見出し画像

〈声劇台本〉未来図のなかった僕らの話

《登場人物》

瑠依〈ルイ〉
叶向〈カナタ〉
結星〈ユラ〉
ニュースキャスター(ラジオ)
市場の人(おばさん)
男の子
施設の人

《本編》

シーン1 ラジオ・叶向(・結星)


〇雪道(帰宅路)・夜
ラジオ「続いてのニュースです。経済成長が目まぐるしい状況下で新たに注目されている捨て子の増加問題。人口爆発における食料難が原因として取り上げられていますが政府はこの問題に対してどのような処置を取っていくのでしょうか?」

叶向「はぁ、はぁ、はぁ、」
  〈帰宅道・凍えながら急ぐ〉
  「あれ…?子供?」
  「こんな時間にどうしたの?…君、名前は?
   あぁぁぁ、よし、ついておいで」
  〈ドアを開ける〉

シーン2 叶向・瑠依(・結星)


〇家(玄関からリビングへ移動)・夜
叶向「ただいま!ごめん、瑠依!暖炉付けて。
   あぁ、あと毛布もいるなぁ…」
瑠依「お、おかえり。ちょ、っとまってね」
叶向「道端にこの子が一人で立ってて…だいぶ冷えちゃってるんだ」
瑠依「そうか、ならシチューもあっためるよ」
叶向「ありがとう」
瑠依「その子名前は?」
叶向「それが何も話してくれなくて…分かんないんだ」
瑠依「そうか…はい、これどうぞ」
叶向「わぁ、おなか減ってたんだなぁ」
瑠依「可愛い」
叶向「決めた!この子の名前は結星」
瑠依「結星ちゃん…いいね」
叶向「結星ー?いっぱい食べるんだよー」

〇家(リビング)・夜
瑠依「結星ちゃんもう寝た?」
叶向「うん、すやすや寝息立ててるよ」
瑠依「よかった」
叶向「あ、そうだ。大学で同居人申請を出さないといけなくて…」
瑠依「もうそんな時期か」
叶向「うん、それでなんだけど」
瑠依「僕のことは気にしないで。一人暮らしって書くといいよ」
叶向「…ごめん」
瑠依「そんなところで正直になっても自分の未来妨げるだけでしょ?」
叶向「いつになったら胸張れるんだろう、俺たち」
瑠依「同性愛者を認めない法律がある限りはこうやって生きていくしかないよ」
叶向「そうだよな」
瑠依「大丈夫、きっといつかね」

シーン3 叶向・瑠依・結星


〇家・夜
瑠依「ただいま」
叶向「こらこら結星!そっちはダメだって」
瑠依「叶向、ほんと楽しそうだなぁ」
叶向「瑠依!おかえり」
瑠依「結星ちゃんも、ただいま」
叶向「その袋どうしたんだ?」
瑠依「あ、これね…実は絵本を買ったんだ」
叶向「絵本?結星に?」
瑠依「家にいても退屈だろうから、って」
叶向「おぉ、君と夜と星かぁ。綺麗な絵」
瑠依「はい、どうぞ。」
叶向「結星なんかうれしそう。なぁ、どんな話なんだ?」
瑠依「ひとりぼっちのくまさんがうさぎさんと自分だけの一番星を探すんだ」
叶向「へぇ、自分だけの一番星か。いいな」
瑠依「昔に読み聞かせてもらったことがあったんだけど懐かしくてさ」
結星「お星さま」
瑠依「え?結星ちゃんいま…」
叶向「結星!そうだよ、きらきらお星さま!」
結星「お星さま、見たい」
瑠依「ほんと?今日空綺麗だったよ」
叶向「じゃあ、行くしかないな。結星、おいで」
瑠依「ちゃんと温かくしてね、結構寒いから」
叶向「分かってるよ、ありがとう瑠依」
瑠依「じゃあ、行ってらっしゃい」
叶向「ほら、結星。瑠依に行ってきますって。…結星?」
結星「お星さま、見たい」
瑠依「あ…僕はお留守番だから叶向と…」
叶向「瑠依とも見たいんだって!行こうよ」
瑠依「でも…」
結星「お星さま」
瑠依「ふっ、そうだな。行こうか」
叶向「やったぁ!嬉しいな、結星!」

