今夜、すべてのバーで
先週末、家の中に家をつくった。
いわゆる、日曜大工の手に依るものである。
オーナーは、ピカピカの一年生になったばかりのJr.だ。生き物とその摂理に興味深々の彼は、自分も巣が欲しいと言い出した。小屋とか家ではない。自らの身の丈にFITした、衣服を纏うことに似た寝床のようなアレである。
実は半年ほど前に、オーナーの意図に背き、薄いベニヤの差し込み式でつくったそれは、三匹の小豚の逸話のように、強い風に倒れたのだった。
故に、オーナーは頑強かつ、希望通りのものを求めた。懇願の結果、ようやく手にした機会を我がものにするために、オーナーの決意は硬く、前日は楽しみ過ぎて、学童の先生の言葉が何ひとつ耳に入らなかったぐらいである。
さて、話を元に戻そう。私の本業は建築士である。したがって、ものをつくる前には図面を描く。頭の中に描く場合もあれば、ちゃんと紙に書く場合もある。OB顧客であるJr.を尊重して、ちゃんと紙に描くことにするも、急かすJr.により当然、走り書きになる。子供の目には、すでに始まっている休日を浪費しているかのように映るらしい。
でも大丈夫!原案が素晴らしい。紺屋の白袴を地で行く父の性格を省み、手抜き工事を防ぐために、イメージスケッチを描いて出来高を共有しようというのだ。我が息子ながら中々の強者である。ちゃんと寸法も入っている。しかも、作図したのは、ママが入学式の着付けをしている横で、着付け屋さんにあった、カラー筆ペンでしたためたというから脱帽である。
邪魔になるからベランダに置いてよ、というママの指導とは裏腹に、計画的犯行のごとく、Jr.の指示通りの寸法をあてがい、ベランダに入らないサイズの図面を引き、結果、Jr.の巣は室内で竣工した。
そのことにより、建築士のくせに、あるいは、そのために事前に図面を描いたのではないか、という締め付けから始まる一悶着があったことは言うまでもない。
しかしながら、最後に予定していた屋根工事を諦めたことで、埃との共存を回避することに繋がり、空間の抜けも保証され、なんとか是正勧告を免れたのだった。
一方、屋根工事を担当する予定だったJr.は悔し涙を流し、材料もお蔵入りとなったが、妻あっての家庭である。苦渋の決断という経験が、大人の階段を登る一歩となるのであれば、父は、それも本望である。
夕暮れ、ヒノキの香り漂うカウンターで、お寿司やさんの大将に扮するJr.の前で、お客役を担うことになるのだが、この部屋の室長である妻が敷いた条例により、ここでのホンマもんの飲食は現在のところ禁止されている。
この擬似カウンターが、バーとしての機能を有し、ヤクルトとハイボールで、Jr.と乾杯できる日を待ち侘びる日々である。
追伸 予定していた付属の車庫は、一身上の都合でお蔵入りとなった。今後に期待である。