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「黒影紳士 ZERO 03:00」ー八重幕ー 第五章 狂い咲け!

🔶先読み連鎖発動!!🔶↓↓この章では同著者別書のマガジン「黒影紳士の世界」の、「Winter伯爵の忘れ物」より、Winter伯爵と漣が登場します。
黒影紳士の世界観をもっと楽しみたい方は、この章の前後にお読みいただくとより一層お楽しみ頂ける仕様となっております。
読む前、または読み終わった場所にリンク🔗を貼り、戻って来れる様にしてありますので、お好きに行き来してみてください🎩🌹


第五章 狂い咲け!

『黒影、宛ては在るのか?』
 息を切らして、創世神が黒影に聞いた。
「最初の地に行くんです」
 黒影も流石に息を切らしている。
 サダノブですら、連続で氷の道を作っているのだ。
 体力が奪われない訳ではない。
 上空の乾いた空気は冷たく、顔が凍て付く様だ。
「力尽きる前に、凍死しちゃいますよ」
 サダノブは思わず泣き言を言った。
「もう少しだ……。乗り切るぞ」
 黒影がそう言った時だ。

 背後からセナが……もう、漆黒の影の姿に成り果て、スーッと此方へ追い付いて来るのが見える。
「私の……夢みた……世界……」
 そう呟く様に言って、黒影達を機械的な赤い目でぎろりと見詰めると、地上から少し浮いた儘の状態で、ゆっくり手を広げて行く。
 其の広げられた腕の間から見えて来たのは……
 何と、あの地底にみっちりと犇き合っていた大量の「ゴースト」ではないか。
 まるであの「ゴースト」の墓を盾に、中央にセナが守られるかの様に浮かんでいるのだ。
 地底の「ゴースト」達を抑えていた膜が、次第に破かれて、一体一体と、滑り落ちる様にズルりと粘膜の様な糸を引き、下へ転がっては、ゆらりと立ち上がった。
「あれが人?!もう、ゾンビでしょうよ!」
 サダノブは黒影の両肩を後ろから掴み揺らすと、早く逃げ様と必死だ。
「……悪いが、サダノブ。僕はもう走るのもしんどい。翼も出せない。諦めろ」
 黒影は「ゴースト」を見詰めるだけで、そう慌てもせず、さらりと言うではないか。
「野犬に変化しても、先輩だけなら未だしも、創世神さんまで背中に乗せて此の世界で走って逃げられる自信なんて、無いですよぉ」
 と、サダノブは情けない事を言うので、創世神は大きな溜め息を吐いた。
「レディファーストだろうがっ、其処は!全く無礼なポチだ。黒影……僕の大事な筆を此処迄有難う」
 創世神はそう言うなり、剣で宙を切って硝子の筆に戻し仕舞うと、黒影に愛用の筆を渡す様にと掌を見せた。
「はい……しっくりくる方ね」
 黒影が創世神へ愛用の筆を渡すと、創世神はやはり嬉しいのか、朗らかな笑顔を見せる。

 そして呟く様にセナに言った。
「……夢……理想……。残念ながらそんな綺麗事だけで世界は出来ていない!現実的な惨さ、不条理……多くの相反する物の中に在る。本当に他界からの僅かな糧だけで、今……君を守ろうとする者達は満足出来るのか?……否、考えずとも答えはNoだ。君が変えてくれると思っている。何故ならば此の世界を創ったのだから、出来る。そう信じているから、君に加担し様と今はしているに過ぎない。何が言いたいか分かるか?」
 創世神はセナの前で、何体もの「ゴースト」が産まれ様が、臆する事無く堂々と話す。

 其の二人の間に挟むものは何も無い。

 世界を創る者同士の話しである。
「なっ、何よ!また幾らでも創り直せば良いじゃない!」
 セナは其の姿に、まるで注意された子供の様な気分になり、思わずそう言った。
「……嘘……付き……だな。創り直す事も嫌ぐらい、誰かに触れられ壊されるのも嫌なぐらい……愛していたのだろう?もう一人の「創造者」と、創り上げる筈だった世界は」
 創世神はそう言って微笑むと、話を勝手に終えた。

