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魔女になる
梨木香歩『西の魔女が死んだ』
小さい頃から魔女になりたかった。
図書館の児童書のコーナーで、タイトルに「魔女」や「魔法」とつくファンタジーを端から読んでいた。
(そうして得た、かけがえのない本との出会いが幾つもある。『魔女の友だちになりませんか?』から始まる村山早紀〈風の丘のルルー〉シリーズもその一つだ)
今でも、不思議な薬を作ったり、おまじないをかけたりするような魔女が、どこかにいないとは言いきれないと思っている。
けれど、わたし自身がそういう魔女になる見込みは、(これから突然運命が動き出すのでもないかぎり)かなり薄いと言わざるを得ない。
そんなわたしが魔女になる方法を、この本は教えてくれる。
* * *
主人公・まいには、英国人のおばあちゃんがいる。
まいのママ曰く、おばあちゃんは「本物の魔女」だ。それで、まいとママはふたりきりのとき、おばあちゃんを「西の魔女」と呼んでいる。
中学校に上がってすぐ、まいは学校に行けなくなった。
喘息の発作もあって、まいは、しばらくおばあちゃんの家で暮らすことになる。
魔女になれば、こんなつらい思いをせずに、もっとスムーズに生きていけるんじゃないか。
そう考えたまいは、おばあちゃんに、魔女になりたいと申し出る。おばあちゃんは、まいには生まれつきその力があるわけではないから、相当の努力が必要だと言う。
「わたし、がんばる」
まいは、破れかぶれのひたむきさで応じた。
「だから、教えて、おばあちゃん。どんな努力をしたらいいの?」
(新潮文庫、2001、p. 66)
おばあちゃんの魔女修行とは、精神力――「正しい方向をきちんとキャッチするアンテナをしっかりと立てて、身体と心がそれをしっかり受け止める」力を鍛えることだった。
「(前略)悪魔を防ぐためにも、魔女になるためにも、いちばん大切なのは、意志の力。自分で決める力、自分で決めたことをやり遂げる力です。(中略)まいは、そんな簡単なことっていいますけれど、そういう簡単なことが、まいにとってはいちばん難しいことではないかしら」
まったくそのとおりなので、まいは唇をとがらせて、不承不承うなずいた。
おばあちゃんは微笑んだ。
「まいにとっていちばん価値のあるもの、欲しいものは、いちばん難しい試練を乗り越えないと得られないものかもしれませんよ。まあ、だまされたと思って」
まいも、このころにはもう覚悟ができてきた。
「分かった。やってみる……ことにする」
(新潮文庫、2001、p. 70-71)
* * *
自分で決めたことは、ねばりづよく最後まで取り組むこと。
常に実践できているとは言えない、むしろ、挫折していることのほうが多い。それでも、この言葉、そうやって意志の力を強くしていけば魔女になれるというおばあちゃんの言葉は、ずっとお守りみたいに胸のなかにある。
そして実際、諦めなければ最後には叶うことも、本当にたくさんあるのだ。
「ねえ、おばあちゃん。意志の力って、後から強くできるものなの? 生まれつき決まっているんじゃないの?」
まいは聞いてみた。
「ありがたいことに、生まれつき意志の力が弱くても、少しずつ強くなれますよ。少しずつ、長い時間をかけて、だんだんに強くしていけばね。(中略)もう永久に何も変わらないんじゃないかと思われるころ、ようやく、以前の自分とは違う自分を発見するような出来事が起こるでしょう。そしてまた、地道な努力を続ける、退屈な日々の連続で、また、ある日突然、今までの自分とは更に違う自分を見ることになる、それの繰り返しです」
(新潮文庫、2001、p. 72-73)
新しい年を迎えて、今年の目標を立てているひとも多いでしょう。
魔女志望ではなくても、この本は、目標を達成してなりたい自分に近づく手助けになってくれるはずだ。
西の魔女の、魔法のように。