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建設業の職人が教えてくれたこと 「自分の仕事の前後を想像せよ」

「自分の仕事の前後を想像する」という教えは、建設業の職人から得た。とある住宅工事の現場で、壁のなかに断熱のため発泡ウレタンを仕込む職人が面白いことを教えてくれた。

「発泡ウレタンをとにかく吹き付ければいいなんていうメンタリティでやっていると、僕の後の工程を担当する人が困るんです。つまり、壁を張る職人さんの仕事がやりづらい。ほら・・・・・・発泡ウレタンの凹凸が激しいときっちり壁材を張りにくいじゃないですか。特に出っ張りは困る。壁を張る職人さんが発泡ウレタンを削らないといけないんですが、これって一仕事増えていますよね。だからキチッと僕らが削っておくことが大切だと思います」

建設現場の職人さんは、通例、担当現場ごとに細かく会社が分かれている。現場監督からしてみれば、一つの現場なのだが、各職人にしてみれば「俺の仕事はこの場所のこの工程。言われた通りにやるけれど、それ以上は知らねえよ」なんていうこともざらにある。

そうすると、A工程とB工程の間で「ちくしょーめが、前の工程のやつが馬鹿
やりやがるから手間がかかってやがるんでい」とB工程が愚痴れば、「これぐらいは後の野郎がチョチョッとやるってもんだろうがよ?必要なら現場監督が言ってくれやい?」とA工程も愚痴る。このようなズレがちょっとずつ積み重なっていくと工期がどんどん遅れていくというわけだ。

だからこそ、工事現場のスムーズな進行は現場監督の腕次第という側面がある。まさに板挟みだ。

現場の規模感や会社の方針により差異はあるけれども現場監督が、職人の発注に関わることもままある。そういうときに「いやあ●●さんがいるとスムーズに仕事が進むんですよね」と言ってもらえる職人のポジションは、工程の前後に対する想像力の賜物なのである。

このお話を聞いてから、私の書いた原稿に手を入れる編集者の手間に対して想像力を発揮するよう努力してきた。入れられた赤字をよりどころにして思いを馳せれば、どういう心配りで初稿を見ているのかだいたいわかる。「ふむふむ。これは次回では、赤を減らすために工夫できるな」と気づくのはエチケットだと思う。同じ指摘を二回も受けると私は切腹したい気持ちになる。

そして公開された原稿を見ると、本来私のやるべき仕事を編集者がやってくれていることがある。「やれやれ・・・・・・ま、自分でやったほうが早いんだけどさ。気づいてくんねーかーなー」という幻聴が聞こえる。地獄の穴が背後にぽっかり口を開けたような気分になるのでゾッとするのだ。これを見逃しているとサービス満点の若者にすぐポジションを奪われる・・・・・・。

とはいえ、「ごめんなさい。ありがとう」と思いながらも、単価によっては分担が曖昧だからそのまんまにすることもあるんだけどね。

ちなみに、自分の仕事の”前”を想像すれば、受注拡大のチャンスに気づく。要するに前工程の手落ちを見つけて吸収していくという手法も不可能ではない。まあ、やり過ぎると恨まれるのでその辺は工夫次第で。でも、前工程で自分がよりよい仕事を提案したほうが、お客さんファーストの思考かな?と思う。

タイムイズマネー。100円値引きよりも100円分の手間を背負ってくれたほうが嬉しい。「ありがとう」の気持ちを込めてお金を払いたくなりますね。

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