魔法少女の系譜、その144~『チャームペア』を八つの視点で分析~
今回も、前々回、前回の続きで、セイカのぬりえ『チャームペア』シリーズを取り上げます。
八つの視点で、『チャームペア』シリーズを分析します。
[1]魔法少女の魔力は、何に由来しているか?
[2]大人になった魔法少女は、どうなるのか?
[3]魔法少女は、いつから、なぜ、どのように、「変身」を始めたのか?
[4]魔法少女は、「魔法の道具」を持っているか? 持っているなら、それは、どのような物か?
[5]魔法少女は、マスコットを連れているか? 連れているなら、それは、どのような生き物か?
[6]魔法少女は、呪文を唱えるか? 唱えるなら、どんな時に唱えるか?
[7]魔法少女の魔法は、秘密にされているか否か? それに伴い、視点が内在的か、外在的か?
[8]魔法少女は、作品中に、何人、登場するか?
の、八つの視点ですね。
ただし、『チャームペア』第一期の『リリー&マリー』は、魔法少女ものではありません。パウロという超常的なイヌが、マスコット的に登場するだけです。
このため、以下の分析では、基本的に、『チャームペア』第二期の『キャシー&ナンシー』についてのみ、取り上げます。『キャシー&ナンシー』は、ヒロインの一人が、魔法少女ですからね。マスコットの部分だけは、『リリー&マリー』も取り上げます。
[1]魔法少女の魔力は、何に由来しているか?
『キャシー&ナンシー』では、男装の少女キャシーが、魔法少女ですね。彼女は、代々、家に伝えられてきた「妖精を呼ぶベル」を持ちます。このベルを使って、妖精を使役することができます。ベルという魔法道具を持つ、魔法道具型の魔法少女です。
「代々、家に伝えられていたものが、じつは、魔法道具だった」という設定は、『ぐるぐるメダマン』と似ていますね。
『メダマン』では、ヒロインの一人、高坂マミが、魔法道具型の魔法少女でした。彼女の家に、百八個の水晶でできたネックレスが伝わっていて、それが、おばけ(=妖怪)とつながりがある魔法道具でした。
時系列から行きますと、『キャシー&ナンシー』の登場する直前に、『ぐるぐるメダマン』が放映されています。ひょっとしたら、「代々の魔法道具」という発想は、『ぐるぐるメダマン』から得られたのかも知れません。確証はありませんが。
高坂マミの家は、当時としては標準的なサラリーマン家庭で、とりたてて由緒ある家には見えませんでした。
キャシーの家は、代々の貴族なので、魔法道具の一つくらいあっても、あまり不自然ではありませんね。もし、「代々の魔法道具」という発想が、『ぐるぐるメダマン』から得られたのなら、ここが改良されています。
さらに、おばけ(=妖怪)ではなく、妖精と関係ある道具にすることで、女児向けらしいメルヘンチックさを出しています。
[2]大人になった魔法少女は、どうなるのか?
キャシーは、肉体的には、普通の人間なので、普通に成人するでしょう。
魔法道具のベルは、これまで、彼女の先祖たちがそうしてきたように、いつかの段階で、彼女の子孫に手渡されるのではないでしょうか。
ただ、キャシーの場合、魔法少女であることとは関係ないところで、無事に成人できるのかどうかが、案じられます(^^;
『キャシー&ナンシー』の舞台は、二十世紀初めくらいのヨーロッパだろうと考えられます。まだ、性別分業意識が強かった時代です。その時代に、キャシーが、「男装の女性」という自分の生き方を、成人後も押し通せるでしょうか?
キャシーに兄弟がいれば、兄弟が貴族の家を継ぐのでしょうから、一人くらい、「変わり者の娘」がいても、何とかなりそうです。
けれども、設定を見る限り、キャシーに兄弟はいません。一人娘のようです。となれば、当然、キャシーが婿を取って、家を継ぐことが期待されるでしょう。
二十世紀初めの貴族社会に「男装の女性」を奥さんに欲しがる男性がいるとは、考えにくいですね(^^;
おそらく、キャシーは、親をはじめとする周囲からの「普通の女性になって、婿を取れ」攻撃に、激烈にさらされるでしょう。それに屈するのか、あるいは、あくまで自分の生き方を押し通すのか……どちらにせよ、キャシーは、深刻な葛藤に悩むはずです。それは、自殺しかねないほどのものだと思います。
キャシーのネタ元になった『ベルサイユのばら』のオスカルが、このような親からの圧力に悩む場面があります。それまで、オスカルを男性として育ててきた父親が、突然、「女性として結婚しろ」と言いだします。
悩んだ末に、オスカルは、軍人として、それまでと同様に「男装の女性」として、生きることを決意します。父親に紹介された婿候補との縁談を、蹴り飛ばします。
時あたかも、フランス革命へと向かう時代でした。男装の麗人オスカルは、その歴史のうねりの中に飲み込まれます。
キャシーに、オスカルほどの強さがあるでしょうか?
本当に、「ぬりえ」だけではなくて、アニメ作品で、キャシーの葛藤や成長を見てみたかったです。ナンシーとの関係が、先行きどうなるのかも、気になりますよね。
[3]魔法少女は、いつから、なぜ、どのように、「変身」を始めたのか?
