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魔法少女の系譜、その64~『はるかなるレムリアより』と口承文芸の続き~


 今回も、前回に続き、『はるかなるレムリアより』を取り上げます。
 口承文芸において、『はるかなるレムリアより』と似た作品は、あるのでしょうか?

 まったくないとは、言いきれません。
 個々の要素、例えば、「ヒロインが過去から転生してくる」、「ヒロインは、超常的な力を持つ」、「ヒロインは、戦闘少女である」といった点だけを見れば、相当する口承文芸はあります。
 けれども、これらをまとめて表わした口承文芸となると、おそらく、存在しないと思います。

 前回、『はるかなるレムリアより』のあらすじを、以下のようにまとめましたね。

1)ヒロインの前世は、超常的な能力を持つ女性(アムリタデヴィ)だった。
2)ヒロインは死んで、現世(現代日本)に、普通の人間として転生してくる。
3)前世で仲間だった超常的な存在も、現世(現代日本)に転生してくる。
4)ヒロインは、前世と同じ超常的な力に目覚める。
5)前世の仲間が、ヒロインを見つけだし、再び仲間になる。
6)前世で敵だった超常的存在も、現世(現代日本)に転生してくる。
7)ヒロインは、仲間と共に、転生してきた敵と戦い、勝つ。

 これらの要素を、すべて備えた口承文芸は、ほぼ、存在しないということです。

 前回、言及しましたとおり、このあらすじは、のちの『美少女戦士セーラームーン』でも、使われます。魔法少女かつ戦闘少女の典型として、認知されたあらすじです。
 このあらすじ、あるいは、枠組みといえるものを、確立したのが、『はるかなるレムリアより』です。偉大な作品です(^^)

 口承文芸で、ヒロインが転生する場合、一度ではなくて、何度も転生することが多いです。ヒトばかりでなく、他の動物や植物にも転生することが、少なくありません。そうして、数奇な運命に翻弄されたあげく、最後に、「王子さま」的人物に救われて、幸せになる、という筋が、よくあります。
 これですと、ヒロインは、自分で運命を切り開いてはいませんね。運命に翻弄される一方です。

 『はるかなるレムリアより』でも、じつは、ヒロインは、複数回、転生しています。七万年前に、アムリタデヴィが死んだあと、何十度も転生しましたが、アムリタデヴィとしての力を発揮することは、ありませんでした。
 その理由は、語られません。ヒロインがアムリタデヴィとして目覚めなかったのか、目覚めても、仲間と出会えなかったのか、宿敵ガアリイにあっさり殺されてしまったのか、単純に、平穏な生活を望んだのか、わかりません。

 現代日本(一九七〇年代の日本)に転生してきて、やっと、アムリタデヴィとして目覚め、仲間にも出会えて、ガアリイを封印できたことになっています。
 この「複数回の転生」は、口承文芸の伝統を受け継いでいると思います。

 「転生もの」の口承文芸と比べると、ヒロインが、転生している自覚がない点が、『はるかなるレムリアより』の新しい点です。
 口承文芸のヒロインは、最初から前世の記憶があって、自分がどんな能力を持つかも、把握しています。

 『はるかなるレムリアより』では、途中で、ヒロインが、「目覚め」て、アムリタデヴィとしての記憶と能力とを、取り戻します。
 この「目覚め」という段階がある点が、新しいです。『セーラームーン』のような、のちの転生型魔法少女では、最初は普通の女の子で、途中で「目覚め」るのが、お約束になりますね。
 そのお約束を、最初にやったのが、『はるかなるレムリアより』かも知れません。

 もう一つ、「前世で一緒だった仲間が転生してきて、現世でも合流する」のが、新しいです。複数の仲間が、一斉に転生してきて、合流するというのは、口承文芸では、聞いたことがありません。
 これも、のちの転生型魔法少女では、お約束になることですね。

 敵役のガアリイについては、転生しているのか、それとも、太古からずっと生き続けているのか、わかりません。そこまで、作品に描かれていないからです。
 現世で、最初はヒト型で登場するので、「ヒトに転生してきたのかな?」と解釈しました。

 「ヒロインの目覚め」と、「前世の仲間も転生してきて、現世でもヒロインと合流」という二点が、強調しておきたいことです。この二点がそろうと、途端に、現代日本の転生ものっぽくなります。

 今回は、ここまでとします。
 次回も、『はるかなるレムリアより』を取り上げる予定です。



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