ったのでしょう?宮内さんに鍵を貸したのですか?」
 と、聞く。支配人は思い出したかのように、
「ああ、それならば宮内さんに神田弘子さんを休ませたいから鍵を開けてくれと頼まれてエントランスの鍵を一度開けて、神田さんを横にして私達はB棟に出るとまたガラス扉の鍵を掛けました。一応、女の人が一人で寝ているのですから、何かあってはいけないと思って……。宮内さんはその後、少し疲れたからとエントランス横の部屋で休まれましたが、出てきたら私と一緒に鍵を掛けながらこの建物を出ました。」
 と、答えた。宮内さんの証言や、他の人の証言も必要だと思った黒影は、
「兎に角、皆さんがお待ちのようですからエントランスで話しましょうか。」
 と、提案した。B棟の廊下に行くと、既にA棟の面々がガラス扉越しにエントランスに集まっているのが見えた。B棟にいた全員がエントランスに着くと、風柳は皆に状況説明をする。その後、各々の協力を得て一人ひとりの行動を聞いた。長い作業ではあったが、これが事件である限り、避けては通れない仕事でもある。西洋建築に詳しい宮内にも当然、支配人と神田弘子を運んだ時の話を聞いたが、支配人の証言と寸分の間違いもない。どうしたものかと、黒影と風柳が考え込んでいた所に雑誌記者の伊勢秀司が口を挟んできた。
「ほら……言ったでしょう?ここは出るって。」
 と、言うなり薄ら笑いを浮かべる。誰もが、この状況に不安の顔を浮かべたが、彼だけは事件が起きた事が楽しいようだった。
「何でもそんな見えないものの仕業にされたら、警察なんていらんだろう。」
 そう伊勢に風柳は言うと、伊勢の持っていたカメラを取り上げた。
「何するんだよ!」
 伊勢は大事そうに何時も首から掛けていたカメラを取られてそう言ったが風柳は、
「事件が解決したらな。」
 と言うと怒りを静めたようだった。風柳は出来るだけ早く署からの応援が来て欲しいところだが、この山奥とあっては応援が着くのは夕方過ぎになりそうだった。死体だけでも何処かに移動したいが鑑識が来るまでは移動すら出来ない。
「仕方ない。署の者が到着するまで時間がありますが、それまでは重要参考人でもある皆さんはこの建物から出ないで下さい。」
 と、風柳は全員に話した。
「えっ……でも、署の方々が来られてから、また話をしたりしたら、ここから今日中に帰る事は出来ませんよ。昨日セレモニーで用意したバスだって何時も此処にあるわけではないのです。大きいイベントがある時にだけ呼んでいるのですから。」
 と、不安そうな面持ちで神父は風柳に言ったが支配人は、
「では、皆さんには今晩も泊まっていただく事になりそうですね。」
 と、渋々ながらも風柳に言った。風柳は申し訳なさそうに、
「ご面倒をお掛けします。……それと、他に今日挙式予定だったC棟の方々にも協力願いたいのですが……」
 と、言葉を濁らす。しかし支配人は、風柳の気を察してか今度は快く、
「わかりました。これじゃとても今日は挙式なんて出来ませんから、私からもよくお話しておきましょう。後でC棟の方の話も聞くようでしたら、私に声を掛けて下さい。」
 と、言った。風柳もその言葉にほっとしたのか、微かに笑顔を取り戻し、深々と礼をした。
「セレモニーの警備を指揮していながら、こうなってしまったのも私の責任です。私も一緒に皆さんに説明しますよ。」
 と、風柳は支配人に言うと、二人でC棟へ向かった。その後、エントランスに残された面々でこんな話をしていた。
「しかし、死体と寝る事になるなんて…居心地悪いったらありゃしないよ。」
 宮内がそう口にすると伊勢も、
「流石に本当に死人が出るとは思わなかったよ。早くここから出してもらいたい気分だ。」
 と、話を合わせる。神父も、
「こんな事があったと知れたら……もう、此処で挙式していただける客人もいなくなってしまうんでしょうね。」
 と、肩を落としている。それを一緒に居た黒影が聞いて、
「だったら早く、犯人を見つけなければいけませんね。私も犯人と一緒に居ると思うと、早く此処から出たいですよ。」
 と言う。そんな言葉がきっかけになったのか、みるみるうちに話は犯人が誰かという、推理討論に発展して行った。やがて話が尽きて推理も行き詰ると、各々は死体の前に何時までも居たくないと思ったのだろう。其々の部屋に散って行った。
 黒影は自室に戻ると、朝から事件で疲れたのだろう。ベッドへ横になるなり居眠りを始めた。軽い仮眠のつもりだったのか、十五分程でむくっとベッドから起き上がってきた。
「おはよう。もう、いいの?」
 黒影に白雪はそう聞いたが、黒影は何も答えずに、何時も持ち歩いている鞄を開くと紙と鉛筆を取り出した。
「いいタイミングで寝たもんだ。」
