ポテチって、もしかして。
昨日の帰り、久しぶりにポテトチップスを買った。
僕が一番好きな味は『しあわせバタ~』だった。
『うすしお』や『コンソメ』も捨てがたかったが、『しあわせバタ~』は別格だった。
家に帰って靴を脱ぐのとほぼ同時に、その袋を開けた。
途端に部屋の中が、しあわせの香りで満たされた。
過酷な労働で尽きかけた、僕の『しあわせメ~タ~』が充填されていくのがわかった。
それは自炊という、誰もが認める素晴らしい技術を身につけた今の僕にも、抗いがたい欲求だった。
ポテチのパッケージには『BIG BAG』と表記されていた。
どうやら僕は無意識に、大きなサイズを手にとってしまったらしい。
一枚目を口に運ぶと、優しい甘みが僕をつつみこんだ。
何かしらの脳内物質が分泌されていることは、疑いようがなかった。
人間の味覚に巧妙につけこみ、気づかぬうちに行動原理を支配する。そんな味だった。
たぶんカルビ~が「我々に逆らえば『しあわせバタ~』の供給をとりやめる!」と宣言する日がくれば、僕は力なくひれ伏し、妹くらいなら生贄に捧げる覚悟はできていた。
僕が正気に戻ったのは、袋の半分をたいらげてしまったときだった。
以前の僕なら、その袋はもう空だっただろう。
しかし今の僕は自炊を身につけ、野菜をとり、規則正しい食生活を送っていたので、なんとかそのポテチの支配に抗うことができた。
とはいえ、理性を保ちつつ育むポテチとの関係はそう悪いものじゃないな、と思った。
そして、今日。
食べかけのその袋をみて、頭に浮かんだこと。
『今日も、頑張るか』
僕の『しあわせメ~タ~』が、また充填された。
どれだけ心が擦り切れても、家に帰れば『しあわせバタ~』が待っている。
その事実はもしかしたら、ポテチそのものを頬張っている瞬間よりも、しあわせなことなのかもしれなかった。