ハンス・ブルーメンベルク(Hans Blumenberg)の著作
初見の人は、はじめまして、知り合いの方は、おはこんにちこんばんは、はやしです。
初見の方のために簡単な自己紹介をすると、自分は博士後期課程3回までなんだかんだで研究し、先日就職いたしまして、大学院のほうを中退した者です。
で、これまで研究してきたのが、戦後ドイツの哲学者ハンス・ブルーメンベルク(1920-1996)の思想です。
さて、ここからが本題。
いま思い返せば、自分の研究は、彼の(草稿を含めた)著作を集めることからまずスタートしました。
「よしやるぞ(買うぞ)」と気合を入れ、収集を始めたのですが、実はこれが(あくまで自分がですが)結構大変だったんです。というのも、他の著名な哲学者とは異なり、彼の全集といったものがあるわけでもなく、また彼の著作が(草稿を含めて)どれほど出版されているか、こうしたことを正確かつ包括的にまとめたものが無かったからです。
そこでふと、もしかすると現在出版されている彼の著作・論文集・草稿などをまとめるだけでも、どこかの誰かに資することができるのかもな、なんて、ツチノコは淡い期待を抱いてしまったのです。
なので、少なくとも現在公刊されている、彼の著作・草稿集等を、出版年代順に以下にまとめてみたいと思います。なお
という点はご了承ください。
【注】
★1ただし、彼の死後、ズーアカンプ社等から出版されたブルーメンベルクのSchriftenシリーズ・新聞記事・エッセー集などで、大抵の論文・新聞記事についてはアクセスできます。また、本記事でも、ズーアカンプ社等から出版されていない論文についても、私が知っている限りでのすべてに言及いたします。詳しくは、本文中の記事および「おわりに」を参考にしてください。
★ 2 彼の経歴についてまとめている著作はすでにあるので、私は触れません。邦語文献なら、こちらの本に所収されている斎藤元紀さんの論文を、もしドイツ語が読めるならば、こちらのFranz Josef Wetzの本を参考にしてください。
【目次】
■以下の紹介は二つのパートに分かれています。
一つ目のパートは基本的に単著であり、ブルーメンベルクのいわゆる主要著作と呼ばれるものです。ですので、「有名どころは知ってる、もっと細かい草稿とか諸論文を俺は知りてぇんだ!」という方は、すぐに二つ目のパートに飛んで頂けたらと思います。
⬛️一つ目のパート
・Beiträge zum Problem der Ursprünglichkeit der mittelalterlich-scholastischen Ontologie, 1947
キールのChristian-Albrechts-Universitätに提出された、ブルーメンベルクの博士論文。審査はルートヴィヒ・ラントグレーベ、そしてルドルフ・シュナイダーによって行われています。両者ともども、本論文を「素晴らしい」と評価したと、本書籍の説明欄に記載されていますね。
本論文について、研究書ではハイデガーの影響化にあるとしばしば言われますが、内容を見ていないのでツチノコからはなんとも言い難いです。Kurt Flashが本論文について詳細に論じているので、そちらを参考にして頂ければと幸いです。(※リンク先はハードカバーですが、ペーパー版もあります。探してみてください)
本論文提出の3年後に、ブルーメンベルクは"Die ontologische Distanz. Eine Untersuchung über die Krisis der Phänomenologie Husserls"1950というタイトルの教授資格論文を提出しました。Suhrkampから出版されるかどうかは分からないですが、今後進展があれば更新します。
・Paradigmen zu einer Metaphorologie, 1960
こちらは邦訳がありません。
いきなり1960年に公にされたものから始まりますが★1、こちらは1960年刊行のArchiv für Begriffsgeschichte Vol. 6に掲載された論文です。論文とは言うものの、100ページ以上あるテクストで、かなり読み応えがあります。リンク先のものは2013年バージョンですが、こちらは元々のブルーメンベルクの論文に、編者ハーファーカンプが詳細な注釈を付してズーアカンプ社から出版されたものです。掲載された雑誌と元の論文については、こちらをご参照ください。
また、ズーアカンプ社から出版された1997年のバージョンのものもありますが、こちらはハーファーカンプの注がなく、元々の論文をそのままの内容で単著として再版したものです。ハーファーカンプの注は、元々の論文の二倍程度のボリュームで、本論文を理解するのにかなり参考になります。ですので、これから購入を検討している方は、2013年のバージョンを購入することをお勧めします。
なお補足ですが、本論文が雑誌に掲載される前になされた1958年の講演"Thesen zu einer Metaphorologie"は、"Paradigmen zu einer Metapholorogie"の意図を簡潔に示しており、かなり短いものですが、ブルーメンベルクのMetapholorogieの入門のようになっています。Archiv für Begriffsgeschichte. Band 53のMaterialien aus der Geschichte der Begriffsgeschichteで再掲されていますので、気になる人は読んでいただければと思います。
【注】
★1 いきなり1960年刊行のものからはじまっていますが、1960年にいたるまでにブルーメンベルクは何も書いていないというわけではなく、多くの論文等を書いています、こちらについては二つ目のパートで触れます。
・Die Legitimität der Neuzeit, 1966(初版),1973~76(改訂増補版), 1988(第二版)
こちらは法政大学出版局から邦訳『近代の正統性I~III』が出ているので聞いたことがあるという方も多いのではないでしょうか。
この著作について少し説明を加えておきましょう。本書はもともとは1966年に出版されたのですが、様々な論争を呼んだことで、大幅に改訂・増補され、1973年~76年にかけて三分冊で再出版されています。そして、その三分冊を一冊にまとめたものが、1988年に刊行されています(1988年の刊行の際には、増補・改訂等は無し)。リンク先のものは、その1988年版に依拠したものです。1966年出版のものを初版、1970年代に分冊で出版されたものを改訂増補版、1988年にまとめて出版されたものを第二版と呼ぶことが多いです。
ここで注意が必要なのが、邦訳『近代の正統性』は、基本的には改訂増補版・第二版に依拠しているということです★1。残念ながら初版は現在では手に入りづらく、どれほど改訂・増補が加えられているかを知りたい人にとっては資料あつめが大変かもしれません。いずれにせよ邦訳のものは、基本的に改訂増補版・第二版をもとにしている、このことは頭にいれておいて損はないかと思います。