 敵前で背を向ける事は決してしない、創世神が……。
 黒影は其の姿に、あんなにも「ゴースト」を従えていても、創世神には敵意の一つすら無い事を知る。

 ……そうだ。目的はあくまでも「世界構築」だったと、思い出すのだ。
 世界を壊す、直す……では無く「構築」だったと。
『成る程……狂い咲きの桜もまた、美しい……』
 追い詰められた最初の場所で、創世神は寒桜を見上げ言った。
 黒影が其の辺りを調べ様とすると……
「止めて!其の桜はあの人と私が、初めて此処を創った時に植えたの!触らないでっ!」
 一旦は大人しく成っていたセナが、急に逆上し叫んだ。
「此の世界を守る為に、あの桜を守りなさい!傷付ける者は生命力ごと喰らってやるが良いわっ!」
 セナは黒影を指差した。
「何かヤバいっすよ、先輩!」
 サダノブが慌てて退却しないかと、そう言った。
「誰がこんなところで引き下がる馬鹿がいるんだよ!……だから、此処を確かめないと話にならないんじゃないか。何処にいようが探偵だぞ?真実は近ければ近い程、危険を時に伴う物だ」
 と、黒影は意地でも其処を調べる事を止めそうにない。
『十方位鳳連斬……解陣!』
 創世神が、もう鳳凰の力すら使えない黒影に変わり、鳳凰陣を唱えた。
『サダノブ、黒影を信じろ!黒影が調べている間、我々で時間を稼ぐぞ!』
 創世神はサダノブに叫ぶ。
 サダノブは鳳凰陣中央の鳳凰図に入り、一斉に飛び掛かって来る「ゴースト」の漆黒の群れに、氷を放つタイミングを見計らう。
『サダノブ、一気に行けよーー!創世神必殺!「謹賀新年」!発動』
 隣で集中しているのに、創世神が何かとんでもない事を言い出すではないか。
「きっ、きっ、謹賀新年?!……何、其れ?!」
 思わずサダノブが、創世神を見て……見て……しまう。
 ……其の時……サダノブは……見た……!

「何ですかぁあ〜〜!!其のどデカい筆はっ!?」

 思わずそうツッコミたくなったのも無理は無い。
 身長程ある、わっさわっさの毛の、初書きショーでも始めるのか?と言う程の大きな毛筆を抱えているのだ。
『黒影、黒影……。取り敢えず、黒影もあやかっておきなさい』
 と、創世神は呼んで振り向かせる。
 其れを確認するなり、創世神はサダノブと黒影の頭上目掛けて、墨をたっぷりと含ませた大筆を振り、
『滋、養、強、壮ーーーっ!!』
 と、書くでは無いか。
「ちょっと、墨!墨っ!」
 黒影は撥水加工入りのコートだったので、飛んで来た墨をピッピッと指先で弾き飛ばしたが、サダノブの方はモロにくらった様だ。
『元気に成ったー?ねぇ〜?年始限定だからねっ♪』
 と、創世神はご機嫌そうに、満足気に満面の笑みを浮かべる。
「元気ですよ、ええ〜バリバリ元気ですよ。でも、何故がバリバリ元気のついでに、バリバリ怒りが込み上げた気がするんですよ。だぁーかぁーらぁー!何度言わせるんだ、ペット愛護月間でしょーーー!ぅうぉおおーーー!!」
 サダノブが放ったのは、氷の大量の弓。
 創世神は其れを見て、通常に戻った筆をくるんと一回転させ、
「朱雀剣!」
 と、筆を炎の竜巻で出来た、朱雀剣に形を変え、氷の弓の後に一振りして、熱風で加速させた。
 氷はやや溶けたが、刺さる威力は増す。
 あくまでも時間稼ぎ。
 「ゴースト」を市民と見るならば、大怪我はさせられない。
 創世神なりの、「世界」に対する想いが在っての事だろう。

「在った!此処だ!」
『見付かったか!』
 黒影は桜の下の床を一枚剥がした、青と赤のパネルの光の線の前にいた。
 創世神も地上から、中を除く。
 確かに吸収のラインは正常に光ってはいるが、供給ラインの光が途切れ途切れに点滅している。
「……だから、此の桜は吸収ばかりをして狂い咲いていたんですよ」
 黒影が創世神に言った。
「直るんですかぁ〜?」
 サダノブも気になって、黒影を覗く。
「おぃ!お前はまた襲撃が無いか良く見ておけ。……一度システムダウンさせないと駄目だ。僕が感電してしまうよ。今、サダノブも創世神も暴れたから、ある程度中心部のタンクにエネルギーが行った筈だ。セナさん達を一旦其方に避難させてくれないか。彼方迄行けば、予備電源も在るだろう?此処が初めて創っただけあって、旧式で錆びて来ている。小さなラインの部品を削って、太いラインの補強に当てる。数分で済む様に準備をして、出来るだけシステムダウンの時間を短くはする」
 と、黒影はこれから一旦生命エネルギーを止め、補修に入ると言う。