〇外・夜
叶向「2人そろって外出るの、久しぶりだな」
瑠依「そうだね」
結星「お星さま!綺麗!」
叶向「嬉しそうだなぁ、ほんとに」
瑠依「叶向、ありがとう」
叶向「ん?なにが?」
瑠依「ううん、何でもない。星空なんて見上げたの、久しぶりかも」
叶向「たしかに、忙しいしそんな暇なかった」
瑠依「結星ちゃんにありがとうだね」
叶向「うん」
結星〈笑い声〉

シーン4 叶向・瑠依


〇家(寝室)・回想・夜
叶向「なぁ」
瑠依「うん?」
叶向「瑠依がもし子供を育てるとするじゃん」
瑠依「なに、急に」
叶向「どんな事教えてあげたい?」
瑠依「うーん、僕は優しい子になってほしいから愛、かな」
叶向「瑠依らしいな」
瑠依「叶向は?」
叶向「俺も愛!どんな人のことも分かってあげようってする子になってほしい」
瑠依「確かに、そうだね」
叶向「…もし、もし俺らが胸張って生きれるようになったらいつかさ」
瑠依「叶向、僕に構ってくれなくなりそう」
叶向「ば、ばか。そんなわけないだろ」
瑠依「はっはは、冗談だよ」
叶向「瑠依も嫉妬とかするんだな」
瑠依「そりゃ、まぁ」
叶向「なんかうれしくなった」
瑠依「恥ずかしいからやめてよ」
2人〈笑いあう〉

シーン5 叶向・瑠依・結星


〇家(リビング)・昼
結星「さざんがく、さんしじゅーに、さんごじゅうご…」
瑠依「結星ちゃんはほんとにお勉強できるね」
結星「結星、もうさんのだんできるよ」
瑠依「えらいえらい」
結星「今日お買い物は?」
瑠依「そうだね、そろそろ行こうか」
結星「叶向も行くー?」
瑠依「んー?今日は僕とだよ」
結星「瑠依と叶向は」
瑠依「うん?」
結星「なにか悪いことしたの?」
瑠依「え…?それは」
結星「結星、叶向に行ってきますしてくるね」
瑠依「うん…」

〇家(叶向の部屋)・夜
結星「叶向」
叶向「ん?結星、珍しいな」
結星「何してるの?」
叶向「大学の課題だよ。俺、夢があるから頑張ってるんだ」
結星「夢、なりたいもの?」
叶向「そう、将来自分で叶えたいこと」
結星「結星も夢あるよ」
叶向「ほんとに?どんな夢?」
結星「秘密」
叶向「そっかぁ、でも結星はお勉強も好きだし優しい子だから大丈夫」
結星「そうだと、いいな」
叶向「なんか用事あった?」
結星「行ってきますって言いに来たの」
叶向「そうか!えらいなぁ」
結星「うん、じゃあ叶向、行ってきます」
叶向「行ってらっしゃい」

シーン6 瑠依・結星・おばさん


〇市場・昼
瑠依「おばさん、すみません。大根1つください」
おばさん「はいよ、120円ね」
瑠依「はい」
おばさん「あんた、いつの間に結婚したんね?」
瑠依「え?」
おばさん「最近子供連れて来とるだろう?」
瑠依「あ、あの子は…」
おばさん「お目目真ん丸でつやつやの髪やからきっとあの子、べっぴんさんなるわ」
瑠依「そう、ですかね」
おばさん「たまにはお嫁さんと顔出しに来るんやで。はい、おつり30円」
瑠依「ありがとうございます」
結星「瑠依、結星クレヨン欲しい」
瑠依「クレヨン?」
結星「さっき男の子が色いっぱいの絵見せてくれた」
瑠依「ほんと?お友達できたの?」
結星「ううん、お話しただけ」
瑠依「そっか、結星ちゃん鉛筆でしか描いたことなかったしね。
   買いに行ってみようか」
結星「うん!」

