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魔法少女の系譜、その118~『ぐるぐるメダマン』~
前回までで、一九七〇年代の「戦う魔法少女」たちを取り上げることが続きましたね。『タイムボカンシリーズ ヤッターマン』、『ウルトラマンA【エース】』、『ザ・カゲスター』、『恐竜大戦争アイゼンボーグ』のヒロインたちです。
こういった「戦うヒロイン」たちは、放映当時には、魔法少女と見なされていませんでした。当時の魔法少女は、戦闘要素がないものと認識されたからです。
二〇二〇年現在ならば、彼女たちは、魔法少女の一種と認識されます。彼女たちのような「戦う魔法少女」は、「戦闘美少女」や「バトルヒロイン」などと呼ばれますね。
けれども、一九七〇年代には、「戦う魔法少女」を指す、適切な言葉は、存在しませんでした。数が少ないために、認識されなかったのですね。彼女たちは、「戦うヒーロー」のおまけのように見られていました。
今回は、久しぶりに、「戦わない魔法少女」の作品を取り上げます。一九七〇年代の「魔女っ子」としては、むしろ、こちらのほうが普通でした。
その作品とは、『ぐるぐるメダマン』です。特撮作品です。『アイゼンボーグ』からは一年戻って、昭和五十一年(一九七六年)にテレビ放映が始まりました。昭和五十二年(一九七七年)の一月まで、放映されています。『恐竜探検隊ボーンフリー』や、『ザ・カゲスター』、『ゴワッパー5 ゴーダム』、『5年3組魔法組』と、放映時期がかぶっています。
『ぐるぐるメダマン』については、以前、ちらっと取り上げましたね。その時に書きましたとおり、この作品は、コメディです。メダマンという「おばけ」が主人公です。この作品では、おばけ=妖怪です。
ジャンル分けするなら、この作品は、「妖怪コメディ」ということになるでしょう。メダマン以外にも、たくさんのおばけが登場します。
登場するおばけは、実際に伝承にあるものと、この番組のために創作されたものとが、混在します。主役のメダマンは、創作されたおばけです。
伝承にあるおばけでも、その造作は、伝承に忠実ではありません。かなり脚色されています。
また、おばけの名前の表記揺れが多いです。どれが正確なのか、わかりません。ややこしいので、以下では、「番組で多く使われる名前」で統一します。
メダマン以外に、毎回登場するレギュラーのおばけは、以下の五体です。基本的に、着ぐるみで表現されます。マッサラだけは、皿状の体を、ワイヤで吊って表現されます。
海ぼうず
伝承では、海から現われて、船乗りを脅かす妖怪ですね。ところが、『ぐるぐるメダマン』の海ぼうずは、とても臆病で、人間を恐れています。しかも、海に棲んでいるわけでもなく、小学校の男子便所に棲んでいます(!) 祖先が海に棲んでいたので、海ぼうずだそうです(^^; 外見は青い柱状で、頭には、長く白い髪があります。顔もちゃんとあって、目と口が付いています。短い手足があって、歩けます。
アマノジャク
これも、伝承にあるおばけですね。アマノジャクは、比較的、伝承に忠実です。伝承と同じくひねくれ者で、人間が嫌いで、トラブルメーカーです。でも、情にあついところもあり、メダマンをはじめ、仲間のおばけが危機になれば、駆けつけてきて、助けてくれます。外見は、一本角の鬼に似ています。とぼけた感じの顔なので、怖くはありません。
アズキアライ
伝承の中にあるおばけですが、二〇二〇年現在、メジャーな「小豆洗い」とは、まったく違います。ほぼ人間と同じ姿をしていて、美少女です。水着状の緑色の服を着ていて、髪の色も、緑です。河童の一種という扱いで、背中に小さな甲羅があり、頭に小さなお皿もあります。手に、小豆を洗うための容器を持ちます。『ぐるぐるメダマン』におけるヒロインの一人です。
ミーラ男
ハリウッドのホラー映画でお馴染みの「ミイラ男」です。ハリウッドで創作されて、世界に広まった妖怪ですね。全身、ぐるぐる包帯巻きの人間型です。ただし、かなり太っていて、丸っこい体型です。頭に赤いキャップをかぶります。目と口だけが、包帯の外に出ています。エジプトのおばけと、日本のおばけとのハーフだそうです(笑) 体型が示すとおりの食いしん坊です。
マッサラ
『ぐるぐるメダマン』で創作されたおばけです。外見は、「顔の付いたお皿」です。顔の表情は、笑ったり怒ったり、ちゃんと変わります。しゃべることもできます。語尾に「~サラ」が付きます。普段は、ふわふわと宙に浮いています。時々、本物のお皿に化けて、人をだまして遊びます。