 と、黒影は一人愚痴のように嫌々ながらも言葉にすると、そそくさと紙に筆を走らせた。白雪は心配そうな面持ちでそれを見届ける。黒影が再び影絵を描いているのだ。また誰か死んでしまう…そう思った白雪は急いで其れを支配人にこの状況を知らせようと連絡を入れようとしたその時だった。
「誰か!誰か来てくれ!」
 と、何処からか大きな声が聞こえてきた。二人が慌てて部屋を出ると、支配人がA棟側で何やら騒いでいるのがエントランスのガラス扉越しに見える。A棟で支配人の部屋の隣に居た伊勢秀司が何事かと廊下に出る姿が見えた。
 伊勢はどうやら支配人から鍵を預かったようで、B棟のガラス扉を開き二人をエントランスの中へ招き入れ、再びB棟のガラス扉に鍵をした。そしてA棟に二人が入ると同じようにB棟の扉を閉じた。二人と伊勢が支配人の部屋に入ると、支配人は何かを怖がっているように小さく震えている。
「一体何の騒ぎだい?」
 と、少し遅れて宮内修治が支配人の様子を伺いに来たようだった。支配人は窓の外を指差して、
「今、窓の外に黒い人影が見えたんだ!」
 そう、言うのだ。黒影はその言葉通り窓の外を軽く見たが、人の気配は既にない。
「黒影さんの黒いコートと間違えたんじゃないか?」
 と、支配人をからかうように伊勢は言ったが、
「いいや。私達はずっとB棟の中にいたし、外には鍵なしじゃ出られないよ。」
 と言う。それもそうだと思ったのか、其処に居合わせた誰もが、支配人を疑いの目で見る。
「冗談は対外にして欲しいですね。こんな茶番をやっている暇があるんだったら、犯人を捜していた方がマシだ。私はB棟の新谷さんの亡くなられた部屋を調べてきます。黒影さん……いいですよね。」
 と、呆れて言った。黒影も反対はしなかったが、
「ええ、そうしていただけると有り難い。けれど私はもう少し此処にいて、念の為に暫く様子を見ておきますよ。……伊勢さん、悪いですが宮内さんをB棟に送ってまた鍵を掛けてきてくれませんか。」
 と、言った。宮内も伊勢もその意見に合意し、B棟へと向かった。A棟に残った黒影と支配人と白雪の三人は宮内が新谷正次の部屋に入ったのを確認した。そして伊勢が戻ってくる途中にエントランスでC棟の人達の話を聞き終えた風柳の声がしたのだろう。伊勢はエントランスと外を繋ぐ大きな正面扉の鍵を開けて風柳を招き入れた。その二人もやっとA棟で待つ三人と合流すると、風柳は黒影に言う。
「こっちは仏さんの始末やらなんやらでてんてこ舞いでな。さっき支配人さんにこっちの建物に戻りたいと連絡したんだが、誰も出ないもんだから、どうしたものかと思っていたんだよ。丁度伊勢さんが通り掛かって良かった。」
 と。黒影は、
「気楽なものですね。今さっき支配人さんが部屋の窓に不審者の影を見たと言うのです。恐らく支配人さんもそれに驚いて電話を取る余裕もなかったんでしょう。まさか、風柳さん……貴方、支配人さんの部屋の窓付近をうろうろしていなかったでしょうね。」
 と、言うなり風柳に疑惑の目を向けた。風柳は慌てて、
「ちょっと待ってくれよ。俺は今までず~っと仕事してたんだぞ。C棟はこの建物の向かい側にあるんだ。そこから真っ直ぐ来たのだから、わざわざこの建物の裏を通るわけがないだろう。」
 と弁明する。この建物の各部屋の窓は建物から見て正面側に廊下があり部屋を境に建物の裏に全て面している。風柳の言い分も確かなものだ。それに、よく見てみると風柳の服は白いシャツを着ている。流石に影の様には見えないだろう。
「確かに……そうみたいですね。次の影絵見ますか?」
 と、納得すると黒影は風柳に聞いた。
「ああ。また事件が起きる前に止めなくてはな。裏までは警戒していなかったが、表は既に署の者が厳戒体制で警備しているよ。後で、建物の裏にも警備をまわそう。」
 と、言いながら黒影が差し出した影絵の描いてある紙を受け取った。そして、紙を見た風柳は更に、
「何だこれは?これじゃまるで、神様か何かみたいだな。」
 と、言うのである。それもその筈、そこにあった影絵はまるでキリストのように十字架を背に背負っているようにも見えるのだ。その影絵に流石に頭を抱え込んだ風柳に、白雪がほそっと心配そうに言った。
「ねぇ……さっき支配人さんが見たのって、此処の神父さんじゃないかしら。神父さんって黒い服を着ているのよね?それに、さっきからこんなに大騒ぎしたのに姿も見ないわ。」
 と。黒影と風柳は白雪の言葉に目を合わせた。
「探しましょう!」
 黒影はそう言うとすぐさま伊勢がまだ手にしていた鍵を奪い取ると走りだした。黒影はA棟からエントランスのガラス扉を開けると急に足の動きを止めて、扉のところに立ちはだかった。思わず後を追いかけてきた、風柳と白雪が黒影の背に激突する。
「急に止まるなよ。」
 風柳は黒影にぶつかった頭を抑えながらも、黒影に言った。黒影は二人に謝る素振りもせずに背を向けたままこう言った。
