魔法少女の系譜、その89~『明日への追跡』~
前回に続き、今回も、『明日への追跡』を取り上げます。NHKの少年ドラマシリーズの一作ですね。
八つの視点で、『明日への追跡』を分析します。
[1]魔法少女の魔力は、何に由来しているか?
[2]大人になった魔法少女は、どうなるのか?
[3]魔法少女は、いつから、なぜ、どのように、「変身」を始めたのか?
[4]魔法少女は、「魔法の道具」を持っているか? 持っているなら、それは、どのような物か?
[5]魔法少女は、マスコットを連れているか? 連れているなら、それは、どのような生き物か?
[6]魔法少女は、呪文を唱えるか? 唱えるなら、どんな時に唱えるか?
[7]魔法少女の魔法は、秘密にされているか否か? それに伴い、視点が内在的か、外在的か?
[8]魔法少女は、作品中に、何人、登場するか?
の、八つの視点です。
[1]魔法少女の魔力は、何に由来しているか?
魔法少女の浦川礼子は、宇宙人の霊体に憑依されて、魔法少女(超能力少女)になります。「憑依型」の魔法少女と言えます。
二〇一八年現在に至るも、憑依型の魔法少女は、珍しいですね。ほとんど例がありません。
憑依型という、新しい魔法少女の型を生んだ作品として、『明日への追跡』は、評価されるべきでしょう。
『明日への追跡』より早くに、憑依型の魔法少女が登場する作品がありましたら、教えて下さい。
憑依型の場合、魔法を使えるのは、あくまで、憑依しているほうです。憑依されているほうは、普通の人間です。ですから、憑依されなくなれば、魔法は使えなくなります。
言ってみれば、これは、「肉体」と「能力」とが、切り離された形ですね。礼子の肉体は、魔法少女になる前も、なった後も、変わりません。そこに、「魔法の能力」を持つ霊体が、「間借り」している状態です。
『明日への追跡』には、そういう場面はありませんが、もし、宇宙人の霊体が、礼子を離れて、別の人間に憑依したら、その人間が、魔法(超能力)を使えるようになったはずです。肉体を離れて、「魔法の能力」だけが、独立して動けるわけです。
こうして見ると、憑依型は、魔法道具型と似ています。
けれども、魔法道具型と違うのは、「憑依する側」に、明確な意思があることです。憑依される側の意思に関係なく、憑依する側の意思で、「誰が魔法少女になるか」が決められます。
そして、憑依された側は、憑依されている間の意思や記憶を、ほぼ、失うようです。憑依されて「魔法少女」でいる間は、憑依する側の意思で行動し、ものごとが決められます。憑依される側は、器【うつわ】に過ぎません。
魔法道具型であれば、道具に意思はありません。魔法道具を手にして、魔法少女になることを決めるのは、本人の意思です。魔法少女をやっている間も、普通の人間の時も、記憶と意思とは、つながっています。
[2]大人になった魔法少女は、どうなるのか?
浦川礼子は、物語の終盤で、宇宙人の憑依から解放されます。これにより、普通の人間に戻り、魔法―物語では、「超能力」と表現されています―は使えなくなります。
礼子は、そのまま、まったく普通の人間として、成人することが、暗示されています。
きっと、彼女が成人したら、「青春の一時期に、よくわからない変なことがあった」で、済まされるのでしょう。
[3]魔法少女は、いつから、なぜ、どのように、「変身」を始めたのか?
礼子は、「変身」はしません。
[4]魔法少女は、「魔法の道具」を持っているか? 持っているなら、それは、どのような物か?
礼子は、魔法の道具は持ちません。
[5]魔法少女は、マスコットを連れているか? 連れているなら、それは、どのような生き物か?
礼子は、マスコットを連れていません。
[6]魔法少女は、呪文を唱えるか? 唱えるなら、どんな時に唱えるか?
礼子は、呪文は唱えません。
[7]魔法少女の魔法は、秘密にされているか否か? それに伴い、視点が内在的か、外在的か?
礼子が魔法少女(超能力少女)であることは、秘密にされています。
憑依している宇宙人の立場からすれば、これは、当然ですね。宇宙人は、地球を侵略する側です。わざわざ、侵略することを、侵略される側に、教えるはずはありません。
礼子自身の意思は、ないも同然ですので、秘密をばらすことは、できません。
礼子は、サブヒロインといえる立ち位置にいます。しかし、彼女の内在的な視点では、物語は、描かれません。そんなことをしたら、礼子が宇宙人に憑依されていることが、早々に、視聴者にわかってしまいます。
それでは、物語は、面白くありませんよね。礼子の正体がずっと不明だからこそ、不気味で、不思議で、物語が盛り上がります。
礼子が魔法少女(超能力少女)であることは、後半になるまで、明かされません。宇宙人に憑依されていることが判明するのは、終盤です。
礼子がサブヒロインで、かつ、敵役ですから、これが正解です(^^)
[8]魔法少女は、作品中に、何人、登場するか?
魔法少女(超能力少女)なのは、礼子一人です。
魔法を離れて、ヒロインとして見れば、礼子は、サブヒロインです。メインヒロインは、普通の人間である椿芙由子が担っています。
全体として見ると、礼子は、NHK少年ドラマシリーズに登場する、他の「超能力少女」と、同じ要素を持ちます。変身せず、魔法道具を持たず、マスコットも連れず、呪文も唱えません。昭和五十一年(一九七六年)までに確立された、典型的な超能力少女のようです。
ただ一つ、重大なことがあります。憑依型という、新たな魔法少女の型を開拓したことです。この一点をもって、『明日への追跡』は、日本の魔法少女史上で、忘れてはいけない作品です。
宇宙人や超能力が登場するSF作品なのに、「憑依」という、日本の伝統的なオカルト要素を持ってきたのが、斬新ですね。
通常、憑依とは、幽霊や怨霊や妖怪などに対して、使われる言葉でしょう。宇宙人に対して使おうとは、思いつきませんよね。二〇一八年現在でもそうですのに、まして、一九七六年では。
このように、新しい要素と古い要素とを組み合わせるのが、「新しいもの」を作るコツだと思います。古い要素ばかりでは、視聴者や読者に飽きられますし、新しい要素ばかりでは、視聴者や読者が付いてゆけません。
原作者の光瀬龍さんは、さすがですね(^^) よくバランスを心得てらっしゃいます。
『明日への追跡』の分析は、ここまでとします。
次回は、別の作品を取り上げる予定です。