創作大賞対象非対象かも知れん話し by黒影紳士 subtitle「見えない現実」三頁※title画に訂正が御座います。第四頁にて答え合わせして下さい(大体予想付きましたね^ ^)
「そっち下がっているじゃないか!ちゃんと持てよ」
眉間に皺を寄せて黒影が言う。
口は悪いし我儘なのだが……結局、目の前の童顔美人には文句一つサダノブは言い返せない。
やっと二人でご遺体を床から引っぺがしズルズルとステージの真ん中に真っ直ぐに置きなおした。
そっと瞼を閉じさせると、二人は黙禱する。
黒影は目を見開くと、身元確認出来る物が無いか探す。
上着からは特定出来る物は出ず、
「何も無いな。こんな暑い日だと言うのに、ハンドタオル一枚無い。荷物の方か……。
取り敢えず、風柳さんに荷物を見て貰う迄は、被害者”X”と言う事にしよう」
黒影はそう提案する。
「そうですね。何時も思っていましたが、特定出来る迄”此奴””其奴”は、やっぱり仏さんに失礼ですし……」
やっと黒影にも仏の心が分かったかと安堵し、サダノブも納得する。
「ん?」
黒影が被害者”X”のズボンのポケットから、何やらぐしゃぐしゃにされた紙を見付けた様だ。
「如何しました?」
その紙を広げるなり、黒影は顔を隠し……サダノブからはよっぽど気になる点があるのか、凝視しているかの様に窺えた。
「サダノブ……。まさか、まさか……。こんな事が起きてしまうとは……」
黒影は真面目な少し低い声でそう言うと、あまりのショックで両手で握る紙を微かに震わせた。
「何ですか、一体!?」
あ、の、黒影さえ驚愕する事実があるとは、サダノブは何か既に危険に巻き込まれているのではないかと、咄嗟に立ち上がる。
黒影は其の儘で、身動き一つしない。
……既に犯人がっ!?
サダノブは黒影は何らかの能力で既に動けないだけではないかと、冷風を巻き上げ殺気を放った。
其の直後、やっと黒影が其の紙切れをご遺体の腹の上に乗せ、
「見てみろっ!此れをっ!」
と、言い放つのだ。
「えっ?此れは……まさか……」
サダノブは黒影の顔をきょっとんとした目で見た。
黒影の顔が……真面目な顔付きから徐々に崩れ、ニターッとした何とも表現し難いが、小悪魔の様な笑みを見せるではないか。
「思っちゃった?」
黒影がサダノブに確認する。
サダノブは首を大袈裟に横に降ると、
「駄目です!もうギリギリどころの話じゃないです!駄目ったら駄目っ!」
と、何故か黒影を必死で止めようとしている。
だって……サダノブの目の前には……。
ほら、来るぞ!一千文字終わるぞ!
備考欄に”脳の再検及び、術式説明”と赤いボールペンで書かれた……
「此れぞ、検診結果っ!こんな奇遇はまたと無いっ!此処で言わずして何時言えるんだっ!」
「駄目~~~~っ!!」
止めるサダノブではあったが其の甲斐虚しくも、
「被害者”X”の検診♪」
と、無邪気な笑顔で言われてしまった。
「あ~あ。知りませんよ、俺。事件と関係無いのに、ただ言いたかったじゃ済まされませんからね」
サダノブは黒影に呆れて言う。
「そうだよな。二千文字にして態々持って来た……
と言う事は、此の検診結果が重要だと今回は言いたいんだ(By著者の考えを先読みするのは止めて下さい)」
「此奴、重いなぁ~」
黒影はもう言えたからスッキリしたのか、またご遺体を”此奴”呼ばわりである。
「良くも悪くも先輩ですね~」
サダノブは黒影とご遺体をひっくり返して言った。
「五月蠅いな。僕は、好きでご遺体と戯れているわけじゃあないんだ。事件が分かれば文句無いだろう?……あれ?」
「あれ?……今度は何ですかぁ~?何、また紙を拾って。もう今度は言わせませんからねっ!」
と、二度もその手はさせるかとサダノブは黒影に言ったのだが……。
「違う。バンドの曲の順番が書かれたセットリストだ。
然も、此の黒影紳士のみ番外編で短編だった筈。
さっきの検診結果も此方のセットリストも無意味な筈が無い。
サダノブは何故あんなにも第一頁で寒がる必要があったんだ?
