うつ病で会社を休むことになった人に「オススメの本を教えてください」と言われたので全力で本を勧めてみた
タイトル通りなんですが、先日、ぼくのLove letterにこんな質問が届きました。
質問主さんへ
うつ病で会社を休むことになったということで、ほんとうにお疲れ様です。お大事になさってください。
ぼくもうつ病で会社を半年以上休んだことがあるのでわかるのですが、最初の1か月はベッドから起き上がるのもしんどかったのを覚えています。UBERのアプリをインストールすることすらできず、友人に頼んでご飯を届けてもらったりもしました。
ぼくはポジティブな人間なので「死にたい」と思ったことは人生で一度もないのですが、そんなぼくでも「死ぬかも!?」と思ったのがあの期間です。ほんとうにしんどいと思いますが、まずはしっかり「なにもしない」ことを心がけてください。うつ病で会社を休んでいると、ついつい「ひまだし何かしなきゃ」という強迫観念に突き動かされてしまうものですが、あなたに必要なのはゆっくり休むことです。ゆっくり休んだ上で元気が出てきたら、ちょっとずつなにかを始められたらいいと思います。繰り返しになりますが、まずはなにもせず休んでください。
さて。「回復中のリハビリとして本を探している」「そのため、登場人物は多すぎない方がいい」とのこと。なかなかこのお題は考えてみると難しくて、昨日今日と悩んでいました。ぼく自身もうつ病で悩んでいたことがあるので、変な本はオススメしたくないですし。
いろいろ悩んだ結果、「ジャンル不問。読みやすくて、読書の楽しさを思い出せるような本にしよう!」ということで、本をセレクトしてみました。あなたのことは質問以外ではなにも知らないので、なかなかあなたのことを思い浮かべるのは難しいです。なので、「ぼくがうつ病から徐々に立ち直って、ちょっとずつ本を読み始めるとするなら、どんな本を勧められたらうれしいだろう?」という観点から考えてみました。そういうわけで、もしあなたに刺さらなければ、ごめんなさい。でも、以下で勧める本は、少なくともぼくは面白いと思い、そしてなにより「読書っていいなあ」としみじみ感じた本なので、一冊でもヒットすればいいかなあと思っています。
本当は10冊書く予定だったんですが、あまりに記事が長くなりそうだったので、泣く泣く3冊省いて7冊にしています。もし残り3冊気になるようでしたら、捨て垢からでもいいのでDMください。
前置きが長くなりました。それではどうぞ。
1. ぼくは勉強ができない
ぼくは確かに成績が悪いよ。でも、勉強よりも素敵で大切なことがいっぱいあると思うんだ――。17歳の時田秀美くんは、サッカー好きの高校生。勉強はできないが、女性にはよくもてる。ショット・バーで働く年上の桃子さんと熱愛中だ。母親と祖父は秀美に理解があるけれど、学校はどこか居心地が悪い。この窮屈さはいったい何なんだ! 凛々しくてクールな秀美くんが時には悩みつつ活躍する高校生小説。
1冊目は山田詠美の『ぼくは勉強ができない』です。ぼくがこの本に出会ったのは小学生のころです。母親の本棚にあったこの本を読んでから、ぼくは秀美くんを人生のメルクマールとしてきたといっても過言ではありません。間違いなく人生で一番読み直した本ですし、かつ、ぼくの人生に多大なる影響を与えた本です。この本だけで丸々一本note記事が書けてしまうくらいなのですが、それは別の機会に。
秀美くんは飲み歩いて恋してばかりいる放任主義の母親と、どこか人を食ったような祖父との二人暮らしです。父親はいません。なので、秀美くんはほかの「ふつうの」人たちとはまるで違う価値観を持っています。たとえば、秀美くんは本を読むとき、まずその著者の『顔』に注目します。