シーン7 ラジオ・叶向・瑠依


〇家・リビング

ラジオ「2022年3月10日、ラミアヴィア流星群が観測される予定です。
    100年ぶりとなるこの流星群。国民の期待が高まっています。」

叶向「ふーん、流星群だってさ」
瑠依「そうだね」
叶向「結星、連れて行ってあげたら喜ぶだろうなぁ!車借りちゃおうか」
瑠依「うん…」
叶向「瑠依?ぼーっとしてるけど大丈夫?」
瑠依「…ちょっと考え事してただけだから気にしないで」
叶向「珍しいな。そうだ、これ見てよ。
   結星がお星さまと皆って絵かいてくれたんだよ」
瑠依「…叶向」
叶向「ん?」
瑠依「僕達って、何か悪いことしたんだっけ」
叶向「え?急にどうしたの?」
瑠依「結星ちゃんに、聞かれたんだ。ずっとずっと引っかかってる。
   まだ小さい子に気使わせるなんてさ。僕、親失格…」
叶向「瑠依、それはダメだろ」
瑠依「だって」
叶向「だってじゃない。そんなこと言うのはダメだ」
瑠依「本当のことじゃないか、あの子に母親はいない
   普通をなに1つあげられないのに僕なんて」
叶向「瑠依、いい加減にしろ」
瑠依「やっぱり本当の親、探してあげた方がいいよ」
叶向「分かってるだろ?ただの迷子じゃない。結星は捨て子だったんだ。
   もし両親が見つかっても結果なんて目に見えてる。
   働かせられるんだぞ?
   あんなに勉強が好きなのに、
   結星がそうやって生きていった方が幸せだって言いたいのか?」
瑠依「そういうわけじゃない!ただ僕は」
叶向「俺たちがこんなんでどうするんだよ。二度というな」
瑠依「待って、叶向!」

シーン8 叶向・瑠依・結星


〇家(叶向の部屋)・夜
結星「叶向」
叶向「お、結星。どうしたんだ?」
結星「絵、また描いたの」
叶向「どれどれ…おぉ、今日も綺麗な星空だなぁ」
結星「ねぇ、りゅうせいぐんってなぁに?」
叶向「それはなぁ、空に降る不思議なお星さまのことだよ」
結星「動くの?」
叶向「そう。それを見ながらお願い事すると叶うっていわれてるんだ」
結星「ほんと?じゃあ結星の夢も?」
叶向「きっとお星さまが叶えてくれるよ」
結星「結星、りゅうせいぐん見る」
叶向「そうだな…もうそろそろいい時間だな。
   実は車お友達に借りたから一緒に特別なところで見よう」
結星「うん、お星さま見る」
叶向「よし、どっちが早いかな?よーいどん!」

〇家(瑠依の部屋)・夜
結星「瑠依、瑠依」
瑠依「結星ちゃん、どうしたの?」
結星「お願い事、しに行こう」
瑠依「叶向と行くんだろう?僕はお留守番係しておくよ」
叶向「結星、俺が勝っちゃうぞー?いいのかー?…結星?
   …ふーじゃあ久しぶりに今日は3人でお出かけだ!」
瑠依「え、でも」
叶向「さぁさぁ、瑠依、早くしないとお仕置きだぞ?」
瑠依「叶向…」
結星「瑠依、遅い」
瑠依「はっはは、ごめんごめん、すぐ準備するね」

シーン9 ラジオ・叶向・瑠依・結星


〇車・夜
ラジオ「さぁ、ラミアヴィア流星群観測まであと数分です。
    こちらではたくさんの人が集まっています__」
叶向「もうすぐなんだけど…結星、窓の外見てるか?」
結星「うん!みてる」
叶向「やばい、間に合わないかも」
瑠依「大丈夫、数分見れるから」
叶向「でも…いいところで見せてあげたいから」
瑠依「やっぱりお仕置き受けないとダメかな、僕」
叶向「はっはは!何言ってるんだよ。飛ばすか!」
瑠依「安全運転で頼みますね?」
叶向「分かってますって!」

