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読書感想文 青山美智子 月の立つ林で

2023年の本屋大賞は、凪良ゆうさんの「汝、星のごとく」になりましたが、こちらは本屋大賞のノミネート作品でした。

5つの短編集になっていますが、その登場人物は繋がっています。
こういう形式の短編集、最近多いなって思います。
それぞれの登場人物がそれぞれの人生を歩んでいるのに、どこかでつながっている奇跡ってそれだけでドラマチックですものね。

ネタバレ、あらすじありの読書感想文です。

タケトリ・オキナの配信するポッドキャスト「ツキない話」を聞く5人の登場人物が、タケトリ・オキナが話す月に関する話から気づきを得て、現状から少し前に進もうとする物語です。

誰かの朔
独身、実家暮らしの看護師怜花は仕事に行き詰っていた。劇団員の弟は、自由気ままに生きている。そんな弟を怒鳴ってしまう怜花。
タケトリ・オキナは新月の話をしていた。新月は新しい時間のスタートだと言う。ネットで新月を意味する朔という名前のリングを見つけた怜花はリングを購入する。リングが届いたころ、怜花は弟のことを誤解していたことに気づき、新しいスタートをしようと思うのだった。

レゴリス
配送の仕事をする本田は、お笑いコンビを結成していた。だが、相方が劇団員になりたいと言って解散してしまった。ピンでお笑いの仕事はなく、やむなく配送員をしているのだ。本田は偶然相方だった劇団員に出会い、彼が次の公演で主役をする話を聞く。相方の成功を喜べない本田だが……

お天道様
二輪車の整備工場を立ち上げ家族を養ってきた高羽。一人娘が授かり婚で福岡に行ってしまったのが気に入らない。婿が言葉数の少ないなまっちろい男であることも気に入らない。妻が娘の出産を手伝いに福岡に行ってしまい一人暮らしとなった高羽の元に、出張帰りだと言って婿がやってくる。何を話せばいいのかわからない高羽だが……

ウミガメ
友達のいない女子高生那智の唯一の友達は夜風と名付けた中古のベスパだ。幼い頃に父が出て行き、母に育てられた那智だが、母は父親似の那智を嫌っている。高校を卒業すれば家を出ようと、母親に内緒でバイトをしていたことがバレて叱られ、那智は夜風に乗って家を飛び出すが、転倒して夜風は動かなくなってしまった……

針金の光
主婦の片手間で始めたアクセサリー製作が人気になり、本をだすことになった睦子。だが、夫はあまり喜んでくれない。睦子は有名な切り絵作家リリカと出会い、作品を生み出す喜びと苦しみに共感する。リリカは製作を優先して離婚したことを後悔しているようだ。自分の気持ちを別れた夫と息子に言わなければわからないという睦子の言葉にリリカは何か思うようだが……

姉と弟、芸人と相方、義父と婿、妻と夫と義母。
人は一人で生きているわけではなく、誰かと関わり合いをもちながら生きている。
親や兄弟、血のつながりのある人間でも、感じ方や考え方に違いがある。
夫婦や友人だって、最初は気が合うと思っていても、だんだん違うことに気づくこともある。
共感したり反発したり、人の感情は忙しい。
登場人物はどこにでもいそうな普通の人たちばかり。
そして、皆、手を抜くことなく真面目に生きている。
それでも、それぞれに生きづらさを感じている。
でも、考えの持ち方次第、感じ方次第。
視点を変えてみるだけで、自分の考えが単なる誤解であったことに気づいたりする。

5つの物語に登場する人物は、どこかでつながっていて、タケトリ・オキナもある登場人物であったことがわかる。
なぜ、月の話を毎日配信していたのか? 
最後にはその理由もわかり、大団円といってよい終わり方。
皆、色々あるけれど、独りぼっちだなんて思わないで、自分が気づかないだけで家族は自分のことを気にかけていてくれるものだし、様々な気づきで前に進むことを喜んでくれているのだよと。
言葉足らずで理解できなかったり、誤解することもあるけれど、きっと分かり合えるんだよと。
そんな風に思わせてくれる、読後感です。

月に関わる色々なお話も面白かったです。


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