魔法少女の系譜、その174~ロードアニメとしての『花の子ルンルン』~
前回に続き、今回も、『花の子ルンルン』を取り上げます。
ヒロインのルンルンは、花の精と人間とのハーフです。花の精たちは、元は、地球で人間と共存していましたが、人間たちがわがままになり、環境破壊をするようになったために、人間に見切りをつけて、フラワーヌ星に移住してしまいます。
ルンルンは、地球に残った花の精と、人間との間に生まれた「花の子」です。
フラワーヌ星の花の精の王が代替わりする時には、地球のどこかに咲く「七色の花」が必要です。それを探せるのは、「花の子」だけです。
ルンルンは、おともに、キャトー(猫に化けた花の精)と、ヌーボ(犬に化けた花の精)とを連れて、「七色の花」探しに旅立ちます。
あらすじを見ればわかるとおり、『花の子ルンルン』は、主人公がひたすら旅をする「ロードムービー」です。「ロードアニメ」というべきでしょうか。
じつは、『花の子ルンルン』と重なる時期に、同じように少女向けの「ロードアニメ」がテレビ放映されていました。『さすらいの少女ネル』です。
『ネル』の放映が始まったのは、『ルンルン』より遅く、一九七九年の十月です。『ルンルン』は、同年の二月から放映が開始されています。
『さすらいの少女ネル』は、ネルという名の少女がヒロインです。彼女は、ロンドンで、祖父と暮らしていたのですが、事情があって、祖父と共にさすらいの旅に出ることになります。ネルは魔法少女ではなく、マスコットもいませんが、そこを除けば、『花の子ルンルン』と、大筋が似ています。
ただし、『ネル』には、原作があります。十九世紀の英国で、チャールズ・ディケンズが書いた『骨董屋』がそうです。日本では、子供向けの翻訳として、『少女ネルの死』という題名で出版されたものがあります。
このため、単純に、『ネル』が、『ルンルン』の後追い作品だとは言えません。原作が十九世紀ですから、アニメオリジナル企画の『ルンルン』のほうが、はるかに新しいですよね。
それでも、同時期に、同じ少女向けの、少女が主人公の作品で、同じ「ロードアニメ」が放映されたのは、示唆的です。ひょっとしたら、『ルンルン』がヒットしたために、児童文学の中から、似た作品を探し出して、原作にしたのかも知れませんね。
ロードアニメであること以外にも、『ルンルン』と『ネル』には、重要な共通点があります。どちらの作品にも、ヒロインを追う敵役がいます。
『ネル』のほうは、ネルの祖父から借金を取り立てようとする金貸しキルプと、彼に雇われている弁護士のブラスが、ネルたちを追います。
ネルと祖父とは、キルプとブラスに追われて、さすらいの旅に出るわけです。
そして、『ルンルン』のほうには、トゲニシアという敵役がいます。女性です。
トゲニシアは、人間ではありません。花の精です。ほとんどの花の精は善良なのですが、トゲニシアの一族は例外で、フラワーヌ星を乗っ取ろうとしました。このために、彼女の一族は滅ぼされ、トゲニシアだけが、地球に逃げてきます。
トゲニシアは、「七色の花」を横取りして、自分がフラワーヌ星の女王になろうとしています。「七色の花」を探せるのは「花の子」だけなので、ルンルン一行の後を追い、「七色の花」を見つけたら横取りしてやろうと、狙っています。
このトゲニシアが、キャラが立っているのですよね。美人ですが、性格が悪いです。二〇二一年現在に流行っている「悪役令嬢」っぽいです。
十五歳という設定で、ルンルンよりも大人っぽいです。ルンルン自体が、十二歳とは思えないほど大人っぽく、十五歳くらいに見えます。トゲニシアは、それより年上ですので、十八歳くらいに見えます。
トゲニシアは、ヤボーキという従者を連れています。ヤボーキは男性で、ずんぐりむっくりの体型です。彼も花の精なのですが、明らかに、タヌキっぽいです。タヌキそっくりの尻尾があります。
ヤボーキは、日本の伝承のタヌキのように、変身する能力を持ちます。でも、変身が下手で、すぐに正体がバレます(笑)