 大事に大事にし過ぎて……
 忘れられた宝物は
 誰の目にも触れる事なく
 ……何時かは脆く崩れてしまうの……

 其れを聞いていたセナは言った。
「皆んな、中央都市部で待っていて。私も……直さなきゃいけない事があるの」
 と。セナは「ゴースト」達の黒い影が、次から次へと消えて行く姿を頬んで見送った。
 一体だけを除いて……。
「行きましょうか……」
 セナは其の一体と手を繋ぎ、黒影の元へと向かった。
「……懐かしい……」
 そう言って、黒影が見ているパネルへと目を向ける。
「……セナさんも……皆さんと避難しなくて良いのですか?」
 黒影はセナの声に、そう言って振り向く。
「眺めていたいの。あの桜を……」
 と、セナは言う。
「……そう……ですか……」
 黒影は気にも留めず、準備を黙々と始める。
 一度此の世界で死んだ者が生きているのならば、此の供給が全く止まったからといって、永遠の死とは無関係だ。
 だが、其処にそれなりの苦痛があるならば、其れは少なからず、本人のけじめの問題で、僕には関係無い。

 そう思って作業を続けてみるものの、何かが気に掛かる。

「――――そうか……。形在る物は何時か無くなる。だからこそ……人は「儚さ」を美しさの中に感じる……」

 たった一体の「ゴースト」が此の世界にいる。
 他の「ゴースト」は名ばかりで、実のところ……此の世界の住人達で在る。

 黒影はシステムを一時ダウンさせ、焦る気持ちを抑え修復して行く。

「セナさん!」
 途中で、サダノブがセナを呼ぶ声がしたが、其れも無視した。
 何かを救う為に、何かが犠牲に成る事が当然だなんて、思っちゃあいないよ。
 其れでも目の前に在る、自分の出来る事を出来るだけ遂行し、生きる事以外に……一人の人間に出来る事は無い。
 其の限られた範囲で、僕等は此の世界で毎日を生きて行くのだと思う。

 ハラハラと花弁散り
 淡く優しき色も既に白く
 其れを見上げる二つの寄り添う影……

 一つは揺ら揺ら春を待って消えて行きました
 きっと其れでも私の中にいるのだと思っています

 後は……貴方がもう一つの夢を叶えるだけでした
 貴方が残した設計図を見よう見真似で創ってみても
 貴方には成ってくれません

 私はあれから決めていました
 此の桜が散る時は
 貴方と見た夢から目覚める日
 此の世界は救い様も無い世界です
 そして……救い様も無い……私です
 貴方だけは……何時か馬鹿な事をと……嗤って下さい

 今度は貴方と本当の理想郷を創れますか?
 こんな失敗作の世界でも……
 貴方と見た欠片が生きていた
 此の世界に包まれ眠れるのならば……

 黒影はパネルを閉じ、青と赤の光が一斉に流れて行くのを見たと同時に、指笛を吹いた。
 転がる様に地上に上がれば、鳳凰の鳳(※ほう。鳳凰の雄の総称)が肩に乗る。
「鳳、翼にっ!」
 黒影は鳳に、直ぐ様翼に化わる様に言った。
 横たわるセナの姿へ一目散に駆け寄ると、弱った命の灯火が消え掛かっている様に見えた。
「……駄目だ!此れからなんだ、此れからなんだぞ、此の世界は!夢を見たんじゃないのかっ!救われたかったんじゃないのかっ!諦めるな!……諦めるのは今では無い!」

