火星22世紀のスキツォイド・マン
「こんな世界も悪くない」と哀しげな声が聞こえてくる。それは前世紀の墓穴に由来する、先祖の開拓者たちの叫び。
どこを見回しても俺たちの青いふるさとは見当たらない。たぶん宇宙を描いた風船みたいに、膨らみきって萎んで消えてしまったんだろう。
どうしても気になるのなら、見晴らしのいい塔に登って大声で連呼すればいい。陽炎の向こうに映る、寝ぼけまなこの火星人になったつもりで。
「世界は常に一点に収斂し続ける存在、かつゼロの乗法の影が付きまとう宿命」そう唱えるだけで、諦めがつく。
人と人、国と国のあいだの力関係。そんなものは、ただの幻想。俺たちの懐のなかの黄金色の自尊心なんて、無一文なのにあると言い張っているだけなんだ。
試しにお互い貪るように見つめ合ってみるといい。君の前にいるのは、時代を謳歌する瞬間という、腐って原型をとどめない果物。
十年昔は二十年昔より歪に変形していることに気づいているかい?過去は今と繋がってなんかいない。世界という三次元的なヴェリエーションの繰り返しなんだ。
砂に埋もれた錆びだらけのカプセルに、二億年の夢が詰め込まれている。彼らはずっと蘇るのを待っている。彼らこそ俺たちの以前のヴァリエーションであり、テーマへと回帰していく。
俺たちは22世紀のスキツォイド・マン、火星に彷徨う都市幻影の虜。そろそろ目を覚ませ。眩しい色した23世紀が、一気に空から落ちてきそうだ。