僕は前半に宣言迄した。”一行たりとも無駄にはしない”と。
そして読者様も気付いている。一千文字ずつに何か起こる法則性が出来上がっている……」
黒影は其の時、ある事に気付きニヒルな笑みを浮かべた。
「風柳さんに連絡だ!今から控室のスタッフも全員いるだけ集めろ!今何時だ?」
黒影は一言目で、慌ててサダノブの事ならスマホを出すと想定し更に聞く。
「えっ?何だかんだともう20時近いですね。日が長いから、呼び出された時は未だ昼間かと思っていましたよ」
と、サダノブは真夏の時差に騙された様だ。
「ライブハウスのオープンが大体、17時から18時だ。
僕も最初の連絡を風柳さんから受けた時は、リビングの新しい花でもと買いに行ったのだよ。
そうしたら閉店ギリギリでねぇ」
黒影はそんな世間話を始め出す。
「先輩……マイペースなのは知っていますけど、懐中時計見れば良いじゃないですか。
其れで?急ぐんですか?急がないと二千文字ですよ?」
と、サダノブが言う。
「此の千文字にして一つの公式を今から突破する。其れが目的なんだ。
此の千文字が何かは物語進行を早める為にある訳ではない。
答えは後の楽しみだ。
さぁ……サダノブ、此れから僕等は此の要らん記録的な猛暑を冷え冷えにしなくてはならないんだ。
もうこんな時間だっ!8時(20時)だよ、全員……いらっしゃ~い!」
「えっ?今……最後に色々混ぜませんでした?
其れが言いたくて世間話をしたんじゃ……」
「何の事だろうな」
と、其れだけ黒影は答えると、後ろを向いて腕を組んでから片手で顔だけを覆った。
「鑑識はさっき管轄内で大きな玉突き事故があったから、後は黒影で十分だろうと早々に帰ったよ」
と、風柳が話す。
夏休みらしいとは思うが、黒影は此処ぞとばかりに依頼料は据え置きで出来ないが、調査費用を嵩増ししようと画策をしている。
ライブハウスなだけあって、髪の毛の染色も様々な奇抜な面々が揃った。
「先程時間の話を無駄にしていた訳ではない。
真実が知りたくなってね。
被害者の裏にセットリストが挟まっていたのは手に持っていたからだと思われる。
良くある推理物では、先に落ちてだの言うが僕は違う。
吹っ飛ばされれば紙が先に落ちる事は可能だ!……ドラマなら無い。
だが、能力者犯罪に長けた”夢探偵社”がお呼ばれする様な事件ならば、普通だ。
此のご遺体を見るからに打撲痕は一箇所。
だが、其れが死に至らしめた物では無い。
他の外傷が見当たらないならば……此の被害者の背面が凍る程の水と冷却は何か……」
黒影は風柳を見て微笑んだ。
「片翼の……だと?」
風柳は思わず相手が悪いと気付き言葉を濁らせた。
片翼を奪い合い生きる、能力者の中でも戦闘能力に秀でた種族の仕業だと知ったからだ。
「問題はですよ。
其の強さよりも、僕からしたら事件の方です。
サダノブが到着直後から、何度か寒いだのと五月蠅かったが、其れは死亡推定時刻を勿論、遅らせる為……。
そう、思いたい気持ちは分からなくもない。
でも、其れでは捻りも無い。
もっと捻りの無い単純な事実こそ、人は見落とす。さて……此の台詞は、事前に言えば言う程格好が付くと聞いた……」
其の妙な最後の話を聞いたサダノブと風柳が、慌てて黒影を止めようと二人で手を伸ばしたが、其の手は呆気無く、軽い払いで退けられ、
「犯人は此の中にいるっ!」
と、言われてしまうのだった。
黒影は、何時か言いたくて仕方なかったのだろう。
してやったりと満足そうに微笑み、意気揚々とステージを滑空したかと思いきや、三千文字を切り進み……客席中央へと鳳凰の翼を真っ赤に輝かせて着地した。
此の一見ただのパフォーマンスさえ、後で意味を成すから「黒影紳士」なのである。
「本当か!?誰なんだ!」
風柳は早々に手強いであろう犯人を捕まえるべく、そう言ったのだが黒影は、
「……時間について……僕がさっき話したんですよ、サダノブと。
先に死亡推定時刻については、確かに正確な時刻より遅れたとは言っておきます。
……そんな事は如何でも良いのです。
司法解剖すれば良いのだから」
と、言うのだ。
「黒影、良い加減にしなさい。
仏さんの前で”そんな事は"如何でも良い”なんて」
風柳が注意するも、黒影は聞いてか聞かまいか、
「そんな事ですよ。
殺された方からすれば死亡推定時刻よりも犯人を何とかして欲しいでしょう?