ぼくは、桜井先生の影響で、色々な哲学の本やら小説やらを読むようになったが、そういう時、必ず著者の顔写真を捜し出して来て、それとてらし合わせて文章を読む。いい顔をしていない奴の書くものは、どうも信用がならないのだ。へっ、こーんな難しいこと言っちゃって、でも、おまえ女にもてないだろ。一体、何度、そう呟いたことか。しかし、いい顔をした人物の書く文章はたいていおもしろい。その反対は必ずしもなりたたないのが残念なところである。
こんな価値観の秀美くんが厳しい先生や成績を鼻にかける優等生とうまくやっていけるかというと、もちろんそれは否です。秀美くんは自分に理不尽を押し付けてくる大人や同級生たちと真っ向から対立していきます。『ぼくは勉強ができない』はそんな秀美くんの高校生活を描いた青春小説です。理不尽を押し付けてくる人たちにも、自分の確固たる価値観からまったく揺らがない秀美くんに、ぼくは何度はげまされたかわかりません。いまでも彼はぼくのヒーローです。短編形式で読みやすいですし、読後感も爽やかなので、ぜひ読んでみてください。
2. 傷を愛せるか
心は震えつづける。それでも、人は生きていく。旅先で、臨床現場で、心の波打ち際にたたずむ。トラウマと向き合う精神科医のエッセイ集。
2冊目は宮地尚子の『傷を愛せるか』です。筆者の宮地尚子は
一橋大学大学院社会学研究科地球社会研究専攻・教授。精神科医師、医学博士。1986年京都府立医科大学卒業。1993年同大学院修了。1989年から1992年、ハーバード大学医学部社会医学教室および法学部人権講座に客員研究員として留学。1993年より近畿大学医学部衛生学教室勤務を経て、2001年より現職。専門は文化精神医学、医療人類学、ジェンダーとセクシュアリティ
と、まあ要は医学界のサラブレットとでも申しましょうか、すさまじいエリート街道を歩まれてきた方です。ぼくは本を買う前にかならず著者の経歴をチェックする習慣があるのですが、正直な話、「ぜったいこんなエリートのエッセイなんてぼくにあわねえよ」と思ったのを覚えています。そしてその予想は、いい意味で大きく裏切られました。ひとの心に人生をかけて寄り添ってきた筆者が、いかに豊かな眼差しで世界をとらえているのか。
以下は『なにもできなくても』という収録エッセイからの抜粋です。誰かを救うために、目の前の状況を変えるために医者になったはずなのに、じっさいはただそれを見ることしかできない日々。そんな日々は、ある日、終わりを告げます。
そのとき、なにかが腑に落ちた。見ているだけでいい。目撃者、もしくは立会人になるだけでいい、と。「なにもできなくても、見ていなければならない」という命題が、「なにもできなくても、見ているだけでいい。なにもできなくても、そこにいるだけでいい」というメッセージに、変わった。ちゃんと見ているよ、なにもできないけど、しっかりと彼女が喪主の役割を果たす姿を目撃し、いまこの時が存在したことの証人となるよ。そしてこれからも彼女が彼女らしく生きていくのを、見つめているよ。喪失は簡単には埋まらないだろうけれど、それでもいいよ。急がないで。ずっと見ているから。見ているしかできないけど。……そう思った。
『傷を愛せるか』というタイトルは収録されている同タイトルのエッセイからとられています。しかし、このタイトルは収録されているどのエッセイにも当てはまる普遍的なテーマです。人間は傷を負うことなしに、あるいは誰かに傷を負わせることなしに生きていくことはできない。その傷とどう向き合うのか。『傷を愛せるか』はそのヒントをあなたにくれるはずです。
3. 完全版 社会人大学人見知り学部 卒業見込
若手芸人の下積み期間と呼ばれる長い長いモラトリアムを過ごしたぼくは、随分世間離れした人間になっていた―。スタバで「グランデ」と頼めない自意識、飲み屋で先輩に「さっきから手酌なんだけど!!」と怒られても納得できない社会との違和。遠回りをしながらも内面を見つめ変化に向き合い自分らしい道を模索する。芸人・オードリー若林の大人気エッセイ、単行本未収録100ページ以上を追加した完全版、ついに刊行!