「間に合わなかった。」
 と。風柳がエントランスの中に黒影と入ると、其処には神父の小林和也が倒れている。煙突に付いていた大きな十字架とは別に、暖炉の前にあった筈の十字架を突き刺されたまま。
 神父の死体の上には、一枚のタロットカードが乗せられていた。タワーのカードだ。それを後から来た伊勢が目撃すると、
「やっぱり……この暖炉の呪いだ。きっとこのタワーのカードはこの聳え立つよう に高い、この暖炉を意味しているに違いない。」
 と、言うのだ。黒影はそれを聞いて、
「暖炉の呪い?一体何の事だ。」
 と、思わず聞いた。しかし、伊勢は何も答えはしなかった。風柳はその間に、鑑識を呼ぶ為に支配人の部屋の電話を借りに行ったようだった。
「そうだ。屋根裏の温風用のパイプを調べておきたいのですが……伊勢さんの部屋に入れてもらってもいいですか。神田さんが亡くなられた時故障していたのか知りたいのです。」
 黒影は唐突に伊勢に聞く。神父の遺体はまだエントランスに残されたままだったが、黒影は第一の犯行と第二の犯行の謎を先に解かなくてはいけなかった。そうでもしない限り、今回の神父が殺された時、犯人がどのようにしてエントランスに入ったかがわからないだろうと推測したからだ。
「ええ、構いませんよ。」
 と、伊勢は言うので黒影は一人つかつかと伊勢の部屋に入って行った。他のA棟に残った面々は一緒に居た方がいいだろうと言う事で、支配人の部屋に集まる。
黒影は伊勢の部屋に着くと、クローゼットの天井を強く殴ると簡単に屋根裏への入り口を作り入って行った。
「やっぱり……大体屋根裏へは押入れから行けるものだとは知っていたが、こう上手くいくなんて思ってもみなかった。」
 と、独り言を言いながらも先を急ぐ。流石にエントランスの煉瓦の柱まで辿り着くのは至難の業でもある。前方を照らしながら進んで行き、煉瓦の柱……つまりエントランスの暖炉が見えた時、踏み出した片足が丁度宙に浮いている様な感覚を覚えた。慌てて後退し、足元を懐中電灯で照しながら確認すると、エントランスとA棟の間に空間がある事に気付く。
「成る程、増築した際に生まれた空間か……。」
 と呟きながら、更に空間を調べようと照らしてみるが、光は届かないようだ。仕方なく前方を照らす。
「一体これは何だ?」
 何かの機械を見つけた黒影は思わず口から零す。どうやらA棟の全ての部屋へ温風を供給する為の機械で、一つのパイプから其々の部屋へ分配されているようだ。恐らくこの構造からすると、B棟側にも同じ物があるのだろうと推測出来る。では、エントランスの暖房はどうなっているのだろうと考えると、それは単純に煙突が使われなくなった理由を考えればわかる。煙突の中にあるからこそ、暖炉が使えなくなったのだ。煙突の反対側に行ってB棟の屋根裏も確認しようと試みたが、どうやらA棟とB棟は丁度煙突を境に壁で仕切られているようだ。これではB棟の屋根裏へは、恐らくB棟の何処かの部屋からしか行けないようだった。
 さて……もうそろそろ戻ろうか……。
 黒影がそう思った時だった。煉瓦の柱の欠片がぽろっと落ちる。少しびっくりして肩を竦めてみたが、誰もいない。
 どうやら古くなった煉瓦の端が零れ落ちただけのようだ。黒影はほっとしながらも煉瓦の欠片が落ちてきた先を見上げ、懐中電灯で照らす。次の瞬間、黒影の動きがあまりの驚きに止まった。黒影は元から驚くと、声や動きはみせないが、逆に微動だしなくなる習性がある。黒影が驚いたのも無理はない……その懐中電灯が照らし出したのは、白い人骨であった。煉瓦の剥がれた一部だけなので、それが体の何処の部位かも特定は出来ない。黒影は仕方がなくその場を去って屋根裏を下りる。
 そして皆が待っているであろう支配人の部屋へと急いだ。
「風柳さん、大変なものを見つけてしまったよ!」
 黒影は支配人の部屋に入って風柳の姿を見つけるなり、慌てて言った。
「どうしたの、黒影?」
 と、支配人の部屋で居眠りをしていた白雪が黒影の声に気がついて起きると聞いた。
「はっきりとはわかないが、煉瓦の中に人骨らしきものを見つけた。」
 そう、居合わせた支配人や伊勢にも聞こえるように、全員が座っていたテーブルの真ん中に懐中電灯を置くと、黒影はそう言った。
「その煉瓦を解体する必要がありそうだな。支配人さん、何か煉瓦を壊せそうな物はありませんか?」
 と、風柳は支配人に聞く。支配人は暫し考えた後、
「ああ……金槌で良ければありますよ。後は日曜大工が出来る程度ですが工具が一式あります。」
 と、言うなり部屋にあった引き出しから工具箱を取り出した。
「とりあえず、これを持って上がってみよう。」
 と、風柳は支配人が出してくれた工具箱から金槌と釘抜き……それとドリルを手に取っていった。
