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〈セミナーレポート〉第3回大豆生田先生と考える「こどもの道具」としてのICT

スマートエデュケーション大澤です。
2023年8月31日(木)開催した「大豆生田先生と考える『子どもの道具』としてのICT」セミナーのレポートをお届けします!

今回は、子どもの遊びにICTを取り入れて6年になる園さんの事例導入したばかりの園さんの取り組み、そして養成校の授業での実践報告など内容盛りだくさん。
当日参加された方のアンケートでも「勉強になりました!」「先生同士で語り合いたいです!」など、たくさんのご感想をいただいております。

詳細は、ぜひ動画をご覧ください!


KitSプロジェクトの趣旨説明(2分45秒〜)

最初にスマートエデュケーション代表の池谷から本プロジェクトの趣旨をお話しいたしました。
今の子どもたちは、日常的にスマートフォンやタブレットに触れていますが、そのほとんどはYouTubeやゲームという比較的受動的な体験に留まっています。
「ICTは未来を切り拓く道具」だということを保育に携わる皆さんに知っていただきたい、というのがこのプロジェクトの趣旨です。

子どもの遊び・学びの道具としてICTを導入するに当たっては、まず屋外・屋内の保育環境が豊かであることがとても重要です。
今回の発表事例からも、普段の保育環境の重要性を感じていただけるのではないかと思います。

イントロダクション 大豆生田先生(6分45秒〜)

続いて、大豆生田先生の「保育におけるICT」を考えるうえでのポイントについてお話しいただきました。

子ども時代には身体を使って五感で感じながら遊ぶことがとても大切だ」と大豆生田先生。「だからといって、ICTを排除すべきかというと決してそうではない」と語ります。

子どもたちにとってICTは当たり前の存在になっていますが、ゲームをしたり、動画を見るだけだったり、ICTの良さを活用しきれていない場面も多々あります。
ICTを使うことで身体を使い、五感を通した経験がさらに豊かになっていく。そんな使い方をすることに『道具』としての意義がある」とお話しされました。

ここからは、園での子どもたちの遊びにICTを活用されている2園の先生に実践事例をご紹介いただきました。

事例紹介①福井県 めぐみこども園 (8分50秒〜)

福井県福井市のめぐみこども園さんは、「豊かな体験を目指した自然体験活動や木育活動」「『ホンモノ』に触れる豊かな体験」「対話すること」を大切に、日々、子どもの声を丁寧に拾いあげる保育を実践されています。

今回の事例発表では、
・大人が使う道具から子どもが使う道具へと変化したICT
・子どもの遊びにICTを取り入れるなかで生まれた課題
・めぐみこども園さんが考える豊かな保育環境と子どもの姿からの保育サイクル

をベースに、子どもたちがICTを活用する中で出会った面白いエピソードについてお話ししてくださいました。

①  『じっくり見ることで遊びが広がる事例 〜自然物を使った遊び・色水遊び・感触遊びへのつながり〜』

ひなまつりの時期、カルタや制作遊びなどができる「ひなまつりコーナー」に遊びに来た S くん。廃材を集めて雛人形を作ろうとしていたのですが、作り方がわからず困っていました。
そこで、先生と一緒に飾っていた雛人形を見にいくことに。まずは自分の目でじっくり見て、電子顕微鏡で着物の模様をじっくり見て……。すると、電子顕微鏡で見たきれいな模様を使って雛人形を作りたい!とイメージが湧いてきたそうです。
電子顕微鏡の画像を印刷した紙を使って雛人形作りを楽しむSくん。その遊びは他のお友達にも広がっていきました。

雛人形づくりを通して「じっくり見る」ことの面白さを知った子どもたち。遊びは自然物を使った押し花や色水遊び・染め物遊びで色を楽しむ遊びにつながり、さらにそこから小麦粉粘土遊びやパン作りにまで展開していきました。

先生が子どもたちの言葉を拾って環境を用意することで、子ども主体の遊びが深まり、広がっていく様子は見事!というしかありません。
遊びが広がる面白さ、ぜひ動画でご覧ください!

