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舞台感想 宝塚歌劇 雪組公演 蒼穹の昴

浅田次郎原作の蒼穹の昴が宝塚歌劇で舞台化されました。
小説蒼穹の昴の読書感想文はこちら
読書感想文 蒼穹の昴1~4|おとぼけ男爵|note

なんといっても壮大な物語。
これをフィナーレ含めて二時間半にまとめるって、どんな舞台になるのだろう?
昨日一度目の観劇をしてきましたので、その感想を書いてみます。
がっつり、ネタバレありです。ご注意ください。

一言で、一度目の観劇の感想を表現すると、
「丁寧に作られた上質の作品でありながら、思ったほど観劇後の満足感がなかった」という我ながらちょっと不思議な感想です。

舞台装置や衣装は素晴らしくて、紫禁城の中秋節のシーンがどおおーんと現れた時には、「これぞ、宝塚!!!」とテンションが上がりました。
華やかな京劇が舞われる紫禁城中秋節と紫禁城婚礼の儀、そしてダンスで戦争を表現した日清戦争のシーンはとても印象的です。
そして、そういう印象的なシーンの間に、物語を進める重要なシーンが挟まれ、物語自体は原作にほぼ忠実に進みます。
「はあ?」っていうへっぽこな展開もなければ、「なに!」っていう妙なセリフもない。(まあ、春児が宦官になったと玲玲と文秀が話すシーンはなんというか、客席に一瞬妙な空気が流れたようにも感じたけどね)
どこかがおかしいとか、何かが悪いというわけでもなく、なるほどね、なるほどね、と物語は進んでいきます。
泣けるような、感動的なシーンも挟まれ、ウルっとすることもあります。
私の場合は原作を読んでいたので、さまざまなエピソードを入れているのに驚きました。もっと、はしょらないと無理だろうと思っていたのに、科挙受験時代の逸話までさらりと触れられている。

原田先生、頑張らはったんやな……と感じました。

演者の皆様も素晴らしいです。
彩風さんの文秀。ちょっとやんちゃな次男坊のくせに優秀、それを鼻にかけない気さくさと立場の違う春児を弟のようにかわいがる兄貴っぽさが良く出ていました。先を見通せる賢さゆえの苦しみや意識の高さなんかは、リアル咲ちゃんかもしれません。
朝月さんの玲玲。登場場面が少な目で、ご卒業公演としては残念にも思えたけれど、超貧乏の素直な少女から、小ぎれいになって譚嗣同に惚れられ、譚嗣同を見届けるという強さを持って、船で旅立つという流れは、きわちゃんの娘役人生にも重なる様でなんだかぐっときましたね。少女から大人への演じ分けも見事でした。
朝美さんの春児。原作でも上昇志向の強い部分がありながら、出世してしまえば私欲とは無縁の天使のような人物。あーさの無垢な瞳の輝きはそんな天使感が良く出ていてぴったりだなと感じました。京劇のシーンはお稽古大変だっただろうなとその素晴らしさに、頭が下がります。
和希さんの順桂。そら君、人として凄みがでてきたというか、なんというか存在感がある。西太后自身というより出自そのものが自分の出自の仇であるという体に植え付けられた恨みのようなものを、立っているだけで醸し出しているのがすごい。それに、ええお声。ほんま、ええ声や~
縣くんの光緒帝。イメージ通り。利口で前向きで素直。その素直さが、楊先生の教えを信じ、康の考え方に傾倒する原因であることに納得させられる。そして西太后を敬い愛する無邪気な幼さを感じさせて、こんな甥っ子にこんな瞳で見られたら、西太后もかわいくてならんやろって思わせる巧みさがあって上手い。

もっともっと語る演者は多いけれど、印象に残った所では
天月さんの安徳海。もう、このビジュアル作ってくるのがあっぱれで、専科さんに負けていない迫力。タカラジェンヌのふり幅、紫門さんの高師直以来の衝撃だった。素晴らしい。
眞ノ宮くんの黒牡丹。めちゃかっこいい!元々身体能力の高いジェンヌさんだから、身のこなしもすばらしくて、印象に残りました。
専科の方々は、もう芝居上手の方ばかりで、語る必要もないけれど、京さんの白太太が春児の予言は偽りだというシーンは泣けて……言霊の威力……

