『作りたい女と食べたい女』の「同性カップルは家を借りられない」について
(※この記事は以前ブログに書いた上記記事と内容がかなり被ってしまいました。その点はご容赦ください。)
テレビドラマ『作りたい女と食べたい女』(以下、『つくたべ』)終盤で同性カップルの極度に悲観的な住宅事情が描かれました。テレビドラマ版は原作にはないオリジナルシーンが多いのですが、当事者不動産屋へ足を運んだ第29回はだいたい原作通りの内容です。
テレビドラマ版は原作以上に入居希望の条件に触れておらず、「同性カップルだから相談することすらできないんだ」と非常に雑な理屈をぶん回して、同性カップルの困難を描いていました。
そういった内容を取り上げること自体に意義があると言えばそうではあるのですが、原作が公開された際に「こうあまりにも悲劇性を煽ってばかりいると同性との交際自体を忌避する同性愛者が出てきてしまうのではないか」という指摘もあり、そういう意味で『つくたべ』はマイノリティを娯楽的に悲劇消費していると言えます。
LGBTと住宅の問題に関しては業界では前から認知されている話でもあり、業界大手であるSUUMOが上記の動画をyoutubeに投稿したのは2017年となっております。
動画で紹介されている調査結果では7.1%の回答者が同性同士を理由に断られたと回答しています。
とはいえ、女性カップルのエッセイ漫画などを読むと、同性同士を理由に入居を断られたという実例を見ることがなかなかありません。面白くない話だから触れないのか、ただ単に問題なく済んだから触れる意味がないのか、よくわかりません。商業・アマチュア、どちらでも見ることが珍しいです。
そもそも、『つくたべ』でも同性同士を理由に入居を断られたという明確な描写は、ドラマでも原作でも一切ありません。ルームシェア可でも立て続けに断られ続けるのは、どう考えても希望条件と収入とが見合ってなさすぎるからであり、それを同性愛者差別にすり替えているのは各方面に対して非常に侮辱的な振る舞いです。現に、原作・ドラマ共に「これ、ファミリー物件でしょ」といったところに新居が決まっており、あれではLGBTフレンドリー不動産屋でも困るでしょう。
上記のコラムはその方面で長く活動されている永易至文氏のコラムですが、「どこまで本当か」と書いているあたりに見解の相違の多さを感じます。
男性同士は男性にマナーの悪い人が多かったり反社を疑われたりする理由もあるでしょうし、一方女性同士だと経済面の問題がクローズアップされるのは男女での社会的格差の問題が大きいでしょう。
永易至文氏のコラムは同性カップル以外の拒否理由例も紹介しており、この例で言えば『つくたべ』の主要人物は自宅でやたら騒ぐ悪質な住人であり、その正体がバレていればオーナーが貸すことはないでしょう。
他の代表的な入居を敬遠されるケースに、外国籍の人や独居老人などがあり、これからの日本ではより注目される問題となっていくはずです。度々多様性を掲げて得意顔だったドラマ『つくたべ』が、作品時間を持て余しながらもそのあたりまったく触れずに同性愛者だけに起こる悲劇かのように強調するのは、実にみっともなく感じます。
脱線しましたが、当事者不動産屋に行った途端おいしい物件にすぐありつけたのはあまりにファンタジーであり、「現実」というワードを出してきた『つくたべ』がとるべき描写ではなく、その上ドラマ版までもがそれにそのまま乗ってしまうのは理解ができません。せめて決まった新居のダメな部分を強調するなど、現実の成人女性らしく部分的には妥協もして決めたように改変すべきだったと思います。
それと個人的に最も気になるのが「同性カップルはすぐ別れると思われる」論です。「ケンカして片方が出ていく時に支払いが滞って困るからルームシェア希望者はお断り」というのはよく見聞きする話ですが、「同性カップルはすぐ別れる」はどこから出てきたのでしょうか。
ぶっちゃけた話、「同性カップルはすぐ別れる」と最も言っているのは当事者自身であり、日本で同性愛者に対してそこまで高度な理解している物件オーナーは数がかなり少ないはずです。
まあ、『つくたべ』のセクマイ関係の元ネタは何故か欧米に集中しているので、おそらくはそこも欧米の議論からてきとうにつまみ食いしているのでしょう。
だいたい、原作『つくたべ』4巻で「参考文献」として出してきた「お互い本名も知らない者同士の女子4人でいきなり一軒家ルームシェア」と比べたら、女子2人で集合住宅1室借りるのなんてまだ難易度低いだろうと思わなかったのでしょうか…?