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【読書感想文】余命一年、男をかう。/吉川トリコ
もし自分が余命一年でお金がたんまりあったら、どう使うかな。
この話の主人公・唯は倹約家も倹約家で貯めても貯めても節約し続ける独身OL。突然のがん発覚に、治療をすることなく散々貯めた老後資金を使い切る道を選ぶ。
そこで出会うのがコロナ禍でお金の工面に困っていたピンク頭のイケメンホスト・瀬名。
もうそれはお互いに運命の出会いというか、お金と顔面をトレードするような感じ。
ああ、アリだなあと思ってしまった。
私なら治療して少しでも長生きする道を選ぶけど、それは家族がいるからなのかもしれない。
長生きしなくてもいい、と知ったらホッとした、という感情も(私にはないけど)分からないでもない。
というか、生に固執したくない、クッション材料みたいな感覚はすごく分かる。
そこで顔面のいい男と過ごす時間を手にするのもいいんじゃないか、と。
でもこれは闘病記でも純愛モノでもない。もしそこを期待するのであれば他の本を手にしてほしい。
死生観とか、家族観、恋愛観を、極端な二人の価値観でなぞらえていくような、不思議と暗くない地に足のついたストーリーなのである。
どういう愛の中で死ねたら幸せなんだろう。
どう残りの余命を生きるのが幸せなんだろう。
生きることに執着心が出てしまったら?
後半は瀬名の視点で物語が進んでいく。
最初こそ瀬名の口調も軽いし考えが分からずにそんなに惹かれなかったけど、瀬名の視点で彼は彼なりに生きてるというか、なんでそんな突拍子もない提案を引き受けられたのか、引き受けた今どうなのか、心境が描かれている。
自分が瀬名だったら引き受けるか、と考えると、いくら唯の資産が手に入るとしても躊躇う。死んでいく人と生きていくことであったり。
お互いに排他的な価値観の二人がどう心を通わせ合うのか。
後半は思いのほかドラマティック。
闘病シーンは1mmたりとも出てきません。