魔法少女の系譜、その51~『紅い牙』~
前回に続いて、今回も、『紅い牙』を取り上げます。
八つの視点で、『紅い牙』を分析してみます。
[1]魔法少女の魔力は、何に由来しているか?
[2]大人になった魔法少女は、どうなるのか?
[3]魔法少女は、いつから、なぜ、どのように、「変身」を始めたのか?
[4]魔法少女は、「魔法の道具」を持っているか? 持っているなら、それは、どのような物か?
[5]魔法少女は、マスコットを連れているか? 連れているなら、それは、どのような生き物か?
[6]魔法少女は、呪文を唱えるか? 唱えるなら、どんな時に唱えるか?
[7]魔法少女の魔法は、秘密にされているか否か? それに伴い、視点が内在的か、外在的か?
[8]魔法少女は、作品中に、何人、登場するか?
の、八つですね。
『紅い牙』は、後半に、ランとソネットとのダブルヒロイン制になります。このため、ランとソネットの二人について、分析します。
[1]魔法少女の魔力は、何に由来しているか?
ランもソネットも、能力の源を、二つ持ちます。複合型の超能力者(魔法少女)ですね。
ランのほうは、先天的な古代超人類の能力と、後天的なオオカミ的能力とを持ちます。生まれつき(血筋)型と、修業型との複合です。
ただし、古代超人類の能力については、タロンによって、人為的に復活させられたものです。この点からすれば、人工型であるとも言えますね。
ソネットのほうは、先天的な超能力と、後天的なサイボーグの能力とを持ちます。
彼女の親が超能力を持っていたという描写はありませんが、生まれつきの超能力を持つことは、間違いありません。幼少期から、超能力の兆しがあったことが、描写されています。
サイボーグの能力は、むろん、人工的なものですね。彼女は、自ら望んで、タロンによってサイボーグにされました。
ソネットは、生まれつき型と、人工型との複合です。
ダブルヒロインが、二人とも複合型の魔法少女である点だけで、『紅い牙』は、非常に独創的な作品となっています。
[2]大人になった魔法少女は、どうなるのか?
これについては、ランとソネットとで、大幅に違います。
ランのほうは、作品中で、成人した後の描写があります。
じつは、ソネットが登場した頃―サブシリーズ『ブルー・ソネット』の頃―には、ランは、すでに二十歳になっています。ランとソネットとは、四つくらい年の差があって、ソネットのほうが年下です。
『ブルー・ソネット』では、魔法「少女」で戦闘「少女」なのは、ソネットだけなんですね。ランのほうは、成人した魔法女性で、戦闘女性です。
ランは、作品中で、はっきり誕生日が設定されています。昭和三十六年(一九六一年)五月十九日です。
これから推定しますと、『ブルー・ソネット』の作品内の時間は、昭和五十六年(一九八一年)の春から、数ヶ月間の出来事です。
二十歳の時点のランは、高校生だった頃と、外見も、能力も、あまり変わっていません。オオカミ的能力は、自分の意志で使いこなしています。でも、「紅い牙」の能力は、相変わらず、うまく扱えていません。
ランは、成人しても、成人前の「魔法少女」で「戦闘少女」だった頃と、ほとんど何も変わらないということですね。
魔法少女から、成人した魔法女性へと、スムーズにつながっている点でも、『紅い牙』は、斬新でした。
ただし、ランには、さらに後日談があります。
平成元年(一九八九年)に、タロンとの最終決戦が終わった後のランが描かれた作品があります。作品中の時間も、リアルタイムの平成元年(一九八九年)です。ランは、二十八歳ですね。
この時のランは、「紅い牙」を、自分の意志で制御できるようになっています。もう、タロンに追われることもありません。ですから、戦いはしません。普通の人々に混じって、普通に暮らしています。結婚はしておらず、恋人もいません。
二十八歳の時点では、ランは、外見上、「普通の人」になっています。「紅い牙」も制御できるようになりましたから、このまま、普通の人として、暮らし続けるのでしょう。