「若林正恭」と聞いてピンとこなくても、漫才コンビのオードリーはご存じだと思います。あの若林です。
ぼくはそれなりの数の芸能人が書いた本をこれまで読んできましたが、「エッセイが面白い芸人ランキング」を作るとするならば、間違いなく彼が金メダルです。このエッセイを読むまでは、若林のことを芸人としてしか認識していなかったのですが、これを読んで以降、ガラッと印象が変わりました。ぼくは「いい文章」を書くことのできる人間を無条件で尊敬します。
収録されているエッセイはどれも面白いのですが、その中でも、相方の春日について語ったエッセイは必読です。売れっ子芸人になる前、どん底にいた春日。「努力をしろ」とキレる若林ですが、春日の反応はこうでした。
むかし事務所からも見放されファンもいない時期、相変わらず努力をする姿勢の見えない春日に変わってもらいたくて「二十八にもなってお互い風呂なしのアパートに住んで、同級生はみんな結婚してマンションに住んでいるというのに、恥ずかしくないのか?」と問いつめた。相方は沈黙した。
三日後、電話がかかってきて、春日は「どうしても幸せなんですけど、やっぱり不幸じゃないと努力ってできないんですかね?」と真剣に言ってきた。
ダメだこりゃ。と思った。金もない、親からも呆れられている、そんな状況で一体何が幸せなんだ。とぼくはさらに問い質した。ゲームが出来たり、仲間と遊べたりするのが楽しいという答えが返ってきた。
「芸人ならテレビに出て金を稼いでなんぼだろ!」と信じる若林に「いま幸せなんだけど、だめですか?」と返す春日。
この後、しばらくしてオードリーはブレイク。順調に売れっ子芸人への階段を駆け上がっていくわけですが、ある日、オードリーは盲学校の子どもたちと遊ぶことになります。そのとき、子どもたちはみんな春日のところに駆け寄っていきました。そのとき若林は、いままで(おそらくは)見下していたであろう春日が、じつは自分に余裕があるから自分を大きく見せる必要がないこと、その雰囲気を目が見えないはずの子どもたちが敏感に感じ取っていたことに気がつくのです。
春日は、正直本当に面白いことを言える人間じゃないと思う。でも、すごく面白い人間だと思う。それを、子どもの集まらないぼくは真横で見て楽しんでいる。自分に自信があって。特別、自己顕示するために自分を大きく見せる必要のないマトモな男だと思う。
ぼくは、とことんマトモになって幸福だと思ってみたい。できるなら、上昇しつつ。
ぼくは春日に憧れている。
売れっ子芸人となり、若林が人間としても成長していく中で、目の前の物事を肯定も否定もせずに、あるがままに、少しナナメに受け入れるさまが印象的なエッセイ集です。すこし肩の力を抜きたいとき、そんなときに手に取ってもらえるといいんじゃないかなと思います。
4. 解錠師
このミステリーがすごい! 2013海外編
週刊文春海外ミステリーベストテン海外部門
第1位
八歳の時にある出来事から言葉を失ってしまったマイク。だが彼には才能があった。絵を描くこと、そしてどんな錠も開くことが出来る才能だ。孤独な彼は錠前を友に成長する。やがて高校生となったある日、ひょんなことからプロの金庫破りの弟子となり、芸術的腕前を持つ解錠師に……
非情な犯罪の世界に生きる少年の光と影を描き、MWA賞最優秀長篇賞、CWA賞スティール・ダガー賞など世界のミステリ賞を獲得した話題作
文句なく面白いです。夜を徹して読んだのをいまでも覚えています。念のため、登場人物の数を数えてみました。
マイクル/主人公
リート/マイクルの伯父
グリフィン/マイクルの親友
アメリア/マイクルの恋人
マーシュ/アメリアの父
ゴースト/金庫破り
メインは合計6人、プラスαで5人ほど。
「登場人物5人まで」という要望には、ごめんなさい、残念ながら答えられていないことがわかりました。それでもこの本を勧めたのは、文句なしに誰が読んでも面白いと答えるだろう、そう自信をもって言えるからに他なりません。うつ病がそれなりに回復してからになるでしょうが、ぜひ手に取ってください。損はさせません。読書のワクワク感を思い出すには最適の一冊だと言えます。
どこを切り取っても文句なく面白いのですが、切り取りすぎるとネタバレになるので、冒頭から。
ひと息入れるために、立ちあがってあたりを少し歩くことにした。といっても、ここではたいした距離じゃない。監房を出て共同通路を進み、中央洗面所で用を足して歯を磨いた。そこに、ぼくのことをまだ知らない新顔の男がいた。やあ、と言われたとき、用心が必要なのはわかっていた。堀の外では、挨拶を返さないのは無作法とされる。ここでは、ひどい侮蔑と受けとられかねない。ほんとうに性質(たち)の悪い場所にいたら、ぼくはいまごろ生きてはいないだろう。ここにいてさえ、毎日が試練だ。
ぼくはいつもと同じことをした。右手の指二本を自分の喉に向けてから、切るしぐさをする。実は、声が出なくてね。ばかにするつもりはないんだよ、と。いまもこうして書いているんだから、どうやら生還できたわけだ。
さあ、きみの準備ができたら、ぼくの物語をはじめよう。その昔、ぼくは“奇跡の少年”だった。やがて、“ミルフォードの声なし”となった。金の卵。若きゴースト。小僧。金庫破り。解錠師(ロック・アーティスト)。どれもぼくのことだ。
でも、きみはマイクと呼んでくれればいい。
この冒頭を読めばわかる通り、主人公が「解錠師」と呼ばれていたのは昔の話。主人公は逮捕され、刑務所に収監されています。いったい彼はなぜ金庫破りとなったのか。いかにして解錠師(ロック・アーティスト)とまで呼ばれるようになったのか。そして、逮捕されたいま、なにを思うのか。続きはぜひ本編で確かめてみてください。
5. しないことリスト
これが、ラクを極めた人の「頭の中」。所有しない、努力しない、期待しない…。本当はしなくてもいいことを手放して、「自分の人生」を取り戻そう。仏教の教えや哲学者の言葉などを引用しながら提案する「ラクしたい人」の脱力系自己啓発書!
