読書感想文 リボルバー
ネタバレ、あらすじありの読書感想文です。
タイトル リボルバー
作者 原田マハ
出版社 幻冬舎
あらすじ
ゴッホとゴーギャンの研究者にしてパリのオークションハウスCDCの社員冴。CDCにゴッホが自殺した時に使用した拳銃が持ち込まれる。持ち込んだのは画家のサラ。サラは以前ゴッホの展覧会に出品された拳銃でお墨付きだというが、それは別物だった。冴とCDCの社長ギロー、同僚のジャン・フィリップは拳銃の由来を調査するためにゴッホの最後の下宿オーヴェールのラヴー亭へ向かい管理するペータースに出会う。ペータースからその拳銃がゴーギャンの拳銃だと聞かされたギローは「ゴーギャンがゴッホを殺した」と仮説をたて、そうなら価値ははかりしれないと喜ぶ。
だが、冴はそんな仮説は信じられない。
サラと二人きりで会った冴は、サラから驚くべき告白を聞く。
サラは何者なのか? サラが子供の頃に家にあったゴーギャンのタブローは何だったのか?
ゴッホとゴーギャンの関係や、彼らの作品に魅入られる現代の人々の情熱が向かう先にあるものは?
人生を変える程の感動を与える芸術や美術品の魅力があることと、高額の落札価格にしのぎを削りオークションハウスが利益を求める姿はどこか矛盾した世界の様にも見える。
冴はその拳銃をオークションにかけるのか? 見つかったゴーギャンのタブローはどうなるのか? サラはラヴー亭にゴッホの作品を取り戻す夢を叶えられるのか?
感想
キュレーターでもある原田マハさんの美術にかかわる小説は、かなり詳しく史実や研究された内容が描かれていて、それだけでも勉強になる。
そして作者本人も、主人公の冴のようにゴッホやゴーギャンの作品を心から愛しておられるのだろうなと感じる。
芸術作品そのものが放つエネルギーや心を震わせる本物の魅力は、それを愛する人を虜にし、執着させ、人生そのものをかけても良いとまで思わせる。
それに反して、投機的な意味で芸術作品を所有しようと考える人間もいる。芸術作品の魅力ではなく、現在の価値と未来の値上がりを目的とする人間が、利ザヤを得るために高額で手に入れようとする現実。
だが、芸術の魅力に魅せられる者も、お金の魅力に魅せられる者も、所有「欲」という意味では変わりのない存在なのかもしれない。
実際にゴッホが自殺に使ったと言われる拳銃は2019年にパリの競売会社で約2千万円で落札されたという。
この落札者が、拳銃の由来に思いを馳せる者なのか、将来の値上がりを期待する者なのかはわからないけれど、手に入れた拳銃を所有することで幸せを感じているのなら、落札した価値はあるだろう。
そんな現実から発想を飛躍させて、こんなことがゴッホとゴーギャンの間にあったなら、ゴーギャンがこんな子孫を残していたらとイメージを膨らませて書かれたこの作品は、フィクションとして面白い。
だが、絶対にこんなことはなかったと言い切ることは誰にもできないのじゃないか? 本当にこんなドラマがあったかもしれない。
そんな風に想像を膨らませる楽しさを教えてもらえる作品だと思った。