「僕も手伝いますよ。丁度暇だったし……そう言う人骨だの何だのって話は大好物だからねっ。」
 と、伊勢が言う。
 風柳はこの人手が足りない時だから仕方ないと思い、渋々伊勢にも手伝わせる事にした。伊勢と風柳、そして再び黒影は屋根裏へと急ぐ。支配人も心配しながらクローセットの開けたれた上の天井を見上げている。
「此処です。」
 黒影が白骨を見つけた場所を照らしながら言った。三人は無我夢中で掘り出す。ドリルで穴を開けて金槌でこそぎ落とすようにそれを砕いて落とす。釘抜きで薄くなった煉瓦を端から引っ張り出す。この作業を何度繰り返した事だろうか……。やっと人骨の全てが顔を出した。この煉瓦に埋められた……誰かの骨だ。
 思ったよりも綺麗に体の部位が揃っていた。其処にいた三人の誰もが、この人骨の主は此処に誰かの手により埋められたのだと確信した。
「また死体か……一体、どうなっているんだ此処は。」
 そんな愚痴を言いながらも風柳は先に下りて応援を呼びに言った。黒影と伊勢は応援が来たら目印になるからと、その場で待ちぼうけになる。
「やっぱり……暖炉の呪いは本当だったんだ。」
 と、伊勢は白骨死体を凝視しながら呟いた。
 黒影は思いたったように、
「そうだ。伊勢さんはさっきもそんな事を言っていたね。一体、何なんだいその暖炉の呪いって?」
 と聞いてみる。すると、伊勢は惜しむようにゆっくりと話し出した。
「昔、この教会が出来た当時、この煉瓦の暖炉の建設は難しいと言われていたんだけど、今の支配人の先代の支配人が無理を承知で作らせたんだ。だからこそあの神田弘子さんだって今や有名な建築デザイナーだ。でもね……彼女のデザインは完璧じゃなかったんだ。一度、この煉瓦の煙突は倒れているんだよ。その時の噂だが、一人死に繋がるような大怪我をした大工がいたらしい。けれど、どうした事かその日からその大工は姿を消した。近くの病院をあたっても姿が見つからない。
 だからその当時の此処を建てた人達はずっと彼を探していた。けれど結局、この暖炉は完成した。もしかしたら……この暖炉の中にまだ彷徨っているんじゃないかというわけさ。まぁ……俺もただの噂だとは思っていたが、まさか本当に出るなんてね。」
 そう、説明すると苦笑いをする。
「その失踪された方の名前は何て言うんです?」
 黒影は、興味がないのか何故か白骨に目を向けたまま伊勢に聞いた。
「確か……石坂 健一(いしざか けんいち)だったと思いますが、それが何か?」
 伊勢は一応に答えてみたが、それが何になるのか何もわからなかったので黒影に聞いてみる。黒影は、
「ほら……腕に何かつけていますよ。S.Iって書いてありますね。多分イニシャルでしょうけれど名前が違うようだ。石坂さんの家族のイニシャルでしょうか……。」
 と言って、白骨遺体の手首を指差した。伊勢が見てみると、其処にはS.Iと印されたプレートの付いたブレスレットがあった。
「さぁ…流石に随分昔の話だから、其処までは知りませんがね。」
 伊勢はそう答えるしかなかった。黒影と伊勢は警察関係の人達が屋根裏に上って来ると邪魔になってはいけないと下に降りていった。
 支配人の部屋に戻ると降りてきたばかりの二人を白雪の笑顔が迎えた。風柳も支配人の部屋で待っていたらしい。
「あのね、犯人は細い所を通って移動したの。
 さっき居眠りをしてしまった時に夢で見たわ。
 今、支配人さんと話していて通気口は狭すぎてとても人が通れない幅だから、屋根裏にある暖房用のパイプじゃないかって話していたの。」
 と、白雪が戻って来たばかりの黒影に言った。その話に釘を刺すように風柳は、
「こんなに事件が重なってしまった今だ。やむをえなく今、支配人を重要参考人として署に来てもらうように言おうとしていたら、今頃そんな事を言うんだ。それを聞いたら、まさか犯人が鍵を持っている支配人さんではないし、仕事がやりづらくなってしまったよ。」
 と、やれやれと言ったようである。黒影はそんな風柳に、
「まぁ、無実の人をやたらにしょっぴくよりはいいじゃないですか。そう急がなくても、私には段々犯人像が分かって来ましたよ。」
 と、言うではないか。白雪は目を輝かせて、
「一体誰なの。」
 と、聞いたが黒影は、
「まぁ急かさないでくれよ。後もう一歩……気になる点を確認してからにしよう。」
 と、勿体つけるように言ってにこやかな笑みを浮かべるだけだ。更に、風柳にこんなお願いまでする。
「悪いのですが風柳さん……此処にいる関係者以外で誰か建築に詳しい人に、此処の屋根裏の空調関係の設計図を簡単でいいので書いて欲しいのですが……頼んでいいですか。」
 と、言った。風柳は、
「知り合いで建築の現場監督をしている奴なら知っているが、それでも構わないのなら呼べるが。」