② 『エイサーの踊りを通した、沖縄のお友達とのつながり』

昨年の夏、ダンスが好きな4歳児の子どもたちから「色々な地域の踊りを踊ってみたい」という声があり、そこから踊りの輪が広がっていきました。
子どもたちと先生が一緒になって、さまざまな地域や文化について調べたり、踊ったりして遊ぶなかで、特に沖縄県のエイサーを気に入る子どもたちが多かったそうです。

エイサーブームは新年度になっても続き、子どもたちのなかで、自分たちだけで楽しむだけではなく「いろいろな地域のお友達と一緒に踊ってみたい」という思いが生まれてきました。そこで先生は沖縄の園さんとオンラインで交流できないかと考えたそうです。

セミナーの中ではお話しされなかったのですが、実は「沖縄の園とオンライン交流できないか」と先生が考えたのは、子どもたちと先生との素敵なコミュニケーションがきっかけでした。
このエピソードについて、セミナー後に主幹教諭の小嶋先生からいただいたメールを一部編集してご紹介します。

エイサーの踊りに興味関心が深まった子どもたちから「沖縄のお友達と一緒におどりたい」との声が聞かれたので、「どうやって一緒に踊る?」と問いかけてみました。
子どもたちから「めぐみこども園に遊びにきて欲しい」「沖縄にも行ってみたい」との声があったので、「沖縄って遠いんだよー」という話をしました。「どれくらい遠いの?」と子どもたち。そこから地図で福井や沖縄の場所について調べたり、行く手段(飛行機や、船など)を調べたりしてみました。
飛行機で行けることを知った子どもたちですが、「どれくらい時間かかるの?」と疑問がたくさんでてきて、「3時間くらい飛行機に乗ると着くみたいだよ」と保育者が答えると、今度は「3時間ってどれくらい?」と時間を知るきっかけにもなりました。
いろいろな話し合いのなかで沖縄がとても遠いことを知った子どもたち。「じゃあ、電話してみようか?」「でも電話だと顔見れないし、一緒に踊るの難しいよー」という話から、Aちゃんが「テレビ電話ならおばあちゃんと顔見て話したことあるよ!」と、提案してくれました。一緒にテレビ電話をしてくれるお友達がいたら、一緒にエイサー踊りたいね!と話が盛り上がって、オンライン交流にいたりました。

沖縄の園さんもオンライン交流を快く受け入れてくれ、交流する日を楽しみにしながら、子どもたちは沖縄や福井のことについてたくさん調べたり、質問を用意したりしたそうです。
そんな子どもたちの様子や交流当日の様子、さらに交流後に沖縄の食や自然に興味が広がっていった様子は、ぜひ動画をご覧ください。

今は、2回目の交流に向けてお手紙を作成中。今後の交流の様子も、とても楽しみです。

最後に小嶋先生は「ワクワク・ドキドキする子どもの姿を追いながら、ICT がいつも身近にあるばかりではなく、『これでいいのか?』と 振り返り、逆側を問う視点を持ちながら使っていきたい」と締めくくられました。

大豆生田先生講評 (28分10秒〜)

めぐみこども園さんの事例に対し、大豆生田先生から講評をいただきました。

  • 「大人が使う道具から子どもも使う道具へ」というテーマについて。大人がICTに親しんでいないと、子どもが使う際に何を大切にすべきかがわからないのではないか。まずは大人が親しむことが大切。

  • 保育のなかで遊びの記録は大人がとるものという感覚が強かったと思うが、デジタル・アナログ関係なく、子どもたちが自分のことを自分で記録して味わうことの大切さを感じた。

  • 電子顕微鏡について。肉眼で見えないものを見ることで、子どもたちの興味が高まることはもちろん、イマジネーションやクリエイティビティが広がっていく。ただし早いタイミングで使ってしまうと、イマジネーションの機会を奪うリスクがあることも注意したい。

  • アナログとデジタルが行き来することの意義がとてもよく見える事例だった。ICTが身体を使った経験を豊かにしている。ICTが透明になっている、つまり特別なものでなくなっていることがとても大切。

  • 遠方と繋がることの意義を、今、多くの大人も実感している。ICTのCは「コミュニケーション」。映像だけでつながるのではなく、手紙のやり取りや相手に思いを馳せるようになることも含めて素晴らしい実践だった。

事例紹介② 千葉県 きたかしわ幼稚園(32分30秒〜)

「子ども達が自らやりたい。こうしたい」を基に、「気付き、話す・聞く、考える、相談する、遊ぶ」の活動を大事にしているきたかしわ幼稚園さん。
「子どもたちから自然発生的に出てきた遊びの時間」と「担任の先生が意図して取り入れる遊びや活動の時間」をバランスよく取り入れた保育を実践されています。

きたかしわ幼稚園さんの最大の特徴は「ものづくり」の文化があること。
子どもたちは様々な廃材や素材を自由に使いながら、遊びに必要な物を作ったり、廃材や素材のなかから遊びをみつけたりしています。
園の廊下を見ると、子どもたちが夢中になって遊びを生み出していることがよくわかります。

