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otoshimon2000
2020年11月10日 21:31
なぜだ、と毎日のように思ってる。俺がせっかく全力で起こそうとしているのに、そんなことは気にも留めず眠り続け、あげくの果てに「また遅刻しちまうじゃないか!」と八つ当たりのように乱暴に俺の声を止める。俺が声をかけた時に起きていれば、ご主人様はゆとりをもって準備し、出かけることができるというのに。 なぜだ、、、。 少しでもご主人様の役に立てるように、「目覚まし時計」としての役割を果たせるように
2020年11月4日 21:32
その噂を教えてくれたのは、同じ大学に通う同級生の友人だった。チェーン店の居酒屋で、ゼミ合宿の打ち上げと称して2人で飲んでいた時だった。 「バックケリーのギターを聴いたが最後。もしも今の世界が気に入ってるんなら絶対に聴かない方がいい。問答無用で異世界へと引き込まれるからだ」 梅酒ロックをもう6杯も飲んでいるその友人は、いつもは寡黙なのだが、酒が入ると決まって饒舌になる。「また始まった」と鼻
2020年11月2日 15:18
「ピコーン」とスマホが鳴り、私の優越感ゲージが、また1つ増えたのを感じた。SNSを開いてみると、昨日あげた記事に「いいね~!」や「すごいね~!」などの反応が新たに沢山ついていた。コメントも多く「やっぱクミちゃんてすごい!尊敬しちゃう!」であったり「いいなー☆うらやましい」であったり、それらを読むたびに私の優越感ゲージは増えていき、輝きを増していく。表情が自然と緩み、あやうくヨダレを垂らしそうにな
2020年9月25日 22:48
トン、トン、トントン、 トン、トン、トントン、 金槌で釘を打ち込む音が、静かに響いている。 父は、今日も、いつもと変わらず黙々と棺桶を作っている。 汗をかきながら、集中力を途切れさせることなく、ただただ黙って手を動かし続ける父の背中からは、安易に触れてはいけないような、声をかけてはいけないような、殺気にも似た迫力が感じられた。 母は、そんな父親を誇りに思っているよ
2020年10月10日 13:43
青年の手から、白いハトが飛び立っていった。 ケガが完治したといっても、飛ぶのは久しぶりのことであり、初めはぎこちなく、慌てたように翼をバタバタさせていたが、本能的に飛ぶことを思い出したのか、やがて風に乗り、泉のある森の方へと飛んで行った。青年は、寂しそうに、誇らしそうに、ハトが飛んでいった空を眺めている。 そういえば人間は、白いハトを平和の象徴だとする考えがあるんだったな。ふと、そ
2020年10月31日 10:09
赤や青、緑や黄色のレーザー光線が、人間の神経を高ぶらせるように暗いホールを慌ただしく照らし出している。いつもはこんな場所には来ないのだが、後輩の野田がしつこく誘ってきたため、これも社会勉強になるかもしれないと思い直し、来てみたが、想像以上に騒々しい場所だった。まだ飲み物を頼んだだけなのに、一刻も早くこんな店から飛び出して、家に帰り愛猫の『みーすけ』を撫でたい願望が沸々とお腹の底から湧いてきていた
2020年8月16日 17:29
一人、ボーっと海を眺めていると、どこからともなく悪魔が現れ、「よお」と馴れ馴れしく話しかけてきた。黒のタキシード、ノリのきいた白シャツ、几帳面なまでに整えられた髪型、高級そうな革靴、そして端正な顔立ち。外見だけで考えるならば、金持ちで育ちのいい英国紳士のようだ。多くの人がそう思うだろう。しかし実際は違う。彼は悪魔なのだ。長い付き合いだから、どんな格好をしていようが、僕には分かる。悪魔は、何
2020年8月18日 11:04
「で、何か質問はあるか?」男は、タバコをふかしながら、そう尋ねてきた。サングラス越しだが、こちらを野獣のような目つきで睨んでいるのを感じる。ヒューッ、と甲高い音を立て、上空で大きな花火が開いた。学生時代の頃から、先生に「何か質問はありますか?」と訊かれる度、「ああ!早く何か質問しなきゃ!」と一人アタフタしていたのを思い出す。「質問もできないなんて,,,」と相手を失望させるのではない