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青春小説をメインで書いてきたわたしが、胡散臭いマヌルネコが出てくる一般文芸を書くまで。

今までの人生で、逃げずに真正面から向き合ってきた出来事はいくつありますか?

2023年12月7日。
自著『人間やめたマヌルさんが、あなたの人生占います~適当ですがあしからず~』(ポプラ社)の発売から一か月が経ちました。

わたしにとってマヌルさんは、新しい世界を開く扉であり、疲れてしまったときの癒しであり、カチコチに固まった頭と心と体をほぐしてくれる存在でもあります。
SNSなどで感想をちらほらと見かけるようになり、読んでくれたみなさんにとってもそういう存在になれているのかなと嬉しくなります。

うちのマヌルさん

青春小説から始まった

さて。
わたしは2020年の9月に『未だ青い僕たちは』という作品でスターツ出版よりデビューしました。
アニメオタクの原田くんと、読者モデルをしている野乃花が隣の席になったところから始まる青春小説です。
普通に生活をしていれば交わることのないふたりの世界が、SNSを通じて重なっていき──。という、タイトル通り、まだまだ青くて未熟だからこその葛藤や成長を描いた作品です。
一般的にはモテとは正反対の場所にいる原田が、これまたかっこいいんです。(自分で書いたけど)
──と、原田の話になると長くなるのでそれはまた今度。
ここからは、ライト文芸を書いてきたわたしが、なぜこれまでの青春ジャンルとは異なる一般文芸にチャレンジすることが出来たかを綴っていきたいと思います。

デビュー作『未だ青い僕たちは』

『未だ青い僕たちは』の刊行後、音楽プロデューサーである*Lunaさんの大人気楽曲『アトラクトライト』を原案にした小説『僕が恋した、一瞬をきらめく君に。』など、この三年間で青春小説を中心に8作品刊行することが出来ました。

青春小説を書くのは大好きで、読者さんの大事な時期や、その頃のことを思い出しながら読んでもらえることがすごく幸せで。大人の青春を描くのもとても楽しいと感じています。

だけど、もっと幅広いジャンルのお話を書いてみたい。
ホッとできたり、気持ちが楽になったり、くすっと笑えたり、だけどちょっとビターさも感じるようなお話も書いてみたい。
ずっとそう思ってきました。
もともと、デビュー前は青春小説はほとんど書いたことがありませんでした。
デビューするきっかけとなった、スターツ出版のコンテストで受賞した作品もラジオDJを目指す女の子の成長ストーリー。
青春小説はこれからも大切に書いていきたいけれど、新しいチャレンジもしていきたい。
そう思っていたときに、とあるイベントでポプラ社の編集者さんにご挨拶をする機会がありました。

お酒を飲むシーンもずっと書きたかった!
マヌルさんはお酒弱いのに呑むのが大好き

ポプラ社の編集さんとの出会い

わたしは幼少期、ポプラ社さんの本に夢中になって過ごしました。
デビューしてから、いつか刊行出来たらと憧れていたポプラ社さんの編集者さん!しかもSNSでよくお見掛けし、素敵な編集さんだなあと思っていた方!

この熱い想いを伝えてもいいのだろうか……!

でもでも、絶対にお忙しいしな。それにわたしはライト文芸の青春小説をたくさん書いてきたから、ジャンルが違うということで困らせてしまうかもしれないし。

そんな風にうじうじしていたのですが、後悔したくない!と思い、「企画を見ていただけませんか…?」と清水の舞台から跳び降りる覚悟でメールをしたのでありました。

たくさん企画を考えました

編集さんはふたつ返事で「もちろんです!」と言ってくれました。
そこからわたしの熱量はヒートアップ。
ずっとずっとチャレンジしてみたかった大人主人公のほっこりできるお話を書けるチャンスを無駄にはしまいと、かなり力んでいました。

プロットを書いて提出。
『うーん、これはちょっと難しいですね』
再び別のプロットを書いて提出。
『ちょっと未知数というか、難しい』
さらに別のプロットを書いて提出。
『一度、打ち合わせしましょうか』

分かりますか……? わたしが出していた企画、全然通らなかったんです。

青春小説というイメージを飛び越える企画

こうして書いてて思い返しても、編集さんには本当にたくさんお世話になりました…お忙しかったはずなのに、毎回丁寧にお返事いただいて……そして……全然企画とおらなかった…………笑
企画というものの本筋を理解していなかったんです。

打ち合わせでは

・どういう作品を書きたいか。イメージするような既存作品はあるか。
・どういう小説家になっていきたいのか。
・これは読みたい!となるフックが不可欠

などのお話をしてもらって。
(これ、すごく作家として自分がどうありたいかを知るいい機会になりました!みなさんもぜひ!)
その中でね
「音さんは青春小説をずっと書いてきたじゃないですか。そんな音さんが一般文芸を書く。それには、どうして青春小説じゃないんだという周りを説得させるだけの企画力が必要なんです」
という言葉がすごく胸にせまって。

