医療機関の資金計画
収支予測、資金計画というと、銀行からお金を借りるために作成するものと思われているかもしれませんが、ちゃんと使えばこれも結構役立ちます。
では、収支予測は何に使えるかというと、
数字で目標を可視化できる
資金繰りを予測できる
リスクを管理できる
といえます。
目標を可視化
まず収支予測は、数字で目標を可視化するのにつかえます。
具体的な数字で目標をたてられます。
固定費がいくら、返済がいくらで、お金が回っていくには売上をこれだけ上げなければいけないとか、生活費を払っていくには、この売上が必要とか、勤務時代の収入を超えるにはこの売上が必要という具合に数字の目標が立てられます。
余談になりますが、私は、数字で目標をたてるということは勤務時代の上司に散々指導されました。
毎年、年間目標を立てるときに上司と面談していたのですが、その際に必ずいわれることがあります。
「がんばりますとか抽象的なことはいらないよと。具体的な数字で自分の目標を宣言しなさい」
と口を酸っぱく言われました。
なぜそんなことが重要かというと、具体的な数字目標を決めると、そのための行動が明確になるのですね。
例えば新規の顧客を年間5件獲得するという目標の場合には、そのための営業をしなければいけませんね。
では、何人に営業しなければいけないのかというと、確率2割なら20人に営業しないといけない。
年間20人に営業するには、ひと月あたり最低1人か2人は、会わないといけません。
このように、具体的な数字で目標を決めると行動も具体的になってきます。自分が目標のために行動できたか・やれた・やれないがはっきりします。
ですから、数字で目標を立てるということは、行動を管理するという意味でも重要です。
資金繰りが管理できる
次に、収支予測ができると資金繰りが管理できるということです。
売上がたってお金がまわっていくまでの期間は人それぞれです。
計画どおりにいけばよいのですが、そうではない場合には資金が枯渇してきますが、
収支予測ができると将来の資金状況も見通しが立ちやすくなります。
資金繰りについてなるべく早くアクションを起こすことができるので、資金繰りで倒産することを避けることができます。
リスク管理ができる
次に、収支予測ができると最低限ここまでいったらやめようという引き際がわかります。
ビジネスは不確実な前提条件で行うものです。売上が上がるという絶対的な保証はありません。ですから、やめるとか計画修正をしなければいけない場合もあるのですね。
たとえば、探検にでるときは、何㎞いったら引き返そうって基準ないと怖いですよね。。
それと同じでいくらまでの投資が回収できなくても許せるという基準がないとズルズルとハマっていきます。
ですから、収支予測はリスクを管理するという点でも役立ちます。
今回はそんな重要な収支予測についてお伝えします。では、内容に入っていきましょう。
収支予測のやり方
では、具体的に収支予測をどこから始めるのでしょうか
結論としては、
確実なところから
やっていきましょう。
売上は他人が与えてくれるもので、自分でコントロールできるものではありません。
売上を完璧に予測することは不可能です。
ですから、自分がコントロールできる『費用』と『借入返済』から収支予測を始めましょう。
固定費の把握が重要
まず一番重要なものは固定費です。
医療業は固定費が大きい業種なので、
固定費の回収が最優先課題になります。
固定費に該当するものは、家賃、給料、社会保険料、リース料その他の経費です。電話料金、水道光熱費、広告費なども金額の変動が少ないのでざっくりと固定費と考えてしまってよいでしょう。
これらの費用は売上があろうがなかろうがかかります。
対して、医療業の変動費はどうでしょうか。
変動費とは、収入に応じて一定割合で増える費用です。
収入に応じて増える材料代のようなものですね。医療業は、他の業種と比べて変動費は少ないです。
なぜなら、院外処方の医療機関がほとんどだからです。
処方薬などの材料は、薬局側が仕入れるので医療機関で仕入れる必要はありません。それでも一定の変動費があります。大きいものとしては、検査料やワクチン代、手術材料などです。医療機関の変動費の割合は2割、多くて3割というところが多いです。
とにかく医療業では固定費が回収できるかが重要なので、まずは固定費がいくらかかるかを把握しましょう。
次に、資金が回っていくためには収入がいくら必要か考えていきます。
固定支出=固定費+借入返済