 ……此の桜が散ったら……私……貴方の下へ……参ります。

 優しい微笑みで、何からも奪わず……息、耐え様とするセナの姿が在った。
 黒影は出来るだけ鳳凰の強い生命力を吸わせ様と、セナを抱え上空に舞い上がった。

 誰からも奪う事無く生きていられたら……

 そんな小さな願いを……馬鹿らしいと、誰かが笑う夢を見てみたいと思ったからだ。
 夢物語……綺麗事……。

「黒影紳士の世界」さえ無事ならば、其れで構わないじゃないか……。
 そう吐き捨てられたら良いのに。
 そうは出来無いのは、誰もがそう思ってしまったならば、争いは終わらないと、気付いているからだ。

 一向に黒影の生命力さえ吸おうとしてくれない。
 死んでもなお……死を望む。
 世界の為に……。

『黒影……。其処できっと君は分からなくなると思っていた。だから、構築する為に僕が来たんだよ。其の儘……生命力を与えておいてくれ。……僕がセナの心に書き込もう』
 と、創世神は黒い翼で黒影の前へ飛び、セナを観察し乍ら言った。
「然し……」
 黒影は不安そうな顔で言った。
 ……セナは既に……生きる事を望んではいない。
 望まない事を叶える事に等、意味は無いのではないかとすら思えたからだ。
『……願いと変わらん。……望みとは。時に見えず、時に……己でも見失う……。見失っただけでは、消えたのではないと思わぬか?』
 と、創世神は黒影に問うのだ。
「……それは……そう言う理屈には成りますけど……」
 そう黒影が困惑しつつも答えると、創世神は微笑み、
『否定出来ないのだな?黒影でも。此れはなぁ〜黒影の仕事では無く、僕の仕事でな。大事な事を忘れているよ、黒影。……此処にはもう一人、世界を創る……然も、達人がいるだろう?』
「……あっ……」
 黒影はマジマジと目の前の……「創世神」を見詰めて言った。
「せんぱぁ〜〜い!こっち、また湧いてきましたよ!」
 地上ではサダノブが何故かまた「ゴースト」共と一悶着して、暴れているではないか。
「何でしょうね……今度は?」
 黒影は呑気に創世神に聞いた。
『創造者を奪われたと思っているのだろう?彼等からすれば、唯一の壊れた世界を直す希望なのだから。まぁ、実際に直したのは黒影だがな。……さて、僕は希望を見付けた』
 と、創世神は何故か横の空を眺めるではないか。
 黒影が其の視線の先に見た物は……

「ラピュ……」
「あぶなぁあーーーーい!!」
 黒影が天空に浮かぶ長閑な小さな世界を見付けた時、何かを言おうと思ったが、サダノブが叫び乍ら吹っ飛ばされて来た。
「何で?!」
 黒影は突如隣に出現した、天空の世界に驚いて創世神に聞いた。
『僕の他にも……世界を創造出来る者がいる。僕が産んだ「Winter伯爵の忘れ物の世界」にいる「漣(れん)」だよ。正月からマイペースで遅れたお陰で、漣の年末年始の連載が丁度終わってね。先程、一筆書いておいた。全て自動生産で其のエネルギーを他の世界に流し込める世界を書いて欲しいと』

 ――――――

「漣……見掛けないクリスマスカードが私の元に届いてな」
 と、Winter伯爵は漣の前に葉書を差し出した。
「伯爵……。此れはクリスマスカードじゃなくて、年賀状ですよ。日本の正月のご挨拶状です。……ん?でも……」
 年賀状にしては少し遅いなと、漣は差出人欄を見る。
「ああ、此の人なら万年、日にち感覚皆無でしたね」
 と、漣は「創世神」の名前を見て、納得して笑った。
「……で、何と書いてあるんだ?」
 伯爵は見慣れない年賀状に興味深々である。……が、
「あの人らしいと言うか……。年賀状の余りで、執筆依頼ですよ」
 と、漣は苦虫を噛み潰した様な顔をした。
「成る程……。中々に想像力のいる良いお題じゃないか」
 と、其れを読んだ伯爵は乗る気満々の様だ。

