次は僕の番。
広げる翼に庇護されていた幼少時代、母は見上げる存在だった。それが今や片手で抱き上げられるほど小さい。あれでは手が届かない。
棚の上に乗せられた半分ほど残るロールのビニール袋に手を伸ばし、一巻きを取り出してホルダーの横にひそかに添える。母の手はもうトイレットペーパーを乗せた棚に背伸びをしても届かない。
バトンは僕に渡されたのだと思った。前走者から引き継ぐものの手応えを、後方に構えた左の手のひらがとらえている。次は僕の番。受け取ったバトンを右手に持ち替えて、走り切らなければならない。
走り切った先のことを考えるのはよそう。そこに後送者が待ってくれているかどうかなんて現時点でははかり知れないし、居てほしかった者が留まってくれている可能性も薄れていく。
勝負はいつだって不確定で、不安にさせられてきたじゃないか。それでもとにかく今度は僕が目の前に現れたトラックを走る役を授かったのだ。
役割というものはこのように、順次、引き継がれていくものだ。