なぜかというと、難解とよく言われる『近代の正統性』第一部「世俗化―――歴史的不正のカテゴリーに対する批判」は、改訂増補版の際に、一から新たに書きおろされたものだからです。この第一部は、『近代の正統性』初版に加えられた様々な批判的コメント(レーヴィット、ガダマー、シュミットなど)への応答という意味を持っており、なのでそうした背景を踏まえずに読むとあまりにも唐突に思える内容になっているます。難解と言われるれる理由もそこにあると思います。
ですので、改訂増補版・第二版を読む際には、第二部「神学的絶対主義と人間の自己主張」から第三部そして第四部という順序で読むことをお勧めします。こちらの第二部・第三部・第四部は、ブルーメンベルクの本書における主張のまとめになっており、かつ初版から一貫して受けつがれている内容となっています。『近代の正統性』改訂増補版・第二版の概要については、ローティーの『近代の正統性』の英訳版レビューがあり、本書の全体像を伺い知る上で非常に参考になるので、こちらも読んでみて下さい。また、本書の議論背景を見る上では、こちらの論文が参考になるかと思います。
なお、Aspekte der Epochenschwelle: Cusaner und Nolaner - Erweiterte und überarbeitete Neuausgabe von »Legitimität der Neuzeit«, vierter Teilという著作も1985年にズーア・カンプ社から出版されていますが、こちらは1970年代に三分冊で出版されたうちの一つ(三分冊目)を再版したものであり、内容としては『近代の正統性』改訂増補版・第二版の「第四部」にあたります。分冊で出版された改訂増補版と第二版との間には内容の変更がないので、実際のところは第二版だけ持っていれば、分冊を買う必要はないかと思います。自分はErweiterte und überarbeitete Neuausgabeという副題につられ買ってしまいましたが、実際のところはまったく同じでした。(ちなみに僕は、タイトルは違うけど、内容が重複しているものを出版し売り出すという手法を、ズーアカンプ・ストラテジーと呼んでいます)
なお本著作に関わるもので、ズーアカンプ社等から出版されていない論文には(私の知っている限り)以下のものがあります。
・Die Vorbereitung der Neuzeit (1961) (大学がJstorと契約していれば、大学のネットサーバーを介して、リンク先からPDFダウンロード可)
・Säkularisation. Kritik einer Kategorie historischer Illegitimität, in : Helmut Kuhn/Franz Wiedmann (Hg.), Die Philosophie und Die Frage nach dem Fortschritt, München 1964, S. 240-265. (リンク先がないので、雑誌情報すべてをのせておきます)
・NEUGIERDE UND WISSENSTRIEB: Supplemente zu "Curiositas" (1971) (大学がJstorと契約していれば、大学のネットサーバーを介して、リンク先からPDFダウンロード可)
・On a Lineage of the Idea of Progress (1974) (こちらは元々が英語で書かれた論文。大学がJstorと契約していれば、大学のネットサーバーを介して、リンク先からPDFダウンロード可))
【注】
★1 もちろん、訳者の方々は初版も参考にしているようです。ですが、訳者の方々も述べているように、基本的には改訂増補版・第二版をもとにしているようです。確かに、邦訳の構成(章立てなど)は、改訂増補版・第二版と同じものとなっています。
・Die Genesis der kopernikanischen Welt, 1975
こちらも法政大学出版局から邦訳『コペルニクス的宇宙の生成I~III』が出ているので知っている方も多いでしょう。後に述べますが、ブルーメンベルクは大体1950年代から1970年代までに多くの技術史・科学史に関する論文を書き遺しており、『コペルニクス的宇宙の生成』はそれらの研究さらに敷衍し、まとめた著作となっています。
なお、本書は1975年に出版され、1985年に第二版が出版されています。邦訳の「訳者あとがき」に記載されていることですが、第二版の出版の際には、1975年出版のものにごくわずかな箇所で改訂が加えられています。邦訳はその第二版に依拠したものです。リンク先のものは、第一版に依拠しているので注意してください。(どういうわけか、第二版のほうが現在は手に入れるのが難しいです。日本のアマゾンで売られているのも第一版に依拠したリンク先のものと同じものですし・・・)。
なお本書に関わるもので、ズーアカンプ社等から出版されていない論文は以下のものになります。
・Kosmos und System. Aus der Genesis der kopernikanischen Welt, in: Studium Generale. Zeitschrift für interdiziplinäre Studien 10 (1957), S. 61-80. (リンク先がないので、雑誌情報を記載してきました)
・Contemplator Caeli, in Dietrich Gerhart u. a. (Hg.), Orbis Scriptus. Dimitrij Tschijewskij zum 70. Geburtstag, München 1966, S. 113-124. (リンク先がないので、雑誌情報を記載してきました)
・Die kopernikanische Konsequenz für den Zeitbegriff. (1972) (リンク先から買えます)
この本に関する邦語文献では、小熊さんのこちらの論文が参考になります。
・Schiffbruch mit Zuschauer - Paradigma einer Daseinsmetapher, 1979
こちらは哲学書房から邦訳『難破船』が出ています。ただし邦訳のほうは中古でしか手に入らず、値段も多少高騰していますね。
注意が必要なのは、邦訳では、著作の最後に付されている論考"Ausblick auf eine Theorie der Unbegrifflichkeit"がどういうわけか訳出されていないことです。この"Ausblick"は、この時期のブルーメンベルクにおけるメタファー論の要旨のようになっており、割と重要なのですが・・・。
この著作の概要については、(ドイツ語ですが)こちらのWikipediaが詳しいです。気になる人は見てみて下さい。
・Arbeit am Mythos, 1979
これも法政大学出版局で邦訳『神話の変奏』が出ています。その分厚さに驚いた人も多いのではないでしょうか。理由は分かりませんが、邦訳タイトルがなぜか『神話の変奏』となっています。もし素直に訳せば、『神話への取り組み』といったところでしょうか。