……其れよりも大事なのは、サダノブが寒いと五月蠅かった事。
そしてご遺体が敷いていたセットリストの方です。誰かが調整してくれたのか、寒さも収まって来ました。
冷房を極限まで入れたのは、天井のあれをカモフラージュしたかっただけです。
サダノブ……お前も此方に来て良く見ると良い」
そう言って黒影をサダノブに手招きすると、上を指差し見せた。
「ああ……あれ、凍っているんですか?」
サダノブが見上げると天井には、一見ライブハウスの埃かと思われたが光に輝く、水蒸気で出来た小さなスターダストが確認出来た。
黒影の指さす先には、白銀の小さなスプリンクラーが在り、他にも何箇所か天井に点在しているのが分かる。
「被害者が凍らせたって事ですか?」
サダノブは上を見るのを止めて、黒影に聞いた。
黒影は先程風柳に注意されたばかりだったが、これでも何かを気にしているのだと伝えたい様なのだ。
サダノブには適当な返事でも返す黒影が、黙って頷いただけだったからだ。
サダノブには分かる。
何かを考え乍ら会話をしていたのだと。
考えられる事はただ一つ。
今いる中から、犯人を炙り出すつもりだ。
最初の”犯人は此の中にいる!”発言は、犯人が分かったから言ったのでは無い。
此の中にいるのは確かだけれど、未だ幾つか確認しなければ犯人が分からないと言う事だ。
サダノブは早く言えば良いと言う物では無いと思い、溜め息を吐いた。
「何だ?溜め息なんぞ、偉そうに……」
と、黒影が言うものだからサダノブは、
「何時も考え無しだからじゃないですか」
なんて、嫌みの一つでも言ってやったのだ。
けれど、黒影ときたら怒るでも無く、逆に見下した様に顎をクイッと上げて鼻で嘲笑い、
「何とでも吠えてろ。犯人の能力すら未だ分からん癖に。
僕は今迄腐る程ヒントを与えた。
四千文字に入ったが、此処で最低限、残り六千文字が此の賞の応募に必要だと、更なる先読みヒントも差し上げよう。
因みに、一日で五千文字仕上げだ。
ミステリーの考える葦を駆使し考えよ」
「はい?今、”考えよ”って……後半、誰に言いました?」
サダノブがきょろきょろと馬鹿みたいに周りを気にして言うのだ。
「読者様にだよ」
と、黒影は答えて笑った。
僕が謎を解くよりも、誰かが謎を問いた瞬間の、清々しい笑顔が好きだ。
まるで……謎々の小さなキーホルダー型の本だけで笑えた。
……そんな幼い頃の……一夏のセピア色の想い出。
「では、此れから皆さんにお伺いしますか」
ふとそんな懐かしい景色を脳裏から追い出したのは、此れから話す事柄が、そんな夢の様な謎では無く、人殺しにより出来上がってしまった謎だと言う事を、己にも律したからだ。
「……厳しい夏だ……今年も」
黒影は此れから話をする筈なのに、人を集めるでも無く……事もあろうか鳳凰の翼をバサッと大きく広げた。
サダノブは気にせず横にいるものの、他の面々は自然に端へと避ける。
風柳には其の理由が分からなくは無い。
犯人が能力者だとすれば、出来るだけ距離を取りたく無いのも、当然だろうと。
此処で黒影は先程、曖昧になってしまった質問を再度確認する。
「エアコンの温度……上げて貰って助かりましたよ。
僕はロングコートを年がら年中変わらず着ているから構わないのですが、連れが寒いのは苦手でね。
お礼が言いたいのですが、何方様ですか?」
と、黒影は面々に聞く。
サダノブは謙遜した照れ笑いで髪の毛を搔いている。
其処にいた面々が改めて、警察関係者(でもないのだが)に話を聞かれるとなると不安を顔に滲ませたが、其の二人の遣り取りに安堵して行く。
「先程、必要な大方の事は聞かれた筈ですから、僕からは補足程度に伺うだけです。ご安心下さい」
と、黒影は言うのだ。
内心犯人を洗い出す気でいるのに。
「先輩!笑顔がフリーズしてますって!」
サダノブは黒影のコートのケープの先を引っ張り小声で言った。
こんなところでも何時もの凍った営業スマイルとは、どれだけ噓が下手なんだと苦笑うしかない。
「其れは……」
……此処で犯人が名乗り出る?
そんな冗談はよしておくれよ。
短編で幾ら簡単だと言っても「黒影紳士」が其処迄素直な訳が無い。
何の為の残り最低文字換算だったか……。
ほら、五千文字だよ。
次の五千文字に、見える物もあるんだろうな。
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お賽銭箱と言う名の実は骸骨の手が出てくるびっくり箱。 著者の執筆の酒代か当てになる。若しくは珈琲代。 なんてなぁ〜要らないよ。大事なお金なんだ。自分の為に投資しなね。 今を良くする為、未来を良くする為に…てな。 如何してもなら、薔薇買って写メって皆で癒されるかな。