この言葉を聞いたときに、これまで重ねてきたことが新しいチャレンジを阻む壁になってしまったのか、と打ちのめされました。

本当はそんなことはないのだけど、このときのわたしはそう思ってしまったんですね。
それは多分、この言葉が本当に真意で、自分の企画の甘さみたいなものに直面して、だけどどこか逃げて何かのせいにしたかったからだと思います。

わたしは昔からそういうところがどこかあって。
これまで生きてきた人生の中で、逃げずに真正面から向き合い続けて、最後まで貫いたことって何度あっただろう。
どこかで諦めてしまったり、妥協してしまったり、失敗を恐れてチャレンジ自体をやめてしまったり。

今思うと、高校受験も部活動も就活も仕事も、わたしはどこか真正面から向き合うことから逃げてきたのかもしれません。

自分で限界を決めて、傷つかないように保守的になって、まあこんなもんだよなって物分かりのいいふりをして。

だけど今回は、絶対に逃げたくなかった。
ここで逃げたら、わたしはもう小説家を続けていくことは出来ないだろうとさえ思っていました。

小説家向いてないかも!

逃げないと決め、とことん向き合うと覚悟をし、朝から晩まで企画のことばかり考えて。

編集さんからは「音さんの場合は、作りこんだ企画書じゃなくて、キャッチフレーズのような短いアイデアから膨らませていくのがいいかも。壁打ちでいいので、どんどん送ってください!」と言ってもらって(お忙しいはずなのに!めちゃくちゃ優しくて泣きました)、お言葉に甘えてその方法にしていくことに。

しかしですね、打てども打てどもだめなんです。

フックってなんぞや!?
何が足りないんだろうか!?
青春ジャンルを飛び越える企画とは!?

本当に大袈裟じゃなく、毎日頭を抱えていました。
わたし小説家向いてない!と自信喪失して、だけど諦めたくない~と這いつくばって、考えて考えて考えて、やっぱわたしには無理かもって思ったりして。

そんなマイナス思考にならず、ただただ前向きに考えていけばいいのにね。
ネガティブになる自分に辟易したときに出たんです。

「ああー、人間やめたい!」

マヌルさん誕生


その瞬間、突然ふてぶてしいマヌルネコが現れました。
マヌルさん誕生です。
マヌルさんはふてぶてしい表情のまま言いました。

「人間なんかやめたよ、疲れるだけだもん」

マヌルさんが現れると、あとはするするするっといろんな情報が流れ込んできました。
マヌルさんは超絶適当な占いをやっていて、だけどその言葉がいろんなひとを癒してくれたり救ってくれたりするんじゃないかな、と。

こうして、マヌルさんがわたしに言いました。

「あんた、美人に書きなさいよ?」って。

かわいいマヌルさん。装画は小林マキさん。


〝会いたい〟と思える本

マヌルさんの企画案は、驚くほどスムーズに進みました。
あんなにもフックとは!?と悩んでいたのが嘘みたいに。

原稿を書いていたときはひたすらに楽しくて、けらけらと笑いながら書いたシーンもあるし(花占いとか温泉シーンとか仮装大賞とか)、ちょっと目がしらを熱くしながら書いたシーンもありました。

マヌルさんが一冊になるまでの出来事は、わたしにとって大きな変化をもたらしてくれました。
本当に、人生の転機となった一冊だと思います。
そして担当編集さんと一緒でなければ、マヌルさんはわたしのところに来てくれなかったと思います。
本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

生きていると、いろんなことがあります。
その中には確かにチャンスとか縁とかがあって、だけどそれを引き寄せるには「でも」とか「だけど」をかなぐり捨てて、自分から動くことが大事なんだと実感しました。
自分の弱点や至らないところと向き合うことも含めて。

そのことを、マヌルさんは気付かせてくれました。

マヌルさん特製おみくじ栞も作ってもらいました!
かわいくて全部揃えたい!

わたしはマヌルさんが大好きです。
川谷さんも叶ちゃんも、喫茶マーヌルに訪れる人たちも、みんな大好き。

打ち合わせで、どんな作品を書きたいですか?と聞かれたわたしが出した答えは、「会いたいと思えるキャラクターたちが出てくる作品」。

今作『人間やめたマヌルさんが、あなたの人生占います~適当ですがあしからず~』は、そんな作品になれたんじゃないかなと思います。

ちょっと疲れたときには、本の表紙を開いて、喫茶マーヌルを訪れてみて。
マヌルさんがそこで、あなたを待っています。

「で、あんたは何を占ってほしいって?」と言いながら。

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