火星を渡る蟹を追う人【詩】
蟹よ、群れをなして果てしない地平を目指し
何処に渡ろうとするのか?行くからには何を知り、求めているのか?
赤錆びた古い砂の色に、お前たちはちっとも物怖じすることもなく
ぐずることも、躊躇うことも、疑うこともない
きっとお前たちは何かを信じているのだろう
だから、羨望の眼差しで見ている僕を、どうか許してくれ、蟹よ
知に長けていると自負していたが、見知らぬ星では竦むのだ、この足は
測量技術すら役に立たず、あらゆる計画は挫折を繰り返すばかり
お前たちの道は、追うほどに巧みに遥かに生き抜ける
明日もきっと上手くいくだろう
この渡りを蟹たちに教えた者は誰?その存在に幸いあれと祈る
そんな夢をみた僕はテントで耳を澄ました、泡の弾ける音と這う足音と共に
相変わらずの朝を迎えて、蟹たちの数キロに及ぶ群れが影を伸ばし
僕は幸せを少しだけ分けてもらった気になり、靴紐をしっかりと結ぶ
きっと僕たちも上手くいく、そう心でつぶやく