絵本の世界
読書が趣味の母の影響もあり、僕は人並に本に慣れ親しむ環境で育った。とりわけ興味と好奇心を惹きつける身近な学びの場として、今もなお「絵本の世界」がある。
冒頭に示した穂村弘さんのいう絵本のもつ普遍的な良さは、30歳を目前に控えた僕を今なお一層強く惹きつけ、時に子供心を思い出させ、夢のような楽しいひと時を与えてくれる。
一方で、1人の自立した建築を生業としていくものとして俯瞰的にその世界を見た時に、「絵本の世界」にある秩序や厚み、広がりといったものに、建築を通して考え、向かっているそれら多くのものと似た感覚を覚えることがある。
特にそうした感覚を強く感じさせ、僕を惹きつけやまないのが絵本家 安野光雅さんの作品であり、特にデビュー作「ふしぎなえ」(1971年出版)である。
(引用)安野光雅:ふしぎなえ 表紙
※画像元 https://www.fukuinkan.co.jp
平面と立体を駆使した表現によりだまし絵で有名なエッシャーを彷彿とさせ、また数学的な秩序・思想を感じさせる表現による絵が見開き1ページに1作品納まっているという構成が特徴の絵本である。
※実際に安野さんはエッシャーの影響を強く受けており、エッシャーはオランダ人画家であり建築も学んでいたとのことなので、僕が安野さんの作品に惹かれるのももっともであるとわかったのは後のこと。
その世界(絵本)の中にはまるで始まりと終わり、表と裏、そして境界線の内と外といった表現者が常に問題とし、乗り越えようとするそれがなく、シンプルな表現で非常に厚みと広がりをもった世界が描かれており、きわめて本質的で、洗練された、普遍的な良さを強く感じさせる。
(引用)安野光雅:ふしぎなえ P20,21
※画像元 https://www.fukuinkan.co.jp
僕はこうした絵本の世界に触れるたびに、建築という生業を通して、絵本の世界に描かれるような普遍的で、そのため厚みと広がりをもった世界をつくりたいと思うし、興味がある。
それは何かすごい建築をつくるというよりかは、何かすごい発見をする感覚に近いのかもしれない。
建築をこの世界につくることで、今まで見えてこなかったあるいは意識されてこなかった新たな世界を発見し、人やモノ、そして自然がより厚みや広がりをもって生き生きと存在していけるそんな世界をつくりたいのだと思う。
そうした思いに立ち戻らせ、その目標へ向かう原動力として僕にとっての「絵本の世界」がある。
※文中でも紹介した安野光雅さんは昨年末にお亡くなりになられました。ご冥福をお祈り申し上げます。
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