なにより膨大な著作なので、個人的にはこの著作よりも、(邦訳はありませんが)Wirklichkeitsbegriff und Wirkungspotential des Mythos(1971)という論文をまず読むことをお勧めします。この論文は、後に述べるÄsthetische und
metaphorologische Schriftenというズーアカンプから出版されているブルーメンベルクの論文集に掲載されていることからしても手に入れやすいですし、彼が神話を論じる動機を冒頭部分で示してくれています。
本書への導入としては、こちらのレビューか、あるいはこちらの論文が参考になるかと思います。
・Die Lesbarkeit der Welt, 1981
こちらもまた法政大学出版局から邦訳『世界の読解可能性』が出版されているので、知っている方も多いでしょう。"Paradigmen zu einer Metaphorologie"で打ち立てられた試みのうちに位置づけられるかと思います。なお、「世界という書物」というテーマ自体は、すでに1958年の講演"Thesen zu einer Metaphorologie" 以来何度も触れられていますが、そのテーマを実際に詳しく取りあげたのが本書だと言っても良いかもしれません。
・Wirklichkeiten in denen wir leben, 1981
こちらも法政大学出版局から邦訳『われわれが生きている現実』が出版されています。1981年までに公刊したいくつかの論文・講演を、ブルーメンベルクが配置しなおして出版したものです。おそらくブルーメンベルクの著作で、最も入門的なものではないでしょうか。
興味深いのは、本書において論文・講演が公刊年順に並べられていない、という点です。ブルーメンベルクは、読み進めてほしい順番を考え、あえて公刊年に沿った配置にしなかったのかもな、などと色々と考えることができそうですね。
・Lebenszeit und Weltzeit, 1986
こちらは邦訳がありません。
後で述べますが、1970年代にブルーメンベルクは現象学・人間学関連の議論を徹底してまとめていたようであり(その年代の草稿からこのことは伺えます)、それら研究内容を集約させたのが本書と言ってよいと思います。はじめの章と最後の章は、主に新カント派・生の哲学・フッサール・ハイデガーについて論述されており、それ以外の間の章では、「世界時間」と「生の時間」という観点から、様々なトピックに触れられています。ヒトラーに関する論述などもあります。
本書への導入としては、こちらのレビューが参考になるかと思います。
・Das Lachen der Thrakerin - Eine Urgeschichte der Theorie, 1987
こちらも邦訳はありません。
本書の内容に関しては、まだまだ私も汲みつくしていない箇所ばかりです。なので内容について何か言えることはありません。ですが、あえて言うならば、わりと冒頭の当たりから、プラトンの『テアイテトス』におけるトラキア女の笑いの話に触れられています。「テオリア」の歴史的変遷について気になる人は、読んでみると良いかもしれません。
・Die Sorge geht über den Fluß, 1987
こちらも邦訳はありません。タイトルが邦訳される時には、『憂慮は川を渡る』とか訳されます。
様々なトピックについて、多少アフォリズムあるいはエッセー的に言及がなされています。一つ一つ論証を組み立て、体系的に構築していく著作というよりも、散発的に様々なトピックに触れている著作という感じです。ドイツ語は他のブルーメンベルクの著作と比べても(自分にとって)遥かに難解で、読むのに苦労します。
・Matthäuspassion, 1988
こちらも邦訳はありません。
なぜここにきてバッハの「マタイ受難曲」がタイトルになっているのか、その理由はよく分かりません。
研究傾向だけ述べておけば、本書は、どちらかというと宗教史関連の議論で取りあげられるケースが多いように思えます。
なお、本書に関する論文であれば、少し古いですが、こちらが参考になるかと思います。宗教史研究の背景から、本書を評価してくれています。
・Höhlenausgänge, 1989
こちらも邦訳はありません。
プラトンの洞窟の比喩が一つの大きなテーマとして挙げられている著作です。後で述べますが、すでに1970年代からプラトンの洞窟の比喩の現象学的な読解、とでも言えるような論考をブルーメンベルクは公刊しており、この著作も、そうした試みの発展で、プラトンの洞窟の比喩の再解釈と言ってもよいかもしれません。もちろんメタファーとして「洞窟の比喩」を考えるとするならば、Metaphorologieの流れにも位置づけられます。
また、洞窟の比喩について、彼は1961年に"Das dritte Höhlengleichnis"という論文を書いています。こちらは、ズーアカンプ社等からは出版されていないので手に入れるのが難しいです。少しでも内容が知りたいという方は、ブルーメンベルク自身が『コペルニクス的宇宙の生成』第一部「天の両義性」第二章「洞窟としての天」において、本論文のアルノビウスに関わる箇所だけを大まかにまとめているので、そちらをご確認ください。
この著作が、彼の生前最後のまとまった著作です。膨大で読むのに苦労しますが、彼の思想の集大成といっても良いかもしれません。
・Die Vollzähligkeit der Sterne, 1997
こちらも邦訳はありません。
どういうわけか、ブルーメンベルクの死後に出版されています。ですが、ブルーメンベルク自身が、この著作がどういったものかという言葉を本書において残しているので、おそらく刊行が決まっていたが、実際の出版の前に彼が亡くなったものと思われます。その詳細についての説明が本書ではなされていないのであくまで予想ですが、少なくとも草稿ではないと思われます。
本書の最後の節タイトル「天体ノエシスとは何か」にある「天体ノエシス」は、すでに『コペルニクス的宇宙の生成』にも見られる言葉です。ブルーメンベルク自身が本書について「本書のテクストは、およそ30年の間に生み出されたものだ」と述べていますが、その言葉を信じれば、本書は1970年あたりから彼が書き遺してきたものの集積だと考えられます。
・Begriffe in Geschichten, 1998
こちらも邦訳はありません。
こちらもDie Vollzähligkeit der Sterneと同様、ブルーメンベルクが亡くなった後の出版です。そして、Die Vollzähligkeit der Sterneと同様の理由で、この著作も彼の生前に刊行が決まっていたが、出版の前に彼が亡くなってしまったものと思われます。
A~Zまで、様々な概念について順番にコメントを付しているのが本書です。対談ではありませんが、似たような形式として、ドゥルーズのアベセデールなんかを思い浮かべて頂ければと思います。いわば「ブルーメンベルク版アベセデール」です。様々なパースペクティブからA~Zまでの概念について論じ、概念のもつ豊饒さを照らしだしてくれています。ブルーメンベルクの他の著作を読むときの辞書的なものとして自分は使用しています。