お衣装も、素晴らしくて、プログラムに書かれているのを読めば咲ちゃんの裾の刺繍だけで7時間って。もう、素晴らしいですよね。再演しなくちゃ元とれませんよ、ほんと。舞台装置も、豪華で、すごく奥行きを感じられて、工夫も感じられてさすが宝塚でした。

こうして書いていると「絶賛」って感じなのだけど、実はそうでもない。

豪華で華やかなシーンもあるし、民衆の群舞もあるし、盛りだくさんのはずなのに、観終わった印象がどことなく地味。

なにが、原因なのかな?

なんとなく、思ったところは
一本物って、一幕の終わりが華やかだったり、ドラマティックだったりするものですが、これは楊先生が撃たれて不穏な終わり方をするのですよね。事件としてはドラマティックなのですが、それがどれほど重大な事件なのかということが説明しきれていない感じがしました。
だから、「ええ! 二幕どうなるの? どうなるの? ええ?」というワクワク感があまりなかったのですね。

それと、悪役。栄禄と袁世凱が主な悪役ってことになると思うのですが、その卑怯さやずるさが上手く表せていない気がしました。
物語って善悪の対比が大きいほどドラマティックに感じられるものです。
栄禄なんてのは、賄賂を受け取りまくって私腹を肥やし、私利私欲でしか動いていない嫌らしい奴で、西太后が引退すれば自分の力も衰えるから引退しないように画策して楊を殺したりする大悪人なわけですが、その悪さが意外と見せられていない。
歌劇10月号で、原田先生が原作の浅田さんに京劇のシーンを入れることと、西太后を悪女に描かないというリクエストを頂いたと語っておられましたが、そのせい?とちょっと思ってしまいました。
原作では栄禄のしたい放題を西太后が見逃しているのは、西太后が栄禄に惚れているっていう女の部分につけこまれているという理由があるのですが、今回それには触れられていないので、栄禄を悪く描きすぎると、それを見逃している西太后も悪女っぽくなってしまうから軽めになったのかしら? と少し思ってしまいました。

そして、娘役の見せ場があまりにも少ないというところも観劇後の印象の薄さにつながっている気がします。
蒼穹の昴では、女性の登場人物って元々少ないわけですよ。
玲玲の立ち位置もすごく難しい。文秀に恋心を抱いているが身分が違うから諦めているし、譚嗣同に惚れられるとそれはそれで嬉しく思っているし、処刑される譚嗣同を覚悟を持って見届けて、文秀と共に旅立つって結局どうゆうこと? 玲玲と文秀は不思議な糸で結ばれているという白太太の予言だけで納得できない不思議な関係ですよね。
この辺はもっと、宝塚的に変えてしまうのかと思っていたのですが、原作に忠実で不思議な関係になってしまったトップコンビ。
ミセス・チャンはもうちょっと魅力的な大人の女性ですが、こちらもその魅力は表現できずに最後にいきなり正体を明かされると原作読んでいない方は「え?」ってなるのじゃないかと思いました。

フィナーレは良いですよ。男役が扇を持って踊るなんて、ちょっと素敵。
娘役群舞も美しくて。羽山先生の振り付けは素敵です。
デュエダンも、きわちゃんの柔軟性が何度も見られて美しいのだけれど、リフトは咲ちゃんが一瞬ふらついて、ドキっとしました。
リフトなあ、リフトって見ている分にはすごい!って喜んでいられるのだけど、ジェンヌさんへの負担が心配になる今日この頃です。

羽根をしょわずに、物語の世界観を大切にしたパレードもとても美しくて良かったです。

でも、「絶賛」ではないのよ。
やっぱ、心のどこかに女と男の愛の物語を期待しているのかなあ~
悪くないんだけど、満足ではないのよ。
真面目に、ちゃんと作られた歴史大作ではあるんだけどね……

さて、原作を読んでみるべきか、読まなくてもよいのか?
うーん、読まなければ物語についていけないということはないと思うのですが、登場人物の名前と関係性と、西太后側か光緒帝側かくらいは理解してみる方がよいかと思いました。

また、二度目に見ると印象変わるとは思います。
ということで、一回目の舞台感想でした。

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