〇山の上・夜
結星「わぁぁぁぁすごい…!叶向!瑠依!綺麗だよ!」
叶向「っふ、きれいだな」
結星「うん!ふっふふ」
瑠依「本当に星が好きな子だね、結星ちゃんは」
叶向「はじまりは瑠依が買ってきた絵本だろ?」
瑠依「あ、そうか。君と夜と星」
叶向「俺らなりにさ、たくさんの物を与えてあげられてるよ、きっと」
瑠依「うん、そうだといいな」
叶向「これから少しづつ、前に」
瑠依「叶向」
叶向「ん?」
瑠依「ごめん、それとありがとう」
叶向「ばか、照れるだろ」
瑠依「これからもよろしく」
叶向「おまえなぁ、本当に…」
瑠依「あれ、結星ちゃんは?」
叶向「わ、ちょっと目離したすきに」
瑠依「多分まだ遠くには行ってないはず」
叶向「探そう」

シーン10 叶向・瑠依・結星・男の子・施設の人


男の子「見上げてごらん夜の星を小さな星の 小さな光が
    ささやかな幸せをうたってる」
   〈歌:見上げてごらん夜の星を / 坂本九〉
結星「お歌、上手だね」
男の子「わぁ、こんばんは」
結星「こんばんは」
男の子「君も流星群見に来たの?」
結星「うん」
男の子「これはね、ラミアヴィア流星群って名前なんだ」
結星「あみあであ?」
男の子「難しいよね、僕もなかなか言えなかった」
結星「そう、なんだ」
男の子「うーん、君はお星さま好き?」
結星「うん、きらきらしてて綺麗」
男の子「僕も」
結星「自分だけの一番星は自分にしか見つけられない」
男の子「ん?」
結星「結星が一番好きなお話」
男の子「もしかして絵本?」
結星「え?知ってるの?」
男の子「小さい時に読んだ気がする」
結星「へへへ、そっか」

叶向「結星ー!」
瑠依「結星ちゃん!!探したよ…」
男の子「わ、君にはパパがいるの?」
結星「…うん」
叶向「あぁ、君。結星と一緒にいてくれたのかい?」
男の子「うん!お話してたよ」
瑠依「ありがとうね」

施設の人「すみませーん!ちょっと目を離したすきに…」
子供ガヤ「お星様綺麗だったねぇ〜」
    「帰るのやだぁ」
    「次はいつ来るのー?」など
男の子「あ、、」
施設の人「もう、勝手にどっかいっちゃダメって言ったのに…
     ごめんなさい、ご迷惑おかけしたんじゃないですか?」
瑠依「いえいえ、こちらこそお話してもらったみたいで」
叶向「ありがとうございました」
施設の人「あら、ご兄弟さんですか?」
瑠依「いえ…2人ともこの子の父親です」
施設の人「そうですか。素敵ですね」

男の子「結星ちゃん、今度僕たちのおうちおいでよ」
結星「いい…の?」
男の子「うん、僕達友達だから!」

〇車・夜
結星「パパたちはお願い事、何にしたの?」
瑠依「うーん、それはね…」
叶向・瑠依「秘密」

《後書き》

ご覧いただきありがとうございます。
この作品は一番声劇人生で思い入れがあるといっても過言ではない作品です。私は人と関わりながら生きていく中で違いにぶつかることは多々あると思うのですが、それが楽しい、面白いと思える人でありたいと思っています。そしてそれが私のモットーです。
その今の私の考え方をキャラクターに乗せて、物語に乗せて、言葉に乗せて使えられていたらいいなと思います。
また、これは一度音声化したことのあるものです。演者様にたくさん助けていただきながら、監督編集を務めさせていただきました。もしよろしければそちらも聴いてみてください。

2022.04.02
音葉 心寧

《設定資料》

※自己解釈を邪魔してしまう可能性があります。
 ご入用の際にのみご覧ください。

《原本・音声化作品》

《ご利用に関して》

こちらはフリー台本といたします。
利用規約をご一読の上でのご使用をよろしくお願いします。


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集