魔法少女の系譜、その36~『それ行け!カッチン』~
前回までで、『魔女っ子メグちゃん』を取り上げましたね。この作品には、いくつもの革新的な要素がありました。それが功を奏して、大ヒット作となりました。
二〇一五年現在であれば、「二匹目のドジョウ」を狙って、類似作品が、続々と生まれるところでしょう。
けれども、『メグちゃん』放映当時(一九七〇年代半ば、昭和五十年にやっとなったばかり)には、そうはなりませんでした。それどころか、『メグちゃん』のあと、数年間、魔女っ子アニメが途絶えてしまいます。
そうなった理由は、わかりません。『メグちゃん』で、魔女っ子ものは、やり尽くされたと思われてしまったのかも知れませんね。
では、アニメが途絶えている間には、魔法少女について、何も語ることはないのでしょうか?
そんなことは、ありません。魔法少女アニメはなくても、実写のテレビドラマがありました。
今回は、実写(特撮)テレビドラマで、魔法が出てくる作品を取り上げます。『それ行け!カッチン』です。一九七五年(昭和五十年)十一月から、一九七六年(昭和五十一年)五月まで放映されました。
この作品には、独創的なところがあります。ヒロイン(主役)が、魔法少女ではありません。ヒロインと、魔法を使う人物とが、別人です。
ヒロインは、小学生です。何年生だったか、はっきりしないのですが、演じた斎藤こず恵さんの年齢からして、三年生くらいだったと思います。
ヒロインの名前は、高木和子、あだ名がカッチンです。彼女は、性格が風変わりなだけで、魔法は使いません。普通の人間です。
魔法を使うのは、ボビンという名の妖精です。男性が演じています。つまり、『それ行け!カッチン』には、魔法は出てきても、魔法少女は出てきません。
それでも、魔法少女ものに非常に近い作品として、取り上げることにしました。
ボビンは、普段は、壺の中に住んでいます。その壺は、カッチンのお父さん―船員さんです―が、海外のお土産に買ってきてくれたものです。壺に花を挿すと、煙と共にボビンが現われて、魔法で「三つの願い」をかなえてくれます。
ここまで書けば、おわかりですね。この作品は、『アラジンと魔法のランプ』を下敷きにしています。この点だけなら、「中世あたりから、よくある話」ですね。
ところが、『カッチン』には、伝統的な口承文芸を超えて、たいへん独創的な部分があります。
ヒロインたるカッチンが、ボビンのことを知らないのです。お父さんからのプレゼントとして、壺をとても大切にしていますが、中にボビンがいることには、気づいていません。
彼女は、身の回りで、たびたび、不思議なことが起こるのは気づいています。でも、誰が、どうやって、何のために魔法を使っているのかは、知りません。
では、壺に花を挿して、ボビンを呼び出しているのは、誰なのでしょうか?
それは、カッチンの小学校の担任の教師、英子先生です。英子先生は、カッチンから、信頼の証として、壺を預けられます。何も知らずに花を挿したら、ボビンが飛び出してきて、壺の秘密を知ることになります。
英子先生は、子供たちを、常に見守っています。彼らが危機に陥ると、こっそりボビンを呼び出して、助けを求めます。
壺を魔法道具と考えれば、英子先生が、「魔法道具型の魔(法少)女」といえますね。
とはいえ、英子先生は、ヒロインではありません。ヒロインは、あくまで、カッチンです。
カッチンを演じた斎藤こず恵さんは、当時、人気絶頂の子役女優でした。おそらく、斎藤こず恵さんありき、の企画だったのでしょう。
カッチンは、田舎で動物たちに囲まれて、野性的に育った、という設定です。どういう家庭の事情なのか、お母さんはいません。お父さんと二人暮らしです。お父さんが、仕事で長い航海に出るために、東京の親戚に預けられます。
田舎から、突然、東京の学校に転入してきたカッチンが、いろいろな騒動を巻き起こします。転入初日からして、大騒動です。何しろ、彼女は、ロバに乗って学校に現われるのですから。
全体として、ほのぼのしたファンタジーコメディでした(^^)
この作品、もしも、ヒロインのカッチンが、直接、ボビンを使う設定にしていたら、伝統的な口承文芸の枠を、まったくはみ出さないものになっていたでしょう。
その上、「魔法道具型の魔法少女」の型にも、はまったことになります。
そこをそうしないで、英子先生をかませたことが、新しいですね(^^)
この工夫は、二〇一五年現在のファンタジー作品にも、使えそうです。型にはまらないぶん、難しくても、面白いものができるかも知れません。
今回は、ここまでとします。
次回も、『それ行け!カッチン』を取り上げます。