そんなきたかしわ幼稚園さんがICTを保育に取り入れたのは6年前。
子どもたちの未来を考えたときに、ICTを道具として使いこなす体験が必要ではないかと考え、導入を決めました。
 子どもたちは様々なアプリを通して、iPadの使い方を知っていきました。この使い方というのは、単純にタブレットの使い方だけではなく、どう使うのか、何ができるのかといったことにもつながっていきます。
自分のイメージを表現する道具
として、友だちと一緒に楽しく遊ぶ道具として、自分の知らない新たな世界を知る道具として。ICTを使う経験は、子どもたちが好きな遊びの中で想像力や創造力、探究心を発揮することにつながっているそうです。

今回は、子どもたちが廃材とICTを同じように遊びの素材として取り入れ、それによって遊びが広がっている事例をご紹介いただきました。

① 回転寿司ごっこ
保育室にあるモニターとiPadを使って、自動受付機を再現!でも注文を受け付けるタブレットは段ボールなんです。子どもは道具や素材をとてもフラットに見て、自分のイメージに合うものを選んで使っています

② エアホッケーごっこ
音声収録アプリを使って点数をアナウンス。モニターから聞こえる点数に、子どもたちの気持ちも盛り上がります!

③ 作品展での映画館づくり

きたかしわ幼稚園の近くには2つの大型ショッピングモールがあります。「映画館に行って楽しかった」という子どもの言葉から、映画館ごっこをすることに。
実際に映画館に足を運んで、どんなものがあるかを見てきたり、映画館に行った思い出を振り返ったりしながら、廃材を使った映画館が造られていきました。

「映画館にはクレーンゲームがあった!」と、まずはクレーンゲーム作りから。
子どもならではの発想かもしれません。

イメージを共有したり、作りたいものを調べたりする際にもiPadを活用していたという子どもたち。実際に手を動かし、たくさん話し合いをして、試行錯誤を繰り返しながら、少しずつ映画館が作られていきました。

映画館づくりも佳境に入った頃、「映画館には映画がなきゃ!」という意見が出ました。そこで「アートポン!」というアプリを使って「ドラえもん空の旅」という映画をみんなで作りました。
自分たちで背景の写真を撮り、キャラクターたちは手描きです。子どもたちがイメージする素敵な世界ができあがりました。

最終的には広いホールで映画館を再現!ちょうど作品展も近かったので、この素敵な映画館を作品展でも展示することにしました。

ほし組映画館は作品展が終わった後、遊園地ごっこへと展開していきます!そして、ほし組に憧れた他のクラスでも映画づくりが盛り上がっていきました。
見応えたっぷりの遊びの様子、ぜひ動画でご覧ください!

大豆生田先生講評 (51分05秒〜)

きたかしわ幼稚園さんの事例に対し、大豆生田先生から講評をいただきました。

  • 廃材などの素材を使った「ものづくり」の文化が、園の保育の豊かさの基盤になっている。今まで「ものづくり」は工作であり、アートとは別物だと考えられてきた。しかし本来はSTEAM教育に含まれるもの。何もないところから何をかを生み出していくのは科学であり、創造である。子どもたちが廃材などから豊かに何かを生み出していく姿が素晴らしい。

  • 廃材とICTが普通に混在している。ICTがまさに「透明化」されていることがよくわかる事例であった。ICTがあることで、子どもたちが手応えを感じて次に何かをしようとする意欲が見えてきた。

  • 映画づくりが圧巻。ベースが手描きなのがとてもよい。自分たちの絵や文字がICTで再活用されていく。それによって子どもたちは手応えを感じているはず。

  • イラストベースの映画から発展して、自分たちの声や言葉を入れ込んでいく映画に発展しているのが良かった。遊びがアプリを超えていくかどうか、その先があるかどうかが鍵。アプリを超えている姿が素晴らしかった。

  • ・佐伯胖先生の「学びのドーナツ論」。

人が何かを学んでいくときには、「これ面白い」「大好き」と親しんでいく(You的存在)。そうするともっと違う使い方が生まれてくる。もっと何かできないかと考える(They世界)。
今回の事例では、まさにそんな姿が生まれてきていることを感じた。子ども主体の学び、対話的な学びが実現されている。プロジェクトのあるべき姿を感じた。
アナログとデジタルが行き来しながら、さらに新しいものが生まれてくるような事例だった。

ICTを取り入れてみました (55分28秒〜)