キャシーは、変身はしません。
[4]魔法少女は、「魔法の道具」を持っているか? 持っているなら、それは、どのような物か?
先ほどから書いているとおり、キャシーは、「妖精を呼ぶベル」を持ちます。このベルで呼べば、妖精がやってきて、魔法で、いろいろなことを解決してくれます。
[5]魔法少女は、マスコットを連れているか? 連れているなら、それは、どのような生き物か?
キャシーにもナンシーにも、ペットの動物がいます。それらの動物は、ごく普通の動物で、超常的な要素はありません。
……のはずだったのですが、『キャシー&ナンシー』では、途中で、ペットの動物が入れ替わっています。設定が変わりました。
キャシーのペットは、サルのビッキーからウサギのラビタンに替わります。ナンシーのペットは、子グマのリッキーから子ヒツジのチャップに替わります。
ラビタンとチャップは、どちらも服を着ていて、人間の言葉をしゃべります。いきなり、「魔法少女もの」のマスコットっぽくなります。
キャシーとナンシーのペットが、ラビタンとチャップに替わってからも、普通のネコやウマなどの動物も、登場します。つまり、『キャシー&ナンシー』の世界は、あくまで普通の人間世界であって、世界自体が、「魔法の国」に変わったわけではありません。ラビタンとチャップだけが、超常的な動物です。
なぜ、ラビタンとチャップがそうなのかは、まったく説明がありません。もしかしたら、もっと不思議要素を出して、「魔法少女もの寄り」の作品にしようとしたのでしょうか。
魔法少女ものではない『リリー&マリー』に、なぜか、超常的なマスコット的動物が登場します。パウロですね。イヌなのに、シャーロック・ホームズにそっくりな服装をしていて、パイプまでくわえています。二本脚で立って歩き、人間の言葉をしゃべります。
『リリー&マリー』には、パウロについて、合理的な説明は、一切、ありません。「そういうもの」で押し通されています。リリーもマリーも、大して驚きもせず、パウロの存在を受け入れています。
ここで興味深いのは、「インバネスコートに鹿撃ち帽にパイプ」という、シャーロック・ホームズの服装イメージが、パウロに表われている点です。昭和五十一年(一九七六年)頃の日本に、ホームズのこのイメージが、すでにあったということですよね。
少なくとも、受け手の子供たちにはなくても、作り手側には、あったことを示します。
じつは、ホームズのこの服装、原作の小説には、言及がありません。『ホームズ』シリーズに人気が出て、たくさんの挿絵が描かれたり、演劇化されたりするうちに、いつの間にか、固まったイメージです。
パウロは、日本における「シャーロック・ホームズ」のイメージ受容について教えてくれる、貴重な存在です。
[6]魔法少女は、呪文を唱えるか? 唱えるなら、どんな時に唱えるか?
キャシーは、呪文を唱えることはありません。
[7]魔法少女の魔法は、秘密にされているか否か? それに伴い、視点が内在的か、外在的か?
キャシーの魔法道具であるベルは、代々、家に伝わってきたものです。ということは、一族の間では、ベルのことは知られているはずですね。
ナンシーも、ベルが「妖精を呼ぶ」ものだと知っています。もしかしたら、キャシーとナンシーが住む村の人たちも、古くからいる人は、知っているのかも知れません。この点は、描写がないので、わかりません。
キャシーがベルを使うのは、一人でいる時か、ナンシーと二人でいる時だけです。おおぜいの前で、公然と使う場面がないところを見ると、ある程度は、秘密にされているようですね。
ぬりえの場面は、基本的に、キャシーまたはナンシーがいる場面ばかりです。ベルの秘密は、二人に共有されているため、二人のどちらかの視点で、話が進みます。
[8]魔法少女は、作品中に、何人、登場するか?
魔法少女は、キャシーだけです。ナンシーのほうは、普通の少女です。
これまで、キャシーのことばかり書いてきましたが、じつは、ナンシーも、魔法と、まるで関係がないわけではありません。ナンシーの家の花壇には、いつも裏の湖の島から妖精が来ていて、妖精の魔法で、一年中、花が咲いています。
といっても、ナンシー自身が、直接、妖精とあれこれ交渉して、魔法を使えるわけではありません。むしろ、ナンシーは、いたずらされることを恐れて、妖精からは距離を取ることが多いです。
こうして見てくると、『チャームペア』シリーズには、「マスコット的動物が登場する」、「妖精たちの棲む島がある」など、のちの「魔法少女もの」の萌芽が見られますね。特に、『キャシー&ナンシー』は、そういう要素が多いです。ちゃんと「魔法少女もの」ですしね。
でも、それは、二〇二〇年現在だから、見えるのだと思います。一九七〇年代には、あまたある「女児向け遊び道具」のぬりえの一つに過ぎませんでした。
二〇二〇年現在では、ほとんど忘れられていますが、のちの「魔法少女もの」につながる作品として、ここに書き記しておきます。
今回は、ここまでとします。
次回は、『チャームペア』とは、別の作品を取り上げる予定です。
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