魔法少女の系譜、その77~『暁はただ銀色』~
今回も、前回の続きで、『暁はただ銀色』を取り上げます。
八つの視点で、『暁はただ銀色』を分析してみます。
[1]魔法少女の魔力は、何に由来しているか?
[2]大人になった魔法少女は、どうなるのか?
[3]魔法少女は、いつから、なぜ、どのように、「変身」を始めたのか?
[4]魔法少女は、「魔法の道具」を持っているか? 持っているなら、それは、どのような物か?
[5]魔法少女は、マスコットを連れているか? 連れているなら、それは、どのような生き物か?
[6]魔法少女は、呪文を唱えるか? 唱えるなら、どんな時に唱えるか?
[7]魔法少女の魔法は、秘密にされているか否か? それに伴い、視点が内在的か、外在的か?
[8]魔法少女は、作品中に、何人、登場するか?
の、八つの視点ですね。
[1]魔法少女の魔力は、何に由来しているか?
『暁はただ銀色』のヒロイン、リカは、宇宙人です。宇宙人ゆえに、超常的な能力を持ちます。生まれつき型の魔法少女です。
[2]大人になった魔法少女は、どうなるのか?
リカは、大人になる前に、四次元空間へ消えてしまいます。彼女が大人になる未来は、ありません。
とはいえ、リカの保護者で、リカと同じ宇宙人の善吉は、成人しています。このことからすると、リカも、生きていれば、普通の地球人に似た大人になったと考えられます。
善吉は、リカと同じ超常的な能力を持っていました。リカが成人しても、その能力を失うことはなかったでしょう。
もともと「異類」であるリカは、普通に「異類」のまま成人するわけです。無事であれば、自分の生まれ故郷の星へ、帰ったでしょう。
[3]魔法少女は、いつから、なぜ、どのように、「変身」を始めたのか?
リカは、変身はしません。
[4]魔法少女は、「魔法の道具」を持っているか? 持っているなら、それは、どのような物か?
リカは、魔法の道具は持ちません。
[5]魔法少女は、マスコットを連れているか? 連れているなら、それは、どのような生き物か?
リカは、マスコットも連れていません。
[6]魔法少女は、呪文を唱えるか? 唱えるなら、どんな時に唱えるか?
リカは、呪文も唱えません。
[7]魔法少女の魔法は、秘密にされているか否か? それに伴い、視点が内在的か、外在的か?
リカが宇宙人であることは、物語の最後のほうまで、明かされません。秘密にされています。
このために、リカの視点で物語が進むことは、ほとんどありません。主人公のケンの視点で、進みます。外在的な視点ですね。
リカの正体が明かされないことで、物語にサスペンス味が出て、面白くなっています。この話は、早々にリカの正体が明かされたら、台無しになりますね。
[8]魔法少女は、作品中に、何人、登場するか?
魔法少女は、リカ一人だけです。
こうして見ると、ヒロインのリカは、変身、魔法道具、マスコット、呪文など、魔法少女の特徴の多くを持ちません。同じ「宇宙人の魔法少女ヒロイン」である『コメットさん』や、『好き!すき!!魔女先生』とは、大きく違うところです。
リカは、むしろ、「超能力少女」のほうに似ています。同じ『NHK少年ドラマシリーズ』の『タイム・トラベラー』や『続 タイム・トラベラー』のヒロイン、和子との共通点が多いですね。和子も、変身しませんし、魔法道具やマスコットや呪文と無縁です。
同じドラマシリーズということで、先行する『タイム・トラベラー』に、直接的な影響を受けたのかも知れません。『タイム・トラベラー』と『暁はただ銀色』とを比べると、男女の役割が入れ替わっただけで、「異世界から来た異類の異性と、この世界の異性とが出会い、異類の異性が、また異世界へ去ってしまう」という、基本構造が同じですね。
『暁はただ銀色』も、物語の構造は、伝統的な口承文芸に近く、シンプルです。
変身や魔法道具やマスコットや呪文といった、伝統的な「魔法」の要素を取り去ることで、より現代的な物語にしています。「宇宙人」や「環境汚染」や「宇宙人同士の戦い」といった新しい要素を入れ、伝統的なファンタジーではなくて、SFにしています。
昭和四十年代後半(一九七〇年代前半)の少年少女にとって、SFは、非常に斬新で、魅力的な物語に見えたでしょう。超能力少女→宇宙人少女という、NHK少年ドラマシリーズの流れは、魅力にあふれる魔法少女の亜種を生みました。
『暁はただ銀色』については、ここまでとします。
次回からは、別の作品を取り上げる予定です。