私の考えでは、ランは、結婚したり、子供を持ったりする人生は、選ばないのではないかと思います。もし、彼女が子供を持てば、その子も「紅い牙」を受け継ぐ可能性が高いですからね。そのような厳しい人生を、子供に歩ませることは、ランは望まないのではないでしょうか。
いっぽう、ソネットです。
彼女が成人した後のことは、作品では、描かれません。ソネットが無事に成人したとしても、彼女には、厳しい人生が待っていたでしょう。十代の成長途上で、サイボーグ化されたからです。
サイボーグの体には、常にメンテナンスが必要です。そのために、彼女は、タロンを離れられません。タロンを頼れないとなったら、タロンと同等の科学力を持つ組織を探すか、死ぬしかありません。
タロンと同等の科学力を持つ組織が、容易に見つからないことは、わかりますね。しかも、その組織が、タロンのような悪の秘密結社でない保証は、どこにもありません。
悪の秘密結社に一生所属するか、万が一に賭けて、それに代わる組織を探すか、若くして死ぬか……悲しい三択ですね(泣)
ソネットは、サイボーグ化された時に、おそらく、生殖能力を失っています。このために、彼女が最高に幸せな選択肢を選んだとしても、子供を持つ未来は、なかったでしょう。
ソネットの場合、生い立ちが非常に不幸なんですね。ニューヨークのスラム街で、シングルマザーの家庭に育ちます。実の母親は、ソネットを虐待し続け、ついには、売春まで強要します。
ソネットは、自分の体が穢れてしまったと感じていて、そのために、サイボーグ化されることに躊躇しませんでした。「生殖能力なんて、余計なものは、取ってくれ」と、ドクター・メレケスに頼んだかも知れません。
彼女がサイボーグにならなかったとしても、普通に結婚して、子供を持って、という人生を歩んだとは、考えにくいです。スラム街の汚濁の中に沈んで、終わった可能性が高いです。
こうして書くと、改めて、ソネットの未来の無さに、愕然としますね。かわいそうな子です。
[3]魔法少女は、いつから、なぜ、どのように、「変身」を始めたのか?
ランのほうは、「紅い牙」が発動した時に、「変身」します。普段は黒い髪が赤くなり、逆立ちます。
ソネットのほうは、「変身」はしません。
[4]魔法少女は、「魔法の道具」を持っているか? 持っているなら、それは、どのような物か?
ランも、ソネットも、「魔法の道具」は、持ちません。
ただ、驚異的な科学力を誇るタロンによって、「魔法の道具」のような科学的ガジェットが登場することはあります。例えば、ランの超能力の発動を抑える器具などが登場します。
[5]魔法少女は、マスコットを連れているか? 連れているなら、それは、どのような生き物か?
ランもソネットも、マスコットは連れていません。
[6]魔法少女は、呪文を唱えるか? 唱えるなら、どんな時に唱えるか?
ランもソネットも、呪文は使いません。
[7]魔法少女の魔法は、秘密にされているか否か? それに伴い、視点が内在的か、外在的か?
ランの能力も、ソネットの能力も、一般の人には、秘密とされています。
しかし、『紅い牙』では、「能力が秘密」であることは、読んでいるうちに忘れがちです(^^; 集団戦が描かれるためです。敵にも味方にも、超能力者が何人もいて、超能力者でなくとも、事情を知っている関係者が多いからです。
ダブルヒロイン制ということもあり、『紅い牙』では、複数の視点で物語が進みます。
[8]魔法少女は、作品中に、何人、登場するか?
『紅い牙』では、超能力者やサイボーグなど、超常的能力を持つ者が、おおぜい登場します。いちいち数えていたら、きりがありません。
それは、「少女」に限りません。老若男女が、超常的能力を駆使します。このために、バラエティ豊かな人間関係や、戦闘を描くことができています。
とはいえ、メインになる「魔法少女」は、ランとソネットとの二人です。この二人が、互いの存続をかけて、ぶつかり合います。
今回は、ここまでとします。
次回も、『紅い牙』を取り上げる予定です。