【大月書店通信】第176号(2023/9/29)
「大月書店通信」第176号をお届けします。
ようやく朝夕に涼やかな風を感じるようになりました。秋と言えば、そう読書です。ちょっとハードで読み応えのある本にも手を伸ばしてみては、いかがでしょうか?
エルサレムの法廷で、「私は命令に従っただけ」と繰り返すアイヒマン。その裁判傍聴記がスキャンダルを引き起こすも、敢然と立ち向かうハンナ・アーレント――大ヒットした映画『ハンナ・アーレント』のオフィシャルサイトには、「世間から激しい非難を浴びて思い悩みながらも、アイヒマンの〈悪の凡庸さ〉を主張し続けたアーレント」とうたわれています。
「アイヒマン=組織の歯車として命令に従った官僚」というイメージは強固に定着し、近年では、たとえば森友学園問題で佐川宣寿局長にアイヒマンを重ねる言説が流布しました。
しかし、この「歯車理論」を、アーレント自身が否定していたことをご存で
しょうか。では、アーレントはどのような意味で〈悪の凡庸さ〉をアイヒマンに見ていたのか? その解釈は妥当なのか?
10月新刊の『〈悪の凡庸さ〉を問い直す』では、歴史学の視点からアイヒマンに〈悪の凡庸さ〉を見るのは適切ではないとするドイツ史研究者と、〈悪の凡庸さ〉という概念の意義を語るアーレント研究者が、この問題に向き合います。編著者6人のスリリングな対話を、お楽しみください。
※11月11日に出版記念イベントも開催します。
◆田野大輔・小野寺拓也[編著]香月恵里・百木漠・三浦隆宏・矢野久美子[著]『〈悪の凡庸さ〉を問い直す』【発売即重版】
【新刊案内】『ここにある社会主義』ほか9月の新刊4点
9月の新刊です。お近くの書店にてお求めください。(定価はすべて税込)
●社会主義は今・ここにある!新時代の理論書
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『ここにある社会主義ーー今日から始めるコミュニズム入門』
松井暁[著]2,200円
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資本主義社会の中にも社会主義へと向かう萌芽はあらゆる面にある。夢物語や全体主義といった旧来のイメージを塗り替え、今・ここで生きる私たちのためのアクチュアルな思想として社会主義を再話する。次世代に贈る入門書。
●アイヒマン=組織の歯車と思っていませんか?
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『〈悪の凡庸さ〉を問い直す』
田野大輔・小野寺拓也[編著]香月恵里・百木漠・三浦隆宏・矢野久美子[著]2,640円
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アイヒマンを形容した〈悪の凡庸さ〉。アーレント自身は歯車のように命令に従っただけという理解を否定していたにもかかわらず、多くの人が誤解し続けている。この概念の妥当性や意義をめぐり、アーレント研究者とドイツ史研究者が真摯に論じ合う。
●問題を解決して持続可能な農業にするには?
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『めざせ!持続可能な農林水産業(1)環境にやさしく魅力ある農業へ』
中野明正[監修] 3,850円
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私たちの衣食住を支える農業。文化や防災にも密接にかかわっています。農家の仕事の様子、農業をとりまく問題を解説し、スマート農業や環境負荷を減らすなど、持続可能で魅力ある農業にしていくためのとりくみを紹介します。
●特集=包括的性教育ってなに?
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『月刊 クレスコ』10月号(no.271)
全日本教職員組合・クレスコ編集委員会[編] 550円
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子どもたちはネットで様々な性情報に接している一方、文科省が推進する「生命の安全教育」でも“はどめ規定”があり、性交について扱えない。学校教育に国際標準の包括的性教育を位置づけるための課題や実践の展望を論じ合う。
【話題の本・本の話題】 最近の新刊の書評掲載
水俣病訴訟で画期的判決! 『水俣病と医学の責任』高岡医師も証言
9月27日、「ノーモア・ミナマタ第2次近畿訴訟」の判決が大阪地裁にて言い渡されました。過去の国の基準で水俣病と認定されなかった原告128人全員を認定し、国に賠償を命ずる、原告団の「全面勝利」と言えるものでした。
『水俣病と医学の責任』を昨年出版した医師の高岡滋さんも法廷で証言し、
そこで示したデータのほとんどが判決において認められています。
国とチッソ、そして医学者らの不作為によって水俣病の被害は長く放置され、認定の壁によって患者は分断されてきました。その構造を告発した高岡医師の著書は、今回の判決の意義を理解するためにも役立つはずです。
◆高岡滋[著]『水俣病と医学の責任――隠されてきたメチル水銀中毒症の真実』
最近の新刊の書評掲載
●デニ・ムクウェゲ[著]中村みずき[訳]米川正子 [監]『勇気ある女性たち』
北海道新聞 9月3日
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/903253
「…不謹慎を承知で言えば、本書は、良質なドキュメントであると同等に、
読み物としてもすこぶる面白いのだ。…すべてを生き延びたムクウェゲ氏
は強靱なヒーローだろうか。否。自らの弱さを吐露し、時に泣きながら、
それでも信念を貫くさまが何よりも心を打つ。」(評者・渥美志保さん)
★太田啓子さん(弁護士)も音声番組Voicyで「圧倒的名著」と絶賛!
