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SSの箱。

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短編を詰め込んでいます。読みたいときにお話を取り出して。
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2014年5月の記事一覧

SS:春を待つ

「ねぇ、雪やこんこって歌、あるじゃない? あれって本当かしら?」

 妻の泰子が突然そんなことを話し始めた。

「うん?」
「犬は喜び庭駈けまわりって歌。うちのモモは、いつも寒くてブルブル震えてるじゃない。雪が積もってるところを走り回ったりするとはとても思えないわ」
「ああ、そうだね……」

 確かに我が家の飼い犬は、冬になると寒さでブルブル震えている。顔もなんだか情けない顔をして、見ていると哀

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SS:夜桜奇談

SS:夜桜奇談

おはようございます。雪月音弥です。

私が所属しているmixiコミュニティ「創作が好きだ!」で、GW特別企画として、桜をモチーフにした創作をしようという企画が、本日締め切りでして。

そのために創作した短編をUPいたします。どうぞ宜しくお願いいたします。

画像は、同じくmixiコミュニティ「創作が好きだ!」で活動されている、しちみ黒猫さんからお借りいたしました。この場を借りてお礼申し上げます。

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SS:太陽

 青空に向かって手を伸ばす。
 太陽はとても眩しくて、遠い。
 この手は、届かない。 
 あの人と同じ。 
「……また、ここにいたのか」 
 不意をついて聞こえてきた、呆れたような優しい声。慌てて私は体を起こす。
「……なぁんだ。先生か」 
「なぁんだ、じゃないよ。屋上は立入禁止。何回目だよ。ったく……」 
 先生はブツブツこぼしながら、面倒臭そうに右手で頭をかいた。その様子がなんだかおかしくて、

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SS:傘

「雨降りそうですよ」
 三上圭子が窓の外を眺めながら言った。確かにどんよりとした雲が広がり、薄暗くなっている。
「洗濯物干して来ちゃったのに」
 彼女の顔も、どんより曇っている。
「木下さん、これから出かけるんですよね? 傘は?」
 持って来てません、と木下良美は首を左右に振った。
 通行人が手のひらを上に向けて立ち止まっている。ポツポツと降り出したようだ。
「この曇り方だと、結構降りそう。持ち主

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