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書店員による出版界の危惧話と直後。

A「出版不況じゃない? コミックを持たない出版社って、今後ますます経営が厳しくなっていくんじゃね?」
B「出版社、どんどん潰れていってるからね」
A「生き残るのは、売れるコミック持ってるところだけだよ」
C「あと、高価格少量出版しているところ」
A「あ、そだね。3000部も刷れば元を取れる出版物を出してる出版社。ほとんどが図書館に納入されるっていうやつ」
B「ロングテイルってやつ?」
C「そうそう。バカ売れする、って言っても昨今は滅多なことじゃミリオンセラーにならないけれど、たくさん売れる書籍が存在する一方で、少量部数勝負の出版物が遠浅の海にみたいに沖合いどこまでも尾を引いてつづいている、そうしたはるか沖合の遠浅の海で勝負をしている出版社の出版物」
A「ふうん。ここにきて、ある時期目の敵にしていた図書館と出版社が結託しはじめてるってことなのね。でもさ、だとしたら書店ていちばん危なくね?」
B「漫画の売れ行きに翳りが出たら、いよいよでしょうね」
C「書店数もピークの三分の一まで減っちゃっているし、いよいよかもね」
A「オレ、図書館司書の資格取りに行こうかな」
B「いいかもね。あたしゃ理系出身だからネットのほうへの転身がいいかなあって」
C「出版社に、ってのはどう?」
AB「ないない。火中の栗を拾いに行くだなんてこと、無謀すぎてありえない」
C「震源地にはつかず離れず、適度な間合いをとっていつでも抜けられるよう、様子を見ながらちまちまやるってのが今できる最良の選択ってことなのかもね。さあ、ボクは何をしようかな」
A「まだ決めていないの?」
C「書店がもうひと段階減ったところで、ヒュナム堂書店みたいな本屋さんをやれればいいなと思っている。御書印帳の対象書店」
B「その手はありだね。わたしたちってもともと本が好きでこの世界に入ってきたわけだから、ほんとうのところを言えば、本から離れたくないもんね。書店が減って枯渇した市場に個性的な本屋さんを作るっていいアイデアだと思うわ」
A「じゃあ、一緒に独立する?」
C「いや、それはやめておこう。本好きだけでやったって、所詮は自己満足、いい本は売れて欲しいけど、いい本だけで商売は成立しないこと、さんざん思い知らされてきたじゃないか。カフェや古本屋との併設とかは今じゃ当たり前だけど、書店に副業させるようなやり方を新たに模索していかないといけないと思っているんだ」
B「そうねえ、なにがいいかしら?」
店長「意見交換会は否定しないけど、あと5分で開店なんだよね。準備できてる?」
ABC「たいへんだ、急がなきゃ。すっかり忘れていたもんね、開店のこと」

 寸暇を惜しんで考えたい出版業界の今後。風前の灯みたいに言われる出版世界だけど、そこに生きたい人の夢のような希望とひたひたと忍び寄る現実の危惧。崖っぷちに立たされているのは今や紛れのない事実である。労多くして実りの少ない業界なれど、塵にも満たない誇りで生きていける世界でもある。清貧に生きるか、忍耐の末死すか。謀反で他業界に鞍替えするか?? 書店員は今日も実にはならない夢を語り、目の前の現実に入荷したての書籍を区分けする。

A「取次がまた変な本を送ってきた。棚にも並べられないからこれらは即返品」で閉じられる、配送されたての段ボール箱。

 書店は書店で、刹那の真剣勝負に生きている。

B「紙の手ざわりとインクの匂い、体に染み入っているからね」
C「新しい電子ブックが委託で入ってきたけど、レジ横に置いておく?」
A「いらないだろ、天敵みたいなものだろ、それ」

 売って経営の足しにしたいが、本音は複雑な電子書籍デバイス。仕入れの権限を現場に任せた店長は、渋い顔で現場の判断を見守っている。

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