・Vor allem Fontane - Glossen zu einem Klassiker, 1998
こちらも邦訳はありません。
そして、こちらも死後出版ですが、その理由は上の二つの著作と同じかと思われます。とくに編者もいませんし、草稿からの抜き出しといった記述もありません。小説家・詩人であるテオドーア・フォンターネについて書かれた本です。
注意が必要なのは、本書はハンザー社から出版されているGerade noch Klassikerを、そのままズーアカンプ社が再版したものです。なのでハンザー社が出版したものと内容はまったく同じで、特に付加価値はありません。(あえて言うならズーアカンプ社から出ているもののほうが本当に、本当に少しだけコンパクト)。なのでどちらかを買えば十分。ツチノコはそれに気づかず(というよりネットからはその旨が分からないので)両方買いましたが、タイトルだけ替えて、内容は同一というズーアカンプ・ストラテジーにまんまとはまってしまったわけです。
・Löwen, 2001
こちらも邦訳はありません。
こちらも死後出版ですが、上記の著作と同様の理由で、彼の生前に刊行予定であったが、実際の出版の前に彼が亡くなってしまったものと思われます。出版背景について、後書きを書いているM.マイヤーはあまり詳しく説明していませんが、本書のテクストをブルーメンベルクはすでに1985年にまとめて出版社に送付していたらしく、それを出版したもののようです。リンク先の説明文では、「ブルーメンベルクの草稿から出版された『ライオン』」となっていますが、おそらく出版社に送ってはいたが、公になっていなかったので「草稿・遺稿(Nachlaß)」と呼んでいるものと思われます。
本書は、いわゆるライオンの比喩について、様々な観点からなされた短い論述が続きます。どういった比喩が取りあげられているかに関しては、リンク先のLeseprobeから見られる目次を参照して頂ければと思います。
晩年に至って、彼がライオンの比喩(あるいはメタファー)に注目していたのはなぜなのか、気になるところです。
■二つ目のパート
・Ein mögliches Selbstverständnis, 1997
こちらも邦訳はありません。
本書は、1980年から1990年代にかけて書かれた、いくつかの新聞記事・エッセー・草稿をまとめたものです。実際に公刊されたエッセーや新聞記事や、それに関連する草稿などが所収されています。
ただし、レクラム社から出版されているこの著作は、現在廃版となっており、手に入れるのが非常に難しいです。ですが、ここに掲載されている幾つかのエッセー・新聞記事は、後に述べる草稿・新聞記事・エッセー集に所収されているものも多く、いくつかのものはそちらで代替することが可能です。
・Lebensthemen: Aus dem Nachlaß, 1998
こちらも邦訳はありません。
この著作もまた、日本のアマゾンからは手に入れづらく、また廃版になっているようで海外アマゾンでも中古しか手に入れることはできません。実際のところ、私もこれだけは入手できずにいます。
なので本書の詳しい内容は分かりませんが、Amazonの解説からすれば、ブルーメンベルクはUniversal-Bibliothekで同タイトルの著作を出版しようと望んでいたが、何らかの理由(おそらく亡くなったという理由)でその目論見はとん挫し、仕方がなく同タイトルが付されていた草稿から幾つかを集め、出版したもののようですね。モンテーニュ、ヘッベル、シュニッツラー、フロイト、フッサール、プルースト、トーマス・マンなどに集中して触れられているようです。
・Goethe zum Beispiel, 1999
こちらも邦訳はありません。
編者のM.ゾンマーによれば、生前のブルーメンベルクはゲーテに関する著作を刊行しようとしており、ある程度の原稿を書き残していたのですが、こちらも結局のところ、彼の死によって日の目をみることがなかったようです。
そこで、本書のタイトルが付された草稿を、M.ゾンマーが編集して出したのがこちらの本です。いつ頃書かれたものかについて編者M.ゾンマーが説明していないので、書かれた年代については分かりません。
"Arbeit am Mythos"の後半部分の多くはゲーテについての論述が、他の著作に比べ、とりわけ目立ちます。そういう背景からして、自分は"Arbeit am Mythos"が出版された以前および以後(つまり1970年代から1980年代)に書かれたものではないか、と予想しています。
・Die Verführbarkeit des Philosophen, 2000
こちらも邦訳はありません。
本書は、本書のタイトルが付された草稿、および公刊された新聞記事などを取り集めたものです。Ein möglisches SelbstverständnisとEin MacGuffinという新聞記事は、上にあげた"Ein mögliches Selbstverständnis, 1997"にも所収されています。本書に含まれる新聞記事・草稿は、基本的に1980年代から1990年代にかけてのものです。
Ein MacGuffinには英訳があります。David Adamsが訳出したものですが、大学に所属している方は、おそらく大学のネットワークからアクセスすれば無料で読むことができると思います。英訳のサイトはこちらです。
・Ästhetische und metaphorologische Schriften, 2001
1950年代から1980年代の「メタファー」「修辞学」「詩学」に関わる公にされた論文が、本書には収録されています。あくまで編者ハーファーカンプによる選出ですので、その年代のすべての論文が網羅されているわけではないことには注意してください。
本書に収録されている以下の論文は、"Wirklichkeiten in denen wir leben"にも収録されているので、法政大学出版局から出版されている『われわれが生きている現実』に邦訳があります。
・>Nachahmung der Natur<. Zur Vorgeschichte der Idee des schöpferischen Menschen (1957)
・Sprachsituation und immanente Poetik (1966)
・Paradigma, grammatisch (1971)
・Anthropologische Annäherung an die Aktualität der Rhetorik (1971)
また本書に収録されている論文Licht als Metapher der Wahrheit. Im Vorfeld der philosophischen Begriffsbildung (1957)も、朝日出版社から『光の形而上学』というタイトルで邦訳が出版されています。邦訳のほうは、中古でしか手に入らず、また値段も高騰しているので、注意が必要です。(私が買った時には、安かった!)