資金が回っていくためには固定費を稼ぐだけではだめで、毎月の借入の返済分も稼がなければいけませんね。固定費+借入返済額を毎月の固定支出と考えます。
月の固定支出を稼がなければ資金がいずれショートします。
まずは、この固定支出が稼げる収入を目標にしましょう。
実際には、固定支出のほかに変動費がかかりますので、仮に売上に対して変動費のかかる割合が2割だとすると、固定支出÷0.8をした金額が目標の収入となります。
目標収入=固定支出÷粗利益率
生活費を稼げるレベル
固定支出を稼げるというハードルを越しても、まだ、やっていてぎりぎり意味があるというレベルです。
ですから、次の目標は生活費を稼げるレベルの売上ですね。生活費分を稼げないと、いずれ個人の貯金が底をついてしまいます。よって、現状の生活費がいくら必要かというところを把握して生活費が稼げるレベルを目指しましょう。
住宅ローン、教育費、保険料、食費などにいくらかかっているでしょうか。生活費が十分に稼げるようになるまで時間がかかるという場合には、生活費の見直しをするか追加融資の必要があります。
先ほどと同様に、変動費率を2割とすると(固定支出+生活費)÷0.8をした金額が生活費を稼げるレベルの収入となります。
納税資金について
このあたりの稼ぎがクリアできると、今度は納税金額の予測というものも必要になってきます。
サラリーマンのときは、会社が税金を代わりに計算して納めてくれましたが、個人事業になると自分で税金を計算して納めなければいけません。
手元に残ったお金を無計画に使ってしまうと、翌年の確定申告や住民税が払えなくて困ってしまいますね。
なので、十分稼げるレベルになってからは可処分所得(つかってよい儲け)というものを把握していきましょう。
具体的には、収入から固定支出を引いた後の金額から翌年に支払う見込みの税金を差し引いたものとなります。(他にも可処分所得の計算方法はあります)
最後にサラリーマン時代の手取りが稼げているかというのも気になると思います。稼げていなければサラリーマンを続けていた方が良かったということになりますね。やめた時点の手取りに相当する可処分所得を稼ぐにはいくら収入が必要かも計算すると参考になります。
ここまでは、目標を立てるうえで、支出を細かく分類していきました。固定費や変動比率を把握したりしました。また、借入の返済額や生活費もみましたね。
収入目標を達成するには
ここからは収入目標を達成するために、どうすればよいか、もう少し収入を細かくみていきましょう。
収入を分解するときはどの業種も同じです。常に単価×数量です。
収入=単価×数量
これを医療機関に当てはめると、患者の平均単価×人数になります。
患者さんの単価は毎回バラバラなのでざっくり平均単価で考えていきましょう。厚生労働省のHPで診療科別平均点数が簡単に手に入るのでとりあえずそちらを使えばよいでしょう。
もう少し詳細にシミュレーションをしたいという方は、診療報酬の点数を調べてご自身の診療にあった平均単価を計算すると良いでしょう。
さて、平均単価がわかりましたら、次は目標の人数を計算してみましょう。
人数は逆算で細かくしていきます。
1か月の目標売上を設定 ↓
1か月の目標人数=1か月の目標売上÷平均単価 ↓
1日の目標人数=1か月の目標人数÷営業日数
具体例で説明します。
月の目標売上が300万円、平均単価が7000円、営業日数が20日の場合です。
月の目標人数=目標売上300万円÷平均単価7000円
月の目標人数は428人です。
1日の目標人数=月の目標人数428人÷営業日数20日
1日あたり21人となります。
平均21人患者さんが来てもらわないと目標売上を達成することはできません。
開業当初は患者数が徐々に増えていくものです。このように1日の目標人数がわかれば、目標の到達度合いが1日ごとにわかります。
最後に、収支予測をつかった資金繰りについても説明します。収支予測では、収入と固定支出がバランスしたところから資金が回っていきます。
ですから固定支出を稼げていない場合には運転資金が減っていきます。
開業当初の売上が少ない場合、運転資金がマイナスになる月も多いでしょう。
最初の収支予測を作成したときは、見込みの収入予測になりますが、開業してみると実際に収入が増加していくスピードも体感できるので、予測の修正ができます。
将来的に資金が危ない月があれば早めに追加の資金調達をしましょう。
以上で医療機関の開業・収支予測編をお伝えしました。
収支予測をしっかりやると経営に役立つことがご理解いただけるかと思います。これから開業される先生の少しでもお役にたてば幸いです。