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いつもあるもの、いましかないもの 【サバ缶とタケノコの味噌汁】

缶詰はとても便利なのでいつも何種類か買い置きしていて、どうしてもお得そうな3缶パックをつい買ってしまうものだから、あれもこれも欲張るといつの間にか缶詰だらけになってしまい、時々棚卸しをするよう心がけている。
ただ万一まだこんなのあった、と思うようなものが発掘されても賞味期限がまだまだ残っているところが缶詰の最大の特徴で、いざという時助けになりそれでいて期限で追い立てるということをまずしないから、本当にありがたい。

ツナであったり帆立の水煮、カニも料理に使えて便利なので手頃なものを見つければ買ってきて、あとはちょっと温めるだけでおつまみに最適なオイルサーディンも好き。この辺りの種類は流動的だけど、唯一サバの水煮缶だけは欠かさずに、それはやはり山形郷土料理のひっぱりうどんを知ってから。
冬場家にあった保存のきくものだけで作れるとして台所の知恵から生まれた家庭料理と聞く通り、本当に手軽においしく作ることができるうどん料理で、うどんのつけダレにサバ缶の身だけを使うからいつも残る缶汁が勿体無いなと思っていて、ある日味噌汁へ入れることを思いついた。野菜だけの味噌汁でもコクが出てうんとおいしくなる。

そしてまたある日、サバ缶を丸ごと具としても使う味噌汁がもうすでにあったことを知り嬉しくなった。合ってた、と。
それが信州郷土料理の「タケノコ汁」。これでいうタケノコは、一般的な孟宗筍の出盛りがすっかり過ぎた後のほんの短い間ほんの限られた量だけしか出回らない笹のタケノコで、ネマガリタケとか姫タケとも呼ばれる山菜の一種。
獲れたてなら生でも食べられるというほどアクが少なく、トウモロコシを思わせるようなほっくりとした香りと小気味好い歯ごたえがあってとてもおいしい。
でそのおいしいタケノコをサバ缶と何か野菜、卵なんかを入れてお味噌汁で食べるもので、野菜も特に決まりがなく具はなんでも好き好きという自由さがまたとてもいい。

山に入ってこのおいしいタケノコを見つけて帰ったら、出汁を引く間も惜しく出汁代わりにもなるサバ缶と家にあった材料を一緒に煮て味付けはもちろん信州味噌、とパパッと作って食べたようなイメージが浮かんできて、ますますサバ缶が好きになった。

◾️サバ缶とタケノコの味噌汁の作り方◾️

【使った材料】
●サバ水煮缶詰…1缶、缶汁ごと全部使用
●ネマガリタケ…5本〜、食べたいだけ
●じゃがいも…1個〜
●玉ねぎ…1個〜
●豆腐…1丁
●水…500〜700g
●味噌…60gくらい
●卵…1個〜
今回は生のネマガリタケ、中でも山形で採れた「月山筍(がっさんだけ)」が手に入ったので使いました。(月山筍は山形の産地での呼び名です)生が手に入らないときは水煮もありますが、いずれにしてもどこでも買えるというものではないので、手に入った時はぜひ試してみてください。

①ネマガリタケの下準備をします
生が手に入った時は、まず皮をむいてから節の近くの固い部分を取り除く下準備が必要。
なかなかやる機会はないかもしれませんが、せっかくなので参考まで。

⑴まず皮をむく
ピーラーを使って手がかりを作ると簡単で、中の身がうっすら見えてくるくらいまできたら、そこからは手でぐるんと全部むく。

⑵節の近くの固いところを除く
先から6〜7cmくらいまでは問題なく柔らかいのでそのまま切って、太くなってくると節の近くに固い部分があるので除きながら切っていく。
節のすぐ下に軽く包丁を当ててみるとなんとなく切るのに力が要りそうな固さを感じる部分があって、そこから刃をトントントントンと少しずつ下に下にと当てて行くと今度は簡単に切れそうな柔らかさを感じるところが出てくるのでそこで切り落とす。
これを繰り返しながら、節の近くの固いところは除いて、柔らかいところだけを使います。

ぱっと見煮ればなんとかなりそうな感じもして除いた部分も後で試しに煮てみたものの、結果は筋っぽい残念な感じで、せっかく生を使うなら少々勿体ないけどおいしいところだけ食べることをおすすめします。

②煮始めつつ、他の具材を準備します
タケノコが切れたらさっそく水と一緒に鍋に入れて煮始める。
アクが少なく柔らかいから下茹で不要、このあとサバ缶が入るので出汁も不要で、煮崩れもしないのでまず先に。