上で邦訳があると言った以外の論文については、邦訳はありません。
また収録されている論文に関してですが、後に挙げる"Geistesgeschichte der Technik"と"Schriften zur Technik"といくつか重複しているので、注意が必要です。以下に本書の目次を引用しておきます。
I Poetik
・>Nachahmung der Natur<. Zur Vorgeschichte der Idee des
schöpferischen Menschen (1957)
・Wirklichkeitsbegriff und Möglichkeit des Romans (1964)
・Sokrates und das >objet ambigu<. Paul Valérys Auseinandersetzung mit der Tradition der Ontologie des ästhetischen Gegenstandes (1964)
・Die essentielle Vieldeutigkeit des ästhetischen Gegenstandes (1966)
・Sprachsituation und immanente Poetik (1966)
II Metapher
・Licht als Metapher der Wahrheit. Im Vorfeld der philosophischen Begriffsbildung (1957)
・Paradigma, grammatisch (1971)
・Geld oder Leben. Eine metaphorologische Studie zur Konsistenz der Philosophie Georg Simmels (1976)
・Ausblick auf eine Theorie der Unbegrifflichkeit (1979)
・Im Fliegenglas (1989)
III Rhetorik
・Das Verhältnis von Natur und Technik als philosophisches Problem (1951)
・Kritik und Rezeption antiker Philosophie in der Patristik. Strukturanalysen zu einer Morphologie der Tradition. (1959)
・Neoplatonismen und Pseudoplatonismen in der Kosmologie und Mechanik der frühen Neuzeit (1969)
・ Wirklichkeitsbegriff und Wirkungspotential des Mythos. (1971)
・Anthropologische Annäherung an die Aktualität der Rhetorik (1971)
・Anselm Haverkamp: Die Technik der Rhetorik. Blumenbergs Projekt
・Register
以上です(修正前の記事では「リンク先のLeseprobeを見よ!(ドヤッ)」と言っていたツチノコですが、ごめんなさい。Leseprobe見れませんでした。お詫びに目次をすべて掲載しておきます。修正2019/04/24)
なお、"Arbeit am Mythos"の紹介のさいに話した、論文"Wirklichkeitsbegriff und Wirkungspotential des Mythos(1971)"は、本書に収録されています。
ヴァレリー、ジンメル、神話、現実概念、(受容)美学、ウィトゲンシュタインなど、そうしたトピックに触れた論文も掲載されているので、ブルーメンベルクにおけるその方面の議論が気になる人にとって、本書は参考になるかと思います。
・Zu den Sachen und zurück, 2002.
こちらも邦訳はありません。
編者M.ゾンマーによれば、ブルーメンベルクが亡くなる十年ほど前から、彼は同タイトルで出版しようと試みていたが、それが彼の死によってとん挫してしまったので、同タイトルが付された草稿の中から集め、出版したのがこの本のようです。なのでおおよそ1986~1996年ごろに書かれた草稿と見てよいでしょう。
内容はほぼ現象学、とりわけフッサールの読解といったところでしょうか。ブルーメンベルクにおける現象学・人間学関連の研究の嚆矢と言われる、O.ミュラーのこちらの本でも、かなり参照されています。
O.ミュラーの本はブルーメンベルクにおける現象学・人間学の議論が気になる人にお勧めですし、その方面の研究において重要な文献です。
なお、ブルーメンベルクの人間学について、入門としての論文はこちらが、すこし発展的な議論としての論文はこちらが参考になると思います。
・Beschreibung des Menschen, 2006
こちらも邦訳はありません。
基本的には、1970年代~1980年代にかけての現象学および人間学に関わる草稿がまとめられています。編者のM.ゾンマーによれば、本書の第一部は1980/81年のミュンスター大学での冬講義にて講義されたもので、第二部は1976/77年の同じくミュンスター大学での冬講義にて講義されたもののようです。もっとも、講義から外れるが、内容に関連しそうなものも、編者の判断で組み込んでいるようです。
本書はかなり分厚いです。900ページ近くあります。すでに挙げたように、1970年代から1980年代にかけて、ブルーメンベルクは『近代の正統性』の改訂増補版、『コペルニクス的宇宙の生成』、『難破船』、"Arbeit am Myhthos"などの著作を残していましたが、そこではあまり現象学・人間学の議論が目立たってはいません。おそらくそうした出版の背後で、着実に次の著作の準備をしていたのでしょう。編者M.ゾンマーによれば、本書の内容の多くは、後の"Lebenszeit und Weltzeit"の内容に反映されているそうです。
・Theorie der Unbegrifflichkeit, 2007
こちらも邦訳はありません。
編者ハーファーカンプによれば、1975年のミュンスター大学夏講義において、同タイトルでブルーメンベルクは講義をしていたようです。その講義草稿が、本書に収録されています。"Paradigmen zur einer Metaphorologie"から"Schiffbruch mit Zuschauer"に至るまでの、メタファーについての議論の発展過程を本書からは伺い知ることができます。
なお、本書の最後に付されているBruchstücke des ≫Ausblick auf eine Theorie der Unbegrifflichkeit≪は、1979年出版の"Schiffbruch mit Zuschauer"に付されている"Ausblick auf eine Theorie der Unbegrifflichkeit"の準備草稿になります。両者の間には内容が重なっている所も多々ありますが、"Schiffbruch mit Zuschauer"では削られている部分も多々あるので、そのあたりの推移を知りたい人にとっても、本書は参考になるかと思います。
本書については、こちらのレビューが参考になるかと思います。
・Der Mann vom Mond - Über Ernst Jünger, 2007
こちらも邦訳はありません。
ブルーメンベルクが主要著作のなかでユンガーに触れることは数少ないですが(後に述べる"Schriften zur Literatur"および本書所収の講演・生誕記念論文、そして"Arbeit am Mythos"における言及程度)、パーソナルなレベルでそうした公刊されたものとは別に、多くのものを書き残していたようです。ユンガーについて公刊されたもの、およびパーソナルなレベルで書かれた草稿を集めたのが本書です。公にされたテクストの下書きなども含まれています。