 と、答える。黒影はその言葉に満足そうに頷くと、
「ええ、それで十分だ。事件解決の為にはそれが重要なものとなるでしょう。出来るだけ急ぎでお願いします。」
そう、言った。

 黒影が風柳に頼んだ人物が到着したのは、それから四時間過ぎた頃だった。そして黒影が欲しかった空調関連の詳しい情報が書いてある簡単な設計図が完成するまでは、約半日を費やした。黒影がその設計図の完成を今か今かと白雪と自室で待ちわびている時だった。
 黒影が頼んでいたものが出来上がったらしく黒影の部屋に風柳からの連絡があった。
 黒影は早速エントランスで待ち合わせていた風柳の知人の所へ向かおうと、支配人にエントランスへの鍵を開けてもらうように伝えた。黒影は死体の片付いたエントランスに着くと、早速図面をエントランスの壁に当てて、風柳の知人と二人で話し始めた。
「わざわざ書いていただいて有難う御座います。……ところでいきなりで申し訳ないのですが、各部屋には暖房を供給する他に、壁に通気口があったのは僕も見ました。エントランスにも通気口がありました。それでも一晩中暖炉を燃やしていたら、一酸化炭素中毒になるものでしょうか?」
黒影がそう聞くと風柳の知人は、
「そうですね。エントランスにも少し古くて恐らく昔からの物でしょうが、外へ繋がる通気口があります。煙突の途中に、暖房用の機械があるのですが、それで暖炉の煙突を塞いだからと言って、通気口がある限り、死に至るまでの一酸化炭素中毒になるとはまず考えられない。何者かが換気用の通気口を塞がない限りは……。それ以外の……特に屋根裏の温風設備については私が見た限り別段問題はありませんでした。A棟やB棟も同じく、温度管理は支配人さんの部屋で調整出来ます。しかし、幾ら調整出来ると言っても当然安全性も考慮してあって一定の常温程度で操作出来る範囲になっています。暖炉を点けなくてはならない程の寒さにする事も不可能ですし、まさか温風器が壊れたとしても、此処を設計デザインした人が暖炉を封鎖したのを忘れるなんて事もないでしょう。」
 と、答える。
「煙突の途中に、暖房用の機械……ですか。丁度白骨死体の出た箇所からどの位置にあるのですか?」
 さらに突き詰めて黒影が聞くと、
「現場から丁度下に一メートル程でしょうか。その暖房機器からパイプがあって下の暖炉まで続いています。」
 その説明を聞くなり、黒影は図面をまじまじと見つめる。煙突から両サイドの二つの塔の間を間切るように空間が見られる。一メートル下となると、A棟かB棟からでも、エントランスの隣の部屋からならば壁に細工してその空間を利用する事は可能だ。やはり、第一に殺された神田弘子はこれで何者かに殺されたという事が理解出来る。黒影はエントランスの通気口の蓋を開けた。
「紙粘土……のようですね。」
 黒影は通気口の中を覗くとそう言った。通気口の中にはびっしりと乾いた白い紙粘土が詰められているではないか。これでは通気口の役割を果たす事は出来ない。黒影は、その紙粘土を通気口の中から掘り出した。
「これでは、空気も通らない筈です。温風器が流す温風だけならまだしも、暖炉なんて火を使えば酸素だってなくなりますよ。」
 と、思わず其れを見た風柳の知人が言った。
 温風器をエントランスに独立させて取り付けた理由……それが黒影に謎を一つ増やす。白骨化して発見された遺体と何か関係があるのだろうか?黒影はそんな事を考えながら図面を譲り受けると風柳の知人に礼を言った。

 それから黒影は白雪の待つ部屋に戻る。事件を初めから整理しているであろう無言の黒影に痺れを切らした白雪は、
「ちょっと黒影、推理はその辺にして気晴らしに薔薇園にでも行きましょう。あんまり根詰めたら解ける謎も解けなくなってしまうわ。」
 と、呆気にとられながらも提案した。黒影もそれはそうだと白雪に連れられて薔薇園に行ってみる事にした。
「ねぇ……この薔薇の花言葉は何て言うの?」
 白雪は薔薇園につくと真っ白な薔薇を指差して黒影に聞く。黒影は、
「純粋……だったかな。」
 と、まだ考え込んでいたようで素っ気無く答えた。白雪は負けまいと更に真っ赤な薔薇を指差すと、
「じゃあこの赤いのは?」
 と、再び聞く。黒影は、
「えっと……多分情熱かな。」
 と、やはり何処か素っ気無く答える。機嫌を悪くした白雪は、
「じゃあ此れは?」
 と、少し投げやりに黄色い薔薇を指さした。呆然としていた黒影もこれにはどきっとして、
「さぁ……何だったかな。」
 と、真面目に答えた。白雪は黒影が本当は知っているのに教えないのだと勘付くと、
「いいわよ、後で風柳さんに聞くから。」
 と、頬を膨らませて言った。黒影は白雪の言葉に慌てて、
「友情……だよ、確か。」
 と、言うのだ。白雪は怒るとわかっていたが、まだその方がいいだろうと黒影は思っていたのだ。