玉ねぎはくし形に切って長さを半分に。
じゃがいもは皮をむいてから3cm角くらいやや大きめの一口大に切って、少しの間水に浸けてから水気を切り、それぞれ鍋に足します。

じゃがいもを切ってから水に浸けるのは、切ったそばから出てくるデンプン質を洗うことで汁の仕上がりをすっきりさせるため。
一般にスーパーで片栗粉の名前で売られているのは実はじゃがいもデンプンで、料理のとろみ付けによく使う。だからとろみが要らない時にはさっとでも除いておく方がすっきりするのと、この一手間でやや煮崩れもしにくくなる。

じゃがいもが鍋に入ったら煮汁があまり揺れないくらいの弱めの火加減で煮ていきます。グラグラさせればじゃがいもが崩れて汁にザラつきが出る、静かな優しい火加減でちゃんと火は通ります。

③続いて、サバ缶を缶汁ごと投入します
野菜に透明感が出てなんとなく火が入ってきた感じがしてきたら、この料理の重要な鍵となる出汁であり具でもあるサバ缶を缶汁ごと全部加えます。
この缶汁こそ旨味のもとだから残さず全部入れて、身をほぐすほぐさないはお好みで。私はごく軽めにほぐしました。

魚の缶詰の素晴らしさは、もう骨までほろほろに柔らかくなっていて丸ごと食べられること。だから長く煮込む必要はなくて、サバ缶が入ればもう完成が近い。
続いて豆腐も食べやすく切って加え、豆腐が温まってじゃがいもが柔らかくなるまでもう少し煮ます。
浮いてくるアクが気になれば一度くらいは引くけど、サバのおいしい金色の脂まで取ってしまわないように、あまり神経質にならなくて大丈夫。お味噌汁だから。

④味噌を溶きます
サバ缶にもともと塩気があるのでそれを差し引いて、いつものお味噌汁より少なめに加減してお味噌を溶き入れます。

普段から使っているのも信州味噌、中でも溶く時に網で漉さなくていい粒のない「こしみそ」タイプを使っています。
粒を残している味噌の方が香りがいいとも聞くけど、そのまま溶き入れられる手軽さが今の自分に合っていて、あえて「こし」。
味噌は地域性が高くてとても面白い食材なので、メインの信州味噌の他、興味を惹かれるものは臆せず買って食べてみる。最近は小さいパックで買えるものも増えたから嬉しい楽しい。

⑤で、完成です
味噌を溶いてから再び沸いたら卵を割り入れて、好みの固さに固まったら盛り付けます。卵入れる入れないもこれまた好き好きでどうぞ。

このコクのあるお味噌汁には七味唐辛子がよく合います。
長野、七味、といったら唐辛子の缶の善光寺門前・八幡屋礒五郎の七味唐からしが有名。
辛味だけじゃない生姜入りの香りも爽やか。細かな粒は赤の分量が多めで、一振りでぱっと華やかさも出る。

この日はタケノコ汁と一緒に、もう一品サバ缶を使った焼きおにぎりを作りました。
まず温かいごはんにサバ缶の身とあれば刻んだ青いネギなんかを混ぜ込んでしっかり目ににぎり、最初はそのままおにぎりの表面が乾くまで炙る。

そうしたら醤油を酒で少し薄めて七味を振り入れたのを何度か繰り返し塗りながら、両面をこんがりと焼き上げて出来上がり。
焼きおにぎりの大事なポイントは、まずおにぎりを素焼きすること。にぎったところにいきなり液体を塗ると、ごはんがバラバラほぐれて崩れます。

残ったサバ缶の缶汁は味噌汁の方に入れてしまえば、無駄もなく。その分お味噌を減らすことも忘れずに。
しかし焼きおにぎりって久しぶりに作ったけど、おいしいですね。地味に贅沢。

いつもあるものと、今しかないもの。両方あるから楽しめる初夏のお味噌汁。
旬が過ぎたら、またその季節を待ちわびながらその時々のものを使えばいいし、それが暮らしかなと思う。

それでは今日はこのへんで。
最後までお読みいただきありがとうございました。

[サバ缶とタケノコの味噌汁と焼きおにぎり]の動画をYouTubeに投稿しています。合わせて見てもらえたら嬉しいです。


お読み頂きありがとうございます。 これからもおいしいお料理とおいしいお酒をたくさんお届けします。