主役のメダマンは、人間型です。なぜか、大きな蝶ネクタイをしています。頭部が、おむすびのような三角形です。ものを考える時などに、三角形の頭を、ぐるぐる回転させます。大きな目があって、黒目をぐるぐる回転させることも、よくあります。
メダマン以下のレギュラーおばけたちは、みんな、「おばけの子供」ということになっています。子供なので、人間の子供と交流できます。おばけと人間とは、異種族同士であり、本来、棲む世界が違うものなので、成長したおばけと人間とでは、ほぼ、交流がないようです。
おばけの子供であるためか、『ぐるぐるメダマン』のおばけたちは、少なくとも、レギュラー陣に限っては、全然、怖くない造形をされています。怖いというより、ユーモラスです。
題名が『ぐるぐるメダマン』ですから、本作の主役は、おばけたちです。おばけたちと交流する人間として、高坂マミという人間の少女が登場します。彼女も、ヒロインの一人です。
『ぐるぐるメダマン』には、おばけのアズキアライと、人間の高坂マミと、二人のヒロインが登場するわけです。当時としては珍しい、ダブルヒロイン作品でした。
高坂マミの年齢は、はっきりしません。小学校の五年生か六年生でしょう。
彼女の家には、三百年以上も前から、あるネックレスが伝わっていました。百八個の水晶でできたネックレスです。このネックレスは、高坂家の祖先が、おばけからもらったものでした。「おばけの魂」というべき、不思議な力を秘めたネックレスです。
高坂マミが、三百年ぶりに、このネックレスを持ち出したことから、話が始まります。彼女がネックレスを身に着けたことで、おばけと交流できるようになります。メダマンが、マミの命を助けたため、マミは、お礼に、ネックレスをメダマンに返そうとします。
そこへ、ネックレスに取り憑いていた神さまが現われます。仙人のような風貌の神さまです。
神さまは、メダマンがマミを救ったことを評価して、ネックレスを返そうと言います。ただし、全部ではなく、ネックレスの水晶玉を少しずつです。メダマンが良いことをするたびに、水晶玉を返してくれます。メダマンは、水晶玉を全部返してもらうまで、高坂家に住みつくことになります。
ネックレスは、おばけにとって大切なものでした。メダマンを手伝おうと、おばけの国から人間の世界へ、海ぼうず、アマノジャク、アズキアライ、ミーラ男、マッサラがやってきます。
こうして、おばけと人間たちとのどたばた劇が始まります。前半は喜劇ですが、後半は、怪奇色が強くなります。
おばけのネックレスの水晶玉の裏には、「おんみょうのんけんそわか」という呪文が書かれています。この呪文を唱えられると、おばけたちは動けなくなってしまいます。この呪文を利用して、マミは、メダマンたちの暴走を止めたり、人間に害をなすおばけをやっつけたりします。
高坂マミは、魔法道具型の魔法少女なんですね。アズキアライは、生まれつき型の魔法少女です。おばけであって、人間ではありませんからね。
レギュラーのおばけたちも、ゲストのおばけたち―ゲストおばけが登場しない回もあります―も、それぞれ、違う超能力を持ちます。例えば、メダマンは、空を飛ぶ能力と、変身能力を持ちます。
おばけ全員に共通する能力もあります。透明化の能力です。「キエロ、キエレ、キエリ」の呪文を唱えると、姿を消すことができます。
メダマンは、人間に対して、とてもフレンドリーです。これは、「おばけとしては例外的」ということになっています。普通のおばけは、人間に対して、わりと冷淡だという設定です。レギュラーのおばけたちの、アマノジャクの態度が代表的です。
とはいえ、アズキアライも、ずいぶん人間に対して、親切です。きれい好きで、ひっそりと学校を掃除していたりします。
おばけなのに人間が怖い海ぼうずなど、『ぐるぐるメダマン』のおばけたちは、個性的で、面白いです(^^)
アズキアライとマミと、二人の魔法少女が登場するにもかかわらず、放映当時の『ぐるぐるメダマン』は、おそらく、「魔女っ子もの」だとは、思われていませんでした。個性的なおばけの印象が強かったため、「妖怪もの」と思われていたでしょう。
残念ながら、視聴率が伸びなかったため、マイナーな作品で終わってしまいました。マイナーなので、言及されることが少なく、魔女っ子の要素があることは、見逃されていたのだと思います。
今回は、ここまでとします。
次回も、『ぐるぐるメダマン』を取り上げる予定です。