「他には?」
 白雪は勘ぐっているようだ。ただでさえ、好きな人に友情だけだなんて腹立たしいが、白雪は花言葉が幾つかある事ぐらい知っている。
「他に?」
 黒影が慌てて聞き返した姿が、白雪の瞳に映っている。黒影は一人……あれこれと脳裏で模索する。恋人に当てるには少し失礼な例えもあるが、そうではない。黒影は白雪が支配人と薔薇を楽しそうに見ていたのを知って、思わず黄色い薔薇と口走ってしまったのだ。きっと支配人は薔薇に詳しいから、わかるのだと思って……ちょっとした嫌がらせのつもりだったのだ。
「支配人さんに聞くといいよ。」
 黒影はそんな言葉を言って、はぐらかす。そんな時に、ふと黒影の脳で絡まっていた糸が一本になったのである。もう一つの意味……そうだ。もう一つの名前。それに気が付くと、黒影は白雪に慌ててこんな事を言った。
「やっとわかったぞ!白雪、事件が解決したと風柳さんに伝えて、皆をエントランスに呼ぶように伝えてくれないか。」
 と。黒影が急に大声で言ったものだから白雪は驚いたが、慌てて風柳に知らせに走ったようだった。
「そうか……。後は名前だ。」
 黒影はエントランスに一人向かいながら、そう呟いた。
 間もなく全員がエントランスに呼び出された。
「わかったって、本当か!」
 風柳が黒影に勢いよく聞いた。
「ええ。一つだけ残ってはいますが、それは皆さんが揃えば、やがてわかる事です。」
 と、にこやかに黒影は答えた。伊勢は記者の職業病か、メモを取る為に急いで胸ポケットからペンを取り出した。そして黒影の言葉を待ったが、黒影は伊勢の方を向くと聞いた。
「伊勢さん。貴方……本当に伊勢秀司さんですか?貴方、私にひでじと自己紹介しましたよね。本当はしゅうじと読むのではないですか?」
 と。伊勢はそれを聞くなり、暖炉の煉瓦から出た白骨死体の着けていたブレスレットに書かれたS.Iのイニシャルを思い出して慌てて、
「S.Iの事だったら俺じゃないよ!ほら……ちゃんと免許証だってある。」
 そう言うと免許証を風柳に差し出した。風柳が其れを確認すると、確かにひでじで間違いはないようだった。
「伊勢さんが言っている事は本当のようだ。黒影君、大丈夫なのかね?」
風柳はそう言って黒影の推理が間違っているのではないかと心配したが、黒影はそれを聞くと逆に安心したように微笑んで、
「そうですか。ただ聞いただけですから気にしないで下さい。伊勢さんが犯人だなんて私はまだ一言も言っていませんよ。」
 と、言った。伊勢は肩をほっと撫で下ろすと、再びメモを取る準備をした。
「風柳さんが疑ったようにこの一見密室にも思えた全ての犯行は支配人の日比谷透さんが鍵を所持していたのだから、単純な犯行だったとも思える。しかし、これは恐らく日比谷さんに疑いが掛かるように犯人がわざと密室殺人を作り上げたと考えてもいい。この事件は初めにこの教会が建設された当時の出来事が発端となっているのです。」
 そう、黒影が説明すると伊勢は、
「じゃあ、やっぱりあの白骨死体の呪いだって言うのかい?それじゃあ推理にも何にもならないじゃないか。」
 と、口を挟んだが黒影は首を横に振ると、
「そんな馬鹿げた推理は流石に出来ませんよ。これはれっきとした殺人事件です。犯人は恐らく此処が建設された当時に亡くなられた、石坂健一さんを知る人物でしょう。今まで亡くなられた三人の共通点は、建設された当時から此処に居て携わってきた人物である事からもそう推測出来ます。恐らく三人はこのエントランスの暖炉の煙突の煉瓦の中に、建設中に事故死した石坂さんを埋めた。建築物が教会であり評判を気にした神父と、設計ミスを隠したかった神田弘子、そして事故の一部始終を見ていた筈の新谷正次の共謀だった。何よりも先代の支配人が、事故があった事実を隠そうとしたのかも知れませんね。何らかの方法でそれを知った犯人が復讐の為、三人を殺害したのです。しかし、先代の支配人は既に他界している。犯人はこの事件を憎むべき先代の支配人の息子でもある、今の支配人さんに罪をなすりつける予定だったのでしょう。だから犯人は密室殺人を作り上げたのです。」
 と、真相を話し出した。
「しかし、このエントランスとA棟とB棟はガラス扉で鍵が掛けられている。それに 同じ塔にいても、各部屋には鍵が掛けられているじゃないか。どうやって犯人は行き来したと言うのかね?」
 と、風柳は聞くのです。
「鍵なんていらないんですよ。犯人はA棟とB棟を隔てる暖炉の煙突を通過する魔法を使ったのですよ。屋根裏から登ると、煙突の煉瓦から白骨死体が見つかったが、その下がどうなっているのかというと、エントランス専用の暖房機器がある……つまり暖房機器を動かすと簡単に空間が出来上がるのですよ。そしてエントランスの両サイドにも壁に挟まれた空間がある。建築中に亡くなられた遺体を隠すために、煙突の遺体発見現場より上はコンクリートで封鎖されましたが、エントランスの暖の確保はしなくてはいけなかった。其処に目を付けた犯人は温風を供給するパイプに入り込み、どの部屋にでも自由に行けるようになったというわけです。