年代は、初期(1945年あたり)から後期(1990年)にかけてのものが集められており幅広いです。上にあげた草稿・新聞記事・エッセー集などにすでに所収されているものも再掲されており、したがって重複が結構ありますが、そこに含まれていないものも多くあります。ブルーメンベルクがユンガーについてどういったものを書き残しているか、その部分だけを知りたいという人がいれば、本書で大まかなところは押さえられると思います。
・Hans Blumenberg, Carl Schmitt Briefwechsel, 2007
こちらも邦訳はありません。
1971年から1978年にかけて、ブルーメンベルクとカール・シュミットとの間に交わされた書簡が収録されています。また、ブルーメンベルクの著作とカール・シュミットの著作から、その書簡に関わるテキストが部分的に載せられています。そうした関連で、わずかですが、1966年に出版された『近代の正統性』初版のテキストも一部収録されています。
書簡の内容は、基本的には『近代の正統性』初版をめぐる議論がなされています。ブルーメンベルクが『近代の正統性』初版から、改訂増補版に至るまで、どういった批判を受けていたのか、それを知りたい人にとって本書は参考になると思います。
書簡の後半にいくと、なぜだかよく分かりませんが、ゲーテにとってのプロメテウスをどう解釈するかで、二人が対立しはじめます。プロメテウスと言えば"Arbeit am Mythos"において中心的なテーマとなっている人物ですが、もしかすると"Arbeit am Mythos"でブルーメンベルクがプロメテウスに触れるきっかけを作ったのは、シュミットなのかもしれません。
・Geistesgeschichte der Technik - Mit einem Radiovortrag auf CD, 2009
こちらも邦訳はありません。
1960年代に書かれた、技術史・科学史に関する論文・討議・草稿が収められています。なお、本書に収録されている
・"Einige Schwierigkeiten, eine Geistesgeschichte der Technik zu schreiben"
と
・"Methodologische Probleme einer Geistesgeschichte der Technik"
以外は、すべて何らかの形で公にされたものです。
そして、なんと本書には、ブルーメンベルクのラジオ講演CDが付録として付いています!1967年に公にされたラジオ講演のようですが、読みあげている内容は、基本的に"Methodologische Probleme einer Geistesgeschichte der Technik"と同じです。ラジオ講演のさいのタイトルは、"Die Maschinen und der Fortschritt"となっています。彼の肉声が聞けるのは嬉しいですね!
できれば本書を購入をして、その肉声を聞いてほしいところですが、Youtubeに音源が挙がっています。以下にそのページを埋め込んでおきますので、もし興味がある人は聞いてみて下さい。ただし、いつ消されるか分からないものですので、この音源をブルーメンベルクの資料として確実に持っていたい人は、本書を購入しましょう。
・Theorie der Lebenswelt, 2010
おおよそ1970年代に書かれた、生活世界あるいは生の哲学に関連する論文・草稿が、本書には収められています。私が読んで確認したことですが、いくつかの草稿の中には、後の"Lebenszeit und Weltzeit"(1986)にそのままの形で引用されている文章もあります。また、"Lebenszeit und Weltzeit"では少しだけしか触れられていないテーマ・内容について、本書の草稿の中では多くの論述が残されていたりと、"Lebenszeit und Weltzeit"ではそぎ落とされてしまっている箇所を本書から知ることができます。なので、そのあたりの経緯を知りたい人にとっては、最適の文献かと思います。
本書に収録されている論考"Lebenswelt und Wirklichkeitbegriff"は、こちらの論文集に、"The Life-World and the Concept of Reality"というタイトルで、英訳されて載っています。本書に収録されているものは、その英訳にされる前の原稿です。本論文では、プラトンの洞窟の比喩が、現象学的観点からどう再解釈されるのか、そうした議論がなされています。その流れの中で、ライプニッツのデカルト批判などにも触れられています。
なお本書に所収されている論文"Lebenswelt und Technisierung unter Aspekten der Phänomenologie"は、Ästhetische und metaphorologische Schriften"同様、Wirklichkeiten in denen wir leben"にも含まれているので、法政大学出版局から出版されている『われわれが生きている現実』に邦訳があります。
本書のそれ以外のものは邦訳はありません。
・Quellen, Ströme, Eisberge - Beobachtungen an Metaphern, 2012
こちらも邦訳はありません。
「泉、流れ、氷山」のメタファーについて、ブルーメンベルクが書き残した草稿集です。どの年代に書かれたかは、編者が明らかにしておらず、よく分かりません。
「流れ」と言えば、ヘラクレイトス的流れや、フッサールなどが述べた「意識の流れ」などが挙げられるでしょうか。また「泉」も後期フッサールが多用するメタファーです。本書におけるブルーメンベルクの視線も、そうしたフッサールのメタファー使用や、現象学派におけるメタファー使用、それ以外の様々な思想家によるメタファー使用について向けられています。そうした面からしても、本書は"Paradigmen zu einer Metaphorologie"の系列に位置づけられると思われます。
おもしろいのは、ハンナ・アレント、ハンス・ヨナスについて、彼/彼女らの名前が付された草稿も所収されていることです。両者ともども、ブルーメンベルクと個人的な繋がりがあった人ですが、彼/彼女らについてブルーメンベルクがどのように考えていたのかを、その草稿から伺い知ることもできます。
副題にある"Beobachtungen an Metaphern”は、同タイトルで1971年にArchiv für Begriffsgeschichteに掲載されたブルーメンベルクの論文から取られているようです。大学がJstorと契約していれば、大学のネットサーバーを介して、こちらからその論文を無料で読むことができると思います。論文の目次を見てみても分かるように、そこでも泉、氷山について議論されていますね。
メタファー論の流れで言えば、この論文は、ちょうど”Paradigmen zu eine Metaphorologie (1960)"と、"Schiffbruch mit Zuschauer(1979)"年との間に書かれた論文です。
・Hans Blumenberg, Jacob Taubes Briefwechsel 1961–1981 - und weitere Materialien, 2013
こちらも邦訳はありません。
1961-1981の間に交わされた、ブルーメンベルクとヤーコブ・タウベスとの書簡が収録されています。それに関連した資料もいくつか載っているようですね。
私自身が、タウベスの思想背景について良く知らないので、本書に関しては何か説明できることはありません。詳しくは、編者注をリンク先のLeseprobeからすべて読むことができるので、そちらを参考にして頂ければと思います。
・Präfiguration - Arbeit am politischen Mythos, 2014