もしかしたら著者のphaさんのことをすでにTwitterでご存じかもしれません。でも知らないかもしれないので、簡単に書きます。phaさんは1978年生まれの43歳。京都大学総合人間学部を24歳で卒業した後、25歳で(たしか)楽天に就職します。しかし、根っからのサボりマンであるphaさんは社内ニートになります。その後、28歳のときにインターネットとプログラミングに出会った衝撃で会社をやめてしまい、以降、シェアハウスを運営したり、ギターを弾いたり、なにかとふらふらしながら生活している人です。自称「元・日本一のニート」。
ぼくは冒頭であなたに対して「まずはしっかり「なにもしない」ことを心がけてください。」と書きました。そしてphaさんは、なにもしないことにかけてはまちがいなく天才です。実際、この本のタイトルも『しないことリスト』です。
もしかしたらあなたはphaさんに対して「京都大学みたいな、いい大学を出といてふらふらしてるのかよ」と思ったかもしれません。でも、いいのです。phaさんは毎日楽しそうです。ぼくもうつ病になった経験があるのでよくわかるのですが、うつ病で会社を休んでしまうと
「ちゃんと会社に戻れるんだろうか」
「ちゃんと受け入れてもらえるんだろうか」
「もし、またうつ病が再発したらどうしよう」
といろいろ悩みが出てくると思います。でも大丈夫です。実際、phaさんは京大を出て一流企業に入ったのに、自分からそれを投げ出してふらふらしています。
もちろん、「わたしはそんなにふらふらしたくない!!」と思うかもしれません。ぼくもそうですし、本を勧めておいてなんですが、phaさんの主張に必ずしもすべて同意するわけではありません。実際、むかし、こんな賛否両論のnoteを書きました。
ですが、京大卒で一流企業をやめた今でもふらふらしている彼の生き方は、肩の力が入りすぎているあなたをそっと解きほぐすいいヒントになると思います。ぜひ読んでみてください。
6. きんぴか
阪口健太、通称ピスケン。敵対する組の親分を殺(と)り13年刑務所で過ごす。大河原勲、通称軍曹。湾岸派兵に断固反対し、単身クーデターを起こした挙句、自殺未遂。広橋秀彦、通称ヒデさん。収賄事件の罪を被り、大物議員に捨てられた元政治家秘書。あまりに個性的で価値観もバラバラな3人が、何の因果か徒党を組んで彼らを欺いた巨悪に挑む! 悪漢小説(ピカレスク)の金字塔!
先ほどあなたに『解錠師』を勧めました。自信をもって面白いとオススメできる『解錠師』ですが、唯一の問題点が「登場人物が5人まで」という要望に応えられていなかったことです。
悩みに悩んで、必死に本棚を漁ってみたところ、『きんぴか』が出てきました。あらすじを読んでもらえればわかる通り、メインの登場人物は3人です。もちろん、ほかにも登場人物は出てきますが、メインはあくまでこの3人です。もちろんこの記事でオススメする以上、面白さも折り紙つきです。全三巻で完結済み。
著者の浅田次郎は日本を代表する小説家です。『きんぴか』のことは聞いたことがなくても、『鉄道員(ぽっぽや)』というタイトルはなんとなく聞いたことがあるかもしれません。映画化もされましたしね。
さて、『きんぴか』に話を戻すと、帯にはこんな謳い文句がありました。
浅田次郎の大傑作!
こんなに笑える、しかも泣ける小説、ほかにありません!!(電車で読む際にはご注意ください)
ビスケン、軍曹、ヒデさん……浅田ワールドで一番イケてるキャラクター陣
3分読んだらやめられない!
3巻全部を一気読み!
3回読んでも面白い!
この爽快感(カタルシス)がたまらない!
「痛快」とは、この本のためにある!
こんなにすごいぞ!『きんぴか』
何もかも嫌になった貴方にこの1冊を!