 ここにいる伊勢さんと我々以外の誰もがここの建築に携わっているのですから、そんな事、造作もない事だったに違いないでしょうね。ねぇ、宮内修治さん。」
 黒影は犯人の名を口にすると、宮内は驚いてはいたが、上がった息を整えると、
「何を馬鹿な事を……。確かに僕はA棟から一番エントランスに近い部屋にいたよ。けれど、それはそこにいる支配人さんが決めた事じゃないか。推測で物を言うのはやめてくれたまえ。」
 と、支配人を指差して言うのだ。黒影は改まって、
「では、支配人さん。貴方は、どうして宮内さんをあの部屋にしたのですか?」
 そう、聞くと支配人は暫し思い起こす為にか沈黙したが、やがて話始める。
「……そう言えば、宮内さんが神田さんをエントランスに横にさせた後、疲れたと仰っていたので適当な部屋を選んでもらったのですが、神田さんが心配だからと、近い部屋がいいと言いながら、A棟のエントランスに一番近い部屋で休息されたのです。ですからつい……そのままがいいと思って……。」
 と。黒影はそれを聞くとにこやかに、
「大事な証言を有難う御座いました。」
 と、言うと第一の事件について話出す。
「今、支配人さんが仰った通り、心理的誘導を使って、宮内さんはエントランスの隣の部屋を確保出来たわけです。でも、これだけでは推測になってしまいますが、貴方にしか出来ない事をしているのです。予め睡眠薬入りの飲み物を神田さんに飲ませた貴方は、介抱するふりをしてエントランスに入る。そして、エントランスに神田さんを寝かせると、支配人さんとエントランスへのガラス扉の鍵を閉めA棟に移り、A棟の部屋の壁に細工し、先程言った方法で再びエントランスに入り込む。そして通気口を紙粘土で埋めて、準備を整えると再び来た道を戻り、何食わぬ顔で部屋から出て支配人さんと合流したわけです。皆よりも先に建物内に入らなければ、壁の細工をする時間がないですからね。そして皆が各部屋で寝静まった頃、貴方は再びエントランスに入り、暖炉の火を点けその暑さで紙粘土も固まり、朝方には火を消して暖房機器を元に戻すだけで神田さんを殺したのです。」
 それを聞いていた宮内は勿論反論すべく、
「その方法で確かに神田さんを殺す事は出来たかも知れないが、動機がない。それに、他の二人も同一犯の犯行のような言い方だが、他の犯行は解明出来たのかい?」
 と、馬鹿げた事をと言わんばかりに薄笑いを浮かべて言うのです。黒影は、こくりと頷くと、
「神田さんを殺した後、貴方は朝方に火を消しただけではなく、もう一つ……仕事があったのです。B棟のパイプを伝って新谷さんの部屋に入り込み殺害した。わざと音を立ててね。音を聞きつけた僕らは慌てて新谷さんの部屋に集結する。その間に貴方は自室に戻って、後から何事かと合流したのです。
 そして次は神父の小林和也さんを殺さなくてはならない貴方は、皆と離れて新谷さんの部屋を見てくると言って、その間に小林さんを殺していた。小林さんの姿だけが見られなかった理由は、貴方に電話で過去の事件について知っていると脅されて貴方のいた新谷さんの部屋へ向かったからなのですよ。小林さんは貴方に言われたように誰にも気付かれないように、自室の窓から新谷さんの部屋へ向かう。皆が見た黒い影は小林さんだったのです。
 貴方は新谷さんの部屋で窓を開けて待っているだけで良かった。そしてパイプの中に証拠が残っているとか言って、連れ込むと殺した。だから新谷さんの部屋に、小林さんの血痕が残る事もない。そして、小林さんの遺体をエントランスに持ち込み、十字架を下ろして恐らく凶器で刺した部分をわからなくする為に、十字架で同じ場所を突き刺し、貴方は再びパイプに残った血痕を消しながら、新谷さんの部屋に戻ったというわけです。」
 と、今回の一連の犯行を暴いた。
「でも、動機は?」
 そう、聞いたのは風柳だった。早く逮捕したくて、黒影の言葉を今か今かと待ち草臥れたようでもある。
「ありますよ、安心して下さい。宮内さん……貴方のお父様が教えて下さいましたよ。あの白骨死体が腕にしていたブレスレットのイニシャル……S・Iですがね、あれは貴方の事ですね。Iは石坂のI、Sは貴方の名前、宮内修治の修治のS。これは後になれば調べがつく事ですが、男でも婿養子になれば苗字が変わる事もあります。
そうじゃないですか?」
 と、黒影は宮内に聞くのだ。宮内は愕然と肩を落とし、床に膝をつくと、
