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太陽がまぶしかったから。

目覚めて最初にすること。 窓を開ける。 そろそろ春が安定してきた。相変わらず空は気まぐれなようだけど、穏やかに落ち着いた陽気は安心できる。 空は、ペンキ用ローラーでサァーと光の帯を引いたみたいにまぶしかった。 怠惰に遅めな起床では、朝はすでに一巡目を終えている。ラジオ体操より早いスズメの喉鳴らしが燦々陽光に照らし出され、追いやられ、朝日第2幕、薄暮までの眩耀がステージの中心に立っている。 耳が被写界深度を広げると、家々の波打つ屋根瓦の向こうから、コンクリートを掘り返している姿をとらえた。空にこだまする機械の連打は遠くのほうで拡散され、聴覚を惑わし、発信源を攪拌する。 社会はすでに動き出している。動き始めた者たちはそれぞれ背筋を伸ばし、仕事の道筋を伸ばし、汗を流す。伝う汗が見える。どこの人がどんなことをしているのか知りもしないくせに、汗が見える。 あれ? 音が止んだ。 静寂。 音なしの空白。 無音。 再開は? なし。 待つ。 でも始まらない。 音のない世界が続く。 まだ無音が終わらない。 音のない世界が続くと、耳が無音を嫌うように耳鳴りを代わりに当ててくる。 耳鳴りは耳の目眩。クラリと意識の地が滑り、目が他所をとらえる。 すると引いたカーテンが、赫々たるカンバスに姿を変えている。 ![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/49567904/picture_pc_e0ab661ac0f8fb4cda2d093263233c5b.png) この無音、本当に無音なの? もしかしたらこれは、粉々に砕けた音の微粒子が堆積したもののせいかもしれないよ。海のように広がる音の微粒子の凪が、音という音を覆っている。音を塞ぐ、耳にはできないけどそこに在る音のカーテン。 まさか。 朝起きて最初にすること。 窓を開ける。 嗅ぐ、見る、聴く。 いつもと同じ、凪のような朝。 街はずれの鉄橋を渡る鉄輪の擦過音はまだ聞こえない。なぜなら薄暮まで待たないといけないものだから。 でも、どうしてだろう? そいつは朝日第3幕に入って初めて許される演目だからなんじゃない? だとすれば。 やっぱりね。 朝の無音は気の迷いの幻覚。その正体は堆積した音の微粒子。街を覆う音のヴェールが、聞かせる音をより分けているんだよ。でなけりゃ、電車が奏する鉄橋協奏曲が陽が傾くまで待たされるはずがない。 異邦人は、あの時から間違ってはいなかった。ずっと正しかったんだ。 それは太陽のせいなのさ。

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