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毎日新聞日曜版 山田詠美『私のことだま漂流記』 第50回(最終回)「ことだまの宿るところ」
毎日新聞日曜版の、山田詠美さんの連載が5月29日で終わってしまった。
連載回数50回。
予告なしの終わりだ。
物ごとの終わりはいつも不意にやってくる。
当然のこととは言え、
驚きと、寂しさと、喪失感に似た思いが胸の中で交差している。
何はともあれ、
次の日曜日がやってきても、
『私のことだま漂流記』を読むことはもう、できない。
この回で、ひとまず筆をおき、休息しようと思う。
これで、私の「根も葉もある嘘」のような自伝めいた小説は終わるのか。
いや、それは解らない。往生際悪く、また、どこかで続きを書き始めるかもしれない。
「根も葉もある嘘」
毎回、はらはらするような生き様を赤裸々に綴り、
心そのものを語り続けたこの物語は、
最終話、山田詠美の魂のことだまを乗せ、
幕を閉じた。
こんな風に。
読者は、小説家に、さまざまな喜びを運んできてくれる。
阪神大震災の後の神戸で、「アニマル・ロジック」という長編小説のサイン会を催した。
(中略)
こんな手紙をいただいた。
「被災者です。両親を亡くし家も全壊してしまいました。何もかも失いましたが、それでも、まだ山田詠美の小説を読む自由はある、と自分を励まし生きています」
心がうち震えるとはこのことか。
私は、ずっと自分のために小説を書いて来た。これからも傍若無人に書き続けるだろう。
と、同時にこの時、私は、決めたのだ。私は「あなたのためにある私という小説家」でありたいと。
※引用はすべて、2022年5月29日付毎日新聞「日曜くらぶ」『私のことだま漂流記』
言葉がことだまとなって響き合い、
そこから新たな物語が生まれる。
お読みくださり、ありがとうございます。