「そうです。確かに、父は何時も僕の帰りを待っていた。だからあんなブレスレットを持ったまま死んだのでしょう。父は僕の尊敬する洋風建築の第一人者だった。まだ幼かった僕は父の背を見て父の様な素晴らしい建物を何時か残すと心に誓っていた。父は此処の建設が決まると、建築デザイナーでもあった神田弘子にこの暖炉の設計がおかしいのではないかと問いただした。
 けれど建設を急いでいた先代の支配人の横暴さに設計図は書き換えられる事もなく、父は渋々この教会の暖炉を作っていた。何時も家に帰って来ると僕に、あの建物は暖炉さえ直せばきっと素晴らしいものになる。それが惜しくて惜しくて仕方ない……と何時も口にしていた。
 父が姿を消す日の朝、父はもしかしたらと思って僕に言ったんだろう。物を立てる仕事に就く誰もがいい建物を建てたくて始めるが、それを成功させるには建てようとする全ての人の願いが同じでなくてはならない。あの暖炉はいずれあの教会を訪れる人々を温かく出迎えてくれる。だから父さんはもうあの暖炉を恨みやしない。例えどんな形でも、願いが込められた建物に悪いものはないんだ……そう言うと笑って家を出て行った。父が失踪した後、僕は散々三人に暖炉の事を問い詰めた。しかし、何の確証も掴めないまま無情に時間だけが流れた。
 父が失踪して二年が過ぎた頃に私は海外で洋風建築を学び、再びこの教会を訪れた。その時、父が事故で死んだ後、三人が暖炉の煉瓦の中にそれを埋めた事を偶然聞いてしまった。初めは殺してやりたいと思う程三人を憎んだ。けれど、父が言い残した言葉がそれを阻んでいたし、何よりも三人が父を殺したわけでもない。だから私は何も言わずに、静かにその場を去りました。
 けれどある現場で神田弘子に再会した時、私は既に結婚して婿養子となり苗字こそ変わっていたが、彼女は私の事を全然覚えていなかった。それに父が眠っているこの教会を改築して、有名デザイナーとして発表されると言うじゃないか。私はそれを知った時、どうしてもあの三人が許せなかった。父の事も忘れ、堂々と生きて賞賛されている彼らの姿が憎くて仕方がなかった。」
 そう言うと、宮内は目に薄っすらと涙を浮かべて暖炉を食い入るように見た。
 強く握られた手は微かに震えているようにも思える。宮内が暖炉を凝視し、やがてその目を閉じると風柳が彼の肩を軽く叩き、
「行こうか……。」
 と、彼をエントランスから連れ出し、警察署へ連行した。宮内は外に出されると、何度も何度もこの教会に聳え立つ塔のような煉瓦の煙突を見上げていた。黒影はそれをただ呆然と見つめ、彼の姿が見えなくなるまで見送った。

「願いが……欲を産んでしまったのかも知れないな。ただ此処を訪れる人々を温かく出迎える為にあった筈なのに……。まるでバビロンのようじゃないか……。」
 黒影は、事件が終わりバスの車窓から小さくなっていく教会の煙突を見ながら呟いた。
「違うわ……きっと。あそこには守り神がいるのよ。願いを守る守り神が。」
 白雪は黒影にそう言って笑った。そして、お気に入りの薔薇園から拝借した一輪の黄色い薔薇を揺ら揺らと手にして揺らしながら、
「ねぇ、黒影。この花のもう一つの意味……支配人さんに聞いたけれど教えてくれなかったの。」
 と、黒影に聞いてきた。黒影は何も知らないふりをして視線を宙に飛ばした。
「きっと、ろくな意味じゃないのね。」
 と、白雪は黒影の顔を見て言う。その後黒影が困った顔で長い家路を辿った事は言うまでもない。そして心に思うのだ……嫉妬……だよ、と。言いたくても言えない……そんな言葉の変わりに、黒影は白雪の手から黄色い薔薇をそっと奪うと、そっと我胸に添えるのだった。
 その数日後、ある雑誌にあの教会で起きた事件が“バビロンの塔の呪い”という題材で紹介された。当初はあの建物はもう駄目だろうと言われていたが、今の支配人の頑張りで今はホラースポットとして、其処を訪れる者が後を断たないそうだ。今頃あの支配人はドラキュラの姿をして珍客をあの温かい暖炉の前で出迎えているのであろう。


🔸次の↓season1-短編集 第三章へ↓(此処からお急ぎ引っ越しの為、校正後日ゆっくりにつき、⚠️誤字脱字オンパレード注意報発令中ですが、この著者読み返さないで筆走らす癖が御座います。気の所為だと思って、面白い間違いなら笑って過ぎて下さい。皆んなそうします。そう言う微笑ましさで出来ている物語で御座います^ ^)

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お賽銭箱と言う名の実は骸骨の手が出てくるびっくり箱。 著者の執筆の酒代か当てになる。若しくは珈琲代。 なんてなぁ〜要らないよ。大事なお金なんだ。自分の為に投資しなね。 今を良くする為、未来を良くする為に…てな。 如何してもなら、薔薇買って写メって皆で癒されるかな。