幸せな人生
先人の知恵の恩恵を受けて、ここまで上手くやってこられました。何かが足りないような気がすることもありますが、きっと足りなくても人生には差し支えのないものなのでしょう。
道を間違えそうになる前に教えてくれる人がいます。
暗くなる数時間前から街頭をつけてくれる人がいます。
どの道を行こうか考える間もなく近道を教えてくれる人がいます。
しかも私の人生には正確なマップがあって、経路も赤線で書いてあります。さらにGPSの現在位置表示付きです。
急に車が出てきたり、猫がいたり、思ったより遠かったり近かったりはしますが、概ねマップの通りです。歩きやすい安全な道です。
「いい人生」「素晴らしい人生」
を歩んでいます。
私は幸せ者です。
ただ一つ、言いたいことがあるとするならば、ずっと何かが足りないような気がしています。
周り道を知りません。
赤い線を外れたらどんな道があるのか知りません。
裏路地の景色を知りません。
行かなくてもいいと言われて通り過ぎた場所がたくさんあります。
心惹かれながらも通り過ぎた細道がたくさんあります。
もっとよく見たいと思いながら通り過ぎた風景がたくさんあります。
私に色々教えてくれる人が私にとってなんなのか考えたことがありません。
このマップがなんなのか考えたことがありません。
この線が最終的にどこで終わるのか考えたことがありません。
自分がこの道を進みたいのか考えたことがありません。
「いい人生」「素晴らしい人生」とはなにか考えたことがありません。
幸せとはなにか考えたことがありません。
一体何が足りないのかはわかりません。きっと元々あった何かが抜け落ちたわけではなく、必要なものを手に入れ損ねたのでしょう。
そもそもこの足りなさを埋めるものが存在するかもわかりません。
万人が平等に足りなさを感じていて、私にもきちんと足りなさが足りているだけかもしれません。
まあいいのです。このような世界に生まれてきた私は、どうしたってこの世界しか知ることができないのです。だからこのまま進みます。それが私の生まれてきた世界の全てで、そのことだけは誰も否定出来ないのです。
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