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〜愛されているのはわかるけど〜

 感情のどこを、あるいは理論的な思考のどれを言葉にするのか(自然に)、もしくはしているのか(意図的に)、人によって違っている。外見の作り方やしぐさ、所作もそうだが、発せられる言葉もまた人を知るうえで注意深く観察すべき重要な調査項目であるということだ。
 
 太郎くんはいっつも内側から湧き出る感情を皮膚という外壁の内部に溜め、膨らませ、瞬時に放出し体現することで自己を安定させた。つながるよりも爆発と集約を繰り返すことで、結果として社会が彼をつなぎとめた。言葉は端的で抽象的で、意味は表現物で表し、そのことでコミュニケートをした人物だった。世の中にはこういう言葉使いがいる。
 
 修くんは幼きころから湧いて出る興味の対象物を片っ端から記憶にとどめる能力に長けた子だった。文字をつなげ文章を成し、視覚も聴覚も的確にテキストに置き換える術を身につけ、言葉をもって理解しあうことを善とする言語能力の勇である。テレビ番組はこぞって彼の能力を視聴率に結びつけようとし、彼はマスメディアの力を利用して言葉のもつ力の流布に努めているようにも見える。言語能力の高さこそコミュニケートの最善策とする。世の中にはこういう言葉使いもいる。
 
 思考回路もしくは感情回路は、その成り立ちによって、発せられる言葉が違ってくる。
 
 人は、独自の言語圏で類を見分け群れを作ったり、観察者側にまわったり、果敢な異種言語交流により化学反応を期待したりする。
 
 そのことをまず腹に据えて取り組むべきものである。
 
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 って、お父さん、こんなのでいいの?
 宿題は『ことばについてかんがえてきなさい』なんだよ。こんなんじゃ、先生だけじゃなくって、僕にもちっともわからないんですけど。
 それにこのまま提出したら、すぐにバレちゃうじゃん。
 
ーーーーある学者の息子の日々の苦悩より。その一コマ。〜愛されているのはわかるけど〜

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