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魔法少女の系譜、その3~『コメットさん』~
某SNSからの『魔法少女の系譜』シリーズです。
前回は、日本初の魔法少女アニメ『魔法使いサリー』と、それに直接、影響を与えた米国のテレビドラマ『奥さまは魔女』を取り上げました。
『魔法使いサリー』が最初に放映されたのは、一九六六年(昭和四十一年)です。
今回は、その翌年、一九六七年(昭和四十二年)に放映された「魔法少女もの」を取り上げます。
ただし、その作品は、アニメではありません。実写ドラマです。
最近は、とんと見ませんが、昔の日本には、「魔法少女ものの実写ドラマ」などというものも、あったのですね(魔法少女の定義については、「魔法少女の系譜、その1」を参照して下さい)。
その作品とは、『コメットさん』です。
「あれ? それって、アニメでやっていなかったっけ?」と思う方が、いらっしゃるでしょう。確かに、この作品は、ずっと後、二〇〇〇年代になってから、アニメ化されました。
ここでは、最初の実写ドラマの『コメットさん』を扱うこととします。
この作品、実写でも、二回ドラマ化されているんですね。
最初のドラマは、一九六七年(昭和四十二年)から、一九六八年(昭和四十三年)にかけて、放映されました。今回、扱うのは、こちらです。
ちなみに、二回目の実写ドラマは、一九七八年(昭和五十三年)から、一九七九年(昭和五十四年)に放映されました。
『コメットさん』は、コメットという名の、宇宙人の女性が主人公です。
当時、コメットを演じた九重佑三子【ここのえ ゆみこ】さんは、すでに二十歳を過ぎていました。ですから、少女とは言えませんね。
コメットは、お手伝いさんとして、地球人の家庭に住みこみます。そして、魔法を使って、いろいろな問題を解決してゆきます。
「お手伝いさん」と聞いて、ぴんと来た方がいらっしゃるでしょう。
そうです、『コメットさん』は、直接的に、米国の、ある映画に影響を受けています。
その映画とは、『メリー・ポピンズ』(『メアリー・ポピンズ』とも)です。
『メリー・ポピンズ』は、もとは、児童文学です。オーストラリア出身の作家―のちに、イギリスに移住しました―パメラ・トラバースによって書かれました。
このシリーズの最初の作品が刊行されたのは、なんと、一九三四年です。二〇世紀の前半ですね。
『メリー・ポピンズ』が有名になったのは、映画化されたからです。ディズニーによって、ミュージカル映画にされました。映画が公開されたのは、一九六四年―日本では、一九六五年(昭和四〇年)―です。
『メリー・ポピンズ』でも、魔法を使うのは、お手伝いさんのメリー・ポピンズです。イギリス、ロンドンの一般家庭に住みこんで、家事をしたり、子供たちを教育したりしています。
『コメットさん』は、「魔法を使うお手伝いさん」というアイディアを、そっくり、『メリー・ポピンズ』から借用しています。映画の『メリー・ポピンズ』がヒットしたので、似たような楽しいドラマを、と考えられたのでしょう。
「お手伝いさん」という社会人を主役にする関係上、主役を「少女」にはできません。
『メリー・ポピンズ』も、『コメットさん』も、魔法使いが大人の女性である理由です。
以下で、『メリー・ポピンズ』と、『コメットさん』とを、比較しながら、分析してみましょう。
以前、私が出した「六つの視点」に沿って、分析してゆきます。
[1]魔法少女の魔力は、何に由来しているか?
メリー・ポピンズは、「魔法使いという種族だから」ですね。普段は、雲の上で暮らしているようです。箒【ほうき】ではなく、パラソルを使って空を飛びます。
コメットのほうは、「宇宙人だから」です。「魔法が使える宇宙人」という設定なのですね。
どちらも、生まれつき、人間とは違う存在です。「人間界の一時的な滞在者」という立場が、同じです。
[2]大人になった魔法少女は、どうなるのか?
この問題は、『メリー・ポピンズ』にも、『コメットさん』にも、存在しません。どちらも、すでに大人だからです。
[3]魔法少女は、いつから、なぜ、どのように、「変身」を始めたのか?
映画の『メリー・ポピンズ』には、変身をする場面は、なかったと思います。メリーは、外見上、普通の人間のままで、魔法を使います。
『コメットさん』のほうは、他の人間や動物などに変身することはあっても、魔法使いとしてのコスチュームに変身することは、ありません。やはり、外見上は普通の人間のままで、魔法を使います。
[4]魔法少女は、「魔法の道具」を持っているか? 持っているなら、それは、どのような物か?
『メリー・ポピンズ』のほうは、パラソルと鞄【かばん】とが、魔法の道具ですね。
メリーは、パラソルを差して空を飛び、鞄から、さまざまな物を取り出します。彼女の鞄は、「ドラえもんのポケット」だと思えばいいです。
けれども、メリーは、道具に頼りきって、魔法を使うわけではありません。パラソルや鞄がなくても、彼女は魔法を使います。あくまで、彼女自身が魔力を持っていて、道具は、それを助けているだけです。
『コメットさん』のほうは、「バトン」という明確な魔法道具を持っています。
コメット自身が魔力を持つことは、メリー・ポピンズと同じですが、コメットのほうは、バトンがないと魔法が使えないようです。かといって、バトンを手に入れれば、一般人でも魔法を使えるかといえば、そういうわけでもないようです。
コメット自身と、バトンとがそろって、初めて魔法が使えます。
このあたり、のちの「魔法少女もの」に見られる「魔法道具への依存」が、すでに姿を見せています。興味深いところですね。
[5]魔法少女は、マスコットを連れているか? 連れているなら、それは、どのような生き物か?
『メリー・ポピンズ』には、マスコットに相当するものは、登場しません。
『コメットさん』には、ベータンというマスコットが登場します。
マスコットらしいマスコットという意味では、ベータンが、日本の「魔法少女もの」初のマスコットでしょう。
ベータンは、謎の小動物の姿をしています。顔はロバに似ていて、体はゴジラ型です。ヒト型に変身することはありません。ヒトよりは、だいぶ小さいです。
ドラマでは、人形アニメーションで表現されていました。声は、人間の声優が当てています。普通に、人間の言葉で、会話できます。
コメットの下働き的役割でした。コメットさんと同じ、ベータ星の宇宙生物という設定です。
「魔法少女もの」の草創期から、マスコットが登場していたんですね。
日本独自の方向性が、草創期からあった証拠です。
[6]魔法少女は、呪文を唱えるか? 唱えるなら、どんな時に唱えるか?
『メリー・ポピンズ』には、呪文を唱える場面は、なかったと思います。
『コメットさん』も、普段は、呪文を唱えません。呪文を唱える代わりに、バトンを使っている感じです。
ただ、先に述べたマスコット、ベータンを呼び出す時に、「チンチロパッパ」という呪文を唱えます。
コメットとベータンとの関係は、伝統的な魔女と使い魔との関係に似ていますね。呪文を使って呼び出すあたり、その匂いが濃厚です。
製作者側が、それを意識してやったのかどうかは、わかりません。意識していなくても、できたとしたら、「そうすることが、人々の心に訴える(わかりやすい)」と思ったからでしょう。
「魔女と使い魔」であろうと、「宇宙人と宇宙生物」であろうと、人間の心に訴えやすい形というのは、同じだということですね。
ここまでで、日本の草創期の「魔法少女もの」が二作品と、それらに直接的に影響を与えた米国の「魔法少女もの」二作品とが、そろいましたね。
次回は、これらの合わせて四作品を、まとめて考察する予定です。