「デニ・ムクウェゲ医師「勇気ある女性たち」(大月書店)を読みました」
https://voicy.jp/channel/2878/618926
●岡本央 [写真・文]『火のトンネル』『赤いボタン』
読売新聞・宮城版 9月1日
●重松理恵[著]『読んで旅する海外文学』
静岡新聞「本のしおり」 9月3日
●中西新太郎・谷口聡・世取山洋介[著]/福祉国家構想研究会 編[著]
『教育DXは何をもたらすか』
しんぶん赤旗 9月10日
●高岡滋[著]『水俣病と医学の責任』
しんぶん赤旗日曜版 9月10日
●加藤圭木[監]一橋大学社会学部加藤圭木ゼミナール[編]
『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし』
しんぶん赤旗 9月17日
●マリ・シュー[文]イザベル・ムニョス[絵]上田勢子[訳]
『読み書き障害のあるぼくの毎日(障害があってもいっしょだよ! 4)』
『女性のひろば』9月号
【イベント】『〈悪の凡庸さ〉を問い直す』刊行記念トークイベントなど
『〈悪の凡庸さ〉を問い直す』刊行記念トークイベント
田野大輔 × 百木漠 × 小野寺拓也
アイヒマンに〈悪の凡庸さ〉を見出すことは可能なのか?
日時:2023年11月11日(土)16:00~17:30
【配信参加】参加費:1,650円
【来店参加】参加費:2,200円 定員35名
主催・会場:今野書店(杉並区西荻北3-1-8)
(イベント告知文より)
アイヒマンは組織の歯車として、上からの命令に従っただけである。
自ら考えることなく権威に服従し、上意下達を繰り返していった結果、巨大な悪を成し遂げるにいたった。
――この一般に理解されている「歯車理論」はアーレント自身が否定していたものであり、アイヒマンが凡庸な役人ではないという点では、本書の編著者も共通理解に立っています。しかし、歴史研究者とアーレント研究者の間には、なおも認識の隔たりがあります。
本書でおこなわれた「対話」に引き続き、今回のトークイベントでは、歴史学の視点からアイヒマンに〈悪の凡庸さ〉を見るのは適切ではないとする歴史研究者と、アイヒマンにあってこそ〈悪の凡庸さ〉という概念は意味をもつとするアーレント研究者が、〈悪の凡庸さ〉概念をめぐってさらに議論を深めていきます。
詳細・お申し込みはこちら
※田野大輔さん・百木漠さんはリモートでの登壇です。
●登壇者プロフィール
田野大輔(たの だいすけ) 1970年生まれ 甲南大学文学部教授
百木漠(ももき ばく) 1982年生まれ 関西大学法学部准教授
小野寺拓也(おのでら たくや) 1975年生まれ 東京外国語大学大学院
総合国際学研究院准教授
『社会変容と民衆暴力ーー人びとはなぜそれを選び、いかに語られたのか』書評会
普通の人びとは、なぜ暴力という手段を選びその力を行使したのか。また被害と加害が同居する地域社会で、それはいかに記憶・記録され語られていったのか。近年注目を集める「民衆暴力」。日本・アジア・欧州を舞台に実証的に検討した本書を、深く読み解いていきます。
日時:10月27日(金)18:30~
場所:明治大学駿河台キャンパス 研究棟4階 第1会議室
書評者:林進一郎さん(日本近世史)
応答:編著者よりリプライ
(申込み不要)
詳細はこちら
◆須田努[編]『社会変容と民衆暴力――人びとはなぜそれを選び、いかに
語られたのか』
【編集後記】
昼休みに公園で赤トンボが飛んでいるのを見ました。夏前にはバッサリ剪定されていた萩も、小さな花がたくさん咲いています。秋ですね・・・と思っていたら10月も異例の残暑とか。皆様ご自愛ください。(Y)