読書感想文 朽ちゆく庭
よその家のことってわかりませんよね。
仲良さそうな家族だなって思っていても、それは私の目にそう映っているだけで、本当に仲が良いかどうかなんて当事者しかわからない。
ツイッターなんかも、幸せそうなリア充がタイムラインに溢れているけれど、それが本当かなんて誰にもわからない。
私自身で考えてみても、美味しそうな外食の写真を撮って、ツイッターにアップしている自分が、その写真のような幸福感に溢れているかといえば、疑問。写真に写っているの世界と写真をとっている世界はどこか微妙にずれている気もする。とどのつまり「美味しそうな外食している私って、ちょっと幸せそうでしょ。見て見て」って気持ちが心のどこかに存在していて、承認欲求を満たしたい淋しいおばちゃんってことかもしれないわけです。
つまり、自分自身に対してだってわからないってことです。
当然、人様のことなんて、あくまで自分の持っている情報を元に想像して、幸せそうな家庭だなとか、難しそうなご主人で奥さん大変そうだなとか、勝手に思っているだけですものね。
そんな一見幸せそうな家庭を舞台にしたイヤミスがこちら
ネタバレ、あらすじありの読書感想文です。
あらすじ
建築会社に勤める山岸陽一、税理事務所でパートをする美人の妻裕実子、中学生の息子真佐也は、新しい家に引っ越してきた。
元々は高級住宅地だったが、バブル以降若い家族にも手が届くようになった朝陽ヶ丘ニュータウンだ。
昔から住んでいる第一世代と陽一たちの第二世代の間には、どこか溝があるが、山岸家は表面的には平和で幸せそうな家族だ。
だが、実際は陽一にも、裕実子にも秘密があった。
そして、真佐也は前の中学でトラブルを抱えていた。転校したことでトラブルから逃れることができたと思っていたが、純二という友人が真佐也を頼って頻繁に訪れる為、前の中学の同級生に関わりを持たざるをえなくなってしまった。その同級生の一人相沢恭太は、裕実子のパート仲間相沢桃子の息子で、桃子は裕実子を何かに巻き込もうとしているようだが……
真佐也は近所の公園で具合の悪くなった少女を見つけ家で休ませる。少女は坂井あかりという8才の少女だった。
あかりの義父を名乗る男が山岸家の前で娘を返せと騒いでいる。
警察を呼んで男を追い返そうとした陽一だが、家の中から裕実子の悲鳴が聞こえ、警察官が駆け付けると納戸からあかりの遺体が見つかる。
大騒ぎとなり、警察が山岸一家に事情を聞く。
すると、真佐也は自分がやったと言うのだが……
感想
イヤミスなのですけれど、面白かった。
とにかく、登場人物誰も彼も嫌な奴で、読んでいるだけで気分悪いのだけれど、引き込まれる。最後は少し救われるような終わり方で、読後感は良い。
でも、きっとそう上手くはいかないだろうなって思えるやるせなさも残って、どんよりした気持ちは残ったままだ。
でも、面白い。
なんだか、映画にでもなりそうなお話です。
誰も彼も心がねじくれている。
唯一、純二だけが純粋なのかもしれない。
だが、した行為が許されるわけではない。
大体、真佐也と純二の間に存在したのが、友情なのかどうかも定かではない。
大人たちの「愛」の感情はどこにあるのだろう?
陽一も裕実子も、近所に住む大人も、中学の先生も、皆自分のことばかりだ。原因を作ったのも親なら、不登校になった真佐也から逃げるのも親。
そして真佐也は何もかも一人で抱え込んで、誰にも説明せずにゲームの世界に没頭する。だからといって、それで救われているわけではない。
寒さに震えている少女にむけた優しさだけが、真佐也という少年の本当の部分であるように思えるから、真佐也は真実を話し、純二との友情を改めて確かめることができるようにも思える。
真佐也はそんな行動が取れれば、きっと新しい人生を歩むことができる気がする。
でも、母親はどうだろうか?
大人である方が、もう変われないのかもしれない。
母親が手入れをする庭。
もうすぐ売り払いそこをたちのいていく庭だが、草を抜いている。
事件が終わって仕事を辞めても不倫相手には抱かれる母親。
それを、狂っているとすら気づけない母親。
彼女は、真佐也の告白にどう反応するのだろう……
やめろと命令するだろうか?
やめて欲しいと懇願するだろうか?
そうだとしても、その愚かさこそが人間らしくて、リアルだ。
朽ちゆく庭。
朽ちて、腐って、崩れ落ちる家庭という名の庭……
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