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二○二三 おせち
初めてつけた真珠の首飾りを冷たく感じた冬の始まりに祖父が亡くなった。
私に写真を教えてくれた祖父だった。
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そのせいだろうか、なぜだかおせちを作る心持ちにならない。
例年なら神社を参拝するような気持ちだが、今年はいつも通り料理をする感覚で出汁をとる。
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「今年もおせち作るの?」
葬儀の時に叔母が私に尋ねた。
本来四十九日までは新年を祝う行為を慎むのが一般的で、おせちも作ってはいけない。私が答えに困っていると叔母は続けて言った。
「おじいちゃんはみんなで集まってごはんを食べるのが好きな人だから、作ったらいいよ。おじいちゃんも喜ぶよ。」
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私は喪中の人でも作れるおせちがないか探してみると「ふせち料理」というものを見つけた。
祝いの食材が使われていない精進料理が主体の喪中用のおせち。近年流行りのパーソナライズされた商品が、おせちにもできたようだ。
他にも犬猫用おせち、柔らかいおせち、アレルギー配慮おせちなど。多種多様なおせちの進化には目を見張るものがある。
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さらに調べてみると祖父が信仰していた宗派では「人は亡くなった瞬間に仏になるため四十九日は存在しない」という考え方があった。
神道などと違って「死は穢れ」という考え方や喪中の概念がなく、正月飾りもおせちもいつもと同じように作っても大丈夫らしい。
私はそれを祖父からの最後の贈り物のように感じていた。
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普段の料理を普段よりていねいに作る。今年はそういった気持ちで作ったおせちだ。
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新しいものを入れて、引いて、精査して、研究して、限られた四角の中にどれだけ美味いものを詰めるか。
私だけのおせちはまだまだ完成しそうにない。