「伯爵〜〜見えますか?」
 上空の風に原稿用紙をバサバサと鳴らし、漣が伯爵に聞く。
 伯爵は如何せまた厄介事に巻き込まれているのだろうと、漣と風柳邸を先に訪れていたのである。
 やはり其れは正解で、隣に世界の大地だけ創り、様子を伺っていたと言う事だ。
 黒影達がいる世界が本当は供給する大地であると気付き、エネルギーの生産と分配を考えているところだ。
「植物からも生命力は受ける事が可能……。ただ、彼方の世界の人々には既にエネルギーが足りていないとするなら、土台を創って後を任せるのも難しい……か。水耕栽培の自動化、畑の自動化であれば既に成功している。食糧は其の儘生命エネルギーに変え、残りは燃料エネルギーにして……、振動エネルギーを機械が動く度に、更に埋める様にしておきましょうか。上空なので、水力と風力でも十分だ。此れで二酸化炭素量も最小限で済む。ただ、管理者は必要ですよね?」
 と、漣は其処で筆を止めた。
「あの……「ゴースト」とか黒影が呼んでいる住人達で出来るか如何か……」
 と、伯爵が望遠鏡で黒影達のいる世界を覗き込んでいた時だ。
「はっ、伯爵!後ろっ!」
 と、漣が驚いて転がる。
「んっ?……ああ、どうも。あのねぇ……貴方に丁度伺いたい事が有りまして……」
 と、伯爵は突然現れた黒影でもない、真っ黒な影に平然と話し掛けるではないか。
「漣、管理者さん……ちゃんといたよ」
 伯爵が紹介すると、其の影は深々と漣に一礼する。
 漣は筆を貸し、其の責任者に書いて貰ったが、殆ど図で珍紛漢紛である。
 其れでも伯爵には理解出来たのか……
「良し!責了とする!」
 と「責了」のサインがされた。
 寒空高く、原稿用紙が投げられる。
 地味ではあるが、世界の誕生を祝福する紙吹雪である。
 美しく長い硝子の赤と青の光が交差する橋が、桜の横迄出現した。

 ――――――――
『黒影……セナを此方へ』
 創世神は其の橋が架かるのを見届け、黒影にセナを渡す様、両手を差し出した。
 黒影から消え掛けの命を譲り受け、創世神は静かに地に降り、橋を渡って行く。
『孤独では世界は創れない……。新しい創造も出来ない。だから諦めたのだろう?桜は散るが、また咲く日を想い、暫しの別れに儚さを想う。人はどんな世界にいても、幸せを追求する。セナが間違いでは無いと言うのならば、正しい世界の在り方なのだと、僕も思います。
 世界の価値は誰かが決める物ではない。其処に生きた人が決める事だ。
 だから僕は君を残念にも、薄情な事に……夢が叶おうが希望を捨て様が、黒影みたいに鳳凰ではないから、関係ない。けれど……世界を創ったのならば、最後にやらなくてはならない事が在る。創世神としての、務めだ。君は其れを忘れていたんだよ。……だから、世界が壊れてしまった。行こう……未だ世界創りは始まってもいない……』
 其の言葉にレナは僅かに瞼を開いた。
 もう終わった……そう思っていたものが、貴方との思い出すら始まっていないとは……一体。
 創世神の歩く両腕の中から、自分が創った世界を外から眺めた。
 カツカツと静かな足音に揺られて、蕾に成ってしまった桜が見える。
『桜も未だこれからだと笑っている。此処からは自分で歩きなさい。……生きる為に……歩きなさい。最後に、これだけは覚えていて欲しい。
 世界と言う物は…仕上げには必ず抱き締めてやる物だ。…誰もが願いを抱き眠れる様にね…』
 そう言って、ゆっくりセナを下ろした。

 ……温かい人の優しさから……また世界へ舞い降りる。

 見知らぬ橋の真ん中。
 戻る事も、先行く事も出来る。
 足元からは生命力が溢れ、あの冷たいだけだった光が、今は温かく輝いて見えた。

 世界を抱き締める事が、どんな事だかは分からない。
 けれど、此の私が創った世界さえも統べる創世神の腕は、温かかった。
 此の人にとって、一つも総ても変わらない……そんな気がする。

「あっ……!」
 消えたと思ったのにっ!