こちらも邦訳はありません。
本書には、おおよそ1980年代に書き遺された「政治的神話」に関わる草稿と、”Arbeit am Mythos”について、Götz Müllerとブルーメンベルクとの間に交わされた書簡等が収録されています。(Götz Müllerについて、私はどういった人物か分からないので、もし知っている人がいたら教えて下さい)
本書について私が何か言うことはありません。というのも、編者の一人であるAngus Nichollsが、彼のこちらの著作で、本書の議論についてまとめており、さらにはその現代的意義までを示唆しているからです。Angus Nichollsの著作は、人間学や人文学の歴史的背景についてもかなり詳しく書かれた素晴らしい本ですので、ぜひ読んでみて下さい。
・Rigorismus der Wahrheit - »Moses der Ägypter« und weitere Texte zu Freud und Arendt, 2015
こちらも邦訳はありません。
本書は、アレントのアイヒマン問題、および主にフロイトの『モーセと一神教』について1970年から1980年にかけて書かれた草稿を収録したものです。
ブルーメンベルクはフロイトについて主要著作でも多く言及しているので、そちらからブルーメンベルクがフロイトについてどう考えていたかをある程度予測できますが、ことアレントについては、主要著作ではほとんど言及がなされていないので、こちらの資料はそうした点でも貴重です。焦点は主に「アイヒマン問題」に向けられているようですが、半ユダヤ人として、ドイツ国内に戦中留まり続けたブルーメンベルクが、アイヒマン問題についてどう考えていたのか、そのことを知りたい人にはうってつけの本です。
・Schriften zur Technik, 2015
こちらは、1940年代から1960年代の、ブルーメンベルクが公にした論文・講演・新聞記事、および草稿が収録されています。タイトルにも示されているように、そうした論文・新聞記事・草稿の中でも、技術史・科学史に関係のあるものがまとめられています。どういうタイトルの作品が収録されているかについては、リンク先のLeseprobeを参照してください。
本書が出たおかげで、ツチノコは『近代の正統性』や『コペルニクス的宇宙の生成』に至るまでのブルーメンベルクの技術史・科学史に関する考えがいっきに分かるようになりました。「自己主張(Selbstbehauptung)」という『近代の正統性』において重要になる概念や、コペルニクスに関する論述もすでに本書収録の論文に提示されており、非常に参考になります。また、収録されているブルーメンベルクの論文のドイツ語は、のちの主要著作に比べ、はるかに読みやすい!
なお、ブルーメンベルクは、1950年代初頭に、Axel Collyという偽名を使って、新聞記事を書いています。本書には5本ほど収録されていますが、それ以外のものもいくつかあります(それ以外のものについては後述)。本書に収録されている新聞記事は、キンゼイ・レポートの話など、当時のアクチュアルなテーマについて触れられています。
個人的なお勧めですが、『近代の正統性』や『コペルニクス的宇宙の生成』を読む前に、本書に収録されている論文を読むことをお勧めします。内容も簡潔にまとまっていますし、何よりそれらの主要著作は派生的な議論も多くあるので、ブルーメンベルクの技術史・科学史における基本線というものを見たい人にとっては、本書収録の論文ほうが分かりやすいかと思います。
なお、本書に収録されている論文"Lebenswelt und Technisierung unter Aspekten der Phänomenologie"および">Nachahmung der Natur<. Zur Vorgeschichte der Idee des schöpferischen Menschen"は、"Ästhetische und metaphorologische Schriften"と同様、"Wirklichkeiten in denen wir leben"にも含まれているので、法政大学出版局から出版されている『われわれが生きている現実』に邦訳があります。
なお、本書のそれ以外のものは邦訳はありません。
またいくつかの論文・草稿は、"Ästhetische und metaphorologische Schriften"および"Geistesgeschichte der Technik"と重複しています。こちらも詳しくはリンク先のLeseprobeを参考にして、重複箇所は自分で確認して頂けると助かります。
・Schriften zur Literatur 1945-1958, 2017
こちらに収録されているものに邦訳はありません。
1945-1958年と副題にありますが、正確には1938-1958年までに書かれた、文学に関連する論文・講演・草稿が収録されています。結構分厚い本です。
同年代において、技術史・科学史の論文を出版する一方、他方でブルーメンベルクは、文学についての論述をかなり残していたことを理解させてくれる本です。どういった人物が取りあげられているかについての詳細は、リンク先のLeseprobeから見られる目次を参考にして頂けたらと思います。
もっとも簡単に本書について述べるなら、論述の対象もドイツ文学に限られてはおらず、ドストエフスキー、カフカ、トーマス・マン、サルトル、プルースト、エリオット、ヘミングウェイ、フォークナーなど、露独仏英米をまたぐ形で、多岐に渡っています。1949年なされたユンガーについての講演、および1955年に書かれたユンガーの生誕記念論文が本書に収録されていますが、これらは"Der Mann vom Mond - Über Ernst Jünger"にも収録されています。
・Phänomenologische Schriften - 1981-1988, 2018
こちらも邦訳はありません。
こちらは、1981から1988年にかけて書き残された、現象学に関する草稿集です。同年代の同じテーマを集めた本に、すでに述べた"Zu den Sachen und zurück"がありますが、両者に重複はありません。
本書はなにより分厚く、そしてデカイです。正直、読み解くのに何年かかるんだと絶望させられるほどの量があります。どういった内容について書かれているかは、こちらもリンク先のLeseprobeで見られる目次を参考にして頂けたらと思います。
2018年の10月に出版されたばかりですので、自分もまだまだ読み解けておらず、ですので本書がどういう特徴を持っているか、それについて語ることはできません。気になる人は手にとってみて、何か面白い所があれば、ツチノコに教えて下さい。
・Neue Rundschau 2018/4: Hans Blumenberg alias Axel Colly. Fruehe Feuilletons (1952-1955), 2019
こちらに収録されているものも邦訳はありません。
本書は、"Schriften zur Technik"の紹介のさいにすでに述べていたように、ブルーメンベルクがAxel Collyという偽名で1952年から1955年にかけて書き、公にされた新聞記事をまとめたものです。新聞記事は、合計で27本収録されています。"Schriften zur Technik"に収録されていない同年代の新聞記事が、本書におそらくすべて収録されています。
本書の前半部分は、ブルーメンベルクの新聞記事のみを載せていますが、後半部分は、ブルーメンベルクとはまったく関係のない批評文も付いています。
2019年の1月に出版されたものですので、私がこの著作について何か言えることはありません。そこまで高くない本ですし、リンク先の日本のアマゾンでも手に入れることができるので、よければ買ってみてください。
・Die nackte Wahrheit,2019
まだ内容見れておりません(2019年11月16日現在)。随時更新いたします!
