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ロッカーの中で眠る爆弾 0826

※『ラストマイル』のネタバレ感想あります。
未視聴の方は閲覧お控え下さい!




この世界は「不条理」に満ちている

本作を通して、私が一番に感じたことは、この世界は不条理に満ちており、それに対抗する術があまりにも少ないということ。
弱者には、不条理な死に対して死をもって対抗することしか最終的に残されていないといこと。それがあまりにも虚しいということ。

それでも、不条理な死に対して生きることで対抗することを選んだ『アンナチュラル』の三澄ミコトは本作でも建材だった。

「そんな根性なら無いほうがいい」

死んだら全て終わりだ。そんなことは誰もが分かっている。死を選ぶこと全てが不正解だとは私はこれっぽっちも思わない。
けれど、不条理な死に死をもって対抗し報復するのは間違っている。
負けないでほしい。生きることも抗うことも、あんなクソみたいな世界でも上を向いて笑っていてほしい。そうあれるように生きていけたらいい。


上から下へ搾取される

今作は「物流」に焦点を当てて、搾取される者とする者の対比をリアルに描いていた。上に言われたら頷くことしかできないこと、低賃金でまともな休憩を取らず働くことが美徳だと思われて仕方ないこと、ストレスをストレスと認識できずいつの間にか眠ることができなくなって追い詰められる人が当たり前にいること、まるで今の日本をそのまま表していてゾッとした。

名もなき弱い立場の人間が何を言っても変わらない世界。それが今の世だ。
いくらSNSで大きな声を上げたとしても、数日経てばまた真新しい火種に飛び移るのが人間というもので、使われる側は一生使われるしかないのだと諦めてしまうのも仕方がないけれど。

それでも少しの希望を信じて生きている人は、いるのだと信じてならない。

本作の主人公であるエレナは、使う側と使われる側、両方の自分を過ごしてきたからこそ、心に抱える不安定な揺らぎが垣間見えて終始心配になった。それでも彼女は、自分の信念のために動き続けることを諦めなかった。声を上げ、行動で示し、世界を少しだけ変えたのだ。
名もなき弱い立場の人と共に。少しだけ世界を変えた。

エレナ、かっこいいよ、本当に。今度はわたしたちの番だ。


動き続けるベルトコンベア

ブラックフライデーが怖い。
動き続けるベルトコンベアをただ止めたかった。
視界の先で、血に塗れた瞳の奥、再び動くベルトコンベアに彼は一体何を思ったのだろう。
絶望を感じながら遠のく意識の中、何を感じたのだろう。

本当に中村倫也はいい演技をする。
あの表情の些細な変化、追い詰められた人間の覚悟の瞳、揺らいだ視線の先が閉じる瞬間、飛び込むことを迷わないぎゅっと閉じられた唇。
あの表情の変化だけで、山崎佑の覚悟が伝わってくる。それと同時に絶望も。

結局、ロッカーのメッセージは残されたままだし、ベルトコンベアは動き続けるし、今日もまた誰かがポチった商品を届ける配送業者がいるんだ。

ねえ、山崎佑。もし君が目を覚ます日が来たのなら、その世界は君に何をもたらしてくれるんだろうね。


米津玄師はオタクから全幅の信頼を寄せられている

主題歌「がらくた」良すぎて泣きました。
山崎佑と筧まりかのアンサーソングってことでいいですよね。

壊れていても、二度と戻りはしなくても、構わないから傍に居てほしい。
どこかで失くしたものを探しに行こうか、どこにもなくても、どこにもなかったねとまた笑って、上手くできないままで。

そんな日々で良かったんだよ。
それで良かったんだよね。

はあ、しんどすぎる。米津玄師恐ろしい。


ロッカーの中で眠る爆弾

今もそこにある爆弾をどうするかは私たち次第であるのだと、痛感しました。
どうしていくのが正しいのか、どうしたら報われるのか、きっと考え続けることこそ、この映画を観た者に課せられた使命なんだろう。

私はずっと考えようと思う。行動に移せるかは分からないけれど、抗うことだけはやめないでいよう。
精一杯、今の自分を生き続けるよう。

生きることも爆弾を使わないでいい方法の一つだと思う。



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