全部書き起こすの疲れましたが、これだけの宣伝が一冊のほそ~~い帯に書かれています。いくらなんでも過剰宣伝が過ぎるだろと思わなくもないのですが、『きんぴか』に関しては許します。だってマジで面白いから。
「なんか頭空っぽにして笑えてスカッとする小説読みたいなあ」ってときは迷わず『きんぴか』です。よろしくお願いします。
7. オン・ザ・ロード
若い作家サルとその親友ディーンは、自由を求めて広大なアメリカ大陸を疾駆する。順応の50年代から叛逆の60年代へ、カウンターカルチャー花開く時代の幕開けを告げ、後のあらゆる文化に決定的な影響を与えた伝説の書。バロウズやギンズバーグ等実在モデルでも話題を呼び、ボブ・ディランに「ぼくの人生を変えた本」と言わしめた青春のバイブル『路上』が半世紀ぶりの新訳で甦る。
質問主さんは「えっ」と思ったに違いありません。だって、冒頭の質問にもある通り、質問主さんはすでに『オン・ザ・ロード』をぼくのオススメによって購入されているからです。
じゃあなんで書いたんだよという当然のツッコミが入ると思いますので釈明させて頂くと、この7冊目だけはあなた宛だけではなく、ほかにもいるであろう「うつ病で苦しんでいる人」に向けても書きたかったからです。今回、いろいろな本を吟味して、7冊に絞り込むにあたって、いろんな本が浮かんでは消えましたが、この本だけはどうしても外すことができませんでした。
念のため断っておきますが、『オン・ザ・ロード』はうつ病の人からしてとっつきやすい本では(たぶん)ありません。それでもなぜこの本を勧めるかというと、ほかならぬぼくがこの本に命を救われたからです。これは言い過ぎでもなんでもなく、マジで書いています。
以下はむかし別のテーマで書いたnoteなのですが、この記事の中で、ぼくは過去のうつ病経験と『オン・ザ・ロード』についてこのように書きました。
人間がパンだけで生きられるのであれば、それはそれでいいと思います。世の中のだいたいのことはお金で解決できますし、お金があるにこしたことはありません。しかし、そうはいっても、人生をやっていくと、やはりお金でどうしようもならない問題に直面することがあります。
ぼくの30年弱の人生においても、そういうときが何回かありました。ここで個人的な話をさせてもらうと、社会人になってからぼくは休職したことがあります。過労によるうつ病です。20連勤を超えたあたりくらいでメンタルが限界を迎え、約半年以上休職することになりました。正式に会社を休むことになってから、毎日天井を眺めていたことをいまでも覚えています。ぼくはTwitter中毒といっていいほど、毎日Twitterを眺めている人間なのですが、このときばかりはありとあらゆる活字を身体が拒んだのを覚えています。TwitterやLINEの文字列を眺めているだけで吐き気がしました。
ただ、一冊だけ、どん底の中でもなぜかある一冊だけは驚くほど読み進めることができました。ジャックケルアックの『オン・ザ・ロード』という小説です。
この本は作者が自らの放浪体験をもとにして書き上げた小説なのですが、おそらく「ここではないどこかに行きたい」というぼく自身の願望を投影していたのでしょう、無我夢中で読んだのを覚えています。一回読んだ後は二回目、二回目を読んだ後は三回目、その次は四回目、何度も何度も繰り返し読みました。ここでようやく少し気力を取り戻したぼくは「生きるとはなにか」というテーマを取り扱った本を読み漁りました。そして復職して現在に至ります。
繰り返しになりますが、ケルアックの『オン・ザ・ロード』は人を選びます。じっさい、ぼくの友人の間でも「すげえ面白かった!!」という人と「ぜんぜんよくわからんかった」という人とで真っ二つに割れました。まして「うつ病の人に対して勧めるべき本として正しいと言えるのか」と聞かれると、正直頭を抱えてしまいます。
それでも、うつ病だったぼくを、活字中毒なのに一文字も読めずに毎晩泣いていたぼくを、救ってくれたのは間違いなくこの1冊でした。この本がなければ、うつ病から復帰できていなかったかもしれませんし、復帰できたとしても、いまのように読書を楽しめていなかったかもしれません。
もしこのnoteを読んでいる人の中に、一人でも『オン・ザ・ロード』に救われる人が出てくるなら、それだけでぼくがこのnoteを書いた価値はあったと思います。
最後に質問主さんへ
もしかしたら全巻ポチってくれたかもしれないですし、あるいはつまみ食いかもしれないですし、あるいはそもそも1冊も読んでくれないかもしれないです。
ぼくとしては1冊くらいは読んでほしいのですが、でも仮に1冊も読まなかったとしても、もしあなたがいつかうつ病から立ち直って、本を読むことの喜びを思い出してくれるなら、これほど嬉しいことはないです。
ここまで読んでくれてありがとうございました。またのご質問をお待ちしております。
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