さて、ここまで素晴らしい実践をみてきましたが、ICT環境を用意することはハードルが高いと感じる方も多くいらっしゃるのではないかと思います。
スマートエデュケーションでは、希望する園さんに無償でタブレットを貸し出し、ICTを体験していただく機会を設けています。また養成校の先生方にもアプリの無償提供をおこなっています。

今回は当社のサービスを活用して新たな一歩を踏み出された園さんと養成校の先生に、ICT導入を試してみてどのように感じているのかをお話ししていただきました。

東京都立川市 ふじようちえん 主任 徳野先生
モンテッソーリ教育をおこなっている、ふじようちえんさん。主任の徳野先生は子どもがiPadを使用することには否定的でした。
しかし「実際にいろいろなツールを使ってみると、自分がイメージしていたものとはまったく違う体験で驚きました」と徳野先生。これなら使ってみたい!と思い、遊びの道具として導入してみることを決めたそうです。
デジタルがあるからこそ、アナログの体験や子ども同士の関わりが豊かになっていることを感じている、とお話ししてくださいました。

・千葉県 植草学園短期大学 こども未来学科 遠藤先生
音楽教育がご専門の遠藤先生。2017年の文科省の通達により保育内容の指導法に情報機器の活用を含むことが求められるようになり、何をどうすべきか模索されてたそうです。
そのなかでスマートエデュケーションに出会い、授業にICTツールを取り入れることにしました。保育者を目指す学生が主体的にICTツールを使いこなす姿をみて、音楽教育のあり方、教員としてのあり方に大きな気づきがあったという遠藤先生。

養成校の先生方には大変参考になるお話をいただきましたので、ぜひ動画をご覧ください!

パネルディスカッション (1時間9分36秒〜)

パネルディスカッションでは、本日登壇されためぐみこども園さん、きたかしわ幼稚園さんから大豆生田先生に向けて、ご質問がありました。

・めぐみこども園さん

ICTがいつも身近にあるばかりでなく、保育の中で「ここぞというとき」に使うことや、 子どもがまず見て触れて五感で感じる豊かな体験を大切にしています。
一方で、みんなが集う多目的の場所や廊下の一画に、年齢問わずに自由に、手軽に使えるように(散 歩の帰りや、調べたいとき、みたいものがあるときに)日常的にICTを置いてある空間もあります。 こういった使い分けをするなかで、本当にこの使い方、この環境でいいのだろうかと感じることもあ ります。
大豆生田先生にご助言をいただきたいです。

・きたかしわ幼稚園さん

最近園庭を改修し、子どもが自然と触れられる場を作りました。年少さんも電子顕微鏡で草花を観察 したり、写真を撮ったりすることを気軽に楽しんでいます。ICTを導入して6年になるので、子ども たちはICT機器を特別視することなく、興味を持ったら手に取るという姿がみられるようになりまし た。
ICTをきっかけに知りたい、見てみたいという探究心が増している一方で、観察したり調べたり して満足してしまう様子も見られ、これでいいのかなという気持ちがあります。ICTを使用するうえ で大事にすべき点を教えていただきたいです。

この先、ますますICTが子どもの生活に入り込んでくるのではないかと思います。ICTってこれから どうなっていくのでしょうか。そんな未来に対して、園として対応すべきこと、心がけるべきことは どんなことでしょうか。

大豆生田先生のお答えやその他パネルディスカッションの様子は、ぜひ動画をご覧ください!

未来を生きる子どもたちにとって、ICTは切っても切り離せない存在です。
このセミナーをきっかけに、皆さまの園でも「子どもとICTの出会いをどう作るか」「子どものアナログ体験を豊かにするためのICTの活用法はどうあるべきか」について、ぜひ語り合っていただけたらと思います。

★ アンケートのお願い

本セミナーの録画を見てアンケートにお答えくださった方に、
・これまでのセミナーで発表された保育実践事例と大豆生田先生の講評
・上手にICTを取り入れるポイント

などをまとめた「ICTを活用した保育事例集」(全32ページ)をお送りいたします。園での研修や語り合いに、ぜひご活用ください。

皆さまからのご意見を次回以降のセミナー企画にいかして参りたいと思います。ご意見・ご感想をいただけますと幸いです。

★ 次回予告

次回のICTセミナーのお知らせです!
次回は「自然の中での遊び×ICT 」「オンライン国際交流」などをテーマにお話しする予定です。
日時:11/16(木)16:00〜17:30
登壇園:宮城県 向山こども園 ・ 静岡県 このはな保育園

ぜひお気軽にお申し込みください!

セミナーのお申し込みはこちらのバナーをクリック!!


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