・Realität und Realismus,2020
REAと付されたブルーメンベルクの草稿をまとめたもの。1970年から1984年までの間に書かれた草稿です。
編者によれば、REA草稿には、オリジナル版とコピー版があるようです。
オリジナル版とコピー版の違いは、ブルーメンベルクによる校正やコメントが付されているかどうかです。校正やコメントはオリジナル版にはありませんが、コピー版にはあるようで、本書は基本的に後者のコピー版を参考にしています。
冒頭に所収の草稿 Antiker und neuzeitlicher Wirklichkeitbegriff の導入部分が印象的です。ブルーメンベルク自ら、ハイデガーの探求方法と自らの方法の差別化を図っています。参考までに引用しましょう。
「実在(Realität)」あるいは「現実(Wirklichkeit)」は、すでに述べたように、"Theorie der Lebenswelt"でもつとに言及されるトピック。ちなみにTheorie der Lebensweltに所収されている論文・草稿も1970年代に書かれています。
文脈で言えば"Beschreibung des Menschen"の「身体と現実意識(Leib und Wirklichkeitbewußtsein)」も参考になるでしょう。
現実に関わる議論の概要が知りたい方は、"Blumenberg lesen"所収の「現実(Wirklichkeit)―Manfred Sommer執筆」を読んで頂ければ。現実概念について、ブルーメンベルクは歴史的観点から
の3つに区分しているが、Sommerはその点について簡潔にまとめてくれています。(ちなみに、Sommerは上記3つに加え、Wirklichkeit als Widerstandもブルーメンベルクの著作の中から読み解ける、という主張を展開しています)
■おわりに
なんだか長くなってしまいました(疲れた)。これからブルーメンベルクを研究するあるいは読みたいという人に、上の内容が役に立てばもう死んでも良いくらい嬉しいです。
なおズーアカンプ社等から出版されておらず、かつ本記事でもまだ触れていない論文には、私の知っている限りでは以下のものがあります。
・Die sprach Wirklichkeit der Philosophie, in: Hanburger Akademische Rundschau (1946/47), S. 428-431.
・Das Recht des Scheins in den menschlischen Ordnungen bei Pascal, in: Philosophisches Jahrbuch der Görres-Gesellschaft 57 (1947), S. 413-420
・Philosophischer Ursprung und philosophische Kritik des Begriffs der wissenschaftlischen Methode, in: Zeitschrift für interdiziplinäre Studien 5 (1952), S. 133-142
・Marginalien zur theologischen Logik Rudlf Bultmanns, in Philosophisches Jahrbuch 2 (1954/1955), S. 121-140.
・Kontingenz, in: Religion in: Geschichte und Gegenwart, 3. Auflage, Tübingen (1959), Sp. 1793-1794
・Optimismus und Pesimismus II, philosophisch, in: Religion in Geschichte und Gegenwart, 3. Auflage, Tübingen (1960), Sp. 1661-1664
・Nachbemerkungen zum Bericht über das Archiv Begriffsgeschichte, in: Jahrbuch der Akademie der Wissenschaften und Literatur Mainz (1967), S. 79-80.
・Selbsterhaltung und Beharrung Zur Konstitution der neuzeitlichen Rationalität, (1970).
・Der archmedische Punkt des Celio Calcagnini, in: Eginhard Hora, Eckhard Kessler (Hg.), Studia Humanistasis. Ernesto Grassi zum 70. Geburtstag, München 1973, S. 103-112.
・Vorbemerkungen zum Wirklichkeitsbegriff, in Akademie der Wissenschaften und der Literatur in Mainz. Abhandlungen der geistes- und sozialwissenschaftlichen Klasse, Jahrgang 1973, Nr. 4, S. 3-10.
・Nachdenklichkeit, in: Jahrbuch der Deutschen Akademie für Sprache und Dichtung (1980), Heidelberg 1981, S.57-61.
以上です。
色々と複雑な出版事情もあるので、ツチノコが間違っている箇所も多くあると思います。気づかれた方は、ご指摘いただければ助かります。
なお
最後に、ブルーメンベルクのバイオグラフィー的な映画が、2018年の11月にドイツで公開されています。以下にトレーラーをはっておきます。バックミュージクがバッハの『マタイ受難曲』ですね笑
ブルーメンベルクの映画がDVD化しました!
上記の映画がようやくDVD化しました。
適宜、ツチノコほか仲間と一緒に翻訳し、公開を予定しております(版権の許す限り)。こうご期待!
それでは、失礼いたします。
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