 私は貴方の影を見て走り出した。
 他の何も目に入らない。
 貴方は此の世界の住人にすら成れなかった。
 だって……とっくに、死んでいたのだから。
 此れが夢で、私は地獄に落ちても何も後悔等しない。
 貴方の影だけが、ずっと私の希望でした。
 幽霊だと分かっていても……

 だから私は……
 此の世界を……
 貴方が見えた世界を直したくは無かった。

 沢山の犠牲を前に、私は独裁者と何ら変わりない。
 そんな事だけで、此の世界の構築を諦めた。

 ……最後の仕上げに……世界は抱き締めてやる物だ。

『やっと……私……世界に成れました……』

 ――――――

 狂い咲いた桜散り、落ち着きを取り戻した世界が在る。
 其の世界には、色を取り戻した人々と、橋を隔てて二人の管理者がいるのだと言う。
 其の世界の名は「ゴースト」
 恐れられる訳でも無く、人々が親しみを込めてそう呼んだ。

 人々が住まう世界は「セナ」と呼ばれ、橋を隔てたセナのエネルギー源とされる「shadow」と言う世界と繋がっている。

『黒影紳士の世界』から遠い其の移動世界は、時々夜に通過すると、『Spica』と見間違えられた。

 ――――――

「ちょっと……降りる時はーー!ぎゃああーーーっ!黒影、サダノブ!何とかしなさーーーい!」

 狛犬に成ったサダノブを抱え、黒影紳士の世界に舞い降り様としていた頃……色気も素っ気も相変わらず無い創世神が絶叫を上げた。
 黒影は……ん?と、一瞬考え翼を止めたが、何事か気付いて帽子の鍔先を抑え、大笑いをするではないか。
「ぁはは……だから、気取った格好をしても、似合いやしないんだよ。何時もみたいに、突っ込めば?」
 と、創世神を小馬鹿にするではないか。
「ぅおのれ!黒影ぇえーーーー!」
 創世神は頭に血が登り、本当に頭から黒影に突っ込む勢いだ。
「やばっ、今年もやばいぞ!行くぞ、サダノブ!」
 鬼の形相の創世神を尻目に、今日も無邪気に笑い飛び交う黒影なのであった。
 ――――――
 重なる角度は幕と成りて
 空向かう風 現す旗にけり

 散るも散るまい華ならば
 未だ蕾でも善かれと
 笑い揺れる

 炬燵の上に花弁三昧
 此れ如何に

『黒影紳士 ZERO 03:00」ー八重幕ー』は、一先ず此処でおわり。シリーズなので未だ未だ続きまーす♪

  ――――――🎍2005 年🎍🐍
 てん、てててててててん……てん、てててててててぇ〜ぴりゃあ〜〜……

 読者様、本編では明けましておめでとうございます⛩️
 早、黒影紳士も今年で……ん〜数えきれない!
 こうやって本編でお会い出来るのが、何よりの楽しみで御座います。
 読者様と迎える何回目の春でしょうか。
 また四季折々……美しい季節を、読者様と散策出来ればと思っております。
 昨年から引き続きまして、大きな節目の作業に入っております。中々次から次へと新作が出せず、寂しい思いをさせているかも知れませんが、こうやって時々恋しく、本編に戻り、また走れるだけの準備中へと、繰り返して行くと思います。
 日進月歩🌕……着実に✨
 また書いて書いて書いて行ける為の準備ですので、楽しみに待っていて下さいましたら幸いに思います。

 皆様にとって、良い一年に成ります様、心よりお祈り申し上げます。

 黒影紳士一同

🌟本年も変わらぬご愛顧をどうぞ宜しくお願い致します🌟

マイペースで申し訳御座いません🎩🌹


この度もご高読頂き、誠に有難う御座います^ ^
著者が元気になるので、感想コメントやスキ🖤を押して応援して下さると、嬉しいです♪


🔶次の黒影紳士ZERO 04:00を読む
※更新しましたら、こちらにリンク🔗を追加致します。
更新予定は気まぐれですので、気長にお待ち頂けると幸いです。

🔶第一章(頁下に目次ありに戻る)🔽

🔶後読み連鎖発動!!↓↓🔶この章では同著者別書のマガジン「黒影紳士の世界」の、「Winter伯爵の忘れ物」より、Winter伯爵と漣が登場します。
黒影紳士の世界観をもっと楽しみたい方は、この章の前後にお読みいただくとより一層お楽しみ頂ける仕様となっております。
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泪澄  黒烏
お賽銭箱と言う名の実は骸骨の手が出てくるびっくり箱。 著者の執筆の酒代か当てになる。若しくは珈琲代。 なんてなぁ〜要らないよ。大事なお金なんだ。自分の為に投資しなね。 今を良くする為、未来を良くする為に…てな。 如何してもなら、薔薇買って写メって皆で癒されるかな。