見出し画像

#004 どうありたいか。どうありたくはないか。主語に「自分」を取り戻す。

Cover photo by Karl Hornfeldt

短期集中連載「インサイド・アウト – これからの『働く』の方向性を考える」 第3回(全6回)

昨今のバズワードのひとつに「正解のない時代」というものがある。シンプルでインパクトのあるこの種のフレーズは、私たちを思考停止に追いやるような性向があるので注意が必要だ。おそらくは、「これまでの正解が通用しなくなった時代」とか、「正解がひとつであるという前提が問い直されている時代」といったことがその真意なのだろう。

ただ、従来の問題解決の考え方やアプローチがそのまま通用するような状況でなくなっていることもまた事実である。


ギャップ・アプローチ(アウトサイド・インの思考法)の限界

問題解決手法といえば、これまでは「ギャップ・アプローチ」と呼ばれるプロセスが一般的だった。「あるべき姿」と「現状」の間に存在するギャップを特定し、その原因を探って解決を図る。原因追求型の問題解決手法であり、アウトサイド・インの思考法とされる。

ただ、私たちは、不確実で、変動性が大きく、「べき」論で断定することができない時代を生きている。将来のあるべき姿の予測が困難で、ギャップ・アプローチでは対処できないケースも増えている

さらに、ギャップ・アプローチは、往々にして組織の活力を奪ってしまう。

たとえば、「仕事での達成感の向上」という組織課題に取り組むとしよう。現状把握を目的としたサーベイ(調査)を実施すると、結果は思わしくない。なにが問題なのか? その原因はなにか? このようなアプローチで臨むと、必然的に、できていないこと、足りないことに目が向く。

すると、「持てる力を発揮して取り組めるような仕事が与えられない」、「目標を達成しても周囲から評価されない」、「次から次へとやることがあって達成感を味わう余裕がない」、「仕事の成果をねぎらったり、頑張りを称賛したりするような組織文化がない」など、とめどなく「ない」を探しはじめる。 「ないない」尽くしになる。だんだん視野が狭くなる。どんどん他責になっていく。望ましい状態へ向けての行動計画に取り組むにしても、やらされ感が強くなる。

こうしたプロセスは苦行以外のなにものでもない。筆者自身の、苦い経験のひとつである。

ポジティブ・アプローチ(インサイド・アウトの思考法)が示す可能性

では、このような状況に陥ることを回避するためには、どうしたらよいだろうか? 

有効な手法として、アプリシエイティブ・インクワイアリーがある。

組織の健全性や効果性を高めることを目的として、行動科学の理論や手法を用いて働きかけることを「組織開発」と呼ぶ。アプリシエイティブ・インクワイアリーは、ポジティブ心理学に基づく組織開発アプローチのひとつである。

「肯定的探求」が価値や強みを呼び起こす

アプリシエイティブ、つまり、自らの価値や強みを認めようとする肯定的な姿勢で、探求のための問い(インクワイアリー)を立て、理想とする状態についてビジョンを描く。

肯定的な思考がモチベーションとエネルギーを高め、より良い結果を生み出すとされることから、組織全体や小集団を対象とする組織開発手法として用いられることもあれば、個人のコーチングやメンタリングに活用されるケースもある。

前述の組織課題について具体的に考えてみよう。「仕事での達成感の向上」というテーマについては、どのような問いが効果的だろうか?

これまでの自身の経験において、仕事での達成感を覚えることができたのは、どのような状況だっただろうか? 

まずはこんなことから振り返ってみる。ここでのポイントは、ものごとを肯定的に捉えようとする視点で問いを立てること。「ない」ことをあげつらうのではなく、「ある」ことに目を向ける。

大事なことをたぐり寄せる

仕事での達成感を覚えることができたのは、たとえば、顧客に感謝される、自分の得意としていることが成果につながる、ビジネスへの貢献の度合いが実感できる、といったことだったかもしれない。そうだとしたら、

それらの経験のどのような要素が、仕事での達成感につながっているのだろうか? 
それは、どのようなことが自分にとって大事な意味を持っていることを示しているのだろうか?

自身への、そんな問いかけによって内省を深めていく。

「自分ごと」を決める

ビジョンを描く段階での重要な問いは「どうありたいか?」。目指す姿のイメージを自らに問うことで、自分ごとに引き寄せる。「自分ならば」というポジションに立ってみる。

仕事を自分にとって大事な経験とするためには、どのようなことを大切にしたいのか?
大切にしたいことに背くことのないよう、どんな自分でありたいのか?

このような向き合い方は、自律的で、主体的なアプローチとなる。「どうありたいか」を起点とすると、そこには発見があり、気づきが生まれる。生成的でリフレクティブ(内省的)なプロセスは、ワクワクやドキドキといったポジティブな感情を呼び起こす

実現に向けてのアクションも「やらなくては」といった義務感にかられたものでなく、「やってみる」、「やり遂げる」のように、前のめりなものとなっていく。主語に「自分」を取り戻すことができる

インサイド・アウトで未来を描く

このような「内」を起点とするインサイド・アウトの思考法は「ポジティブ・アプローチ」と呼ばれる。外部環境の変化に翻弄されがちな時代だからこそ、私たちが大切にしたいこと、ありたい姿を拠りどころとする。ギャップ・アプローチが原因追求型であるのに対して、こちらは未来創造型といってよいだろう。

組織における問題解決においても、このようなインサイド・アウトのアプローチによる取り組みの機会が拡大している。

出典:ヒューマンバリュー 「キーワード:ポジティブ・アプローチ」

参考:


今回取り上げたポジティブアプローチについては、株式会社ヒューマンバリューの知見を参考にしました。
同社はその活動の一環として、ATD(Association for Talent Development)国際会議をはじめとする様々なカンファレンスに参加し、人材開発・組織変革の領域での最先端の動向を捉え、多角的な視点からインサイトを発信しています。常に刺激を与え続けてくれる存在です。


この記事が参加している募集