エッセイ「パッケージング健康法のすすめ」
ブライアン・イーノの「Baby’s on fire」という曲を何度も聴いているうちに、これはAとB♭の二つのコードを行ったり来たりしているだけだと気づいた。「だけ」と思わず言ってしまったが、その行ったり来たりの中にイーノは豊かな英語の語彙を詰め込んで名曲にしている。どの句も異なったリズムを持ち、歌詞をすべて書き写すに足ると思う(私はやった)。そののちに、それだけでは飽き足らなくなり、自分でもそこに創作した英詞を当てはめてみることにした。10日ほど続けたが、自分のボキャブラリーがあまりに貧弱すぎて、「もう作れん!」となった。
その次に、じゃあこれを日本語の曲でやってみようとなった。鬱のときはとにかく苦しいので、何か創作できることは喜びなのである。ほどなくしてウルフルズの「ええねん」がいいのではないかと思った。例えばこんな感じに歌詞を即興で作ってみる。
お酒飲んでもええねん
タバコ吸ってもええねん
トイレ行ってもええねん
寝転んでてもええねん
どうだろうか? いかにクリエイティブと無縁の人でも、これくらいはできるんじゃないだろうか。私はこれを「パッケージング健康法」と名づけたい。ある決まった型があり(繰り返されるコード進行や文字数制限)、その中に言葉を当てはめていくだけで、あら簡単誰でもクリエイションができるというわけである。私はこれを特にうつ病の人に勧めたい。「ええねん」を知らない人はまず一回聴いて(それだけでも元気出ます!)そのあとに思いつきで当てはめてみること。クオリティはどうでもいいです。とにかく産出することが健康、少なくともうつの緩和につながります。
告白しておくと、私は元来シャーマン体質なので、頭の中に色々な言葉が次々に降って(浮かんで)くる。「ダヴァイシャヤ奉公」とか「ノックス乙右舷」とか、存在しない言葉もいくつでも浮かぶので、かつてはそれらを「言礫」(言葉のつぶてと書いて「げんれき」と読む)という名のもとに何百個もまとめていたが、ある本でそれが統合失調症の人にありがちな「ネオロジスム」(新しい言葉を造語すること)だと知って、それ以来パッタリ嫌になって辞めてしまった。
それでも続けているのは、架空大学の架空卒業論文づくりである。これもひとつのパッケージング健康法である。ランダムに例を出せば以下のようなもの。
プノンペン独立磯遊び大学 卒業論文
「夏目漱石『三四郎』は何文字かーーパソコンを一切使わないで行った考察」
北里もろみ醤油一気飲み大学 卒業論文
「「岸井」とか「伊地知」は、母音にして読むと「いいい」になっちゃうな、という発見についてーーその哲学的射程の深さ」
などである。間違ってもこれが面白いとか芸術的に優れているなどというつもりはない。こういうのが何百個も浮かんでくるから、仕方なく書いているだけのことである。書いては、母にLINEで送りつける。母はハハハと笑ってくれるので、私の味方である。味方がいない人はnoteやXで呟いてみるといいだろう。この健康法が多くの人に広まると嬉しい。