菊莉涼音
モーニング・ノスタルジー ふと自分が起きていることに気が付いた。 ベッドの上で上体を起こしたままボーっとしていたらしい。薄っぺらいが保温性のある布団が脚にかかっているのを見つめる。チョコレート色の掛布団で、二つ下の妹と色違いで最近購入したばかりである。太陽の光が当たった柔らかい色で私の下半身を温めようとしている。 そんなことをふわふわ考えていると、突如ある焦燥が脳に殴り掛かった。 そういえば、今日は模試だ。土曜日を一日奪われる最悪な日程の。アラームが鳴る前に起きた?
思春期シルバー 最近よく耳にするようになったこれは誰が歌っているんだろうか。 スピーカーから流れているそのいかにも明るい曲について少し思考を巡らせてみたが、対して興味もなかったのですぐ頭の隅で気化する。今日の星座占いは一番だったはずだが、特別良いことは起きないまま日常が過ぎる。両手を叩きながらサルのような鳴き声で笑うセーラー四つを視界の隅に入れながら飲む牛乳はやっぱりいつも通り美味しくない。二学期が始まり九月になったというのに一向に秋へ向かう気配のない、蒸し暑さの残る教
愛情不器用 カーテンのついていない私の部屋は、いくらクーラーの風を送っても快適な温度になることはなかった。まだ午前の十時にもならないのに蒸し暑く、外からはミンミンゼミが一匹で喧しく鳴いているのが聞こえてくる。 今日は八月二十一日の日曜日。明日には夏休みが明け、学校が始まる。課題を終わらせてしまっていた私が夏休み最終日に何をしているのかといえば、漫画の速読だった。ずっと昔に完結した作品だが、実写化が決まったというニュースが昨日の午後報道された。完結したあとも根強い人気