トゲニシアのほうは、花粉風【かふんかぜ】という大魔法を使うことができます。これは、要するに、強烈な風で、狙ったものを遠くへ吹き飛ばしてしまいます。ルンルンたちは、花粉風で、何度も、痛い目に遭います。
けれども、花粉風には、副作用があります。トゲニシアがこれを使うと、一週間は、顔が皺【しわ】だらけになってしまいます。美人であることを鼻にかけているトゲニシアは、それが嫌で、なかなか、花粉風を使えません。よほど怒った時か、追いつめられた時にだけ、使います。
こんなトゲニシアとヤボーキとのコンビが、ルンルンとキャトーとヌーボを付け回します。彼らは、敵役であるとともに、コメディ役でもあります。『タイムボカン』シリーズの三悪に似ていて、間抜けな悪役です。
ルンルンがネルと違うのは、トゲニシアたちがいなくても、旅をすることですね。ネルは、キルプたちから逃げるがために旅をしますが、ルンルンには、「七色の花」を探すという旅の目的があります。トゲニシアがいようといまいと、旅をすることに変わりはありません。
したがって、トゲニシアたちは、ルンルンたちを追いかけるというより、付け狙うというほうが正しいですね。ルンルンたちにとっては、迷惑なだけの相手なので、ストーカーですね。『ルンルン』の放映当時には、まだ、ストーカーという言葉は、ありません。
敵役が、旅をする主人公たちを勝手に追ってくるのは、『タイムボカン』と似ています。『タイムボカン』は、大ヒット作でしたよね。間抜けな悪役のイメージも、『タイムボカン』と共通します。おそらく、この辺りは、意識して、似た雰囲気にしたのでしょう。ヒット作にあやからない手はありません。
じつは、『ネル』にも、『ルンルン』にも、敵役とは別に、ヒロインたちを追う人物がいます。
『ネル』のほうは、最後のほうまで名が明かされない「謎の男」が、キットという少年を連れて、ネルたちを追います。キットは、ネルの友達なので、ネルに悪意はありません。「謎の男」は、キットを脅して、無理やり、ネルたちを追う旅に付き合わせます。最後のほうまで、「謎の男」の意図は判明せず、ネルたちの敵なのか味方なのか、わかりません。
『ルンルン』では、セルジュ・フローラという青年が、ルンルンたちを追いかけます。十七歳という設定ですが、もっと大人びて見えます。美形です。カメラマンをしています。いつも一人で行動していて、陰ながら、ルンルンたちを助けます。「いつ仕事をしているんだ?」とか、「十七歳で自立できるカメラマンって、どんだけ天才なんだ?」という突っ込みは、しませんように(笑)
『ネル』の「謎の男」と違って、セルジュは、最初から、明確に、ルンルンたちの味方です。ルンルンとセルジュには面識があり、ルンルンのほうは、セルジュを憧れの男性として見ています。
けれども、セルジュがルンルンたち追いかける理由は、最後のほうで、やっと明かされます。それまではずっと、視聴者たちは、「この人、美形で性格も良いけれど、何なの? なぜ、ルンルンを追いかけてるの?」と思い続けることになります。
セルジュは、各話の最後のほうに現われて、ルンルンたちが旅の途中で会った人々に、花の種子を渡します。ルンルンとの思い出を残すためにという名目で、その時に、花言葉が紹介されます。
この花言葉の紹介が、目新しい趣向でした。放映当時、これを楽しみに見ていた人も多いと聞きます。当時は、ネットなんてありませんから、花言葉を知りたいと思っても、調べるのが大変でした。毎週、テレビアニメを見るだけで、花言葉を知ることができるのは、それなりに、子供たち(特に、女の子)に、需要があったと考えられます。
花の精(の血を引く女の子)が活躍する話なので、花言葉をそれにからめたのは、上手いと思いますね(^^)
『花の子ルンルン』は、日本に花言葉を広めるのに、貢献した作品でしょう。昭和五十四年(一九七九年)当時、花言葉は、やっと日本に普及し始めた段階だったと思います。子供たちが毎週見るテレビアニメで、それが紹介されるのは、影響が大きかったはずです。
今回は、ここまでとします。
次回も、『花の子ルンルン』を取り上げます。